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転生魔王の私はいずれ勇者に殺される  作者: 神星海月
第二章:天落星壊

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其の五十八 龍娘反撃!? 国王宣誓

 〈国王視点〉


 二人の騎士と自身だけが残った執務室で大きく息を吐く。


「私は、間違えたのだろうか」


 わからない。そもそもなぜ彼の龍は動いたのか。逃げ出すためか、この国を壊すためか。願わくば、友好的であってほしいとは思うが、敵対を選ぼうとしていた私がそれを望むのはいささか自分勝手が過ぎるというものだろう。


「思えば、ヴィクトリアがあそこまで私に敵意を見せたのは初めてかもしれぬ」


 かつての惨状以来、あの子はその本心をひた隠しにし続けてきた。見て見ぬふりをして国のため、世界のためと動き続けていた。私はそれに頼ってばかりで、あの子の本心などとうの昔に見えなくなっていた。


「・・・やはり私にはこの荷は重すぎる」


「王よ…!」


「わかっている、だからといってこのまま諦めるわけではない!せめて国民だけでも、この国だけでも救わなくてはならぬ。この国を、私の代で途絶えさせるわけにはいかぬのだ」


 ああ、そうだ。過ぎた感傷に浸っている場合ではない。進まなければ。少しでも被害を小さくするために。


「私の命でどうにかなるのであればそれもよかろう。だがこんな愚王であってもせめて、最期は王らしく逝きたいものだ。ドドリアン、エミリー、玉座までついてきてくれるか?」


「「仰せのままに」」


「感謝する」


 本当に良い友を持ったものだ。だからこそ、私の過ち一つで失われるのが悲しくて堪らない。


 早足で歩き、玉座に座り待つ。


 かの龍が自身を殺そうとした国への報復として行動しているのであれば、そう遠くないうちにこの場まで来るだろう。


 一分が経ち…二分が経ち…五分が経過した。もしや既に下町にまで移動してしまったのではないかと嫌な想像が脳裏に浮かぶ。しかし、私にできるのは待つことだけだと信じ待つ。


 待ち続けること十分が経っただろうか。やはり、こちらから出向くべきであったか。そう後悔するも時は戻らない。私は斯くも愚かな王であったか。


「ドドリアン、エミリー。すまない、私はまた、間違えた」


「・・・王よ、そう卑下なさる必要はないかもしれません」


「慰めの言葉はいらぬ」


「そうではございません。どうやら事実として、悲劇は起こらなかったようです」


「なに?」


 悲劇が起こらなかっただと?

 そんなわけがあるものか。


「龍にたてつき、気分を害したものの末路はお前たちも知っているだろう?」


「はい。ですが、・・・この先はヴィクトリア様に話していただきましょう」


 ヴィクトリアだと?まさか、アレが龍を諫めたというのか?


「失礼します。お父様、どうやらひとまずの危機は去ったようです」


 扉を開けて入ってきたヴィクトリアは気楽な様子でそう告げた。


「・・・危機は去った、か。落としどころはどうなった?」


「保留・・・ですかね」


「保留だと?」


「はい、順に説明しますのでどうかお気を確かに聞いてください」


 そう前置きしてから話された内容はにわかには信じがたい内容であった。だが、ほかならぬヴィクトリアが言うのだ、嘘ではないのだろう。


「話はわかった。かの『精霊龍』を最重要観察対象とし、近衛を数名冒険者として送り込む。十分に満足したと判断される頃、再び王宮までご足労いただくこととする。よいな?」


「「はっ」」


「一つよろしいでしょうか?」


「言ってみよ」


「私もおおむねはその考えに同意します。しかし一つ、近衛を送り込むといいましたが、彼らには既に重要な任があります。もとより魔物が多いのはもちろんの事、太陽の国での原因不明の災害の影響か魔物の数が急激に増加し、活発化しています。現状、観察のためだけに割り振れる余裕はありません」


 一理ある。確かにこれでは近衛に負担がかかりすぎるか。しかし、そこらの騎士では観察もままならぬ可能性も大いにある。どうすべきか。


「私が行きましょう」


「なに?」


「私は幾度かの会話の中で多少の好印象を持たれています。実力としても、問題はないかと」


 ヴィクトリアを使う、か。確かにそれであればいたずらに人手を減らす必要もない、か。


「・・・いいだろう。くれぐれも、気をつけよ」


「ありがとうございます。では、早速向かいますのでこれにて失礼します」


「ああ、後は頼む」


 一礼して去っていく背中を見ながら一瞬、物思いにふける。


 あのような眼を見せたのはいつ以来だろう。あの子があそこまで感情をむき出しにしたのは、かつてのようにわがままを言ったのはいつが最後であっただろうか。


「私は、この席についてから目が見えなくなっていたのかもしれない」


「・・・王よ」


「まあ聞け。年寄の独り言だ」


 この場には聞かれて困る者もいない。今は少し自身を見つめなおしたい。


「あの日、唐突にこの座を継ぐことになってから、私は目まぐるしく変わる世界についていこうと必死だった。まだまだ子供に過ぎなかった私は、その重圧に耐えるだけで精いっぱいだった。これが言い訳に過ぎないのはわかっている。だが実際、周りを見るだけの余裕がなかったのだ。母を失い、父を失い、友を失い、国民を、財を、自分を失った。そんなこと、あの子も同じだというのに」


 それでも、あの頃の自分にはそれを客観視できなかったのだ。苦しいのは皆同じなのに、皆何かを失っていたのに、それに気づき、寄り添うことができなかった。


「何かを失うのが怖かった。予想のできない脅威が恐ろしかった。だから、徹底して排除した」


 迷宮を壁で覆い、王宮を海で包み、騎士を増やし、自身の権威を奪おうとするものを消していった。その結果、この国はきれいになり、国民は少しの安心を得た。しかし、足りない。


「あの日みた地獄は眼を瞑るたびに瞼に浮かび上がる。もうずいぶんと経ったというのに、未だ悪夢にうなされる。だから私は恐れた」


 ソルルクスが、『太陽の国』として数百年を超えて存在していた大国が一夜にして滅んだ。


「・・・あの日の惨状を想起するには十分すぎた。だから、ヴィクトリアを出した。万が一にも、無駄死にすることのないように。少しでも多く情報を手に入れ、対策を講じるために」


 しかし現実は予想とは大きく異なった。


「ヴィクトリアが何の情報もなく傷だらけの娘の身を連れ帰ったとき、私は絶望した。ヴィクトリアすら、計り知ることのできない何かがあそこで起こったと知った」


 その後、娘が龍であると知り、絶望した心に火が灯った。


「私は、何もわからぬ脅威よりも、すぐ近くにある脅威が怖くて仕方なかった。アトラシア様が認めたとしても、かの御方が気になさるほどの脅威であるという事実が私を襲った。だから、排除しようとした」


 手が震える。子供みたいに泣き出しそうだ。


「でも、失敗した。龍は、恐怖におびえて目を背けてばかりの私に理解できるような存在ではなかった。国が亡ぶ、そう知ったとき、私は怯え、安心した。私ごときには国を守れない、そう告げられた気がして…」


 やはり私じゃダメなのだとそう納得できそうで。


「結局、私は生き残った。生きてしまった。かの龍にとって、私の命など興味もなかったのかもしれない。だが、一度死を受け入れて、後悔して、再びすべてを失いかけて…その先でしか見えないものがあった」


 気づけば、手の震えは止まっていた。いまだ逃げ出したくて仕方のない私でも、覚悟は決まった。


「我は、王なのだ。もう目を背けることはしない。恐怖は受け入れよう。後悔もしよう。だが、ここに誓おう」


 ヴィクトリアよ、お前は凄いな。このようなことを、あの日の時点で成していたのだから。


「第53代国王、リルクヴィスト・レイグラーフは、死して消え失せるその時まで、国のために生きよう」


 聞くものなどいない、公として価値のない誓。だがそれでも、効果はある。


「ドドリアン・パンナコッタ」

「及びエミリー・ジョンソン」


「「我ら近衛は貴方様に一生の忠義を誓いましょう」」


 歪む視界の先で、二人の騎士が膝まづいている。


「忠義を受け入れよう。そなたらの活躍は、死が我らを別てども、我が記憶が証明しよう」


 立ち上がり、歩き出す。


「行くぞ、仕事が待っておる。まずは城壁の修復からだな」


「「は!」」


 振り返らず、少し上を向いて歩く。水に満ちた廊下が今はありがたかった。




 ───必ずや、私の代でこの地獄を終わらせて見せる。





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