其の五十五 海底国家とお決まりの騒動
さて、興味本位の盗み聞きでかなり気になる情報を拾ってしまったわけではあるが、どうするか。このまま盗み聞きを続けてもいいのだが、それではあまり面白くない。
先に答えを知ってしまうというのはそれを得るための過程で得られる楽しみを失うということなのだ。
「まっ、いろいろ言いながらも初めて来たお城でやることなんて一つよね」
ベットから降り、部屋を物色する。ヴィクトリアが気を聞かせてくれたのか、体の傷は右腕を除いて治っているから十分に動ける。
おなかは肉でふさがっているから、あの時仮の腕として生やした精霊としての腕を代償に捧げたのが良くなかったのだろう。代償に腕を払ったのは仕方ない事ではあったのだが。
「腕一本で命を残したなら安いもんか。腕の代わりに尻尾使えばいい話だし」
なんてことを呟きながら目新しいものを探すが、ほとんどが知らないものだ。
例えば貝殻状のこれは電話だし、明かりに使われている電球のようなものの中には小さな輝魚が入っている。家具の材料には魔物の素材や海底資源の混合物が使われているようだ。
「結構魔物素材が多いな。そういえば私ほとんど魔物と戦ったことないかも」
ダンジョン内で戦いはしたものの、あれは魔物といっていいものか微妙なものが多かったからな。最初の方の動物たちは魔物かもしれないけど、邪精霊だの龍だの突撃暴走族ロボだのは果たして本当に魔物といっていいものか。
「邪精霊は魔物でいいかもだけど、龍とロボは魔物じゃない気がする。・・・お?」
過去を振り返って若干傷心しつつも窓を閉ざすカーテンを開ければそんなもの気にならなくなった。
「うぉぉ!!きたっ!決めた!今回は冒険者として遊ぶ!」
窓の先に見える幻想的な光景。透き通った海中の景色はまさにファンタジー。
奥で大樹のようにそびえたつ巨大なサンゴらしき生物。枝分かれした天辺からはツタが垂れ落ち、果実がなっている。その根は海底の家々を隔てるように伸び、幹にはうろが多く存在するようでその中から魚が顔を出している。
どうやらこの国はあの巨大サンゴをもとに発展してきたらしい。
そして、個人的に何より目を引くのはその右側。長厚重大な壁が建設され、万一がないように厳重に管理された大穴。
「【怠惰】を冠する『大罪迷宮フォールシグニ』。【傲慢】と違ってこっちは大穴なんだ」
ふふふ、あの穴の先には何があるのだろう。それが知りたい。魔王たるもの、前人未到のダンジョンの一つくらい踏破しておきたいよね。
「こっちには転移罠がないといいな。いや、ワンチャン罠解除の専門家雇うのもありか?」
いや、人付き合いめんどくさいしやめとこう。そもそも私についてこれないやつらだと足手まといにしかならないし。
「あぁ。楽しみ」
まずはギルドに行って冒険者登録…そういやあっちで一応ギルドカード貰ったな。お節介焼のお姉さんから。薄っぺらい木でできたやつだし、発行した国もう滅んだけど。そもそもギルドって世界共通?それとも国内限定?
「まっ、それも含めて冒険か」
・・・ふむ。
「あっ、あぁ~。若干声変わったかな?」
服を着替え、性別を変える。ついでに分身を作ろうとして、
「あぁ~、これ魔力無しだと依り代必要かな?人形かなんか必要っぽい?」
でもたぶん練度上げればどうとでもなりそうではある。
「取り敢えずはいいや。ばれないでしょ」
ということで~。
「助走距離良し! しゅっぱっーつ!」
一歩、全力で踏みしめると床が軋み、ひびが入る。
二歩、全身を押し出すように強化した床を蹴る。
三歩、宙を踏みしめ肩を前に。
「やっほ~い!!」
窓を突き破り、外に飛び出る。
「お、がぁぁあああ!?」
勢いよく口の中に海水が飛び込み、全身が水に包まれ失速していく。
急遽自身の体から追い出すように球状のバリアを展開。海を拒絶する。
「ゴホッ!ゴホッ! ああ、ひどい目にあった。・・・ん?」
何やら城内が騒がしい。城壁にひびが入り、半壊した部屋の一室に海水が入り込んでいるようだ。
「あらら?大変そう。まぁ僕には関係ないしいっか!」
息を整え、バリアを解除。水中呼吸に慣れながら周囲を見渡す。
(むむむ。とりあえずは腹ごしらえからにしよう)
懐かしい見た目の食事が描かれたポスターの貼られたお店を見つけたので、そちらに向かう。
中に入ると、いきなり水が消えた。
「え?」
「いらっしゃい!おや、お嬢ちゃん、ひとりかい?迷子だったら、詰所まで案内するが」
突然の事態に困惑していると気のよさそうなおじさん従業員に話しかけられた。
「ああいや、いきなり水が消えたから。あと僕は男」
「そうだったのか!それはすまない、それで親御さんは?」
「いない。一人で食べに来た」
「一人で!そりゃあ凄い!幼いのにしっかりしてるねぇ。ちなみにお金は持ってるかい?」
「そりゃとうぜ・・・ん?」
あれ?そういやこの国ってあっちと通貨一緒なのか?そもそもあっちのお金って…融けたわ。
「ごめんおじちゃん。忘れたみたい。また後で来るね」
「おぉ?そうか。ならいいが、次は親御さんつれて来いよ」
「は~い」
さてと、どうしよ。
ひとまず食事は諦めるとして、ギルドってどこだ?
「失敗した。聞いとけばよかった」
でも今中に戻るのもなんかなぁ。
「まあいいや、見つかるでしょ」
妖術を使って尻尾を生やし、泳いで進む。
・・・これ、街中全部水中にあるのなら結構面倒だな。
☆☆☆☆☆
「やっと、見つけた!!」
城から離れること数十キロ。巨大サンゴの根元のうろに隠れるようにして冒険者ギルドはあった。その規模感は太陽の国の数倍。おそらく冒険者ギルド本部みたいな大本の建物なのだろう。
ただ、見つかったのはいいけどすでに水面は赤く染まっている。
ちなみにここら一帯、というか城から離れたところにある城下町は結界が張られてて水がなくなってる。
なんでも海水に満たされた王城周辺はあくまで貴族街で、騎士団詰所とか一部の店しかないらしい。あの海水エリアは王城を守る防壁代わりでもあるらしい。
・・・普通に店も住居もあるのにそんな防衛施設兼ねてるとかわからないって。
「日が暮れる前に寿司屋のおっちゃんに聞いてよかった」
外から 海・城下町・海・王城・海・城下町・海 みたいな感じで円形にエリア別けされてるとか言われなきゃわからないよ!
・・・この町嫌い。
「はぁ。さっさとギルドは・・・」
ギルドの入り口は大扉となっていて、閉じられている。
「・・・お約束の奴やるか」
左手を前に、扉に添える。
「たのもぉ~!!道場破りじゃ~!!」
ドゴン!!っと強く扉を開けると、同時に人が飛んできた。
「うぉぉぉ!!?」
「ほいっと。・・・あれ?」
思わず投げ飛ばされた人をはたき飛ばしてしまった。しかも手加減なしで。
しょうがないじゃん!? 道場破りだって言いながら入ったらいきなりなんか飛んできたんだよ!? 武器だと思うじゃん!?
「あっ、すぅ~。大丈夫っ!?誰にやられたの君っ!?」
「「「お前だろっ!!??」」」
外野がなんか言ってるが無視だ無視。今はこの患者の容態を視なくては!
「これは!?脊髄が折れてる!? ひどいっ!いったい誰がこんな怪我を!?」
「「「いやお前だろっ!?」」」
くそぉ、いったい誰がこんなことを。彼はもう救えない。ならせめて、せめて心だけでも救わなくては!
「安心してくれ!必ず仇は打つ!だからさぁ言うんだ! 君をこんなめにあわせたのはどこのどいつだい!?」
「「「だからお前だろっ!?」」」
「・・・ぐっ、そ、そこの男」
「なに?わからないよ。『そこ』だけじゃわからない!ほら、元気出して!」
大丈夫。君は男だから。まだ頑張れる。死ぬ前に後少しなら動けるさ。たとえ脊髄が折れていてもね!
「鬼だ」
「鬼畜だ」
「イカレテル」
・・・後で締めるか。
「教えてくれ、君は誰にやられたんだい?頑張れ!頑張るんだ!」
ここで回復を一つまみ。
「あああ!!そこのだ!そこの奴にやられた!」
ギリギリのところだったが、ギリ致命傷くらいにはなったか。私もそろそろ回復の妖術練習しないとな。それはさておき。
「ああ、わかったよ。あいつだな?あのでかい図体の大男っ!見るからに新人いびりしそうだもんな、あいつ!」
「あとは、たのむ」
そういって男は腕を地面に落とし、眼を瞑った。
「くそっ!ああ!わかった!僕が!この僕の名に懸けて奴を討とう!君の仇は、必ず取る!」
くそっ。死んでしまうとはなんて情けないんだ!僕の力が及ばなかったばっかりに!もしかしたら死ななかったかもしれない命が失われてしまった!
「ヤベェ奴だ」
「ああ、これはヤバいな」
「離れるか?」
「でもあの子どうすんだよ。俺あの子がこのままあいつに殺されんの見たくねぇよ」
「お前、ロリコンだったのか?」
「ちげぇよ!?いくらなんでも子供が死ぬのは見たくねぇだけだ!?」
外野はなんか言ってるけど、私はもう止まらないぞ。
「おい!お前さっきから何やってんのか知らねぇが、やる気なら殺すぞ?」
「ゾクゾクしてきた」
「あぁ?チッ!狂ってんのかよ! いいぜ、相手してやる。その代わり、手加減はしねぇぞ」
今日はいろいろあってストレス満点なんだ。もう、我慢なんてできない。
「シオン・せ、いや」
今はセレスティンじゃなかった。魔王のターンはお休み。だけど肩書無しもあれだ。だからそうだな。
「勇者見習い、シオン・クラルヴァイン」
「は?」
「我が友の仇、獲らせてもらう!」
「オイ!ちょっと待っ!?」
踏み込み。右足に全体重をかけ、爆音とともに迫る。
「ブレーキは、お前だぁぁああ!!」
タックル。
いくら僕が小さくて軽いとはいえ、この速度なら問題なく致命傷になりうる。が。
「うぉおおお!?っぶねぇ!?」
合わせられた!?
あいつ体を逸らし、両手で私の体を流しやがった!!
「だが、まだだ!」
空気を固定。即席の足場として使用し、蹴り砕いて反転。再度タックル。だがしかし。
「だっ!らぁあああ!!」
下から迫る足。男は上体を反らしながら蹴り上げてきている。まさかこれは!
「ムーンサルト!?」
男はその場で回転。軌道を曲げられた僕は左手を地面について跳ねるように離脱。
「ゴホッゴホッ。はぁ、ここの地面埃多すぎなんですけど!?」
「ゴホッ!それは!お前が床に穴開けたせいだろうが!?」
そっか。僕の踏み込みで建材に使われてた木材が爆散。ついでに僕の移動で発生したソニックブームで無事粉になって降り注いでると。納得した。
「じゃあ全部君が悪いね!」
「なんでだよ!?」
「君が暴れなかったらこんな悲劇は生まれなかったからだよ!」
「はぁ!?暴れたのはお前だろ!?」
「それは君が一人殺したからでしょうが!」
「殺してねぇよ!?殺したのお前だろ!?」
「はぁ!?何を言ってんですかぁ!?彼の仇を討とうとした僕が彼を殺したと!?大体彼だって君にやられたって言ってたじゃないか!?」
「それはっ!?」
───!?
なんだ、この感覚。全身がゾクゾクしてる。まさか僕が恐怖してるというのか?
勇者見習いである僕が!?
「そこまで!!お前たち二人ともこっちにこい!!」
そこには顔に青筋を浮かべた女性の姿があった。
「お前ら、いくらギルドが喧嘩を許可してるとはいえ、ここまで暴れて何もないとは思ってないよな?」
「いや、それは」
「僕は知りません」
本当だよ?ギルドが喧嘩許可してるとか普通に知らなかったよ?
「いいから黙ってついてこい。これ以上騒ぐようなら、わかってるな?」
「ハイッ!」
「ハイ。スイマセン」
おかしい。どうしてこうなった?
「アリア、しばらく任せる。私はこいつらの処分に忙しいのでな」
「はい。お任せください」
「ああ、それと───」
そ~っと、そ~っと。
「オイ、嬢ちゃん。何逃げようとしてんだっ」
「だって、冤罪だし」
「この期に及んで何言ってんだよ!?お前が逃げたら俺まで処罰重くなるだろ!?」
「そんなこと言われても実際君もついてきてるじゃん。ほんとは逃げたいんでしょ?」
「うぐっ!だがっ、」
これは、行ける!
「一緒に逃げよ?僕いい店知ってるんだよね」
ちょっと遠いけど。
「わかった。いいぜ、いくか」
「いいね。意外と話わかるじゃん」
「ハハハ」
「ハハハ」
良し、あと少し。まだ話してるし問題なっいッ!?
「ヤバい!見られてる!」
「マジか!?逃げるぞ!」
「うん!」
一歩、踏み込、めない!?
「オイ、お前ら、逃げようとしたな?」
「ひっ!?」
「なんで」
肩掴まれてるだけなのに逃げれない!
おかしい!どんな力してんの!?ゴリラの王ですか!?
「なんで?お前。まだ反省してないんだな」
「いや、反省してます」
「そうか、じゃあその足は何だ?今にも床を踏み込みそうな感じだが?」
「これは、気のせいですよ!ただの忍び足で、……あ」
やべ。
「そうか、お前は私から隠れようとしたと。よ~くわかったよ。そして、突然だが、お前ら二人の処罰が今決定した」
「えっ」
「俺も!?」
「当然だ。お前ら二人には、そうだな。ジルコンの清掃を頼もうか」
「はぁ!?」
「ジルコン?」
ジルコンって何?どこ?清掃って清掃?いやなんですけど!?
「決まりだな。では、後は頼むぞ」
「ちょっと待ってくれよ!」
追いすがる男。対しそっけなく無視する女。
「ああ、すまないアリア。さっきの件だが時間ができた。忘れてくれ」
「いえ、お気になさらず」
「それと、彼女にいろいろ教えてやってくれ。ジラルドでは足りないだろうからな」
これはまるで別れた直後のカップルの様だ。
「フラれてやんの」
「殺すぞ?」
おお、怖い。いっ!?
「黙れ」
「スイマセン」
あの人怖い。




