其の五十四 初めまして、海の国
『太陽の国はもう滅んだんですよ、ついさっき、ね』
「「「っ!?」」」
迫る三又槍。トライデント、でいいのかな?
「どういう、ことですか?」
『はは、穏やかじゃないね』
「ごめんなさい。ただ、聞き捨てならない内容でしたから」
トライデントをうまく扱い、その刃で私の首を挟み込む彼女。そういえば、名前聞いてないや。
『そうだね。でもその前に、自己紹介しない?』
「えっ?」
『自己紹介。知らない? お互いの名前とか、好きなこと、職業とか言うの』
場合によってはもっと増えるけど、今なら名前と役職くらいでいいかな?
「いや、それは知ってますけど…」
『よかった。じゃあ私からね? 私の名前はシオン。シオン・クラルヴァイン。職業は…秘密。種族はそうだね、さしずめ精霊龍ってところかな?』
精霊であり、龍。だから、精霊龍。安直だけど、こういうのは逆にシンプルなのが一番よかったりする。
あと、名前に関しては今の私はただのシオンだから。セレスティンを名乗るのは魔王やるときだけよ。
・・・魔王の座はウードには分けてやんないもん。自分で生き残らなかったのを後悔すればいい。
「精霊、龍? あっ、えっと…んんっ!失礼しました。まさか行為の龍族の方だとは知らず、ご無礼をいたしました」
ん? 急に改まられた。この世界で龍って権限強め? なんやかんやウードも太陽の国でいろいろ奢られてたし、上位種族ってそんな感じなのかな?
『まっ、気にしてないからいいのよ。ただまぁ、その分のお返しはしてもらうけど』
私は根に持つ女なので。 ・・・これで今晩の宿は確保できたな。
「・・・はい。あっ、自己紹介が遅れました。私はレイグラーフ王国第二王女ヴィクトリア・レイグラーフと申します」
『えっ?』
うん、えっ?
『君、王女なの?』
「・・・はい。後ろに控えているのは我が国の近衛騎士団の者たちになります」
その言葉に一様に騎士風の礼をする彼ら彼女ら。
・・・ふ~ん。
んぅ~!?
『なんで、王女様がこんなとこまで?』
「それは…私は王女であると同時に【勇者】ですので」
『ハッ!?』
「いかがしましたか?」
『いやいやいや!ね!?やっぱり王族って勇者も兼任するんだなぁってね!?』
「・・・確かに、そうですね。〈終古〉も〈聖女〉も〈不屈〉も皆形は違えど国のトップですね。例外は〈英雄〉だけですか」
ええと。今の一瞬で知らないのが大量に出てきたんですけど。いや、ウードの記憶にはあるんだけどね?
これ必要とするまで思い出せないのよね。いわゆるファイルの圧縮ってやつ? 解凍しないと使えないし。・・・違うかな?
『うんうん。それで、なんで勇者様がここに?』
あの反応からして太陽の国の件はまだ知らない。だから私が魔王名乗ってることもまだ知らないはず。あっ。
『ごめん、変なこと聞いた。なんかすごいこと起こってたら確認に来るよね。そりゃ』
「はい。そうですね・・・その、それでですね」
『うん?』
「太陽の国に関して知っていることがあればお聞きしたいのですが、よろしいですか」
あぁ。うん。そうだった。
『うん。いいけど。今晩止まる場所貸してくれない?』
「はい、大丈夫です。では、先にご案内してからの質疑応答、の方がよろしいですかね?」
『うん。それでいいよ』
───眠い。
「ありがとうございます。では、ついてきていただけますか?」
───もう無理。
『う、ん、ごめんだけど、あとよろしく』
ああ、迷惑かけちゃうな。無事に生きてるといいけど。
そんなことを思いながら、私は意識を失った。
☆☆☆☆☆
〈ヴィクトリア視点〉
「えっ? ええと?」
目の前で突然気を失った彼女。シオン・クラルヴァインと名乗る精霊龍の御方。
私はこれでも数十年は生きているものの、海龍や火龍というのは聞いたことがあるが精霊龍というのは聞いたことがない。
しかし実際本人がそう名乗っているのだからそうなのだろう。龍という種族に関しては、というより上位種族とされるお方々に関しては知られていないことも多いのだし。知恵の国ならもしかしたら、というところだろうか。
とはいえ今重要なのは彼女の事ではない。いえ、彼女のことも調べなくてはならないのだけど。先ほどのあの発言といい、触れてみて気づいたけれどこの体の傷つき様。全身大火傷でこうして海中にいるだけど恐ろしく痛いはず。
それに彼女の言うところの、ちょうちんあんこう?という生物。聞いた限りではおそらくその御方は海竜アトラシア様。少なくともこの方にはあのお方が出張ってくるほどの何かがある。敵意はなかったという言葉が本当ならとりあえずは友好的に接するべきということだろう。
「あの、ヴィクトリア様」
「ああ、ごめんなさい。少し考え事をしていました」
「そうでしたか、それは失礼を。して、この後はどうされますか?」
「そうですね。ひと先ずは城に戻りましょう」
「いいのですか?」
「はい。この方から話を聞くだけでも十分かと」
「しかし現場を視なくてよろしいのですか?」
「見た方がいいのは事実ですが、・・・なんだろうね? なんか、今行ったらダメな予感がするんだよね」
王女としても、勇者としても、太陽の国ほどの大国が滅ぶ内容、私たちが確認しに行かなくてはという責任はある。でもそれ以上に、勇者としての勘が行ってはならないと警笛を鳴らしている。
「そうですか。しかし確認しないというのも問題ですし、誰か一人でも送り込むというのはどうでしょう? 幸いにもここにいるのは皆実力者。一人か二人欠けても問題ないでしょう」
「ダメです」
「なぜ、ですか?」
責務を果たそうとする彼のことだ。にべにもない対応に内心怒り心頭だろう。
「私、無駄に人を減らす趣味はないから」
「なっ! 私たちを信用できないというのですか!?」
「そうじゃない。君たちが強いのは知ってる。でもね、国一番の実力者でもあそこでは雑兵になる。そんな予感がある。だからさ、こんなとこで優秀な君たちを失いたくないの」
「姫…。わかりました。あなたを信じましょう」
「ありがとう」
さて、この子たちが聞き分けいい子でよかった。エリオットなんかだったら勝手に行きかねなかったし。あの子もいい加減騎士らしくあってほしいのだけれど。まあ、それはいいとして、シオンちゃんが死んじゃわないうちに帰らないと。まあ龍なら大丈夫だとは思うけどね。
「それじゃあ、いくよ!」
「あの」
声をかけてきたのは私の少数遠征に今回が初参加のミシェル。
「うん?」
「その棒も持ち帰るのですか?」
ああ、そのことか。周りを見れば何度か遠征に参加している彼らは懐かしいものを見るような目でミシェルを見ている。
「私、お宝は必ず持ち帰るの」
せっかく精霊龍様に貰ったんだし、持ち帰らないわけないよね!
もしかしたら本当にただの棒かもだけど、精霊龍様からのプレゼントってだけで箔がつくし。実質宝でしょ!
「でもそれってただの───」
「さぁ!皆行くよ~!」
「「「はっ!」」」
トライデントを一振り。
「〈旅に幸あれ〉」
さて、バフも懸け終わったし行こうか。
「帰りはちょっとだけ急ごうか。治療は早い方がいいし」
「「「はっ!」」」
ちょっとだけ余計に海水が沁みるかもだけど、まあ大して変わらないよね。・・・そうだ、目覚めた後何聞くか考えとかないと。やることいっぱいだなぁ。私もこの件終わったら休暇取ろうかな?
多分取れないけど。
☆☆☆☆☆
〈シオン視点〉
「んっ。んんぅ?」
知らない天井だ。シミ一つないまっさらな固そうな建材でできた屋根。呼吸すれば酸素を感じられる。
「ここ、どこだ?」
顔に水を落とせば、急速に目が冴えていく。だんだんと感覚が研ぎ澄まされていき、
「なるほど。海の都か」
周辺一帯の地形を理解した。どうやらここは海の中。海抜マイナス三百メートルってところか。なかなか深い。そんでもって、この場所は海底にある街々の中で最も大きいお城の一室。つまるところ、
「あっ、お目覚めになられたんですね」
ヴィクトリアの家ってことだ。
「うん。ありがとね。大変だったでしょ?」
「ああ、いえ、まぁ」
どこか歯切れ悪そうな反応。
「なんかあった?」
「いえ、大したことでは、ありませんので」
ん~? 気になる。こうなったら・・・!
「大したことじゃなくてもいいよ?私たち友達でしょ?」
くくくっ! 大概の王家の人間ってのは友達に飢えている。皆が敬ってくるからこそ対等な立場の人間を欲するのだ。つまり、この言葉は王家に対する特攻を持つ!
「友達、ですか? いや、でも」
「えっ?」
嘘だ!この言葉は王家に対し特攻を持つんじゃなかったのか!?いや、王家に限らず特別な目で見られてる人間にとっては特攻のはず!だというのに!なぜ!?
勇者と王女なんて特別中の特、別…?
まさか!?
友達には飢えてない!
そういうこと!?
いや、まだだ。こんなとこで諦めるな私! まだ秘策があるだろう!?
「もしかして、私たち友達じゃ、ないの?」
くくく。秘技泣き落とし! 今の私の見た目が幼いからこそ通じる技!これなら母性を感じて無下にはできまい!
「ああ!そうでした!友達、ですもんね!? いやぁシオン様みたいな友達が持ててよかっ───」
くくく、いい調子だ!この作戦、私が罪悪感を感じること以外は完璧かもしれない。だがまだだ。まだ足りない。もっと親密度を上げなくては。
「シオン様?なんで、様なの?」
親密度を上げるにはまず外堀を埋めるべし!最初は呼び方を変えるのがいいだろう。
「いや、えっと、シオン様は、龍、ですし」
「別にいいよ? そもそもヴィクトリアも王女で勇者じゃん」
「いやまあそうなんですが…」
む~。固い。手強いぞこの女。これが、王族か。
「あっ、別に失礼なこととかしても多少は大丈夫だよ? 私は大人だからそこそこ我慢できるもん」
おそらくこの固さは王族ゆえの責任からくるもの。自身の不用意な発言で国が危険にさらされることを嫌っているからのはずだ。
「そう、ですか?しかし…」
「・・・わかった。じゃあ、いいよ。でもせめて敬語は無しがいい」
「えっ?」
「もしかして、それもだめ?」
これならどうだ!泣き落としが聞くことはわかってるんだ。こうなったらとことん使わせてもらう!
というかほんとに泣くぞ!?
卑怯な手を使っても親密になれませんでした、とか心病むよ!?
つい最近いろいろ失って傷心中だぞこっちは!?
そういや眷属にしたけどあいつら生き残ってんのかな?ギリギリ塔の中居たなら生きてそうではあるけど。あれだな。蘇生の術探しとかないとだ。
「わかりました! もう敬語も何もかもなしにするからね!? いいよねそれで!?」
「あっ、うん」
「え?」
あっ。やべ。
「ありがとう!お姉ちゃん!大好き!」
あれ私こんな幼かったっけ? もうちょっと成熟してた気がするような?
・・・まぁいいか、もう。
「お、お姉ちゃん!? っ!今度からお姉ちゃんって呼んでくださいね!? 約束ですよ!?」
あっ。ふ~ん。
「わかったよお姉ちゃん!」
「はい! あっ、ほしいものありますか?あったらお姉ちゃんが持ってきますよ!お姉ちゃんに任せてください!」
「お姉ちゃんありがとう!」
「はぅ!ええ!お姉ちゃんに任せてください! えへへ」
可愛い。この娘あれだ。母親属性じゃない、お姉ちゃん属性だ。たぶんフィリスと一緒。あとシスコン。
「じゃあ、お姉ちゃんお願い」
「はい、なんですか?」
「私連れてくるとき、何かあったの?」
瞬間怒気が、いや、殺意が溢れ出した。
「いやぁ、お姉ちゃんこれは聞かない方がいいと思うなぁ?」
「なんで?」
「う~ん、でもこれはシオンちゃんのためだから」
「教えて、おねぇちゃん!」
「いや、でも」
「教えてくれないの?」
「う、うぅ」
これはあと一押し。イケる!?
「姫様。お戯れの途中失礼します。緊急の用がございまして、御父上の方までお越しいただいてもよろしいですか?」
「あっ! ごめんね!?お姉ちゃんお仕事ができちゃった! お!教えてあげたいのはやまやまなんだけどね!?」
殺気が消えた。ありゃ、時間切れか。てかこの感じわざとか。あの爺さん許せん。どうしてこうも爺さん系は抜け目ないのか。そんでこいつも強そうだし。
「さっ!いこっか!セバス!」
「んっ?」
今、セバスって。
「はい、ではこちらへ」
いっちゃった。まぁ扉一枚、壁一枚なら全然聞こえるんだけど。
「・・・それとその話し方は直した方がよろしいかと」
「あっ。ごめんなさい。今戻すわ」
「いえ、仕事でないときに気楽でおられるのはよい事ですから。そうでなくては御身にかかる責務で潰れてしまいます」
「ありがとう。セバス。・・・昔から…あなたがいなかったら、私はこんな生活はできてなかった」
ん。やっぱりセバスか。
「いえ、私は私にできることをしているだけですから」
「そうね。でも私はいつもそれに助けられてるの。だから、ありがとう」
ふ~む。昔からいる執事って感じかな。それも幼いころから面倒見てそう。
「そうですか。それはよかった…しかし、それなら猶更、まだ死ねませんね」
「えぇ、あのバカ。殴ってでも止めて見せるわ」
「あまり自身の父親を悪く言うのはどうかと」
んふ。王様そんな嫌われてんのか。まあ確かにいけ好かない顔してるけど。
「だって、あいつシオンのことを幽閉して秘密裏に処理すべき、とかふざけたこといったんだよ!? あんなの馬鹿すら足りないくらいよ!」
え。へぇ~。あの親父そんなこと言ってんだ?
殺さな・・・今の私魔王じゃないしまだ我慢しよ。
てか、関係ないけど魚人族って人化できるんだ。さっきから平然と二本足で歩いてるし。あっ、寿命も違うんだ?
意外だ。魚人族ってあんまり寿命長いイメージ無いし。あれ、てことはヴィクトリアって何十歳の年寄だったり…私が言えたことじゃないや、やめとこ。




