其の五十三 初めまして、新人類
お久しぶりです。まだ、ストック用意できてない…けどせっかく新年度なので初めます。これからの自分に期待。
※タイトルとか諸々変更しました。
目を開けると、冷たい水の中、光すら届かない深海にいた。
───ああ、またか
開眼一番目覚めて感じたのは嫌な既視感。前回は氷の中。今回は深海。私はまた変なところにいるらしい。
何があったか、記憶をたどる。確か私はどっかの神に喧嘩売られて、いつか絶対殴ると決意しながら空を舞っていたはず。そんで、海の中に落っこちて……痛みに泣き叫んだ気がする。
〔はぁ~~〕
大きく、溜息を吐く。
水中呼吸はできるからいいとして、これあれだよね。急いで上戻ったら減圧で腹破裂するよね。実際アムルにはそれで煮え湯を飲まされてるし。
・・・魔力封じとか馬鹿だよね!?だって私しか使えないんだよ!?大した時間戦ってないのに魔力の存在に気づいて封じるって…嘘じゃん! ずるくない!?
〔ていうかよく考えたら初めて会った人類が魔王って何なの? もしかしたらあの時点で私死んでたじゃん。・・・実際一回死んだような気がしなくもないけど〕
正直今あんなミンチになって生きられるとは思えないんだよね。だからあの時もなんやかんやでどっかの神が干渉してたのかも…なんて気もしてすごい腹立つ。
〔んっ?〕
気配を感じて振り返るとそこにはすっごいでっかいチョウチンアンコウがいた。
〔でっ!?〕
推定・・・わからん。とりあえず私の何千倍近いサイズなのは確かだ。
(多少は動ける。魔力で無理やりやれば行け───!?)
〔魔力が、感じられない!〕
くそっ!またか!どいつもこいつも魔力封じを使ってきやがっ……て?
いや、おかしいだろ。魔力なんてこいつの前で見せたことはない。もし初見で封じられてるならそれは常に魔力封じのデバフを与えていることになる。そもそも魔力なんて誰も存在を知らなかったんだぞ?
ウードの記憶にもないし、反応からしてアムルとか騎士団長とかも知らなかった推定私だけの特殊能力。なのにいかにも深海暮らしの魚が知っているのか?
・・・わからない。けど実際封じられてるし。いや?
───もしかして封じられてない?
魔力は精神状態に呼応する。だからこそ私はさっきあんなにも大技を連発し続けられた。でも今の私は重度の火傷とか諸々で体をまともに動かせないくらいには疲弊している。つまりこれはもしかして……
〔いくらテンション上がっててもコトが終われば燃え尽きる。いや、むしろことが大きければ大きいほど、テンションを上げれば上げるほど、その反動はでかくなる。つまり私は今、いわゆる燃え尽きた状態〕
ああなるほど。さすがにテンション次第で無限に扱えるほど無法じゃないか。魔力を強引に湧きあがらせた分、あとで使用することすらできなくなる。用法容量は守りましょうって訳だ。
〔後払いなら後払いって先に言えし、ただかと思ったじゃん〕
はぁ、なんかどっと疲れが来た。まあちょうどいいのか?今までほぼノンストップで駆けあがってきたし、ようやくだけどスタートラインには立てたんだし。せっかくの海ならちょっとくらいバカンスしてってもいいかもしれない。
なんてぼんやりと考えていたら、視界が光に埋め尽くされた。
〔うわぁ~~!? 眼がっ!眼がぁぁ~~!!〕
なんて、どっかの大佐ごっこしてたらいつの間にかアンコウは消えていた。
〔あら?もともと敵意は無さ気だったけども。そんないきなり消えます?普通〕
あの巨体だよ? 動くだけで海流発生するでしょ。
〔まあいいや、とりあえずはのんびり上まで上がるかな~~あ? またか〕
今度は複数。サイズは小さめ。これは、ヒトかな?
でもなんか違和感。世界からの情報ではヒト。でも私の知ってる人とはなんか違う感じ?
そんなのが複数こっちに向かってきてる。まだ遠いからおぼろげだけど、もう少し近づいてきたらわかるかな?
〔う~ん。結構早い。人って海中でこんな速さ出せるのか?でも異世界だからなぁ〕
っと、索敵範囲に入った。えっと、・・・これはまさか!?
〔人の上半身に、魚のような下半身、さらに手に持つ三又の槍!これはまさに、魚人族!! やっとだ!やっと異世界の醍醐味だろう亜人族と出会える! こうしちゃいられない!何か手土産でも用意して良好な関係を築かなければ!〕
ああくそ、なんだってこんな時に魚がいないんだ!
何かないか?何か、何かいい感じの!
〔見つけた〕
急げ急げ!くそぉ、右腕がないせいで泳ぎづらい!あと服も水を吸うし全身が動かすたびに痛む。
だがそんなもの捨て置くのだ。今頑張らないでいつ頑張る!
服を水着に変更し、海流を操作してさらに深く潜る。買っててよかった水着!太陽の国には海なんてなかったはずだけどなぜか売っててよかった!初めてあの着せ替え人形に感謝したよ!
そんなことを思いながら進み、ようやくたどり着く。海底で隆起してる岩山。その先端に刺さる謎の棒を掴む。
〔ぐぅ~~!!ぬっ、けっ、ろっ!!〕
片腕で柄を掴み、岩に足を押し付けて踏ん張る。それなりに抵抗されるが根性で抜ききる。
〔よっし!ぬけっっ、たぁ~!?〕
抜いた瞬間、足場が割れ、海中に放り出される。岩塊を蹴って離れ、海中を漂いながら引き抜いたものを見る。
〔なっが!〕
その棒の長さは私の身長を当然のように超え、数十メートルはある。そしてここからだと見えにくいが、その先端は折れているようにも見える。一体何に使ってたんだよ。
〔痛っ!ああ~体痛い。さすがに無理しすぎたかなぁ?〕
我慢してるだけで海水が体に沁みて痛み続けてるのにこうも無理に動いたのだ。治るまであと数日はかかるかもしれない。しばらく安静にしなきゃな。
〔っと?もうこんな近くまで来てるのか。急いで上がるかぁ〕
なんて。安静にするなんて言ったばかりだけど海流を操作し体を浮上させる。しょうがないから体内の空気を消し去っておく。ちょっと息が苦しい感じがするけどたぶん気のせい。そもそも心臓無しで動けるのに酸素なんていらないでしょ。魔力の代わりに妖術で似たようなことしてるし。
「すみませ~ん!!ちょっと聞きたいことがあるんですけども~!!」
遠くからはっきりと声が聞こえてくる。海中なのに。
『ハイハイなんですか~?』
言葉が伝わるように念話で喋る。ウードが使ってたやつだけど結構便利よね。たぶん言語違っても伝わるし。そういやなんで私この世界の言語通じてるんだろ?よくある異世界特典かな?
「あれ?もしかして人じゃない?」
『さぁ、どうでしょうか?』
関係ないことを考えているうちに目視できる、というかすぐ近くまで近づいてきた。
「ん~、敵意とかって、あります?」
『いや、ないですね。なんならこれ上げますよ。友好の証に?』
「友好の証…にしてはもうちょっとこうなんかありません?ただの馬鹿みたいに長い棒ですよこれ。まあ貰いますけど」
ということで抱えていた推定伝説の長棒を手渡す。これ世界に確認しても…いいや、せっかくだしこの能力に名前つけるか。世界を診るわけだから、世界眼でいいや。
で、その世界眼で見てもただの棒ってことしかわからないんだよね。こんなに伝説感あるのに。悲しい。
『それで、何の用ですか?』
「あ、そうでした。ここらへんでなんか凄いこと起こってませんでしたか?」
『すごい事…ですか?』
「はい!すごいことです!」
なんだろう。すごい抽象的。いや、まあ多分時期的にソラの復活のこと聞いてるんだろうけど。
『ああ、そういえばさっきものすごいでっかいチョウチンアンコウに出会ったんですよ。もしかしてそれです?』
「ちょうちんあんこう?なんですか、それ?新しい食べ物ですか?」
『えっ、知りません?提灯鮟鱇。私の知り合いはみんな知ってるんですけど』
「知らないです!なんですかそれ!?おいしいんですか!?」
『いやぁ、私は食べたことないので…ただあのサイズだと人が何百人いても食べきれないサイズでしたよ』
「えぇ!?私も食べてみたかった…。ちなみに、どこ行ったかとかわかります?あと見た目も教えてもらえませんか!?」
おお。この人いいひとだ。あと純粋で食い意地張ってるかもしれない。やっぱりこの世界の実力者って特徴的なのが多いのかな?
ナルシストとか自堕落とか、愛され気弱男に狂信者。今のとこ皆キャラが立ってる。あの副騎士団長もそうだったのかな?戦闘狂の片鱗は見せてた気もするけど。
『ええと、それがいきなり消えちゃったのでわからないんですよ。見た目はすっごいでっかいランタンを頭から垂らした巨大魚でしたね』
「ほうほう。なるほど。・・・なるほど?」
『どうかしました?』
「・・・そうですか~。いや、今更ですけどよく無事だったなぁ~と」
『え、あの魚そんなやばいんですか?』
「ああいえ、魚のことはわかりませんけど、ここら辺の魚は好戦的なのが多いので。よく襲われなかったなぁ~と思いまして」
ふむ。
『いやぁ、そうなんですか。でもあれ敵意は感じなかったんでおなかいっぱいだったんですかね?』
「あはは、かもしれませんね。あっ、そういえばこんなところで何してたんですか?このあたりは危険ですし、陸からもそこそこ離れてるじゃないですか」
なるほど。あの鮟鱇は魚人族にとっては秘密の何かってことか。この女性はともかく後ろの方はわかりやすい。いきなり警戒強めたら何かあるって言ってるようなもんじゃん。
『はは、何用で来たと思います?』
個人的に会話において嫌いな言葉ランキングトップテンには入りそうな言葉。”なんだと思う?”の系譜。他人なんだからわかんねぇよ。って思っちゃうんだよね。あとそれで外すと気まずいし、年齢なんかだったら尚更答えがわからない。正しいだけじゃダメなのは本当にめんどくさいのだ。
「えっ。・・・ええと、そうですねぇ……」
やっぱりそうなるよね。これどう返すのが正解なんだろ?
「バカンス、とかですかね? なんちゃって。ははは、すいません。こんなとこにバカンス氏に来るわけないですよね。ごめんなさい」
『えっ』
「えっ?」
『なんで、わかったの?』
「えっ?」
『えっ?』
「もしかして、ほんとにバカンスなんですか?」
『そうですね。だいぶ疲れたのでバカンスしようかと』
「え?」
『え?』
・・・・・・・???
『えっと? どうかしました?』
「いや、人間はバカンスに海なんて来ないじゃないですか」
『・・・?』
「だって、水中じゃ息できない…あれ?」
『私人間じゃないですし』
「いやでも、わざわざ危険な海に来るもんじゃないですし・・・。それに今なら太陽の国の方が祭りやってるのでそっちに行くほうのが普通なんじゃ?」
ふむ。確かに。地球と違って魔物がいるらしいこの世界では海は魔物のテリトリー。自身は動きを悪くするのに向こうは生き生きしているわけで、そんな場所に泳ぎに来る馬鹿も癒しを求めに来る馬鹿もいないって訳か。
『私、普通って嫌なんですよね。普通とは違う方がいいっていうか、私はお前らとは違うんだぞって示したいというか。あとあの国もう滅びましたし』
「あはは、なるほど、そういうことですか。・・・え?」
『如何しました?』
「今、なんて言いました?」
『普通って嫌』
「そのあとです!」
だよね。
『太陽の国はもう滅んだんですよ。ついさっき、ね』




