其の五十一 【幻星】VS【聖魔】
━━━ナルシストことビューティー・アムルによりシオンが落下していた頃。
「それじゃあ、話をしようか」
魔王シオンを試す。そういった割に対して気に留めていないアムル。対し、
「っ! シオンは」
「あぁ、彼女かい? 別にいいだろう?どうせ君が殺してたんだし」
それが当然かの如く、アムルはそう言い切る。
「なんで、」
「なんで? 君が神だからだ」
そう言いながら、ソラへと集まる人魂を流し見る。
「器が満ちたとき、君の望む望まないにかかわらず大量のエネルギーを放出し、辺り一帯は消失する」
「っ!」
「そうなれば、彼女ではとてもではないが耐えられない。僕であっても、傷が残るだろうね」
「でもっ!」
何かを言わんとするソラに対し、アムルはどこまでも冷酷だ。
「正直、僕は君にあまり興味がない。僕個人としては君が生きていようがどうでもいい。だが、頼まれごととあっては仕方ない。本当は君の復活の阻止をしてくれということだったが、復活した君を殺してもいいだろう?」
薄い笑みを貼り付け、そう告げる彼は、その美しさも相まって、悪魔のようだった。
「私を殺すなら、それでもいい。でも、早くして。私が抑え込めなくなる前に! シオンが、死ぬ前に!」
「ふむ。それは無理だ」
「なんで!」
「彼女はもう死ぬ」
「嘘だ!」
露骨に生気を失っていくソラの瞳に何を見たのか。彼を微笑した後、告げた。
「試練である以上、彼女が死んでしまうのも仕方ないことだ。僕としても、彼女のことは気に入っている。生き残ってくれたらいいのだが。とはいえ、だからといって試練を緩める訳では無いのだがね」
「っ! つまり、あなたを倒せばいいの?」
「さぁ? 試練は一人のほうが好ましいが、頭数がいてどうこうなるものでもない。好きにするといい」
「じゃあ! 死んでよ!」
☆☆☆☆☆
『「存在同化 ウード・クラルヴァインθ」』
まず、痛みが消えた。
体が作り変わっていくような、何とも言えない感覚を抱く。
そこに恐怖はない。欠けていたものが埋まっていくような、心地よい感覚だけ。
少しして目を開ければ、失った右腕と空いた腹が炎のように揺らめく緑によって埋まっていた。
全身に力が漲り、世界の見え方が違う。今まで以上によく見える。
体内の魔力を探し、動かす。動きは悪いが、使えないほどじゃない。
存在力もだいぶ増したようだ。
「フゥー、どうするか」
見た感じソラはあと一分もしないうちに満ちる。
同化によって取り戻した記憶によると、もしそうなれば辺り一帯は爆発で消え去るらしい。
つまり、
「守りを固めてアイツを殴る」
目的は決まった。あとはやるだけ。
あの二人の戦闘に参加し、ソラを守り、自分も守りを堅めながら殴るのだ。
「相変わらず難易度ルナティック」
だけど、それでいい。
「ハハッ」
勢いよく飛び上がり、ソラ目掛けて迫る回し蹴りを下からムーンサルトキック。
「よぉ、見極めはもう、終わったか?」
相殺し、再び空に立つ。
「し、おん?」
「うん、どうし━━━うぉっ?」
背後から抱きしめられた。
「よかった!よかった!生きてて、よかった!」
お〜?
ソラってこんな子だっけ?
なんかもっとこう、ミステリアスな感じじゃなかった?
まぁいっか。これはこれでよし!
「うんうん。生きてるからね。大事なものを失いはしたけども」
「そう、なの?」
「うん。まっ、もう過ぎたことだけども」
アイツは確かに私の中で生きている。
譲渡ではなく同化なのだから、私はウードであり、シオンなのだ。ただ、その主体が私だってだけで。
だから私が連れて行くのだ。
「・・・そうか。生き延びたか」
「予想外だった? 悪いけど、あんたにやり返すまでは死ねないから」
「認めよう。君は正しく、魔王だ」
「それは光栄だ。魔王様?」
ほんと、道理で強いわけだ。
新しく手に入れた世界を診る感覚が伝えてくる限りでは、奴は私の先輩らしい。
「そう。僕は魔王。【幻星】ビューティー・アムル。この世で最も美しい男さ」
げんせい。
原初の星か?
だとすれば、自分が最高最煌だと思ってるこいつには似合いか。
いや、幻の星か?
まぁ、どちらでもいい。
「私はシオン・セレスティン。二つ名はまだ無い」
「ふっ。ならひとまずはこう名乗るといい。【聖魔】シオン・セレスティンと」
聖魔。
「・・・お前に従うのは癪だが、いいだろう。今日から私は、【聖魔】だ」
精霊にして、魔王。
聖なる神の友にして、魔なる神の使徒。
これ以上にしっくりくるものはない。
「んじゃ、話も済ませたことだし、あとは魔王らしく好きにやろっか?」
「あぁ。もちろんさ。君が望むなら、守り抜いてみせろ」
「当然」
抱きついているソラをどかし、互いに構える。
あちらは毅然とした様子で右手に長剣を構える。
こちらは深く息を吐き、半身になって足を開く。
「・・・シオン、今からでも━━」
「ソラ。信じろ」
言葉は要らない。ただ、理解させる。
何だったか、昔誰かが言っていた。
俺たちみたいなのは、存在で鼓舞するのだと。
その生き様で、その立ち振舞で、何があってもどうにかするという、絶対的安心感を与えるのが仕事だと。
「━━━シオン、お願いします。私を、救って?」
「イエス・マム」
瞬間、足場を砕きアムルの前へ。
物理エネルギーを消失させ、振るわれる長剣をその場で横回転して回避。
遅れて射出した剣がアムルに迫る。
私を避けるようにして障壁が張られ、大半は弾かれ、一部は私にぶつかり、すり抜ける。
コレには驚いた様子を見せ、直後には剣の動きが止まった。
チャンスだ。
揺らめく右手を尖らせ差し込もうとするが、届かない。なるほど、空間の拡張か。
ならばと右手からレーザーのように魔力を放つも障壁に反射され、それをさらに反射する。
それは一瞬にして往復を繰り返し、威力を増していく。
タイミングを見極め、反射を解除。体を透過させ、ソラの背後のアムルに当てる。
直後アムルが爆発し、肉片が飛び散った。その全てをソラにかからないように逸らし、近くで待機。
攻撃を当てるには光速かつその守りを突破できる技のみ。つまり実質こちらに有効打はなし。
対しあちらは転移に分身、遠隔干渉と厄介なものが勢揃い。
やはり守りに専念か。
何かの圧を感じたのでそれに妖力をぶつけ相殺。
全方位から迫る剣山を消失させる。
宙に生えた樹木を燃やし、風を吹き荒らす。
景色に同化するようにいる複数のアムルを拘束、肉塊に圧縮する。
夜空から降り注ぐレーザーを偏光させ、集束、槍に再構築し下から迫るアムルを突き刺す。
前から来る本体の体に触れ、ある薬を体内に転移させる。
「くっ!」
「おや?」
触れた左腕が切り刻まれ、腹を貫かれるが、剣を妖術と魔力、肉体によって無理やり固定する。
アムルを連れて少し離れた場所に転移。体液を酸に置き換え剣を溶かそうとするが失敗。
頭を殴られあらぬ方向へ吹き飛ばされる。
右腕を鞭の様にしならせ、伸ばしアムル目掛けて振るう。
当然邪魔は入るが、手本は十分に見た。
狂った空間をもとに戻し、防ごうとする障害物の尽くを避けその腕に切り傷をつける。
初めての、かすり傷。それに喜ぶまもなく、とてつもない殺意が向けられる。
「ハッ、は」
右腕が消失し、全身が凍った。
止まる心臓を動かし、バキバキと無理やり氷を割るように体を動かし、迫る矢を側面から叩こうとしたとき、左腕がねじ切れた。
驚くまもなく矢が心臓を貫いたと思うと、目の前にはアムルがいた。
強制転移。気づいたときには切り刻まれ、四肢を失い首を刎ねられていた。
緑の炎を揺らめかせ、全身を再生。自分の体であった肉塊を爆発させる。
「っ!?」
しぶといんだよ。私は。
龍の生命力と精霊の死の概念。それを合わせれば、多少の不死すら可能になる。
「死ね」
全細胞が警笛を鳴らす。
体の前で爆発を起こし反動で逃げる。
直後、空間が歪むのを感じた。
刹那、空間が消滅する。
その隙間を埋めるように周辺から空間が吸われていく。
さながらブラックホールのそれにから逃げるため足場を作り全力で走る。
しかし、
「消えろ」
体が動かない。
対象の動きを一瞬止める程度のシンプルな妖術。
その程度ならば今の私にも通るだろう。
「にしたって、これはキツイ!?」
フルスロットルで体内魔力を走らせ、縛りを解除し、走り出す。
吸い込みが終わった。
穴が塞がったらしい。
「形態変化 霊龍人 職業 聖騎士」
全身鎧を纏った騎士の装い。ところどころに緑の装飾がありつつも大枠は先ほどと変わらない。
しかし手に持つのは長槍。
後方でソラとやり合っているアムルを狙って投げる。
当然の如く躱されるが、弧を描いて戻ってこさせ連続突き。
その全てが壁に阻まれ、突き終わりめがけて長剣が振るわれる。
「あと、三秒!」
この至近距離で三秒稼がなければならない。
━━━できるか?
長剣を槍で払いつつ、魔力を高める。
魔力は精神に関連するが、なにより感情に左右される。
魔力とは魔王が使う力。
であるからして、私が魔王らしくある時、魔力は爆発的に励起する。
故にこそ、今日はここまで魔力が保っているのだ。
「〈咆哮〉」
だったら、今なら無限に使えるよなぁ!?
「こんなも、の…?」
避けようとしたしたところで動きが固まる。
ようやく効果が出たか。
槍を三本束ね、咆哮。
一発撃つたびに槍は消失するが、関係ない。
これで、一秒。
「〈墜ちろ!〉」
アムルは腹を片手で押さえながら、右手を天に、最上段から振り下ろす。
上を見れば、空から降る幾千の星。
夜が、墜ちている。
「ばっ!?」
「万死!」
驚き呆れるまもなく、迫るアムルの剣を白刃取り。
繰り出される蹴りを尻尾によって相殺する。
「下痢は嫌かぁ?!」
「殺す」
顔を怒りにゆがませて告げられる死の宣告。
ナルシにとって下剤は相当頭にきたらしい。
私もそうだったもん。当たり前か。
だが、残り、一秒。
墜ちる空を全妖力を駆使して支える。未だ無事な王都の神殿から光の柱を立ち上がらせ、補強。数秒は持つはずだ。
周囲空間の圧力が強まり、鎧が軋みだすが気合で耐えさせる。
超高速でインファイトしながら、身に見えないほどの細さの糸がソラに迫るのを、こちらも魔力の糸を伸ばして断つ。
脳をフルスロットルで回転させ、搦手に対応しつつ、ソラも守る。
一合い撃ち合うごとに私にばかり傷がつく。
だが、騎士に命は要らない。
無駄死にはだめだが、主を守るためなら喜んで死ね。それが、騎士の忠義。
頭を飛ばしながら、残った体を動かし腹を殴る。
ダメージはなし。しかし、弾けはした。
「私の勝ち」
残りコンマ一秒。
もう、間に合わない。
「まだだ」
月の光、それが一際輝いた気がした。
「うぐっ!」
ソラのうめき声。
時が来ても、復活はなされない。
ソラは何かに頭を撃ち抜かれていた。
「光、速」
文字通り、月光を武器にしたのか。
再生した体でソラを抱える。
まだ、生きてる。だけど。
「器に穴があいたなら、中身は溢れ出る。そいつに本体を降臨させるだけのエネルギーはもう無い」
なるほど。だが、これで良かったのかもしれない。
国民の命は無駄になったが、彼女の望みは叶えられる。
「次は、お前の番だ」
といっても、私も生き延びれたらの話だが。




