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転生魔王の私はいずれ勇者に殺される  作者: 神星海月
第一章:魔王誕生

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其の四十六 栄光の騎士 ━1━

大晦日です。今年も終わりです。

 〈レックス視点〉

 俺は小さな村に生まれた。何の変哲のない辺鄙な村。隠された秘密とか、古びた英雄の出身地だとか、そんな曰くなんてなければ、名産品なんてない。閉鎖的で、退屈な村。


 俺には同時期に隣の家で生まれた少女がいた。いわゆる幼馴染。親同士が仲良かったから毎日のように顔を合わせて、毎日遊んだ。

 当時の俺は外の世界を知らなかったから、彼女と過ごす毎日が楽しくて、ずっと続けばいいのにと思っていた。


 初めて外の世界を知ったのは五歳の頃。村の近くに住み着いた魔獣の討伐に冒険者が来た時だ。

 知らない人だったから怖かったけど、それ以上に好奇心が勝ったからいろいろ聞いて回った。

 そうして知った外の世界はものすごく刺激的だった。

 天空の島にある国に、氷に包まれた国。常に夜の国もあれば、天まで届くという世界樹のある国。そのどれもが幼い俺にとっては想像もつかない秘宝だった。


 だけど何よりも憧れたのは、『勇者』と呼ばれる存在。何をもって『勇者』と呼ぶのか。それは今でも分からない。

 でも世界で数人いると言われる彼らは皆、誰もが認める偉業を成していた。


 世界を旅し愚直に功績を挙げ続け国を興した『不屈』。

 戦争・内乱の絶えなかった国を止め、建て直した『聖女』。

 対人対魔を問わず無敗、戦士の希望『英雄』。

 未来を見通し、最悪を回避してきた『終古』。

 精霊を従え、魔王すら滅ぼす『正義』。


 強くて、人気者。そんな彼らに憧れて何もかも見えなくなったのが俺だ。



 ☆☆☆☆☆


 彼らが帰ったあと、俺は棒切を振り回していた。冒険者になるためだ。最低限の心得と修行法はあの冒険者達に教わった。だからあとは俺次第。

 今までフィリスと遊んでいた時間を全て修行に費やした。少し悲しそうにするフィリスには悪いが、夢のためだ。


 そんな日々を送っていると、フィリスが横で棒を振り回すようになった。理由を聞いてみれば、「暇だから」しか言わない。

 とは言え止める理由もなかったので好きにやらせた。


 ある日、フィリスが勝負を挑んできた。私が勝ったら一日遊びに行くぞと言ってきたのだ。

 負ける気はしなかったから了承した。

 負けた。

 何もできなかった。攻撃が全部防がれて、疲れたところを寸止め。完敗だ。

 今すぐにでも修行し直したいのに、遊びに行かなければならなくなった。


 久しぶりにフィリスと遊んだ。棒を振ってる時は仏頂面なのに、遊んでる時の彼女は笑顔で、可愛かった。

 フィリスは冒険者になるべきじゃない。そう思った。

 だから、その夜から本気で修行した。彼女に勝って、俺と離れさせるために。泣きながら。


 時間が経ち、勝負を挑んだ。勝ったらもう関わるなと言ってやった。

 フィリスは顔を曇らせて、今にも泣きそうな状態で戦った。

 結果として俺は勝った。

 その日から、彼女はうちに来なくなった。


 初めての失恋を経て、俺は弱くなった。そして気づいた。ただ振るだけじゃ意味がないと。

 フィリスが俺に勝ったのも、俺がフィリスに勝ったのも、目標のために努力したからだ。目標の有無で成果は大きく変わる。

 それに気づき、俺は絶望した。


 俺に目指すべき目標なんて存在しなかったから。今まではフィリスがいた。だから負けないという目標があった。でも今は一人。戦う相手はいなくなった。


 数日が経ち、俺は村の外で窮地に陥っていた。

 目の前にはゴブリン。メジャーで、あまり強くない魔物。大人なら勝てるし、俺だって一体なら勝てると思う。しかしそれが二体。

 死ぬかもしれない。

 その恐怖が俺の動きを鈍らせた。だから、いつもなら避けられる攻撃を食らって、尻餅をついた。

 恐怖に縛られる俺を、二体のゴブリンはジリジリと時間をかけて殺しに来る。

 嫌だ。死にたくない。

 滑稽な話だ。冒険者になるなんて言って、勝手に家出して、結果死にかけて後悔する。恥ずかしい。


 あまりの恐怖に目を瞑ると、瞼にフィリスの姿が浮かんだ。泣きながら、棒を振っていた。

 それを見て、心が締め付けられた。


 何のために棒を振っていたのか。

 何のために、フィリスを遠ざけたのか。

 何のために、ここに来たのか。


 目を開けると、ゴブリンは今にも棒を振り下ろそうとしていた。

 左腕を頭を守るように掲げる。

 振り下ろされた棒は、左腕に当たり、鈍い痛みを走らせる。

 だが、おかげで目が覚めた。

 俺はコイツに勝つためにここに来た。

 人数不利なんて関係ない。こんなので死ぬなら、俺は勇者になどなれないのだから。


 日が沈んだ頃、ボロボロになりながらも俺は生きていた。死闘だった。どちらが死んでもおかしくない。そんな闘い。でも勝ったのは俺だ。満足感を胸に家に帰る。

 両親にはこっ酷く叱られた。


 ☆☆☆☆☆


 初めての戦闘から数年が経ち、俺は村の外、一番近くの町に来ていた。冒険者になるためだ。

 簡単な冒険者登録を終え、依頼を受ける。町近くの平原にいるゴブリンの討伐。

 依頼はつつがなく終わった。稼げたのは宿代くらいのものだけど。

 冒険者として初めての夜は、わくわくで胸がいっぱいで、いつの間にか終わっていた。


 翌日から冒険者として本格的に動き出した。宿代を稼ぎつつ、修行をする。そんな生活を送っていれば先輩冒険者ともかかわることになり、依頼の手伝いをしながら、強くなるためによく観察した。

 一年がたっただろうか。独り、固定パーティーを組むこともなく一年。俺としては実感はなくとも、そこそこ有名になっていた。何せ冒険者は危険な職業。独りでなんてすぐに死ぬ。そうでなくとも、いつの間にか顔見知りが消えているものだ。


 ある日、見知った顔の受付嬢に一つのお願いされた。なんでも、新人の引率をしないか、ということだった。最近新人の死亡率が高く、ギルドとして簡単な教育をしたいとか。依頼料もそこそこ悪くないし、俺も先輩には助けられたから受けることにした。


 そうして出会ったのが、アルマ、シル、コッコの三人だ。彼女らは魔獣に村が滅ぼされ、帰る家も、家族も失ったのだそうだ。

 死にたいけど、死ぬ勇気がない。そんな彼女たちといるのはなかなか精神的にきた。けど依頼を受けた以上、中途半端に投げ出すわけにもいかないので知る限りの知恵を教え込んだ。

 依頼の見分け方、事前準備の仕方、信頼できる宿や店の場所、心構え、魔物の特徴、周囲の地形。野営の仕方も教えはしたが、絶対に夜までに帰れる仕事だけ受けろと言い含めた。


 ひと月くらいだろうか。当初の依頼では一週間。しかし、中途半端で投げ出したくなかったから個人的に行った。ほかの冒険者どもには言いたい放題言われたし、本人には余計なお世話と思われていたかもしれない。でも、なんとなく見過ごせなかった。それだけの事。


 久しぶりの一人での依頼は、気楽だが、どこか寂しさを覚えた。その夜はフィリスの事を思い出し、泣いた。


 数か月がたち、ギルドに行くと久しぶりにアルマたちに出会った。俺は朝が早いので基本的にほかの冒険者とは合わないのだ。まあ、話しかけることはしないのだが。

 しかし昔より生気を感じる。時間が経ち、絶望が薄れたのだろう。死にたくないのならいやでも前を向くしかないのだし、いいことだ。願わくば、こんな仕事さっさとやめて旦那捕まえて幸せな家庭を築いてもらいたい。


 特にめぼしい依頼はなかったので、そのままギルドを出て平野へ向かう。女将に頼まれたボア肉を獲りに行くのだ。そんな時、後ろから声をかけられた。振り返れば、アルマたちだった。


 併設されている酒場で酒を飲みながら(水の代わり。子供も可)話を聞けば一緒に依頼に行きたいのだとか。依頼内容を見ればゴブリンの巣の壊滅。巣のサイズは小規模。俺がいれば何とかなるとは思うが、少々リスキーだ。いくら冒険者が危険に生きるとはいえ、これは少々蛮勇に思える。

 それを伝えれば、彼女たちは俯かせながら言った。金がないと。


 おかしな話だ。彼女たちはもう大丈夫。俺無しでも問題ない。そう思ったから卒業させたのだ。

 だというのに金がない。一体何が?


 イラつく。昨日の昼、外に出ている間に空き巣にあったらしい。置いておいたお金はもちろん集めていたものはほとんど奪われていたらしい。このままでは、明日の宿代も怪しいのだとか。


 仕方ない。彼女らは仮にも俺の教え子。それを見殺しにするわけにはいかない。だから、金を貸すことにした。今日の俺は本来休養日。ボア一匹程度ならともかくいくら小規模とはいえゴブリンの巣は危険すぎる。そもそも準備をしていないし。


 数週間がたった。久しぶりにアルマたちの顔を見にギルドで暇をつぶしていると、どこか顔色を悪くした彼女たちに出会った。

 また空き巣にあったらしい。幸い今度は数日分のお金があるらしい。しかし大分追い詰められているようだ。


 元々今日は用事もなかったので、彼女たちを連れて街を回ることにした。こういう時は気分転換が大事なのだ。いつ死ぬともしれない冒険者は冒険前に憂いを残してはいけない。先輩からの受け売りだが、それだけに大事なことである。


 一日遊びまわった。俺としてもなかなかリフレッシュできたが、だいぶお金が減った。カッコつけて全部奢ったせいだ。まあ、女の子たちとデートした代金とでも思っておこう。彼女たちも元気が出てきたようで明日から頑張るそうだ。


 さらに数か月がたった。ほかの冒険者にあいさつしながらアルマたちを待つ。夕方に帰ってきた彼女たちにかつての暗さはない。やはり問題はない。

 席に着き、彼女たちの冒険の話を聞きながら夕食をとる。食べ終わり、そろそろお開きとなったところで、告白することにする。


「そろそろ町を出ようと思う」


 前から考えていたことだ。俺の最大目標は勇者になること。だからいつまでもこの町にとどまるわけにはいかない。しかし彼女たちが心配で決意できていなかった。でも、今日見てわかった。この子たちは問題ない。

 今日、ずっと後回しにしていた剣も受けとった。ゴブリンの巣も小規模なものなら一人で壊滅できるし、周囲に倒せない敵はもういない。この町でできることはやりつくしたんだ。


 それを伝えると、彼女たちは顔を青くして泣きついてきた。正直、心が揺らぐ。彼女たちは最近は生気も出てきたし、食事も十分とって動き回っているおかげか、ずいぶんと健康的に美人に育ったのだ。可愛い子たちに行かないでと懇願されれば男ならそりゃあ揺らぐだろう。

 しかし、それで諦めるほど俺の夢は軽くない。これで折れる夢ならフィリスと別れる時点で折れている。


 それが伝わったのか、今度はついていくと言い出した。

 困った。否定するに足る理由がない。

 今迄パーティーを組んでこなかったのに特に理由はない。しいて言うなら背中を預けていいものか信頼しきれないからだ。だがその点この子たちは大丈夫だ。何せ俺が育てたし。

 それに何よりこんなかわいい子たちに慕われて、一緒に冒険。なんともまあ夢のある話だろうか。こんなチャンス、二度とないだろう。


 だが、だからこそ、一緒に入られない。彼女たちといれば、俺は妥協してしまう。勇者になることを諦め、誰の記憶にも残らずに死んでいく。幸せではあるかもしれない。だが、其れではだめなのだ。それではフィリスを諦めた意味がない。

 ああ。そうか。

 俺はいまだにフィリスが好きなのだ。諦めたと思っていた初恋。でもそれが、忘れられない。だからこそ彼女らといることはできないのだ。独り身でなければフィリスと恋人になれないから。

 なんともまあ女々しい話だ。勇者になるために、そんな理由を挙げながら、その実過去の女を思い続けている。これでは彼女たちにも失礼だろう。

 だから、言う。それはできないのだと。理由は言えない。言いたくない。


 理由も言わなかったのに、彼女たちは泣きながらそれを受け入れてくれた。俺は、くそ野郎だ。

 ただ、代わりに。明日一緒に依頼に行くことになった。


 翌日。ギルドに向かうとすでに彼女たちが待っていた。準備はいいようだ。

 今日受ける依頼はゴブリンの巣の壊滅。そのサイズは中規模。独りだときついが、今日は彼女たちもいる。問題ないだろう。そう、思っていた。


 数時間後俺達は危機に瀕していた。

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