其の四十五 天地激突
右腕の槍に非実態化するイメージを送り込む。その後一部実体を取り戻させることで盾を貫通して攻撃。
これにはさすがの精霊様も気づけなかったようで反応がないが、アダルウィンが気付きとっさに体を引いたため浅く肉を貫く。
「ヴッ」
『ッ!離れて!』
穂先がほどかれ枝分かれし、肉に絡みつくも、無理やり引き千切るようにして距離をとられる。
「くっ!」
痛みに悶える団長。おそらくは未だ闘志に燃えているだろう。
だがそれでも、心配しない理由にはならないのだ。
『アダルウィンッ!』
『装填、射出』
あの二人は恋愛感情を発端とする契約。それも一方からの愛が極端に強い。故に、精霊が崩れれば繋がりは弱くなる。
途端、体が軽くなった。
鎖を引き千切り、盾を吹き飛ばし立ち上がると、魔武具が捌かれ、あらぬ方向へ飛んでいっている。
再びの睨み合い、とはならない。
『お返し申す!』
周囲に散らばった魔武具が形を変え、鎖として騎士団長を封じる。
「なっ!?」
『あっ!?』
精霊の意識が騎士団長に寄る。その瞬間、その腹を殴りつける。
『ア"ッ!?』
「ヴィルナッ!」
当然、騎士団長は反応した。鎖を容易く壊しその大剣を突き出す。
護りたいよなぁ。
自分を愛してくれる女だもんなぁ。
報いたいよなぁ?
「まだ、温い」
ポンッと精霊の体を押した。
大剣を止めようとする騎士団長。
その背後に移動し、その腕を掴み、手伝う。
勢いを増して進む大剣。
直後、肉を貫く感触がした。
「あっ、ぁ、ぁあ!?」
『ゴフッ! ぁぁ』
動きを止めた騎士団長を蹴り飛ばし、抱きしめさせてやる。
二人の距離は縮まり、手に持つ大剣はより深く突き刺さる。
「さようなら」
鎧を突き破り、心臓を潰す。
「ッ!?」
騎士団長の存在感が急激に増していく。すぐさま右手を振るい首を刎ねようとするが、硬い音がして弾かれる。
「っなぁ!?」
瞬間背筋に走る悪寒。声が聞こえた。
「存在受諾 ヴィルヘルミーナ」
周囲のものを全て拒むかのように広がる地震。大地が割れ、自然の脅威が牙をむく。
『シオン…』
「あ~あ、失敗したかなぁ?」
『お茶らけてる場合じゃないよ…、本当に』
「わかってるわかってる。でもさ、こんな時こそ気楽さが大事じゃん?」
『そうだけども…』
はぁ…まずいなぁ。
存在同化ぁ? 何それぇ。
主人公ですかあんたらはぁ!
恋人が死ぬ間際に命を捧げてくれました。超絶パワーアップです。
そんなありふれた起死回生、な~んでこんなときにするかねぇ?
こんな序盤の戦いでするもんじゃないでしょ!
・・・よし!愚痴はもうおしまい!
「ウード、この間の爪ってもう準備できてる?」
『一応は。ただ、まだ修復機能…壊れないようにはできてないから壊したらそれっきりだね』
「十分」
装備できるだけで問題なし。魔力も減ってきたし、これ以上は無手じゃ厳しいものがある。戦闘スタイルの変更と行こう。
「うげっ」
『あっ』
揺れ続けていた地面が止まり、元に戻っていく。休憩は終わりか。
「待たせたね、最終ラウンドと行こう」
「これ以上はもうないよね…?」
ただでさえ序盤に戦う相手じゃないのに、これ以上はさすがにいやだぞ? 負けかねないし。
「こっちとしても、ない方がいいんだけどね。さぁ、これ以上の犠牲は出したくない。死力を尽くして、国を守ろう」
何やらすっきりした様子で、落ち着いている。
大事なものを失って、それでもなお市民を守ろうと奮起するその様は、まさに騎士。まさに英雄。
嫌だなぁ…?
これまた物語通りなら、窮地において護国のために戦う時、彼らは実力以上の力を発揮するのだから。
「形態変化 龍人」
爪を装備し、龍の鱗のような鎧に身を包む。
「その姿…ヒトの身に、龍の装い。…本気というわけだね。いいよ、騎士として、一人の男として、怪物退治と行こうか」
「はっ、やってみろ…!」
フルフェイスの兜を下ろし、たがいに突撃。
長剣と爪がぶつかり合い、火花を散らす。
足元に生じる凹凸をフィジカルで無視する。
時折突き出される槍を躱し、逸らし、受け止める。
そうした小競り合いの中で所見殺しに近い技を互いに幾度となく押し付け合い、命からがら生き延びる。
一瞬のチャンスをめぐって競い、それをものにしようと全力で争い、時間も忘れて殺しあう。
☆☆☆☆☆
幾回の鍔迫り合いで刃の欠けている爪を首に向けて振るい、躱されるギリギリで魔力の刃を延ばす。
既に見せたためか、自身の立つ地面を下げることで避けられ、兜で防がれる。
さらに踏み込んで攻撃しようとしたところを、いつの間にか生えていた草が足を結ぶようにしてひっかける。
根っこ事引き抜くも、すでに体勢を立て直され、鍔迫り合いに終わる。気づけば騎士団長との距離は開いていた。
「ちっ!」
『あはは。シオン本当に転移が嫌いだよね』
息を整えている騎士団長をにらみながら周囲を確認していると、天に昇っていたはずの太陽が傾いていることに気づく。
「むぅ。いい加減終わらせたい」
疲れた。急がなきゃ。負けるかも。
長時間の戦闘。迫るタイムリミット。魔力の使い過ぎによりだんだんと気分が下がってくる。
「落ち着け、大丈夫。私は今、止まってない」
この世界に来たとき、かつてないほどに追い詰められていたころのことを思い出し、心に余裕を持たせる。
瞬きを一つして目を開けると、目の前には剣が迫っていた。
「っ!? だぁ~~!!!」
ほんっと! 転移とかずるすぎんでしょ!!
剣を兜から生える角で弾きつつ、爪を振るうと、地を向いていた。
「は?」
想定外の事態に驚きつつ攻撃を警戒すると、今にも背中に差し込まれようとしている槍の存在に気づく。
背後に尻尾を生やしギリギリで防ぎつつ、足元に風が発生して逃げ延びる。
「助かる」
『気にしないで』
短く言葉をかわして戦闘に戻る。正直私も余裕はない。
大地にいる限りどこでも奴の射程範囲だ。お互いに決め手がない現状。日も落ちてきてるし、なるべく早く終わらせたい。
「なあ! そろそろ終わりにしよう!」
攻撃をかわしながら叫ぶ。
「私はこれから残る全てをもって、全身全霊を次の一撃に捧げる!」
彼がこれに乗るかどうかはわからない。でも、多分。
「守りきれたら、お前の勝ちだ!」
攻撃が止んだ。
「・・・いいだろう。僕の全霊をもって、騎士の誇りにかけて守って見せよう」
はっ! いいね。思った通り。
騎士ってやつは正々堂々、正面突破を良とする生き物だ。それは最期あの副騎士団長が成したことからもわかる。あいつらは死よりも何よりも誇りを大事にし、そして、忠義に生きる生き物なのだ。
「やるぞ、ウード」
『何をさ!?』
「わかんね」
『なんで!?』
しょうがないだろ。私だってどうすればあいつの守りを貫けるかわかんないんだし。
あとテンションのままに動いてるから先の事なんて考えてなかった。
「まあ何とかなるって! とりあえず合わせろ!」
『ええっ!? もう!シオンはいつもそうなんだから!』
・・・本人には言えないけど。無茶振りしても意外と何とかしてくれるウードのそんなとこは、結構好きなんだよなぁ。やっぱり本人には言えないけど。
さて、どうするか。向こうは巨大な盾を構えつつ、なにやら砦を築城している様子。
なるほどね。
「とりあえずは、ね」
全身全霊、最大火力。それをなすには私だけでは不足。持てる全てを使わなくてはならない。故に。
左手に嵌まる紅き指輪が光り出す。内に残る魔を喰らい、我が身に纏う鎧をも喰らい尽くす。
活力を失い倒れゆく体を緑の聖が支え、致命に至りし指輪はここに成った。
一つの薬を取り出し、口に含むと活力がみなぎり、魔力が回復した。
魔力を受け取り、再び鎧を展開。
「形態変化龍人 職業 龍槍兵」
先程までと細部の似た装いを身に纏い、
「ウード」
『任せて』
槍を手にし、足を開く。
尾を地に突き刺し、構える。
魔力を全身に浸透させ、高速で流し、心のままに言の葉を紡ぐ。
「〈我、龍人なり。龍にして、人。二つの属性を併せ持つもの〉」
詠唱。世界に詳細を告げることで、威力を高める。
『〈汝の武は龍の如く、汝の技は人の如し〉』
「〈我が望むは乾坤一擲〉」
しかし、詳しいことなんか気にしない。こう言うのはなんとなく、イメージが伝わればいいのだ。
『〈汝が挑むは天を支えし大地の聖〉』
「〈我、空を敷き、駆ける〉」
『〈汝、主と仰ぐ、王、其の一柱なり〉』
言葉を紡ぐたび、存在は堅固に、纏う鎧は絢爛になる。
それは周囲にさえ及び、宙空に黒き城が創られる。
龍鱗で作られた鎧。その兜から覗くは眼差しは紅く、その内側で緑が猛っていた。
「『〈いざ!! 終戦と行こう!!〉』」
対し、眼前には紅き城が建った。
城壁の前に人型の軍勢が現れ、各々が剣と盾を打ち鳴らし、その闘志を轟かせる。
対するは一人。手に持つ槍を掲げ、しかし覇気をもって相見える。
秘められた兜の下には笑みが浮かび、その御業をもって挑む。
その名を叫ぶ時、ひび割れた指輪はついに砕け、その対価を解放する。
「『染め上げろ!! 蒼穹駆ける龍槍!!』」
放たれた槍は、一条の閃光となって空を駆ける。轟音と共に放たれたそれは、瞬時に城へと辿り着く。
対し、轟く鬨や銅鑼の中から、この場を死地と定めた騎士達が覚悟を持って唱えられたのは象徴。
「「「〈主へと捧ぐ希望の盾〉」」」
虹の障壁が城を守るように張られ、騎士の盾と王の鉾が激突する。
一瞬にして罅の入る虹の盾。しかし、鉾もまた貫くことはない。
互いの意志がぶつかり合い、押し付けあう。
方や、全て滅さんと。
方や、全て護らんと。
その意を反映した互いの武具は、彼らの叫びに呼応してその効力を確かにする。
守る盾は厚みを増し、
滅す鉾は速度を増す。
天地を冠するもの共の戦いは拮抗の後、天秤は傾く。
輝きは砕け、願い叶わず、その城は龍に飲まれる。
光が収まった後、何とも知れぬ紋章の刻まれた破片だけがその場に残った。
☆☆☆☆☆
「つ、疲れた」
地面に倒れ込みかける体を外に出てきたウードが支えてくれる。
ものすごい倦怠感の中、役割を終えた鎧と尻尾を体内に取り入れる。
今すぐにでも眠りたい。休みたい。だが、まだできない。
ガキンッ!
金属の弾かれる音がした。
顔だけをそちらに向ければ、四人の冒険者が構えていた。
あぁ、まずい。疲れた。まるで反応できなかった。このままじゃ、勝てない。
くそ〜! 楽しみ過ぎた!
ホントは指輪なんて使うつもりじゃなかったのに。
それもこれも全部あいつが悪い。
意地で粘って、無駄に派手に耐えるんだもん。
正面から叩き潰すしかないじゃん!
それが王としての礼儀じゃん!
はぁ。まぁ一番悪いのは、私が弱いことだけど。
『シオン…あとは任せて。今は少し休んでて』
全身が仄かな暖かみに包まれる。
自身の魔力も少ないだろうに私に魔力を供給してくれているのだ。
弱った心に優しさが染み渡る。
このまま全てを任せて眠ってしまいたい。
だが、そう思う心を否定して、私は精一杯の虚勢を張るのだ。
「選べ! 私と戦って死ぬか! 私に忠誠を誓い生きるか! もし挑むと言うなら、私は全力で、お前たちを殺す!」
正直、今の私じゃ精々一人持っていくのが限界だろう。だが、そんな姿を見せるわけには行かない。
力は示した。 器も示した。
だから、ダメ押しだ。
「忠誠を誓え! 今なら私を襲ったことを全て不問にし、一人残らず救ってやろう!」
アイツラだってわかってるはずだ。このまま私を殺したところで未来はないと。
国民を犠牲に神を復活させるようなやつが、命の保証などするわけがない。
なら、その点において、私という存在は希望であることに間違いない。
「・・・嬢ちゃんよ、信じていいのか?」
双剣をゆるく握り、確かめるように尋ねるハーレ厶男。
信じていい。言うのは易い。だが、そんなものに価値などない。
「知らね。それはお前が決めろ」
「何だそれ…。あ〜あ、失敗したなぁ。カッコつかねぇ〜」
一瞬覗かせたとぼけた顔。だが、すぐに消えた。
乱雑に頭をかき乱し、愚痴をこぼした後。
「一分でいい。時間をくれ」




