其の四十三 騎士の最期と本戦
「騎士団長アダルウィン・ヴィットマン及び、副騎士団長ホラティウス・ブリューロフ。これより、魔王との戦闘を開始する」
「ははっ、かかってこい。騎士ども」
テンションMax、初手から全力。
━━━変身、九尾
九つの尾を生やし、前傾姿勢。四つ足をついて構える。
瞬間背後に現れる土槍を合図に一息に目の前まで駆け寄る。
跳ね上がった速度により、反応が遅れている。
拳を握り、頭蓋めがけて全力で振り抜く。
しかし、頭を守るように現れた土の盾。
(良かった、これで終わらなくて)
それに安堵しつつ、盾を粉砕、続く尻尾の一撃が炸裂し、吹き飛───ばない!?
予想外の事態に動揺しつつも串刺しにされた足を無理やり引き抜き、少し距離を取りながら体内の土を追い出すように治療。
『シオン、気をつけて』
「わかってる」
私はこれでも存在格か高いから、直接干渉されにくい。でもされにくいだけ。直接触られたら、長く留まったら、傷口を放置したら。方法なんていくらでもある。
背後に気配。突き出されるのは槍。
『シオンを守るのが僕の仕事だからね』
「ッ!」
副長が背後へのテレポート?
真後ろじゃないのは尻尾があるから?
『装填』
ウードにより、魔力によって武具が生成される。
『射出』
大量の武具が副長目掛けて発射された。
「っ!?」
距離をとる副長、しかし魔力は見えてないか。
いくらかは避けきれず、土盾によって防がれる。
「っと、」
前方から迫る団長。
尻尾を二本、左右から挟むように振るう。
しかし。
「ふんっ!」
手に持つ盾と大剣が振るわれ、尻尾が弾かれる。
その後隙目掛けて追加で二本が振るうが、無理な挙動を描いた大剣により払われる。
しかし無理な動きにより体が硬直。完全な隙となる。
「チェック」
三尾束ねて鋭くして腹を穿つ。
『させないわよ』
土盾が生まれる。
盾を貫くも勢いが削がれ、その鎧に傷をつけるにとどまる。
「ありがとう」
感謝の言葉を言いながら私に向けて大剣を振るう団長。
「馬鹿が」
「えっ?うわぉ!?」
背後の副長を尻尾で捕らえ、前方に投げ出す。
しかし。
「ヴィルナ!」
『はいはい』
突如、大剣にヒビが入り崩れ去る。
「ハア!?」
そして副長を避けるように剣が再構築され、歪に曲がりくねり、目前に切っ先が迫る。
尻尾で剣を包み込み、受け止める。
が。
『シオン!飛んで!』
即座に飛び上がると同時に地面が裂けた。
底は赤く、マグマが待ち受ける。
「っは!やっば」
詠唱が聞こえた。
『大地よ、隆起し、彼の者を喰らえ━━━土葬』
陽が遮られ暗くなる。全方位を壁が覆い、蓋をするように閉じられた。
内壁にはトゲのような鍾乳石が複雑に伸びている。
壁が、天井が閉じられていき、内部の空間が狭くなる。
マグマがせり上がり、剣山が迫る。
「まるでアイアン・メイデンだ」
『どうするの?』
「当然、正面突破」
『だよね~』
魔力とは自由だ。
そのポテンシャルは高く、願えば何でも叶えられる。
大事なのはイメージ。明確に現象を想起し、望むこと。
「やるか」
九尾を集め、蕾を作る。内部に空洞を作り、魔力という元素を意識する。
「衝突せよ、反発せよ、融合せよ」
尻尾という密封された超耐久の檻の内部で魔力という元素が荒れ狂う。
「望むは咆哮、至るは爆発」
尻尾から魔力が漏れ出し、スパークしだす。
「響くは轟音、残るは静寂」
風が吹き荒れ、大気が歪みだす。
「輝くは刹那、儚き灯火」
耐えきれず、自壊する尻尾を再製しながら、言葉を紡ぐ。
「咲き誇り、我を示せ」
ああ。
生きててよかった。
この世界に来れて、よかった。
さぁ、告げよう。
この一撃で、
私は、
魔王になるんだ。
「━━━開闢の咆哮!!」
視界を埋め尽くす白。
音が聞こえなくなるほどの高音。
風が吹き荒れ、宙を舞う体。
焼け崩れる体を魔力によって再生し、眼を開ければそこに広がるのは変わり果てた世界。
下を見れば半径数百メートルの大穴が空き、上を見れば雲一つない快晴。
「ははっ、すっご」
『やりすぎだよ』
そうかもしれない。この惨状ですら余波に過ぎないのだから。
当然だろう?
あれは咆哮であって爆発じゃないんだから。
実際、本命の一撃を受けた前方はもうすごい。眼前の町は最初から何もなかったかのように消失し、咆哮を受けた場所との境界はぐつぐつと溶けて煮えたぎり、何より。
『あの山の氷、一応絶対融けないうえに不壊なんだけどね』
私が捕らえられていた山には巨大なトンネルが開通している。
「ウードも溶かしてたし?」
『それはまぁ、ちょっとだけだから』
「それはさておき、もう一踏ん張りするよ?」
『え?』
目の前に投げられた槍を受け止めるが、握った瞬間に崩れ去る。
「生きてたんだ?」
消失した地上。しかし不自然に残された足場を見れば、ひとりの男がいた。
「じだでぇよ」
「喉焼けた?」
「あだりヴぁぇだ、ヴォェ」
全身が焼けこげた上、熔けた鎧が体にくっつき、想像を絶する痛みに襲われているだろうによくしゃべる。
「それもそっか。でも驚いた。まさか君が生き残るとは思ってなかったからさ。見縊ってたみたい。ごめんね?」
「ゔるぜぇ、じね」
再び槍が投げられる。それも今度は同時に二本。
注意深く彼を視ながら片手で払いのける。
「その体でよくやるよ、眼も見えてないでしょ?」
今度は返事はなく、槍を連投される。
「無駄だよ。君じゃ勝てない」
「じっでる」
「だよね。それでも立ち向かうのは騎士の誇り?」
「じ、げぇ」
「ならなんで?誇りを失った騎士がこうまでして私に挑む理由はなに?」
「━━━」
かすれた声。聞き取りにくい声だが、確かに聞こえた。
「ははっ。いいね。なら全力で来い」
魔力を肉体のさらに奥深くまで浸透させる。
足場を敷き、腰を落として構える。
無防備ともいえるほどの完全な待ちの態勢。
数秒が経った。
『ッ!シオン!?』
構築された金属槍が放たれた。一条の光と化して迫るそれ。
「全て受け止めて還そう」
━━━魔拳
槍と拳がぶつかり合い、ジャリジャリと嫌な音が響く。
「くっ!」
さらに力を籠めて迎え撃つ。
痛む右腕。骨が軋み、血が噴き出す。
『シオン!』
「邪魔すんな!」
これは私とあいつの戦い。
ウードの助けは借りない。
それがただの自己満で、カッコつけだとしても。
「それが!せめてもの礼だろうが!!」
魔力の放出によって押し返す。
反動で腕がさらに傷つき痛む。
だが、それでいい。
「ホラティウス・ブリューロフ!」
聞こえてるかはわからない。けど、それでも言わざるを得なかった。
「私はお前を忘れない!」
更に、魔力を放つ。
槍にひびが入りだすが、腕の感覚が失われていく。
「さようなら」
腕が千切れると同時、槍が砕け散った。
「・・・引き分け、か」
見ればホラティウスは地に倒れ伏し、血だまりを作っていた。
『・・・シオン。その腕、どうするの?』
「この戦いの間は治さない」
『でも、それじゃあ』
「負けるかもしれない」
『うん。片腕なしで勝てる相手じゃないよ』
「それでも治さない」
『そっか。じゃあ、頑張るよ』
「頼む」
失った右腕が痛む。止血はしたから、これ以上悪化することはない。
これは治そうと思えば、それこそ一瞬で治せる怪我だ。それでも直したくないのは私が嫌だから。
あいつは、最期の一投で私に認めさせたのだ。
「私は魔王と名乗った」
勇者パーティーはまだ生きている。
「だから、魔王の誇りにかけて戦おう」
失われた大地が、時を戻すかのように再生していく。
「最終戦だ。かかってこい、精霊騎士」
眼前に迫る大剣。体を倒して回避し、蹴とばして距離をとる。
数度、剣を交わして口が開かれる。
「彼は、ホラティウスはどうだった」
私の失われた右腕を見ながら、何かを確かめるかのような問い。
「強かった。好い男だった」
「そうか。ならよかった」
再び剣を交わす。
初めはゆっくりと、何かを思いながら。
次第に速度は上がり、そして。
『装填、射出』
『装填、射出』
互いの武具がぶつかり合う中にらみ合い、最上段から振るわれる。
「ハッ」
左手に魔力を纏わせ、振るう。
ガリガリと音が響き、互いに弾かれる。
直後。
「ヴィルナ」
『ええ』
手に持つ大剣が崩れ、槍に変わる。
驚く間もなくそれが投げられ、迫る。
その一投はついさっき見たものとひどく似ていて。
「魔拳!」
左手に魔力を流す。軋む体を無視して正面から迎え撃つ。
ぶつかる瞬間に魔力を放出してブースト。
しかし。
「ッ!?」
一瞬の拮抗、拳から肩を貫かれる。
刹那の逡巡、腕を再生。
『魔力壁!』
地面と水平にして投げられた金属盾をウードが防ぐ。そして生まれた一瞬の空白の時間。
お互いの姿に目を向けあい、注意深く観察しながらも少しの笑みを浮かべ一息。
「殺す」
「死んでくれ」
再び始まる刹那の攻防。
先ほどまでと比べて圧倒的に速い。
見て、動いて、対処して。
初めはそうだったのが変わっていく。
見て、潰して、潰される。
お互いに行動を読み合い、行動をつぶしていく。後から動いて先をつぶし、先に動いて後をつぶす。
一手に多くの意味を持たせて行動する。言葉でいえば簡単でも、実行するのは困難だ。
脳が疲弊し、思考が混乱し、感情が爆発する。
辛く苦しく、だが、楽しい。前世ではそういった印象だった。
だが今はどうだ?
まるで目が醒めるようだ。
普段使わないモノを使うことで痛みこそある。
だが、思考が晴れる。全能感に包まれる。封印が解かれるような。締め付けられていたものが解放されるような。
つまるところは、こうだ。
「楽しいなぁ!テンション上がるなぁ!なぁ!どうだ!?楽しんでっか!?」
楽しい!楽しい!楽しい!!楽しい!!!
最近貯まっていたストレスが晴れていく。いや、晴らすように暴れる。この世界に来て初めて戦ったあの亡霊以来の自由。小細工なしの正面からのぶつかり合い。
「生憎と、楽しめるような心境じゃないのでね!」
守りを突破されて斬りつけられるのを、無理な挙動で防ぎ、反撃。
「死の間際にまで他人の心配か?責任なんて捨ててちまえ!」
それを盾で防がれ、反撃される。
「そういうわけにもいかないさ。僕が騎士である限り、僕の命は民のためにある」
攻撃を防ぎ、さらに反撃。泥沼の戦いが繰り広げられる。
とはいえ戦況は確実に変わっている。
限られた魔力を使う私と、世界から供給される無尽蔵の妖力を使うあちら。長引けば不利なのは確実に私。とも言い切れないのが難しいところか。
龍である私と、上位の精霊付きとはいえ人間であるあちら。どちらが先にスタミナ切れを起こすかでいえばヒトであるあちら、……だと思う。
私が元人間だから一概に言い切れないのは怖いが。
となればやはり余力のあるうちに終わらせるべきか?
いや、それで殺せない可能性のが高いんだしやめとこう。今はまだ、ダラダラと楽しみたい。
そう思ったのだけれど。
体が唐突に重くなる。感覚の変化に戸惑い、腹を捌かれる。
「なっ!?」
血を噴き出す私の姿に驚きの声を上げるアダルウィン。
しかし何かに気づいたようで後ろを振り返り、繰り出される双剣の連撃を防ぐ。
同時、全力で飛び退くと私の元いた場所に残る長剣の剣閃。
「ガハッ、やってくれるねぇ?フィリス!」
予期せぬ第三者の乱入により三つ巴の戦いが始まりだした。




