其の三十九 報酬と幸運?
昨日、投稿、忘れた。
「んあ」
心地の良い温もりとともに目を覚ます。手を見れば仄かな光に包みこまれていた。
「ウード、もう大丈夫」
『まだ休んでてもいいんだよ?まだ数分しかたってないし』
眼を瞑り、一息。想起するのは剣に体を貫かれたあの日の事。
「よし、行こう」
『え?』
気分爽快、とは行かないけど十分スッキリしてる。休んでる暇なんてないんだしさっさと行こう。
『ちょっ、いいの?まだ魔力回復しきってないんじゃ』
「問題ない」
どうせこのあとの敵は暴走族集団だけ。大した強さじゃないし最低限の身体強化と尻尾数本で十分。
というか戦わずに進むつもりだからそれすらいらないかもしれない。何が起こるかわからないから念の為準備しとくけど。
「あ、そういえば今回はドロップアイテムないの?」
『え?そういえばそうだね』
あたりを見渡しても見つかるのは頭蓋を貫かれて脳髄をぶちまけている龍の死体だけ。そういえば前回はなかったはずだけどなんでだろ?
「まぁいいや。先を急ごう」
数日後には本祭だって言ってたし、その日までには帰りたい。あいつが動くとしたらそこだろうし。
『・・・うん。あっ!』
「どうかした?」
『見つけた!ついてきて!』
もしかして!報酬!
逸る気持ちのままに駆け足で付いて行くと、龍の死体に囲まれるようにして一つの宝箱があった。
「これは、ウード見てくる?」
『いやいやいや!?さすがにないでしょ!』
それもそっか。ボス討伐報酬らしき宝箱が罠だったら私、いつかこのダンジョン跡形もなく消し去るよ?
「じゃあ、開けよっか?」
『うん!』
念の為魔力を浸透させ、尻尾を伸ばして宝箱を開く。
改めて思うけど尻尾便利すぎだよね。汎用性抜群で見た目もいい、低コストで作れて維持するのにもそれなりに集中力いるから修行にもなる。
神ですね!
まぁ見た目気にしないなら触手でもいいんだけど。流石に幼女の皮でそれはグロいでしょ。
そんなことを思いつつ開かれた宝箱に近寄り中身を覗く。
「おお!」
『おー!』
中にあったのはいつもの小瓶が一つと爪、そして指輪 である。
『指輪!シオンの元いた世界の結婚の証だね!』
「まぁ、そうだね?」
一応ファッションとしてつける人もいるのだけれど、そういうイメージは強い。
でもこの3つの中で最初に指輪に反応するのはなんというか、流石だなぁ。と思う。
個人的には爪が一番目を引かれる。やっぱりアクセサリーより武器のほうが気になるじゃん?
「ウードこの爪って呪われてたりしないよね?」
『え?うん。大丈夫だよ?』
良かった。この手の武器は呪われてたりすると面倒だからね。効果次第ではそれでもいいのだけれど、やっぱり呪われてないに越したことはないのだ。使いやすいし。
と、早速爪を装備しようと思ったのだが。
「ん〜……、無理だ」
この爪は先が4本で、手の甲から肘にかけてを守る漆黒のプレートがついていて、そこには紫で龍の紋様が描かれている。
ボスドロップが弱いってことはないだろうし、見た目的にもなかなか綺麗なので本音としては使いたい、のだが。
『シオンはこれから成長期だもんね』
そう、サイズが合わないのだ。おそらく大人用。それも成人男性用ともくれば無理矢理つけようにもつけられない。そんなことをすれば肩までプレートが届いて動きづらいことこの上ない。返って弱体化だ。
「……はぁ」
『後で作り変えて登録してあげるから、元気だして?』
「できるの?」
『もちろん!僕は普通の精霊とは一味違うんだ』
「じゃあ、お願い」
『任せといてよ!』
それじゃあ、爪はあとの楽しみにしてウードに預けておく。預ける、と言っても取り出すことはできないんだけど。
何でも物体を情報化して保存しておくんだとか。だから預けたものを取り出す時、正確には情報を下にその場で作り直すんだとか。
精霊が世界の一部だからこそできる裏技だね。
『ところでさ。その薬の効果とこの指輪の効果、どっちから聞きたい?』
………なるほど。そうきたか。
ウードは私から前世の知識を得ている。つまり前世のノリというのを知っている。そしてそのウードがこう言うからにはおそらくどちらも微妙な効果なのだろう。
「薬で」
やはりここは薬からだろう。今まで二つの薬を手に入れてきたが片方は効果が実感できてないし、もう片方はろくでもない代物だった。
その点指輪は初入手、まだ期待できる。となれば先に聞くならばこっちだろう。
『えっとね。性転換薬だって』
「うん。ん?」
『性転換』
「性転換」
『そう、性転換』
………またか。
「ウード、なんで私が手に入れる薬は変なのばっかなの?」
『わかんない』
これ、本当に運良くなってるんだよね?この前飲んだ薬の幸運ってどんくらいの幸運なんだろ。
今のところ実感できて…いや、爪?でもあれはサイズが合わなかったからノーカンでしょ。
「はぁ。まぁいいや、指輪の方はどうなの?」
『指輪はね。指輪に全魔力を込めると次の魔力を使った技の効果が跳ね上がるらしいよ?』
「………色物じゃん!?」
なにそれ!?
全魔力消費してんのに次の一撃は魔力攻撃じゃなきゃだめ?
ふざけてんのかてめぇ!誰が使えるってんだ!?
『因みに一回使うと壊れるのと、次の技までの猶予は一分だって』
「は?」
たかだか一分で回復する魔力量で放つ技なんて威力上がったところで意味ないだろ!?
そもそも全魔力消費の時点で魔力枯渇して死にかけるし!
どれだけ人をおちょくったら気が済むんだこのダンジョンは!
『あ、』
「何!」
『し、シオン怖いよ?』
仕方ないでしょ。こんなに馬鹿にされてんだから。
『それで、さ? 言い忘れたこと説明しとこうかなって』
「言い忘れたこと?」
『そう。さっきの性転換薬のことなんだけど』
「いらん」
あんなもん聞くだけ無意味だ。どっか捨てとけ。
『いや、そう言わずにね?』
「簡潔に3行でまとめなさい」
『何回でも性転換可、効果は永続、性転換時能力変動』
「ん?」
なんだ?何か引っかかる。
最初の二つはいい。つまりこの薬は今後自由に性別を変えられるようになる薬ってだけだ。
大事なのは最後、能力の変動だ。
「よし、試してみよう」
『え?』
小瓶を回収して一息に飲み干す。サラサラで飲みやすい、気がしたがそれは嘘だ。
ものすごく苦い。その上嫌な苦味が口の中に残る。ドロドロじゃないだけマシか?
「うげぇ、水ちょーだい」
『ええ?いいけど、はい』
口を開けて上を見れば程よい勢いで水が降ってくる。
「ありあと」
『もう。自分でやればいいのに』
「私はそういう系はできないの」
前からずっと魔法らしいことできないかって試してるけどできないのだ。
『イメージすればいいだけだよ?』
「イメージはしてる。けどなぜか上手くいかない」
妖力を使っても全然うまくいかないから多分そういう系がものすごく苦手なんだと思う。
『シオンは妖力も魔力も物理的な扱い方とか、身体強化ばっかだもんね』
「私はそっち系特化なんでしょ。必要ならウードがやればいいんです」
『もう。信頼は嬉しいけど、もう少し努力しようよ』
「いいの、そんなのは後々で。今は得意を鍛えるターンです!」
ただでさえその得意ですらあのナルシストに負けているんだ。寄り道なんてしてられない。
「それより、試してみるね」
性別を変えようと念じると、特に何かあるわけでもなく、一瞬で切り替わったことを直感的に理解する。
「どう?どんな感じ?」
『うん?見た目はね、全然変わってないよ?僕的には一応男だなぁって認識にはなるけど』
何それ。まあいいか、私と精霊とじゃ世界の見方が違うしね。見た目なんてものは大した問題じゃない。
それより大事なのは能力の変動という部分。身体能力が変われば魔力量にも差が出るかもしれないし、そもそも性別で精神性は変わってくるとも聞く。精神と深くかかわっているであろう魔力ならその量に差が出るかもしれない。そう思ったのだが。
「うーん?わからん」
ほんの少し違うような気がしないでもない。けどたぶん気のせいだな、これは。
「残念」
『・・・? なんだったの?』
「いや、性別変われば魔力量に差が出てさっきの指輪をうまく使えるようになるんじゃないかって思ったんだけどね…、ダメでした」
『・・・そっか? でもシオンの場合僕から魔力回収すれば問題なくない?』
「え?」
魔力の回収?いやでも、う~ん?
「微妙じゃない?」
『なんで?』
「だってこんな切り札使うってなったらすでに私に憑依してるだろうし、そうなったら全魔力っていうのがウードの分も含む可能性があるじゃん?」
『たしかに?やってみないとわからなそうではあるけど、それで無駄にするわけにもいかないからなぁ。失敗したら魔力使い果たすだけになるからぶっつけ本番ってのも怖いし』
「そういうこと」
結局、言葉の意味を明確にこれって言えないから不安なんだよね。まあどうしようもなくなったら一か八か試しはするけども。
「それより、先に行きますか」
『あれ、試しに動いてみなくていいの?』
「ええ?別に性別変わったところで大して変わらないでしょ」
『そうかなぁ?油断大敵、試しとこうよ』
「まあ、確かに」
この手間を惜しんで死んだら元も子もないし。ということで試しに動き回ってみたのだが。数秒後、私は地に這いつくばることになった。
『シオン、大丈夫?』
「ダメだ。二度と男の状態で三次元戦闘するもんか」
これはやばい。本当に。まじで。なんで今までこんな悪魔的なことができてたのかってレベルでやばい。ジェットコースターなんて目じゃないレベルの玉ひゅんだよ!ジェットコースター乗ったことはないけども!
「はぁ、用がないときは女になっておこう」
『初めからあんなにかっ飛ばすからだよ。初めは少しづつやってこう?』
「うぐっ、はーい」
はあ。暇なときに慣らしとかないと。いつか男の状態で戦わないといけないときが来るかもだし。その時こんなみっともない姿見せらんないよほんと。
「取り敢えず、暴走族共蹴散らしに行くぞ」
『八つ当たりだね、可愛そうに』
うるさい。お前をひねりつぶしてやろうか。
『シオン?なんか怖いこと考えてない?』
「ううん、口は禍の元ってだけだよ」
『えっ』
さっ、暴走族の目の前にでも捨ててきますかね。




