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転生魔王の私はいずれ勇者に殺される  作者: 神星海月
第一章:魔王誕生

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其の三十七 再始動

 かつて私を殺した男との突然の再開。混乱し戸惑う思考を置き去りに、体が動いていた。


「おっと、危ないね?」


 奴は背後から振るわれた数本の尻尾を華麗にかわしながら余裕そうな表情を見せる。


「くそが、一発くらい殴らせろ」


「ふむ。何をそんなに苛立っているのかはわからないが、僕に戦う気はないよ」


 むかつく。何がわからないだ。心当たりしかないだろ。くそが。


『シオン…言いたくないけど、やめておいた方がいいよ。彼には勝てない』


「おや?そちらの精霊は僕のことを知っているようだ」


『・・・君ほどになれば、知らないわけないよね』


 知り合い?違うな、この感じは名前だけは知ってる感じか。

 ・・・俗世を離れてたウードが知ってるって、そんなに有名なのか?

 ナルシストのくせに。


「僕ともなればそれも当然、か。しかしお互い初対面なのは事実だ。ここは自己紹介と行こう」


 なんか、私と対応違くない?こいつこんなまともだったっけ?もっと殺伐としてた記憶があるんだけど。むかつく。


『シオン?落ち着いて?全然効いてないから!ね!』


「チッ!」


 最初こそ避けてたくせに今じゃもはや一歩も動いてすらない。あいつ固すぎでしょ。


「はぁ。相変わらず君は可愛げがないね。少しは僕を見習ったらどうだい?」


「うるさい!誰がお前みたいな変態蛮族の真似するか!」


 初対面で人のこと殺してきた奴のどこをマネしろってんだ。あれはお前ぼこぼこにするまで許さんからな。


『・・・現状蛮族なのはどう見てもシオンだよ』


 ・・・そんなことは言わない方がいいのに。私の手元は簡単に狂うぞ。


『痛い!』


「手元がくるった」


『嘘だよ!』


「君も大変だね。飼い主が狂犬だとさ」


 誰が狂犬だゴラァ。普段はおとなしいぞ。


「ンなことよりはよ自己紹介して要件言って消えろ」


『シオン…』


「はぁ。まあいい。僕も君の相手はくたびれるからね」


 そういうと奴は無駄に仰々しく姿勢を整え、一言。


「僕の名前はビューティー・アムル。世界で最も美しく、輝いている存在だ」


 ふん。世界で一番美しいのはソラだろうが。

 可愛そうに、彼女に出会ったこともないなんて。いや、その方がいいのかもしれないな。

 もし出会ったら今まで犯してきた自分の罪に気付いて死んじゃうかもしれないもん。


『僕の名前はウード。シオンの相棒で、夫』


「へぇ? 狂ったやつだとは思っていたが、そうか。まさか精霊を相手にするとはね」


「おいまて、私から申し込んだんじゃねぇ。半分強制だ」


 断じて私からの恋愛感情じゃねぇ。命の恩人とか言う立場を使った強制的な奴だ。

 ・・・てことはこいつが元凶かよ。


「まあ、恋愛事は複雑だからね。しかし驚いたよ、まだあれからひと月もたってないだろうにここまで成長しているとは」


「皮肉?」


「いや?本心さ」


「ならせめて一撃くらい貰ってほしいんだけどねぇ!」


 ノーダメージの中でそんなこと言うの皮肉でしかないだろ。くそが。


「はは、それは無理な相談だ。何せ今の僕は自然体。それなのに傷つけられないのは君が弱いからだろう?」


 うぜぇ。こいついつか絶対殺す。今のうちに殺さなかったこと後悔させてやる。


「つうか何しに来たんだよ?」


「おっと僕としたことが。これは早めに済ませておこうか」


 そういってナルシストはどこからか杖を取りだす。


「おい、何する気だ?」


「ああ、そこにいるのは止めた方がいい」


 はぁ?


「ウード、来い」


『うん』


 むかつく。この間は簡単に殺してきたくせに。今は全く相手にしないとか、私なんて眼中にないってことかよ。


「はぁ。一応離れたわけだけど、何やってるかわかる?」


『・・・』


「ウード?」


『すご』


「・・・?」


 反応がない。仕方ないので注意深く観察することにするが何もわからない。ただナルシストが突っ立ってるだけ。あいつは何が見えてるのだろうか。


「ねぇウー」


 カンッ!


 奴が杖で地を叩き、響き渡る高音。


 ――――ッ!?


 同時、背筋に走る悪寒。瞬間感じるのは恐怖。目を見開き、目撃したのは荒唐無稽な現実。


 数舜前までは削られ、荒れ果てていた道は、どこへやら。眼前に広がるのは美しく均され、傷一つなく敷かれた石畳。元々あったであろう屋台はその姿を取り戻し、備品すら備えられている。


 先ほどまでの景色が夢であったかのような現実を前に、私はひどく呆然としていた。


「ねぇ。うーど?」


『ぅん』


「地面に干渉するのは無理なんじゃなかったっけ」


『そのはず、なんだけどね』


 ああ。本当に。くそ。


「はぁ?」


 なんなんだあいつは。


「ぁぁ」


 いつもそうだ。前回も、今回も。


 この世界に来てから。いや、来る前から。いつも。勘違いするんだ。

 私は、うまくやってるって。

 この調子なら、問題ないって。

 そのたびに。現実が立ちはだかるんだ。


「ぅぅぅぁぁぁあああ」


 ああああああああああああああ。


「あああああああああああ!!!」


『し、おん?』


 ああ。


「行くぞ」


『し、シオン?行くってどこに』


「ダンジョン」


 高く、高く建てられた壁にぶつかった。

 道は狭くて、迂回なんてできなくて。

 それでもと飛び上がって、打ちのめされて、地に墜ちる。


 自信なんて消え去って、光を見失って。

 進んだ感覚なんてなくて、景色は変わらない。


 だけど、問題ない。


「全部、いつも通り」


 追い詰められて立ち止まる?

 そんなことあるわけない。

 私の目指すところに道はない。

 道を敷くのは私だろ。


 助けを待つな。切り開け。

 越えられない壁があるのなら、ぶち壊してでも進んでけ。

 それができないなら、死ねばいい。


「ふぅ~」


 大丈夫。心はまだ生きている。

 覚悟完了。気合い入れてけ。


 目指すは一点ただ一つ。全部ぶっ壊して掴み取る。



 ☆☆☆☆☆


 現れては消えていく景色。草木を無視して駆け抜けながら考える。私は成長できたのかと。


 思い返すのは今までの景色。気づけば私はこの世界に飛ばされていて、困惑したし、当然怖さもあった。でもそれ以上にわくわくした。だって、まさに異世界転生だったから。見知らぬ土地でただ一人。知識は当然、木々すら何もなくて。超高確率で死ぬとしても地球にいるよりよっぽど可能性があると思ったから。


 神様からの連絡ですでに私は一度死んだこと、手違いだったことも知った。あの時も今も、別にそのことを恨んだことはない。ランダムで私を創ったことも、別にいい。結果的にはよかったから。ああ。思い出した。あの時私は約束したんだ。魔王になって、神様を楽しませるって。口約束どころか確認すらされてないけど、それでも私がそう決めた。必ずあの神を愉しませるって。諦めない理由が一つ増えた。


 ・・・でもいざ魔王になるためのチャンスをもらってもうまく使えなくて、時だけが過ぎてった。必要なかったとは言わない。あれがあったから私は本気になれた。とんとん拍子に行かなくて、だからこそ頑張ろうと思えたし、慢心しすぎずに済んだ。だから私は生きている。


 もしも、最初から魔力がつかえていたなら私はすでに死んでいる。そう確信できるのはあのナルシストのせい。魔力を使えるからとあの空島を飛び出しても、覚悟が足りない。殺し合うこと。命を懸けること。それを身をもって実感していないのだから、どれだけ考えても、想像しても無駄だ。どこかで負ける。死にかけて、心が揺らいで、その一瞬でお別れだ。


 だからそれはいい。遠回りではあったけど必要な過程だった。死にかけて、覚醒して、それでもぎりぎりで。でも確かに生き残った。あの時私はこの世界で生きること、この世界で夢を見ることの意味をしった。


 沸き立つ心のままに飛び出して、また好奇心に殺されかけて。渋々ながら諦めて、異世界の広さを知って心が躍った。そしてその沸き立つ心のままに動いてまた、死にかけた。思い出したくもないほどに惨めだった。あんなに成長したと思ってたのに何もできずに殺された。


 今でも覚えている。全身が剣で貫かれながら、死ぬと理解した。死んでも殺すと覚悟した。死を否定してなお、意味はなかった。私はこの世界で二度目の壁にぶち当たった。私は壁を壊せなかった。しかし、壁は遠のいた。だから、ほっとした。


 私は安心したんだ。どうやっても越えられない、壊せないと感じる壁が遠のいたから。しばらくの猶予を手に入れたから。だから。私は弱いんだ。


 もしも壁を壊そうと本気だったなら、私は遊んでいない。ウードが何を言おうと無視していたはずだ。常に死の危険を感じながら、精神をすり減らしてこのダンジョンに挑んだはずだ。少なくとも、前世の私はそうした。


 だが実際はなんだ?恋愛に現を抜かし、明確に厄ネタとわかるソラを友として呑気に遊んでいる。


 壁に当たったのはただ一度。あの龍だけだ。それだって勝てそうだと思える、すべてを使えば勝てる相手に過ぎなかった。勝つために限界を超えた亡霊の時とは違う。

 確かに命は懸けた。でも生を渇望したか?

 そんなことはない。

 それなのに成長した?馬鹿いえ、そんなわけない。五十歩百歩だ。それをついさっき知った。

 いや、本当はもっと早く。昨日ウードと戦った時。いや、ソラと会った時には気づいていたはずだった。


 私は馬鹿だ。大して変わってないのに、弱いままなのに強くなったと、少し気を緩めてもいいだなんて思っていた。遠くの壁をみて、少しは近づいたなんて思ってたのだから。


「やり直しだ」


 もう一度やり直す。これが最後のチャンスだ。次に会うときは本当に殺しあう。今回が例外だ。


「ウード」


『うん』


「本気で獲りに行く」


『わかってる』


「最終確認だ。私は夢のためならすべてを捨てる。それはお前のことも含めてだ。必要なら、私はお前を殺す。それでも――」


『いいよ。それで』


「ウード?」


『僕は君に救われた。君といれば楽しく生きられると思った。だから君に恋した』


 救った。ウードはいつもそう言うが、正直実感はない。あの時救われたのはどちらかでいえば私だから。


『いったと思うけどさ。もともと消えようとしてた命だから、シオンのためになるなら、それでシオンを助けられるならそれでいいんだ。といっても死にたいわけじゃないよ?まだまだシオンといたいし、それに約束したもん』


「約束?」


『ひどい。シオンはいっつもそうだよね。僕の事なんて気にしないで好き勝手して。独りで悩んで、本心はいっつも隠してる』


「別に隠してないよ?」


 私が好き勝手してるのは、本心を隠してないからだもん。


『そう?まあいいけどさ、約束くらいは覚えといてよ』


「それは、ごめん」


『よろしい。でね? 約束っていうのはさ!』


 そういうと、ウードは私から出てくる。走ってる途中だったから、置いていく形になった。立ち止まって待つと、慌てた様子のウードが急いでくる。


『シオン!もう!おいてかないでよ!』


「置いてった訳じゃない。止まって待ってるでしょ?」


 あれはさすがに勝手に途中下車した方が悪い。


『むー。締まらないなぁ』


「何をいまさら。そんなのはいつものことなんだから早く教えなさい」


『えー?忘れたのはシオンなのに』


 余計なことに気づかなくていいのに。


『でね。約束っていうのはさ。シオンが魔王になるとき、僕が君にふさわしい舞台、最高の演出をするって約束』


 ああ。ボス戦で話した記憶がある。龍の登場演出がすごかったから私にもそれ以上の演出をするって言ってたっけ。


「そっか、じゃあ死ねないね」


『うん。でも、どうしてもってときは必ず助けるよ。それで死ぬことになっても』


「そっか」


 死ねないな。私は欲張りだから。犠牲なしで、相棒を捨てずに夢をかなえたい。私は約束を守る人間だから、必ずその時まで生きててもらわないといけないな。


「ウード」


『なぁに?』


「ありがとう。おかげで気が楽になった」


『ぇ? ~~~~!!!』


「ウード?」


『ちょっと、待って!いまむり。すごい。その。心がもたない!』


「え?」


 ・・・あ。


「あはは、あはははは」


 そういえばそうだった。最初に名前を呼んだ時もこんな感じだった。今回はあれか。


「ウード、いつもありがとう」


『あ”ぁ”~~~~~!!!』


 ふふ。やっぱり。いつも「ありがとう」なんて言わないもん。助かってるのはそうだけど、それ以上に癪だから。だって、初対面で告白してくる変態だよ?素直に感謝しにくいじゃん。


「ウード」


『な、まっ。いまむりだから』


「気遣ってくれて、ありがとう」


『~~~~!! 相棒、だから、当然』


 あ。ふふ。


「ありがとね」


『~~~~~~!!!!』




 ☆☆☆☆☆


 さて、気絶してしまったウードを引き連れて訪れましたはあの場所。ある意味で私たちが始まった場所である。


 広々とした石造りの部屋。固く、ひんやりとした滑らかな地面に寝ころび屋根を見上げる。目を閉じて、深呼吸。心を落ち着かせてもう一度考える。


 私は今、迷子である。しかし背後に迫るタイムリミットが、早く進まなければならないと私を脅す。だが思い出せ。「急がば回れ」。焦っても意味はない。つらい時こそ落ち着いて、冷静になるんだ。短絡的に行動してろくなことにならない。


 急ぐのは大事だ。しかし見極めろ。最短である必要はない。最速であればそれでいい。自分にあった壁を見つけ、造り、ぶち壊す。そうして奴に手を伸ばし、背後に迫る鎌を押し付けるのだ。すべては私の、魔王のために。


 晴れやかな気分の中、ぱっちりと目を開く。試しに跳ね起きればいつも以上に体が動く。ストレッチして体をほぐし、緩やかに魔力を浸透させる。全能感を感じながらも、思考はいつも通り。緊張も、慢心もない。準備は万端だ。


「ウード」


『んぇ?』


「仕事の時間」


『仕事?』


 体内から追い出し、両手で引っ張りながら無言で魔力を流し込む。


『んんあんなん!?』


「起きた?」


『シオン!?起きたけどっ!?』


「じゃあ行くよ」


『へ!?どこに!?』


「言ったでしょ?もう一回やり直すって」


『え?あれ?ここって。まさか!?』


 巨大な門を両手で押し開く。見えるのは真っ暗闇。暗視を持ってすら見通せない黒が恐怖を煽る。


「さあ、再戦だ」


 私たちの始まりの場所に、今再び、足を踏み入れた。

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