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転生魔王の私はいずれ勇者に殺される  作者: 神星海月
第一章:魔王誕生

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其の三十三 隠れキャラ

 隠しエリアに興奮して存在を忘れていた荷物を形成した尻尾に持たせたまま相も変わらず明るく照らされている廊下を進む。


 代り映えのない景色に飽きて来た頃、ついに変化が訪れた。私の部屋と同様の扉を見つけたのだ。


 思わず開けたくなる心を押さえつけながら扉の前で立ち止まり、荷物を下ろして尻尾を形成する魔力を取り込む。


 深呼吸をして、ゆっくりと、全身に浸透させるように魔力を流していく。


 こうすることで同じ魔力でも、より効率よく強化できる。現状の私は魔力に余裕があるわけではないから、できる限りの節約をしなければならないのだ。


 扉に耳を当てて中の様子を窺うが何も聞こえず、気配を探って見ても何もわからない。お宝の予感を確かにしながらも落ち着いて考える。


 いくら壁に遮られているとはいえ、強化した感覚をもってしても何もわからないというのは異常だ。


 現に周囲を探れば宿の周囲までの範囲をはっきりと知覚できる。つまりはこの扉には何かしらの仕掛けが施されていて、中の部屋には何かが隠されているのだろう。


「こんにちは、何してるの?」


「ッ!?」


 誰だ!? 


 反射的に尻尾で攻撃しながら振り返るが、何も感じない。空振った?いや、避けられたのだ。


 目の前にいるのは一見ただの少女。だがその見た目に惑わされてはならない。


 私に気づかれずに接近し、振るわれた尻尾の射程を見きったうえで回避したその力は決して侮ってはいけない。

 少女に敵意があればすでに死んでいた。


「あれ?通じてないのかしら?」


 異質。あまりに異質。


 目の前にいるのに、何故かその存在を感じ取れない。

 こんなにも脅威なのに、何故か脅威に思えない。

 すでに攻撃されたことにも気づいているはずなのに何事もなかったかのように話しかけてくるのも、理解できない。


「いや、通じてる」


 だが、今はこの少女の機嫌を損なうのはまずい。

 戦闘になれば私に勝ち目はないと思うべきだ。そもそも逃げることすら許されない。


「よかったぁ。人と話すのなんて久しぶりだから何か間違ってるのかと思っちゃった」


 そう言って彼女は顔を崩す。可愛らしい笑みに私も釣られて笑う。


「久しぶりって、外に出ないの?」


 私がそう尋ねると、彼女は少し俯いて答える。


「あんまり遠くには行けないから…」


「遠く?宿の中でも人と会えるでしょ?」


「ウィスケが知らない人には会うなっていうから」


 ウィスケ?ウィスケとは誰だろうか?この宿にそんな名前の人がいただろうか。


 この宿にはあの爺さんと…あれ?誰がいたっけ。そもそもあの爺さんの名前ってなんだっけ。

 そういえば私あの爺さん以外の従業員とあったことないし、爺さんの名前も聞いたことないや。


「ウィスケって、この宿のオーナーの爺さん?」


「そう。ウィスケが連れてきた人としか会うなって言われてるの」


 なんだそれ。いくら何でも過保護が過ぎるでしょ。


「あれ?なら私とあって良かったの?」


「ううん。許可はもらってないの。けどバレなければいいでしょ?」


「それもそうか」


 しかし、隠しエリア限定出会えるキャラか…やはり私の感は正しい。ここには何か大事なものが隠れている。

 そしてそれを見つけるためには彼女の協力が必要と見た。


 なかなかゲーム脳ではあるが、実際当たらずとも遠からずといったところだろう。


 よし、ここはうまく彼女に取り入って協力関係を築こう。



 待て待て待て!

 なんで私はこんなに気を許している!?


 こんな所にいる私ですらその存在に気付けない人間。

 いや、人間なのかすら怪しい。私は最初警戒していたはずだ。


 なのに何故こんなにも気を許していた?ましてその異常に気づくことすらできなかった。


 彼女は明らかに分かる地雷だ。このまま関係を持ってもリターン以上にリスクがあるに違いない。


「・・・? そんなに黙ってどうしたの?」


 まずい。いきなり黙るのは不自然だったか?

 しかしなんて答えるのが正解だ。考えろ。考えろ。


「私シオン。シオン・セレスティン」


「え?」


 やばい。わけわかんなくなってつい、自己紹介してしまった。でも仕方ないだろう?

 話す内容がないときはとりあえず自己紹介しとけっていうし、私は礼儀正しいのだ。


 ・・・とはいえ。目の前でぽかんと口を開けて止まってる彼女を見れば成功か失敗かはよくわかる。


 成功だ。


 嘘じゃない。適切な会話としてなら失敗だ。でもこの場を切り抜けるという意味では成功も成功、大成功だ。だって、さっきまで何考えてたかなんてわからなくなってるもん。いわゆる宇宙猫状態だ。可愛い。


「シオン…?」


 おっと、ようやく意識を取り戻したらしい。よかった。正直この後どうすればいいかわからなかったし。


「そう、私の名前」


「名前。シオンっていうんだ」


「うん。君は?」


 また会話が止まりそうだったので、すかさず名を尋ねる。これ大事。


「私の名前?」


「うん」


「えっと…?」


「ん?」


「私の名前って、何だろう」


「え?」


 ああ、これあれだ。完全に地雷だ。こんなの確定で闇深い奴じゃん。え、なに?

 あのウィスケとかいう爺もしかして幼子監禁してるだけじゃなくて名前も与えず交友関係も制限してんの?殺すか?


「シオン」


「はい!」


 危ない。思考が闇に染まりかけてた。今はとにかく落ち着かなければ。できるだけ冷静にこの場を切り抜けなけるのだ。


「・・・? ごめんなさい。私の名前、わかんないや」


「・・・そう。ちなみにウィスケには何て呼ばれてるの?」


「主様って」


「そ、そうなんだ」


 おいおいまじかよ。そういう奴だったのかあの爺。そりゃあ、人に知られるわけにはいかないわ。あの年になってこんなことしてるなんてばれたら死ぬしかないもん。


 ・・・なんて、冗談はほどほどにしつつ、実際のところはあいつが崇拝する人の娘とか、そこらへんだろう。それでここにいるのがばれたら何者かに襲われるから交流を制限してる、みたいな。

 あとは名前がないのはよくわからないが、そこらへんは魔法、妖術が関係してきてたりするのだろうか?


 ともかく確実に厄ネタではある。魔王としては絡みたいところだが、さすがにまだ早い。死ぬ気がする。だから早いところ切り抜けたいところではあるが…どうしよう。

 このキラキラした目から伝わるもう少し遊びたいという感情。そもそも下手に逃げて気分を害するわけにもいかないというのが厄介だ。


「あのね、シオン」


「はい!?」


「ふふっ、そんなにびっくりしてどうしたの?」


「いや!何でもないです!」


「そーぉ?」


 危ない。本当に怖い。ポーカーフェイスは苦手なんだ。何せ人と会話するのが久しぶりなうえにまともな奴と話した経験も少ないからな。

 と、危ない危ない。また同じことを繰り返す気か。話に集中しなければ。


「それでね、シオン。お願いです、私の名前を考えてください!」


「へ?」


 すーっ、へ?


 ちょっと待ってよ、ねぇ。それは知らない。私名前なんて考えたことないって!そもそもそういうのは保護者がつける奴だしぽっと出の奴が適当に決めていい奴じゃないと思うんですけど!?


 なんてことをうまいこと伝えようとするものの、子供というのは頑固なもので当然うまくいくはずもなく。私は、彼女の名前を付けることになってしまった。


 はぁ~~……。ナニコレ。やばいじゃん。これあれでしょ、下手な名前つけようものなら殺される奴じゃん。何か面白いこと言ったら見逃してやる(見逃す気0)ってやつでしょ!?

 いや、彼女の雰囲気的にはそんなことないと思いたい。けど、その内面がまるで読み取れないから怖いんです。


 ひとまずネタ探しから始めよう。

 まず彼女の見た目は白い肌に真紅の髪。目の色は黒で髪型はショート。服装はワンピースで、麦わら帽子が似合いそう。なんならひまわり畑とかにいそう。

 身長は私より少し高くて、気を許した相手には少しわがままな深窓の令嬢みたいな雰囲気。実際のところはわからないけど。


「まだ~?」


「まって、名前っていうのはそんな簡単に決まらないの」


 名前というのは今後一生背負っていくものだからこそそこに妥協は許されないし、名づけには責任が伴うのだ。まあ変えたければ改名してもいいとは思うけど…


「ふ~ん」


「ふ~んって、ねえ。なんか好きなものとかないの?名づけの参考にしたくて」


「え~?好きなもの~? そうだなあ~?」


 好きなものって聞かれてもパッと出てこないか。私もそんなに好きなもの言えないし、外に出たことないならなおさらそうだよね。


「ん~、あっ!」


「ん。何か見つかった?」


「うん!好きっていうか、やってみたいことなんだけどね?」


「夢か。それもいいね」


「夢。うん!私の夢!」


 可愛い。ニパッて笑顔がとても眩しい。私は笑うと可愛いけど不気味って言われるんだよな、ウードに。あとでしばくか。


「私の夢は、いつかお友達と青空の下で日向ぼっこすること!」


「ぐふっ!?」


「えっ!?どうしたの!?大丈夫!?治療する!?」


「いや、大丈夫。ただ心に傷を負っただけだから」


「心に傷…お大事にね?」


「はい…」


 そうか。私はだからダメだったのだ。私には純粋さが足りなかった。私の心は穢れていたのだ。なんてこった。こんな純粋な子を名付ける資格が私にあるのだろうか?

 いや、考えてはだめだ。彼女は私に名づけを頼んだのだから、私にはその名前を考える責務がある。逃げてはいけない。

 ということで。


「決めました。君の名前は今日からソラです」


「ソラ?」


「そうです。ちなみに由来とか聞きたい?」


「聞きたい!」


「そうかそうか。なら教えてあげましょう」


「うん!」


 ・・・やばい。由来とかないんですけど!? 何言ってんの私!?

 ただ青空の下でってとこからソラにしただけなんですけど!?

 でもそんなこと言えない!?


「えっとね…君の心は青空のように澄んでいて、どこまでも広がる空のように広くて、深い。そして何より」


「何より!」


「・・・君には空がよく似合う!」


「空が似合う!空が似合う?」


 やばい、適当言ってると思われたか?いや、ここは押し時だ。


「そう!君には空がとてもよく似合う!だから外に出よう!大空を見に!」


「え?でも、ウィスケが…」


「そんなどうでもいいよ! 行くよ、ソラ!」


「・・・うん!」


 ソラが浮かべたその笑みは、その日一番きれいだった。

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