其の三十二 デート失敗
お祭りデートの始まりは大通りに存在する屋台のうちの一つ。辺りに肉の焼けるいいにおいを漂わせる串焼きやから始まった。
『おじさん!串焼き…えっと何本だろ?』
「十本お願いします」
「はいよ、十本ね。じゃあ一本鉄貨二枚で銅貨二枚だな」
ふむ。これは安いのか?相場がわからないから何とも言えないけど安そうな気がする。ウードも特に反応してないし高いってことはなさそうだけど…まあいっか!どうせ金はあるんだし。
「あ、銀貨しかないんだけど大丈夫ですか?」
「あ?問題ねえぞ」
「じゃあこれで…」
と思ったけどこれはどこに置けばいいんだ?置き場がない。
「あの、これ何処に置いとけばいいですか?」
「ああ?ちょっと待っとけよ嬢ちゃん。金は肉を渡すときにもらうからよ」
「そうなんですか?」
「そうなんですかってお前…お前さんもうちょっと気を付けないとすぐ掏られちまうぞ」
「え?」
「今は祭りで稼ぎ時だからな。小遣い稼ぎに店を出してるやつも多い、最悪金だけとられて品を渡さねえ奴もいるし、そもそもそんな無防備に金なんて出したらスラムの連中に目ぇつけられるぞ」
「ああ、確かに。でもおじさんはいいんですか?」
「ああ?何がだよ」
「私が肉だけ持って金を払わないかもしれないじゃないですか」
「ふん。そうなったら俺が直々にとっちめてやるだけだ。それもできなかったら、それは見極められなかった俺が悪い」
「そんなもんですか」
この割り切った考え方は異世界だからなのか、それとも私が知らないだけで前世からそうだったのか。まあどっちでもいいか。
「よし、できた。十本だな、好きなのとってけ」
「好きなのって…というか一気に作りすぎでは?」
「ああ?まあいいだろ、多少焦げてもうめえし、何度も作んのはめんどくせぇ」
それでいいのか、大雑把だなぁ。まあ私はできたて食べられるし気にしないでいいか。
「それじゃ銀貨一枚です」
「はいよ、ちょっと待てよ、銅貨取り出すから」
「ああ、いいですよ。返さなくて」
「はっ?返さなくていいっておめえいくら何でも冗談だろ?」
「いえ、いろいろと忠告してもらいましたし、私、お金には困ってないので」
何よりおつりを気にする魔になりたくない。王ならそのくらい大雑把でいいと思う。民なんていないし。
「はあ、じゃあもらっとくけどよ。しゃあねえ。そこにある分は全部もってけ」
「え?いいんですか?」
そこにある分って結構な量あるけど。二十本くらい。
「いいも何も、それ以上のもん貰ってるんだが」
「それはそうですけど、焼くのめんどくさいって言ってたのに」
「貰いすぎんのはそれ以上に嫌なんだよ。ったく、本当はこれでも返し切れねえんだがな」
「別に、気にしなくていいんですけどね」
「うるせぇ、いいからもってけ、俺の気が変わんねえうちにな」
「それじゃ、もらってきますね」
「おうよ、あ、ちょっと耳貸せ」
「なんですか?」
中に足場を作り、身を乗り出し耳を傾ける。
「今のを見てた連中のうち、四人くらいか?目をつけられてる。気をつけろ」
「へえ? ふふっ。忠告どうも。でもあまり女の子に近寄らない方がいいですよ?その体格で近寄ってると子供が泣いて通報されますから」
「うるせぇ!ちっ、とっとと行きやがれ!」
「まだ肉回収してないので無理です」
「じゃあ早く回収していけ!あ?つうかそれどうやって持ってくんだ?」
(魔力纏、形成、九尾)
「では、貰っていきますね?またいつか会いましょう」
「は?おいおめえそれっ、肉が宙に浮いてんじゃねえか!?」
へえ、魔力見えないとそうなるのか。もしかして私の天職ってお化けだったりする?ポルターガイスト起こせるし。
それはさておき。いやあ、からかいがいのある。というかノリのいい面白い人に会えた。つけてきてるやつは気にしなくていいし、歩きながら食べるか。というかウードどこ行った?
『シオン~どう?買え…た…尻尾生えてる!? なんで!?』
「ふふん、かわいいでしょ?」
『かわいい! けど、う~ん』
「どうした?」
『いやあ、かわいいんだけど…その服装だとちょっと合わないかなぁって』
「確かに」
九尾、つまり狐系はやっぱり和服の方が合う感じするよね。今の私はどちらかといえば洋服だからちょっと合わないかも?まあ、元がいいからどっちでもかわいいし、好みもあるだろうけど。
『ということでお着換えしましょう!』
「お着換えって…そんな簡単にできるの?」
『とりあえずどこかで服買って着替えて、その間に宝石に細工すれば大丈夫!』
「宝石?」
『胸元につけてるブローチのこと』
ああなるほど。変身先を宝石に登録するってことか。そして、そのためには一度宝石を私が外さないといけないから変身解除されちゃって裸になっちゃう。だから先に着替えを用意する必要があると。
「じゃあ服屋いこっか」
『うん!でもその前にそれ食べてから行こうよ』
「歩きながらでよくない?」
『だってさすがに数多くない?歩くとき人にぶつけそう』
「あ~確かに。というかこのまま行っても服買えずに追い返されそう」
『そうだねぇ。でも今全部食べるのはもったいない感じするし…』
なるほど?ウードは好きなものは残しときたい派か。私は好きなものは先食べちゃいたい派だなぁ。誰かに取られる前に食べたいから。
にしてもこの串焼きおいしいな。焼きたてだからか熱いけどそれもまた良い。やっぱり出来立てだよねぇ。
『シオン…食べすぎじゃない?』
「え?」
『僕の分取っといてよ!?あんなにあったのにもう残り五本しかないよ!?』
あれ?もうそんなに減った?
「まあまあ。お金はあるしまた買えばいいんだよ」
『そうだけど!?にしたってずるいよ!』
いやあ、久しぶりの食事ってのもあって思わず食べてしまった。でもおなかまだ減ってるし、もしかしてこの体いくらでも食べられる?
『残りは全部僕のだからね!』
「それはダメ。私も食べる」
『なんで!?』
「おいしいものは食べれるときに食べておかないとだめなんだよ?いつ食べられなくなるかわからないからね」
私はいきなり異世界に転生して何年か断食させられたからね。この考えは大事。
『む~!とりあえず服屋に行くよ!』
「は~い」
☆☆☆☆☆
〈串焼き屋の店主視点〉
シオンが買い物を終え、串焼きを持ち帰った後。
「たくっ、変なのにあったなぁ。あそこまで常識知らずというか危機感のないう奴なんてそうそういないぞ」
思わず忠告しちまったが、精霊連れてたし余計なお世話だったかもな。つうか、最後。あんな意味わかんねえことできんのはどうせお貴族様だけだろうし、面倒ごとに絡んじまったかもなぁ。せっかく焼いた肉も全部もってかせちまったし……
「はぁ、めんどくせえ」
もうあいつらは放置でいいか。これ以上厄介ごとにはかかわりたくないし。もし貴族ならなんかあっても護衛が何とかするだろ。
「ん? チッ!!めんどくせえ」
いや、めんどくせえのは俺のほうか。たくっ、俺も難儀な性格に生まれちまったもんだ。久しぶりのオフの日くらいのんびりしたかったんだがなぁ。
_______________
その後、店主は何人かに熱烈な客引きをし、恐怖で顔をひきつらせた数名の男が串焼きを一人当たり十本ほど頼んだのだそうだ。ちなみにこれは余談だが、その場に居合わせた人曰く、店主が客引きをしだす前にどこからかなにかが飛んで来たのだとか。
☆☆☆☆☆
太陽の国王都に店を構える服屋の前には多くの荷物を持ったもの言いたげな少女と満足した様子の精霊がいた。
『いやぁ、楽しかったね!今まで服なんて気にしてなかったけど、こうしてみるといろいろあって面白いというか、興味深いというか……でもやっぱり一番はシオンと一緒だからこんなに楽しいんだけど』
「・・・・・・」
『シオン?どうしたの、そんなに疲れて』
「・・・・なぃ」
「どうしたの?」じゃないんだよ。なに一人で楽しんで満足してんだよ。
『あ、あのシオン?』
「オイ」
『ハイッ!』
「いくら何でも、着替えさせすぎなんですけど!?私はおもちゃじゃない!」
『え、ええと』
「うるさい!空を見なよ!?はじめは昼前だったはずなのにもう日が暮れそうだよ!?いったい何時間人を着せ替えて遊んでるんですか!?そもそもここには一時的に着る服を買いに来ただけじゃないんですか!?なんでこんなに買ってるの?どうせ壊れて着れなくなるんだからこんなに要らないじゃん?結局いつもの服着るんだしさ!!!」
『あ、えっと。その服も宝石に登録しとくから意味はある…ハイ』
「関係ないよ?この際買ったことに文句はないよ!どうせ金なんてあるんだから、私が文句言いたいのはこんな長時間私を着せ替え人形にしたことなの!!」
『でも、』
「でももなにもないでしょ?私はもう疲れたの!何時間も着せ替えられて!帰って寝たい!好き勝手暴飲暴食したい!もう帰る!」
『シオン!』
「何!」
『シオンは、楽しくなかった?』
・・・・・
「帰る」
『・・・そう』
☆☆☆☆☆
白光亭、エントランス。
「おや、お早いお帰りですね。もしやお金が足らなくなりましたかな?」
そう言うのはなぜかいつも受付にいるオーナーの爺さん。相変わらず張り付けたような笑みを浮かべている。
「部屋はどこ?荷物置きたいんだけど」
「よろしければ荷物をお預かりさせていただきますが…」
「いや、自分で運ぶからいい」
「左様ですか、ではご案内します」
そのあとはお互い特に話すこともなく部屋に向かった。改めてみると宿の内部はついこの間半壊させられたばかりとは思えないほど整備されており、すでに営業していると言われたら信じてしまいそうなほどに元の光景を取り戻している。
しかし人の気配はなく、それがかえって夜の学校のような不気味さを醸し出している。
そんな風に気を散らしながら歩くこと数分。
何度も廊下を曲がりながら進んで行くと、唐突に空気が変わった。
これまでの木材を基調とした温かみを感じさせる様相とは打って変わって、石材を基調とした内装は冷たさや閉塞感を感じさせる。
本当にこの先に私の部屋があるのかと少し違和感を覚えつつ進むこと数分、ようやく爺さんが立ち止まった。
どうやら部屋についたようだ。
「こちらの部屋になります」
そういって示された部屋の扉は金属製で固く閉ざされていて、その中央には何やら花紋が刻まれている。まるで内側にある何かから守るための扉のように思える。
「・・・この部屋で本当にあってる?」
あまりにも理解しがたい光景だったので思わず聞いてしまったが、ここまで来ておいて今更間違いだったなんてこともないだろう。にわかには信じがたい話だが。
「はい、あっていますよ」
「・・・そう」
そう、か。いやまあそうだとは思っていたが信じたくなかったのだ。
仮にも恩人だと思っている相手にこんな猛獣を閉じ込めるかのような部屋を渡すなんて。そこまで嫌われるようなことをした覚えは……あった。つい最近宿を壊したばっかだった。
であればこの現状にも納得はいく。受け入れたくはない話ではあるが。誰だって前科持ちを簡単に信用するわけがないのだから。
仕方ない。しばらくはここでおとなしくしておこう。
「じゃあ、案内ありがとう。あと悪いけどウード、緑に光ってる精霊が来たらまた案内してあげて」
「・・・承知しました。ではまた後程」
「ん。よろしく」
さて、爺さんがかえって行き一人になったわけだが……早速探検しよう。
こんな見るからに怪しい場所、気にならないわけがない。ゲームでも高級宿にある秘密のエリアなどお宝しかないはずだ。
何か面白そうなものがあったらこっそり貰ってしまおう。一個だけならばれないはずだ。
部屋に入るのは後回しにして、きた道とは逆方向にさらに進んでいくことにする。万が一爺さんと出くわしたときがめんどくさいからな。
しかし探索となると私一人というのも困った話だ。
私はこの世界の常識をあまり知らないが、そのせいで重要なものを見逃してしまったらとんだお笑い種だ。
なので我が相棒を呼びたいところなのだが……あいつは現在お仕置き中。私を長時間にわたって拘束した罪は重い。しばらくは一人寂しく泣いていてもらわければならない。
ということで久しぶりのソロ探索のお時間だ。時期的にはまだそんなに時間はたっていないのだが、いろいろことが起こりすぎてずいぶんと久しぶりな気がする。
あれからだいぶ強くなったとは思うが、理不尽は唐突に訪れるものだ。気を抜かず、注意深くやっていこう。




