其の二十六 [閑話] 向こう側の会話
シオンが力を使い果たして倒れたその横で、精霊は一人休んでいた。
『はっ、ははは。ほんと。つっっっかれたぁ〜〜〜!!』
シオンって僕のこと働かせ過ぎだよ!本当!戦闘の途中で何度も棒立ちになったし、別人になったんじゃないかってくらい精神が変化して勝つのを諦めるし!最後なんてほとんど僕が戦ってたようなもんだよ!
『絶対ご褒美もらうんだから!』
シオンがなんと言おうと、絶対の絶対、絶対に貰うんだから!
でもご褒美って何がいいかな?精霊と人じゃあできることも限られるからなぁ………
デートするのは確定として、どんなデートにしよう?綺麗な場所とか行って、落ち着けるところもいいかなぁ。
でも、蛍祭りは絶対一緒に見たいし、美味しいものも食べたい。うーん、人ってデートで他になにしてたかな?
一緒に遊びに行って、手をつないで、抱きしめたり、食べさせ合いっこしたり、あとは告白とか、キスしちゃったり。
あ〜、この姿じゃできること全然ないや。うーん……
『しばらくのんびりしたいなぁ』
あっ。そうだよね。決めた。のんびりしよう。目的とか考えないで休暇を取ろう。
そもそも最近忙しすぎなんだよね。消えようと思ってたらシオンにあって、摩訶不思議な異世界のこととか教えられて。魔王の手伝いの前に報酬貰おうと思ったら何故か借金してこんなとこまで来て死にかけて。
・・・あれ?借金?
『あっ!?そうじゃん!借金じゃん!』
……まあいっか。シオンが起きたら考えよう。なんとかなるでしょ、きっと。
『って、ぇ?』
ふと、気づく。世界の見え方が以前と異なっていることに。
精霊はもとより世界の一部。だから、人などと異なり、見てわかる、というわけではなく、ただ在るだけで世界を理解する。のだが、
『何、これすっごい理解る』
今まで以上に世界が理解った。今まで見えなかったところまで理解る。
例えば、シオンが龍だなんてもともとは言われなければわからなかったのに、今は理解る。
わかりやすくすると、今までは
シオン・セレスティン、人間、女、幼い。
だったのが、
シオン・セレスティン、人間(龍)、女、幼い、違和感(異物感)
になった感じ。
この違和感っていうのは多分シオンが転生者で、完全にはこの世界の存在じゃないからだと思う。
でも、何でこんなになったんだろう?もしかして、精霊としての格が上がった?
僕は今まで精霊だったけど、属性精霊に変わったのかな。
でも、何で?格が上がるなんて早々ないはず。
精霊としての存在格を上げるには自分に適した属性に触れ続けるか、その属性を持つ上位存在から力をもらわないといけない。
僕に適した属性は不明だったし、今まで長く生きて見つからなかったから相当特殊な属性だろうし……
最近あったことといえば、龍の存在に充てられた?だとすれば龍属性?嵐は今までも経験してるし……
いや、でもシオンといたのは期間としては短いし全然違う?というか龍属性って何?
『ん〜〜、あっ!?魔力!シオンと一体化してかなりの濃度を操ったし、シオンの中の魔力に浸されてた。可能性としてはなくはない?』
なんかそんな気がしてきた。うん。今の僕は魔精霊だね。多分!
いやぁ謎も解決したし、僕ものんびりしようかなぁ。あれ、格が上がった今なら人化できたりする?試してみようかな。
『ん?』
なんだろう、この感じ。何かに見られてる感じがする。それだけじゃない。何か思念が飛んで来てるような?
この違和感の原因を探ってみると、意外とすぐに見つかった。
なんと、龍の目がこちらを観ていたのだ。
『えっと、襲わないで?』
いや襲わないで?じゃないよ!どうすんのこの状況!シオン起こす?いや、あんなにボロボロだし流石にそれは良くないよね!?そうだ、交渉しよう!
『あっあぁ〜、そこの龍よ、君は僕らに負けたんだ。君等龍の誇りにかけて、今から反撃とかしないでよ?まさか、偉大なる龍様がそんなことしないと思いますけどね?』
ふふふ、これぞ完璧な交渉術!相手の種族としての特性を活かした巧みな話術で奴はもう手出しできまい!
『…………なんでそんな目で見るのさ!諦めて観念しなさいよ!?』
“騒がしい、その態度腹が立つ”
『なっ!?なんで語りかけてくるのさ!まだそんな余裕が残ってたのかい!?』
“ふん、案ずるな、肉体はとうに死んでいる”
『ならなんで喋れるのさ!?』
“龍だからだ、その偉大な存在が故、死して尚精神が残るのだ”
“格の低いものなら余命がわずかに伸びるだけだが、格の高いものならそれを元に時を経て再誕する”
『ふ~ん。精霊とは違うんだね。で、ちなみに君はどうなんだい?』
“我も蘇るが、あいにく不完全でな、記憶までは持ち越せぬ。精々こうして死した後に思い出せるくらいだ”
『ってことは、永遠と孤独ってこと?』
“ッカカ、そうだな、そういうことだ”
『大変だね、こんなとこで1人閉じ込められて。死ぬたんびに記憶を取り戻すって、地獄じゃない?気が狂いそう』
“カカ、そこらのものならそうだろうな、だが我ら龍はこの程度で狂う精神性をしていない、そこは人や他のものとは大きく異なることだろうな”
『僕ら精霊は退屈になったら消えられるからいいけど、君等は退屈でも永遠生き続けないといけないんだもんね』
“ああ、それが我らに課せられた使命故、主等とて使命があるだろう”
『まぁね、でも、君等と比べたら大分楽なもんさ、自由に存在するだけでいいんだもん』
“自由というのもなかなか辛いものだろう?そうでなければあんなにも消えていくまい”
『それはそうだけどさ、でも、消えるっていう逃げ道があるだけマシだよ』
“我からしたら、消えるというのは退屈以上に怖いものであるがな”
『えー、消えるよりこうして閉じ込められる方がいやじゃない?』
“カカッ、それもまた我ら種族の差であろう”
『そっかぁー、あっ!そういえばなんで話しかけてきたの?』
“何、少し忠告をしようと思ったまでよ”
『忠告?』
“主等が使ったその力、魔力は使えば使うほど悪感情を刺激する”
『やっぱりそうなんだ。デメリットがあるからこその力ってわけだね』
“ああ、しかしこの忠告は必要なかったようだ”
“その娘、なにか違和感こそあるが龍であろう?であれば問題ない、幼い今でこそ飲まれているが、育てば影響を受けなくなるだろう”
『やっぱり龍ってデタラメだね。でも今はダメなんだ?』
“龍であっても、幼いが故、精神が未だ安定していない。しかし、確固たる我はすでにあるが故、もうすぐにでも安定するだろう。そうなれば問題はない”
『あ~、でもどうだろ?シオンって純粋な龍じゃないからなぁ』
“む?その違和感、やはりそうなのか?しかし、ハーフにしては龍すぎるぞ”
『シオン、肉体は龍なんだけどね、精神が人間なんだ』
“ほう?それは奇っ怪なことだな”
『なんか、異世界で人間だったらしいよ?ただこの世界の神に呼び寄せられて死んで、龍になったんだって』
“ふむ。それはまたおかしな話であるな。なにせこの世界の神に斯様のことができる存在はもういないはずだ”
『えっ?』
“そうか、主等精霊はすでに覚えいるものは少ないか”
“我も詳しい記憶はないがこれだけは覚えている。この世界にまともな神などすでにいない”
『まともな神?』
“いや、これ以上のことはわからぬ。ただ覚えておくが良い、その神、まともな神ではないとな”
『わかった、シオンに伝えとくね』
“そうするがよい、ああ、そうだ。精霊よ”
『ん?』
“久方ぶりの会話は楽しかったぞ、機会があれば、また来てくれ”
『え???次も何も、まだシオンが起きないし話し相手になるよ?』
『もちろん、君が孤独にならないように、今後もたまに暇つぶしにくるけど!なにせ友達だもんね!』
“ッカカ!友達か!斯様なこと言われるとは思ってもみなかったぞ”
『シオンが言ってたんだ!元の世界では、昨日の敵は今日の友!一度殴り合ったなら、そいつは友達だって』
“なんともまあ、奇っ怪で面白い文化よ。しかし感謝せねばならんの、おかげで我にも友が増えた”
『ふふん!礼ならお金でいいよ』
“カカッ、そこは礼はいらないというところではないのかの?”
『そんな余裕はないよ!なにせ僕ら借金してるもので』
“ほう?主等ほどの実力者が借金とはまた、何があった?”
『んーとね〜』
☆☆☆☆☆
その後はシオンのこととか、世界のこと、僕ら特殊な種族のことを話して暇をつぶした。僕にとっても久しぶりにこっち側の存在と話せて楽しかった!
シオンも、もうすぐこっち側に来れるだろうし、そうなったら、今度は三人でおしゃべりしたいな。
ふふ、楽しみ〜!
“む、そろそろか”
『どうしたの?』
“何、時間が来たようだ”
『時間?何の』
“休眠だ”
『休眠?』
“ああ、再誕生のためのな”
『そっか、じゃあしばらくお別れかなぁ』
“そう気を落とすこともあるまいて、主等の寿命は長い、あっという間だろう?”
『そうだけどさぁ〜?あっ、再誕生ってどのくらいかかるの?』
“わからぬ、なにせ生き返ると記憶を失うのでな。死ぬまで理性を取り戻せん。ただ来るものを排除するという義務感に従い行動することしかできないのだ”
『そっかぁ、だからあんなに攻撃的なんだねぇ。あれ、ということはもしかして次来るときもあんな激闘しないといけないの!?』
“かもしれぬな。しかしその頃には主等は強くなっているであろう?”
『そうだけど……そっか、記憶失うから君は成長できないんだ』
“そういうことだ”
『あれ?でも、もし今すぐ復活されたら勝ち目ないんだけど……』
“その時はその時だ、運が悪かったと諦めるか、最後まで足掻くといい”
『そんな無責任な』
“我としては、願わくば次もまた会えると良いがな?”
『もう!素直じゃないなぁ〜!』
“カカッ、ほれ、時間じゃ、暇つぶしの礼に今回の肉体を龍玉に変えておくとしよう”
『えっ、いいの!?』
“ああ。我等は嘘はつかない。ふむ、そこらに充満する魔力も薬に変えておこう、残しておくと生き返った我にどんな影響を与えるかわからんのでな”
『薬?何の薬?』
“さあな?我にもわからん、もしかしたら呪われるかもしれんし、祝福されるかもしれん。それだけの可能性を魔力というのは秘めているのだ”
『そっかぁ、頑張ろ!ありがとね!また来るから!』
“ああ、待っている”
そう言って、彼は空に消えていき、残されたのは二つの薬と丸い宝珠。
これがあれば借金なんてへっちゃらで返せる!良かったぁ。
彼には感謝しないと!絶対また来なくっちゃ!
あれ?そういえば彼の名前聞いてなかった。まぁいっか!次来た時に聞けば!
よし!もしものために警戒しながらシオンが起きるのを待ちますか〜。
いやぁ、僕ったら働き者だなぁ。
後でシオンに褒めてもらわなくっちゃ!




