その二十 私の借金?三十五億
フィリスが裏切者判定を受け、騒動が起こった翌日。私は、一人宿の中庭で鍛錬を積んでいた。
といっても、実際やってることはただの筋トレに過ぎないのだが。早いとこ自分にあった武器でも見つけるべきかねえ?
「う~ん!朝日が気持ちいい!」
っぱ朝は筋トレしないとだめだな。これやるのとやらないのじゃその日のテンションが変わってくる。適度な運動によって、体が目覚め、心も目覚める。
「健全な肉体にこそ健全な精神は宿るってもんだっ!」
後ろに気配!?さっきまで存在してなかったはず!誰だ!?
「おや、気づかれてしまいましたか」
そこにいたのは、この宿の受付のあの人だった。
「あんた、いつからそこに?」
「ここへ来たのはつい先ほどですね」
つまりもっと前から見てはいたと。
「のぞき見はよくないんじゃないですかねぇ?」
「と、言われましても。この庭は私が毎朝手入れしているのですよ。そこに人が、それもつい昨日あんなことをした人が向かったのですから、様子を見るのは当然ではないですかな?」
「うぐっ!そ、その節はすいません」
で、でもあれはあいつらが悪いし?というかそもそもあんなわかりやすく好意伝えてるのに返事を返さないあのバカが悪い。惚れさせたならどんな形でもいいからちゃんと責任とれって話。
「あんまり反省しているようには見えませんが、まあいいでしょう。それよりも聞き忘れたことがありまして、どれくらい宿泊なされますか?」
「・・・それ、早く出てけっていってます?」
「いえいえ、そんなことはありません」
まあ、さすがに直接出てけなんて言えないか。でもまあそれだけ信用は失われたってわけで、やっぱあの男許さん。
「ただ、昨日の返済額から考えて、お金が不足しているのではないか?とは、思っていますがね」
こ、この爺さん。強い。
「きゃ、客にそんなこといってもいいのかよ?」
「いえ、本当はよろしくないのですが、もし万が一お金が払えないならお客様じゃないので」
んな!?こいつただもんじゃねえ!
「さすがに払えるわ!ん?払、える、か?」
「おや?どうかされましたか?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
ええと、思い出せ。私ってそもそもお金いくら持ってるんだ?この国に来る前はお金なんて持ってなくて、この句に来てからの稼ぎは・・・・
「ギャンブル分しかねえ!?」
まずい、まずいぞ!?宿泊だけなら数日どころか一週間は行けただろうけど、昨日の返済額考えると…ええと、なに壊したっけ?
昨日は暴れだしたあの二人を止めるために割と本気出したから、部屋の備品は全滅。窓を突き破って中庭で大ゲンカ。穏便に止めるのは無理だと判断して、殴りかかって……中庭は滅茶苦茶になった。そんで攻撃の余波だったりで、建物に傷とひびが入ったり、壊れたりした。
なんならそれに切れたほかの宿泊客も参加しての乱闘になって、そいつらの怪我の治療代も一部払わなきゃなんない。
結果、宿は半壊、宿泊客の半数は逃げるように出ていった。ああ、てことは業務執行妨害的なのの賠償もだ。
「金、足りねえや」
「ほう。ではこんなことしてる場合ではないですね。外に行きましょうか」
「えっ?外って、いったいどこに?」
「決まっているでしょう?騎士団のところですよ」
きしだん?騎士団?騎士団ってあの騎士団?この国の警察的なあれ。
「ちょまっ!ちょ!待って待って待って!おちつこっ!まだ大丈夫だって!まだ我慢できる!まだ猶予あるよね!?」
「ふむ。そうですね」
頼むよ。私この国来てまだ二日目なんだよ!このまま行ったら初日で借金アンド宿半壊して、二日で宿出禁アンド逮捕されたやべえ奴になっちゃうって!
「では、一週間待ちましょう。今日から一週間で全額返済してくださいそれまではこの宿に泊めさせてあげましょう。もちろん宿泊費も返済額に足しておきますが」
一週間。一週間あれば何とかなるか?やるだけやってみよう。私が払うのは全額の二割だし何とかなるかも。…ならなかったら逃亡で。
「わかった、まかせろ。なんとかする」
「では、そういうことで。ああ、ほかの四人にも伝えておきますから、一週間で全額、頑張ってください」
ほかの四人?全額?
「っはぁあ!!ちょ、私の分だけじゃないの!?」
「最初から言ってましたよ?全額、と」
「ふふふふ、ふざけんなぁああああ!!!!」
普通に考えてここでの全額ってのは、私の払う金額の全額だろうが!なんで奴らの分まで合わせて全額なんだよ!
「おかしいだろ~~~~!!!!」
くそっ!こうなったらやってやる。
「やってやんよ。見てやがれ!見せてやる私の、俺の生き様を!」
かつて数年にわたって金稼ぎしてた俺をなめるなよ!プレイのすべてを金策に費やした俺の力を見せてやる!
「まずはギルド行くぞ!ウード!出番だ!」
『はいはいは~い!出番だね!で、どうすればいいの?』
「ギルドまで道案内頼む」
『えぇ~、そんなことより遊び行こうよ~』
「そんな金今のうちにはありません!」
『うっそだあ、昨日あんなに稼いだじゃん』
「ん!」
ウードに気づいたら地面あった紙を見せる。
『えっ、これ本当?』
私はうなずく。
『無理でしょ。たった一週間で三十五億サイラスって。国一番の冒険者でも運がよくないと一年はかかるよ』
「えっ、そんななの?」
『当たり前でしょ!こんな金額の借金何て、どうしたのさ!こんなのそこらの貴族殺したって手に入らないよ!』
「これもしかして騙されてる?だってそんな金額の借金負うほどのことしてないはずだもん」
『そうだよ!騙されるなんてシオンもまだまだだね』
ハハハハハハ。そうだよね、さすがにこんな金額じゃないよね、文句言いに行ってやろう。私のことなめてるのかって、そんで更に借金減らしてもらおう。
『ちなみになんでこんな借金負ったの?』
「えっ、この宿半壊させた」
『えっ』
「えっ?どうした、ウード。そんなに驚いて」
『シオン。落ち着いて聞いてね。その金額、やっぱり間違いじゃないや』
「えっ」
『この宿、この国でも最高レベルの高級宿でね。建物自体が特殊な建材でできてる上に、高価なものがふんだんに使われてる。だから宿泊客には金持ちも多くて、彼らに傷つけたらそれなりの迷惑料が持ってかれるし、そんな上客を失うのは宿としては大きな損失だから賠償請求も滅茶苦茶高くつく』
やべえ、ウードが壊れた。あのウードがこんなまともなこと言うはずがない。きっとそんな事実はないはずだ。
『シオン。現実みようか、その金額は妥当だよ』
「は、ハハハハハ。ははっははっはははっはあああああああああ!!!やってやんよこんちきしょうが~~~~~!!!」
☆☆☆☆☆
「というわけで、滅茶苦茶稼げる依頼とかない?クリアで何億何十億と手に入るようなやつ」
「ええと、何がというわけなのかはわかりませんが、そんな依頼はないですね。最高でも数千万サイラスです」
「ちぇっ、しけてんなあ」
「いやいやいや、数千万サイラスでも相当高いですよ!?こんな依頼早々来ないですって!」
「じゃ、その依頼ってどんな感じなの?」
「ええと、不治の病や失った肉体をも直すとされるエリクサーの確保、ですね」
「ウード、エリクサーの値段ってこんなもん?」
『ええ~?う~ん多分このくらいだと思うよ。でもなかなか見つからないから一週間じゃ到底必要数集まらないだろうし、そもそもそんなたくさんあってもさばききれないと思う』
「そっかあ~、まあ値崩れ起こすだろうしなあ~」
はあ。まずいなあ。とりあえず冒険者ギルドに来たものの、まるでどうしようもない。だがしかし、実現不可能と諦めるにはまだ早い。この程度で諦めるようなら、何年も魔王目指して金策しないわ。
「つ~わけで、何か依頼以外で大金稼げる方法知らない?危険度度外視でいいからさ~」
「シオンさん、どうしてこんなになっちゃったんですか?最初はあんなにかわいかったのに」
最初っつってもつい昨日じゃねえか。
「まっ、成長期なんでしょ。一日たてばそれなりに成長するさ~」
「それはしちゃダメな方向への成長です!」
「そんなことより、あるの!無いの!どっちなの!」
私にはこんなことしてる時間もないのだ。く~、またご飯食べたい。でもそんな金はない!不眠不休で到底実現不能な目的に向かって働く気持ちってこんななんだ。ブラック企業って大変だな。
「シオンさん。シオンさん!」
「お?」
「はあ、本当にどうしたんですか。いきなり大金稼ぎたいとか言い出したり、ぼーっとしたり。そんなんじゃすぐ死んじゃいますよ!」
そうだね。うん、やばいね。
「おー」
「わかってるんですか!死んじゃうんですよ!」
「しなないよー、私強いから」
この人名前なんだっけ、確か名乗られたはずなんだけど。まあいっか。今後は心優しい受付嬢の人とよぼう。
「もうっ!死んじゃっても知りませんからね!」
「死なない死なない、それで、いい稼ぎ場、あるの?」
「んぅ!もう知りません!シオンさんなんてダンジョンにでも行ってくればいいんです!」
うん、そうだね。ダンジョンいこっか。・・・・ダンジョン?
「ダンジョンあるの!?」
「ひゃあ!どうしたんですか急に!」
「そんなのいいから!ダンジョン!何処!」
「ひ、ひぅぅ」
バタンッ!
あ、倒れちゃった。まあいっか、そんなことよりダンジョンだ!
「ウード!ダンジョンの場所!」
『オーケー!ウード!案内します!』
「んじゃ、皆さん頑張って!じゃあね!」
ダンジョン!やっぱ金策といえばダンジョンだよね!無尽蔵に湧き続けるモンスター!潜れば潜るほど強くなる敵!より豪華になる宝箱!
「くくく!待ってろダンジョン!今私が攻略してやるからな!」
こうして、私の借金生活一日目が始まった。返済期限まで、あと六日。




