其の十七 初入国、お決まりの騒動
太陽の国。四方を山々に囲まれていながらもその国土面積は果てしない。また、一方向を遮る氷山から常に流れる雪解け水をメインとし、各山から川が流れているため、水資源にも恵まれている。唯一、一方の山には渓谷が存在し、交通の要衝とされ、各所に砦が建てられている。
また、年がら年中晴れており、土壌も良質とされるため、国の代表的な作物はトウモロコシであるが、その広大な土地を生かして家畜の放牧がなされており、麦の生産量も極めて多い。
ウード曰く、太陽の国は天然の要塞でありながら籠城戦にも強い土地、大国にならない理由がない。だとか。ちなみに、この前言ってた天空の国との仲は最近険悪なものになりつつあるんだとか。理由は知らないらしいけど。
さて、こんなことを言っている私が今どこにいるかというと。
『いやぁ、王都はいつもそうだけど、やっぱり祭りの時は一段とにぎわってるね』
ハイ。なんとすでに太陽の国の王都にいます。大丈夫かよこの国、セキュリティガバガバか?
いや、一応王都の城門で検問は受けたんだよ?市民じゃないならお金払えとかいうやつ。でもなんかお金ないって言ったら、とりあえず仮の身分証渡すからさっさと冒険者にでもなって金稼いで来いって言われたんだよね。というわけで冒険者ギルド的なとこに行きたいんだけど…
『シオン!あっちの串焼きおいしそうだよ!食べに行こうよ!』
・・・肝心の道案内してくれる奴がこんななもんで。
「ウード、お前馬鹿か?お金ないって言ってんだろ」
『ええ~。早く食べたいのにぃ!お金って作れないのかな?』
「馬鹿ッ!お金の偽造は犯罪だろうが!」
こいつ、一人の時はどうやって生きてきたんだ?
『ええ~。いつもならお金なくてももらえるのに』
「なぜ?精霊だから?」
『たぶんそうだと思うよ?この国だと精霊って結構敬われてるから。だからいつもはいろいろとプレゼントしてくれるんだ』
精霊が敬われてる。ということはさっきから妙に集まっていた視線の理由は…
「ちなみに精霊使いって貴重だったりする?」
『うん?もちろん希少だよ?子供たちのあこがれの職業ナンバーワンだね』
道理で。子供がキラキラした目で見てると思った。
『精霊は気まぐれで幸運も不幸も呼ぶからね。できる限り丁重に扱われるんだ。あとは、この国で一番強い騎士団長なんかが精霊騎士だったりするのも理由かもね。そういえばこの国出身の勇者が精霊使いだったっけ?』
この国最強の精霊騎士ねえ。うまく扱いこなせば私ももっと強くなれるってことか。
「もっと、ウードが扱いやすければと思うよ。切実に」
『え~。十分扱いやすいと思うんだけどな~。シオンはほかの精霊を知らないからそんなこと言えるんだよ~』
「ハイハイ。それで、冒険者協会ってどこですか?」
『ん~?ここだよ?右見てみ』
ん?ああ。石づくりの重厚感あふれる建物に掛けられた剣と盾が描かれた木製の看板。どうやらここが冒険者協会らしい。それじゃさっそく入りますか。
「お邪魔しまーす」
挨拶とともに大きな戸を押すと視界に入ってきたのは大の大人がみっともなく酒を前に奪い合っている様子だった。
「・・・・・・まあいっか。いくよ、ウード」
「ウード?」
『ねえねえ。僕向こうの様子見てきてい~い?』
こいつ。変なことしないだろうな。いやだぞ、こいつのせいで出禁とか。
「・・・まあ行ってきなさい。ただしあんまり騒ぎにならないでね?」
『は~い』
わかってんのかな?信じよう。
暴れまわっている奴らを無視して受付まで直進していく。もし気づかなくて攻撃されたなら有り金全部吐かせるだけで良しとしよう。わざわざ殺したい相手でもないし。
と、思っていたのだけれど。まさかぶつからずにこれるとは。どうせなら有り金ふんだくろうと思ってたのに。だったら早く登録済ませてしまおう。
「あの、登録をお願いしたいのですが」
・・・?・・・・!!
背が低すぎてカウンターに隠れて受付に気づかれてない!なんてこった。まあ、もう一回呼べば気づくでしょ。ってかあっち騒がしいな。なにやってんだろ?
「あ!精霊手前!俺の酒だぞ!返せ返せ」
『え~、いいじゃん別に~祭りなんだからもっと気楽にいこ~よ~!』
「はあ!?お前それは俺がこの殴り合いを制して手に入れた勝利の証だぞ!ふざけんな!」
・・・何も聞かなかった。とりあえずこっちの用を終わらせよう。
「すいません、登録お願いします」
これでよしっ!
「先輩。今誰かの声が聞こえませんでした?」
「えっ?あそこのバカ騒ぎの声以外でってこと?」
「はい。あんな野郎の声じゃなくてもっとかわいらしい声というか」
「気のせいだと思うけど、こんな場所にそんな子が来るわけないだろうし。…あなた疲れてるんじゃない?」
「そう、ですかね?そこまで疲れてるようには感じないですけど。今日は彼らのおかげで、入ってくる人少ないですし」
「う~ん。それはそうだけれど。まあつらくなったらいうのよ?休めるときに休まないと、彼らの相手はできないわ」
「わかりました!でも、先輩も休んでくださいね」
「ええ。ありがとう」
なんということだ。気づかれなかった。というかこの雰囲気の中話しかけるのなんか無理なんだけど。
どうすればい―――
ドンガラガッシャーン!!
なに?後ろですごい大きな音なったけど…は?
『フハハハハ!もっとだもっともってこ~い!我は酒と食い物を所望するぞ!』
「お、俺らの酒が~!」
「ああ、くそっ!なんでこんな賭け受けちまったんだ!」
「許さねえ、許さねえからな!この借りは必ず返してやる!ちょっと待ってろ!金稼いでくるから!」
ええ~?どういう状況?ってか一人こっち来るんですけど。てか酒臭っ!近寄んないんでほしいんですけど!
『シオン~。やったよ~、勝ったよ~、だから買い物いこ~』
こいつも酒臭いんですけど!ってか酔うの早くね?
『シオン~、いこ~』
ん?この違和感…もしかしてこいつ思念駄々洩れにしてるんじゃ?
『シオン~』
やっぱり!いつもの私だけに向けた秘匿回線じゃなくて、オープンチャットで話してるよね?ということは…つまり。
「「「誰っ!?この子!」」」
ですよね~。ああ、めんどくさい。
「誰誰!このかわいい子!」
「誰の連れ子!だれがこんな子隠してたのよ!」
「ふむ。嬢ちゃんにはまだここは早いんじゃないのかね?」
ああ~煩わしい。目立つなって言ったはずなんだがなこの馬鹿精霊。
「おっ、お前!まさかその精霊の関係者か!?」
こいつさっきの酔っぱらいだな。ってか人の体に触ろうとすんなし。変態。
「このアホはうちのですけど、なんか用ですか?」
「そこの奴に有り金全部持ってかれちまったんだ!頼む!嬢ちゃんからも返すように頼んでくれねえか!?」
「・・・?盗まれたんじゃないなら知らないっす。そこは当人の自己責任でお願いします」
「そっ、そこを何とか!やっと武器を買い替えられたのに野宿になっちまう!」
なんかこいつ被害者面してるけどさっきの感じからして賭博の結果なんだよな。ギャンブラーで変態とか…救いようないのでは?
「有り金全部かけた方が悪い」
「うぐっ!それでも頼む!なぁ一晩でいいんだよ。一晩だけ!頼む!」
うわぁ…引くわぁ。こんな大人になりたくないランキング一位かもしれない。
「一晩だけ…ねえ?いったいどんな話をしてるのかな?このクソロリコン!!」
ん?わあ美人。かっこいいお姉さんですわあ。ちなみにそこの屑とはどういったご関係で?
「お嬢ちゃん。すまない。うちの馬鹿が失礼した」
「うちの?」
「ああ。こいつとは幼馴染でな。昔からパーティーを組んでいるんだ」
ほうほう。幼馴染。そしてこの反応を見るに。
「ちなみにお二人はご結婚のご予定が?」
「な、ななな、何を言ってるんだ!そんな予定など!」
これはこれは。いい反応をしてくれるじゃない。いいですねぇ、青春してるわ~。
「くっ、苦じぃ!首じまってるっ!」
「あっ、ごめん。つい」
「はあっ、はあ。つい、で人の首を絞めないでくれよ。あとお前もそんなこいつをからかわないでやってくれよ、俺に被害が来る」
なんだコイツ?今の状況わかってないのかな?
「債務者は黙ってろ」
「ひでぇっ!ってか俺借金はしてないからっ!」
そういえばそうだったか。まあ変態は放置でいいや。
「それで、お姉さんはそこの馬鹿を引き取ってくれる感じでいいの?」
「あっ、ああ。そのつもりだが、できれば話を聞かせてもらえないか?どうしてこんな状況になったのか知りたくてな」
「別にいいですけど、その前に登録だけさせてください。そこのと一緒で無一文なもんで」
・・・それは、まずいな。早く金を稼いでそこのと差をつけなければ。
「ということで受付の人登録お願いします。なるはやで」
「あっ、はい…あの、失礼ですがどこにいるんですかね?先ほどからお姿が見えなくて」
・・・?あっ、そういえばここカウンターで隠れて見えないんだった。・・・どういう気持ちで今の会話聞いてたんだろ?
「っと、これでいいですかね?」
「あっ、はい。ありがとうございます」
「なんかあの嬢ちゃん浮いてね?」
「だよな」
「精霊と関りがあって空も飛べる。そのうえめちゃくちゃかわいいってなにもんだよ」
「しらん。どうにかお近づきになりたいが…」
「さすがに無理だろ。見ろよ、あの女どもの眼。近づいたら殺すって眼だぞ」
外野が思ったよりおとなしい。いったい何があったというのか。まあその方が楽でいいけど。
「ええと、ここには冒険者登録しに来たってことでいいんですよね?」
「?はい。そうですけど」
というかそれ以外にここに来る用ってあるのかな?あれか?依頼出しに来たとでも思われたか?
「えと、失礼ですが年齢は?」
年齢。そういえば何才だろうか?初期は三歳だったが、あれからだいぶ経ったからな。……六歳、くらいか?わかんね。
「正確にはわかんないですけど、たぶん六歳くらい、です」
「六歳!?ちなみに両親とかって?」
「いないです。確か三歳くらいの頃に消えました」
三歳時点で一人だったから嘘は言ってない。
「一人!?えっと、今はどうやって生活してるとかって…」
「そこで酔っぱらって寝てる精霊に拾われて生活してます」
おい。なんで寝てんだこいつ。あとで蹴り起こすか。
「精霊。それは、運がいい…というか…?」
すんごい疑問形。まあ混乱するわな。精霊自体価値が高いらしいし。
「まあ、生きてるので運がいいといえばいいですね。それより、早く登録してもらってもいいですか?そこで人を待たせているので」
「あっ、そうですよね、すいません。気を取り直して、担当を務めるアマリアです。お名前を教えて下さい」
「シオンです」
「シオンさん、ですね。わかりました。これは冒険者証となります。初回は無料ですが、なくしたら再発行には多少お金がかかりますのでご注意ください。それと、あまりに紛失しすぎるとギルドからの評価が下がりますのでそちらもご注意ください。その他のギルドに関する説明はもし必要であれば受付までお越しください」
「?わかりました。とりあえず今は冒険者証だけください」
なんで今説明しないんだろ?冒険者ってバカばっかだからかな?
「了解しました。こちらがシオンさんの冒険者証になります。後悔の無いようお行きください」
「後悔の無いよう…はい。ありがとうございます」
それじゃ、さっきの幼馴染コンビのとこに行きますかね。おや、店のテーブルで待ってるということは何か奢ってくれるということでいいよね?シオンちゃん期待しちゃうよ?
「おら、この馬鹿精霊、早く起きろ。待望の飯の時間だぞ」
『ご飯!シオン早く行こう!まだ見ぬ料理が僕らを待ってるよ!』
こいつ、食い意地張ってんなあ。まあ、払うの私じゃないしいいや。




