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転生魔王の私はいずれ勇者に殺される  作者: 神星海月
第三章 神獣激突

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其の百八 報酬と絶望と

 

 ───冷たい。


 雪の冷たさに目を覚ます。

 目を開けば雪景色。

 どうやら雪を背にして眠っているらしい。


『目覚めたか』


 その声を聞いて急速に目が覚める。


「報…しゅう」


『わかっている。早く体を起こせ』


 残念だ。

 この雪ふわふわで良かったんだけど。


 そんなことを思いながら雪を払って起き上がる。


「さぁ、報酬は何かな?」


『神獣を一体選ぶといい。この島にいる者たちは皆既に主を失っている。敵対することなくこの場まで連れてくることができれば仲間として結びつけてやろう』


「えっ」


『なにか不満か?ニ体選んでも構わないが、死ぬぞ』


「えっ?」


『神獣は一つの魂に一体がせいぜいだ。それ以上は魂が持たずに壊れ死ぬことになるだろう。それでもというならば二体選べ』


 そうなんだ…じゃなくて!?


「まともすぎる報酬が!?」


『何?』


 お、おかしい。てっきり私はこの島から出してやる、それが報酬だ、みたいなことかと思ってたのに!?


「はっ!?神獣選んだらこの島から出れなくなるとかないよね!?」


『何を言っている。既に用は済んだ、閉じ込めはしない』


 なん…だと!?


「【神獣王】様ありがとうございます!!」


『何なのだ…お前は…』


 初めて、初めてまともに報酬を貰えた気がする。

 今までの命を見逃すことが報酬だとか、倒す過程で強くなった事自体が報酬だとか、色物過ぎもしない報酬。

 それも私だけの、一匹限りの相棒神獣を選べと!


 最っ高でしょ!?


 だって化け物強さしてる神獣から好きに選べるんだよ!?

 一体一体がこの島来る前の私と同等以上の化け物たちから選べるんだよ!?

 ハズレのない当たりくじからカンニングして選べってことだよ!?


 最初から敵対してるのは無理だけど、それはゲームでもよくいるシステム的に仲間にならないやつって認識すればそう悲しむこともない!

 なんなら例のカサゴみたいなのがいるかもじゃん!他にもたくさん!


「【神獣王】様!私はここで失礼します!次は選んだ仲間を連れて来ますので!」


『…そうか、出口はそこだ。世界を壊そうとするな』


「失礼しました!では失礼します!」


 あぁ!待ってろ神獣!厳選するぞぉ〜!!




 ━━━━━━━━━━━━━━━



 意気揚々と神獣の巣窟たる世界に戻って来てからはや数日。


「ぜんっぜん見つからない!?」


 敵対してない神獣は何処!?

 私の気に入る神獣は何処にいるの!?


 なんて弾ける心に翻弄されながらも目の前の地面から現れた蟻型の神獣と戦闘を開始する。

 当然だけど向こうから手を出してきたから仲間にならないタイプなのは確定した。


「ギギギ」


「うるさい!」


 口から吐き出された酸弾を避けつつ近寄ってパンチ。


「ギッ」


「避けるなぁ!?」


 しかし間一髪のところで避けられた、のでもう一発放つ。今度は避けずに正面から噛みつきに来たから瞬間加速してパワーで押し勝つ。


「ギッギ…」


 は〜、静かになった。

 うわ、体液全部酸じゃん。手が爛れてる。

 これだから落ち着いて神獣探しもできないんだよ。


「ちょっと休憩」


 良さげな切り株によっこらしょっと。どうせ神獣探しもできないし、とのんびり空を見上げてみる。


「……ソワソワする」


 早くもお客さんが来たみたい。


「「「ギギヂギチ!!」」」


 ひらひらと空を舞う。眼下、数多の顎が地中から飛び出して来ている。


「群体型兼軍隊型ってところかな?」


 予想通り、蟻ってのはファンタジーでありがちの強種族だよ。


人龍(ドラゴニック)多首咆哮(ロア)


 龍の手足を纏いつつ、複数方面への咆哮斉射により敵を制圧。


「次からはセットで〈変身〉にしようかな?」


 なんて、少し昔を思い出してみたり。


「起きろ、ウード」


 妖術の出力、操作性が向上する。

 やっぱり楽できていいや。


「「「ギ、ギチギチッ!!」」」


 咆哮が止まるとともに殺意を漲らせた多数の複眼が映る。


「だが残念。まだ私のターンだよ」


 何かを悟った蟻達が急いで飛びついてくるが…もう遅い。


「ギ、ギギ…」


「女王蟻、討ち取ったり」


 さっき休んでる時にどうせいるだろうと捜しておいたのだ。実際に見つけたのは蟻がここまで出向いてきてからだけどね。


 ま、見つけてしまえば強制遠隔転移で近くに出現させて土槍で拘束からの全力パンチでおしまい。

 酸がちょっと痛いけどそこはいつもの自律精霊盾(ウード)で守りきれる。


「仇討ち頑張り給えよ、アリンコさん」


 迫る蟻の顎をかわしつつ、


 〈龍門多重開門〉──〈オロチ〉


 幾つもの門を開く。


 蟻軍VS龍軍、戦いの火蓋は今切って落とされた!





 戦場を観ることしばらく、増え続ける蟻と無限に出てくる龍とで泥沼と化した戦場に変化が訪れた。


「ギギギ」


「うん?」


 速い。他の蟻より格段に速く強い蟻が戦場を切り開いている。おそらくは将校クラスだろう。

 今回は多勢に無勢でやられていったけど、たった一匹に随分と持っていかれてしまった。


「キェー!」

「キュー!」


 さらに、鳥と…モグラ。新たな神獣が格好の餌場にやってきた。今のところは蟻を食べてくれてるからいいけど…いつこちらに敵意を見せるかわからない。やっぱりこのままできるだけ温存、なんなら逃げて神獣探しでもいいかもな。


 そう思って身を隠そうとしたのだけど。


「⋯⋯⋯⋯⋯」


 少し思うところがあって足を止める。

 地上では蟻と龍、モグラが争いそこに鳥がちょっかいをかけている。一対一でさえ厄介な神獣が三種類。


 逃げるのも隠れるのも、間違った行動ではないはずだ。別にそれは悪いことではない。勝てない戦いは避けるべきだ。当然勝てるかわからない戦いも。

 そもそも今の私は仲間になる神獣を探したいのであって命がけの戦闘がしたいわけではないし、前までの妖力稼ぎにしたって徹底して一対一(一種族)にしていた。そうじゃないと死ぬから。


 だからこの撤退の判断は悪いことでもなければ間違いでもない…はずだ。それでも。だというのに。


「なんか、違う」


 逃げることは間違いではない。この選択が誤りであるとも思わない。けれど、何かが違うと叫ぶのだ。

 ならば、一度立ち止まろう。一度振り返ろう。 

 私が今の私に納得できないというのなら、その理由を見つけよう。それもわからず先に進めるなんて、私は思わないから。 


「私の知る魔王なら、どうする?」


 それは私の原点、起源。私を形作る根幹だ。

 彼らなら、自身は表に出ず部下に始末させるかもしれない。

 隠れ潜んで美味しいところで登場するかもしれない。

 そもそもこんなところに来ないかもしれないし、たぶん、この戦闘に参加したとしても血みどろになることはないと思う。


 つまり、私の取ろうとするものはやはり間違いではない。じゃあ、なんで納得できないのか。憧れにする彼らはこの私を否定する理由にはならない。


 じゃあ、違うんだ。私が私に納得できないのには他の理由がある。だとすればそれは憧れとの乖離ではなく、理想との乖離だ。


 私はどんな魔王になりたい?


 私は魔王になりたい。理不尽を跳ね除けて自分の意志を貫き通す彼らのように。じゃあ、具体的には?


 私という魔王は、どんな力で理不尽を跳ね除ける?


 私が最も魔王に近づいた日。あの短くも濃密で、死に近く、絶望に最も近づいたあの日の私は。どんな風に生きようとしたか。


【聖魔】シオン・セレスティンならば。


「あぁ…」


 じんわりと全身に震えが伝播する。

 大丈夫。おかしくはなってない。

 ただ、私を思い出しただけだ。


「足りないのは、絶望か」


 今だけは、ソレに同意しよう。


 私は自分の弱さを受け入れ、強さを求めた。本気であったつもりだ。遊んでいた部分もあると思う。だけど、時間を無駄にしたとは思わない。


「ただ、温い生活になれただけ」


 命は賭けてた。海の国でも、この島でも。

 だけど、それがよくなかったのかな。


 死が身近になりすぎた。


 死ぬのは嫌だ、だから死ぬ気で戦った。でも、本気で死ぬとは思ってなかったような気がする。


 ウードを取り込んで、精霊の力を手にして不死に近づいた。何度も死にかけて、その度に乗り越えた。


 だから、漠然と〝なんとかなる〟そんな風に思ってた。その感覚は『竜王』様と【神獣王】様から生き残ってからさらに強くなったような気がする。


「馬鹿らしい」


 思い出せよ。あの頃を。強敵を倒した。喜んだらすぐに勝てなくなった。成長を感じた、すぐに不足を突きつけられた。どれだけ強くなろうとすぐに上が現れて、私の自信を砕いていった。


 だから、強くなれた。次から次へと高い壁にぶつかるから。この世界は私に都合よくないんだって気づけたから。


 先の見えない暗闇の中で這い上がろうとするのは辛い。けど、だからこそ我武者羅に藻掻けたんだ。


「あぁ…」


 今の私はいうなれば野生を失っている。中途半端に人らしくなって、小賢しく保身を考えてる。そのおかげで生き延びれたこともあったのだろう。悪いことでもないのだろう。けど、


「私にそれは似合わない」


 カチリと、失ったピースがはまった音がした。


「〈挑発(タウント)〉」


 蟻が、モグラが、鳥が、その他いつの間にか増えていた多数の神獣達が一斉にこちらを向く。

 既に龍はいない。全部、喰われた。私を見る目は全て捕食者の眼だ。


「はっ!」


 だからこそ、燃える。


 腕を前に、手のひらを空へ。


「全員まとめて殺してやんよ」


 軽い挑発に神獣どもは牙を剥く。 



誰一人として止めることはできない世界の覇者、世界が恐れる個人、堂々と力で全てをねじ伏せる、そんな魔王に、私はなりたい。

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