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転生魔王の私はいずれ勇者に殺される  作者: 神星海月
第三章 神獣激突

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其の百六 竜から

 

 竜王様から伝えられた推測は、なんか思ってたのと違った。私はてっきりハッキリこうなんじゃない、みたいなのが来ると思った。けど実際に来たのは…。


『なんだ、つまらなそうな顔をして』


「いえ、そんな事は」


 そう、そんなことはない。決して。決して「そんな事わかっとるわ!」なんて思ってないのだ。


『ハァ〜、そうか。そんなに我の推測がどうでもいいというのならこれも伝えなくていいか』


「………何の話ですか?」


『いや何、お主がこの島に縛られている理由でも考えていたのだがな。どうでもいいというなら仕方ない、さっさと帰るといい。来た道を通れば問題ないだろう』


 ・・・めんどくさいなぁっ!このドラゴン!!


「イエイエ、ワタシトテモキョウミアリマス!リュウオウサマノオカンガエヲオキカセクダサイ!」


『なんだ、ひどく棒読みだが…そうできるなら最初からそうしていればいいものを』


 いや、嫌だけど。怖いし勝てないし敬意は持つけど、さっきのあれ聞いたら本気で心からの尊敬とかできないし。


「アー、ハヤクリュウオウサマノスイソクガキキタイナァー」


『……逆に話さなくて良いのではないかと思い始めてきたぞ』


「サーセンした!」


『……まぁ、いいだろう』


 ふぅ…これでよし。ご機嫌取りも楽じゃないね。


『………最早何も言うまい。お主を閉じ込めているものがいるとすればおそらくは【神獣王】だろう。外に出てすぐの山の山頂に住んでいるから会いに行ってみるといい』


「………それ、死にませんか?」


【神獣王】って封鍵の一体だし、私はこの世界の異物でバグ起こしかねない存在だし。さっきの竜王様みたく始末する理由は十分にあると思うのだけど。


『さてな。暇潰しの攻撃で死ななければ問題ないのではないか?あやつなら転生者と言うだけで殺しはせんだろう。さらに言えば、あちらも【龍王】とは揉めたくないだろうしな』


「そうですか…わかりました。ありがとうございます」


 仮にも龍である私を問答無用で殺すと【龍王】様との関係がアレなのか。ほんと、【龍王】様さまさまだね。


『さて、我はまたしばらく眠るとする。今回はなかなか楽しめたぞ。次は手土産でも持って来るが良い』


 そう言って、竜王様はふて寝するように丸くなった。この場所で永遠を生きる竜王様にとってはこれがいつものことなのだろう。


「………ありがとうございました。今回はこれで去らせていただきますが、次はもっと強くなって、竜王様の戯れを危なげなく生き残れるくらいになっておきますよ」


 そう伝えると、その巨体が僅かに身動ぎしたような気がする。拗ねてしまった竜王様から言葉は返ってこない。けど、それで十分だ。


「では、またいつか」


 去り際に約束を一つして来た道を歩く。

 歩きながら、思う。

 ひどくあっさりしている。


 さっきまで随分な圧を放っていたはずの竜王様は既に眠ったし、昔話から個人的なことまで語り合ったはずなのに、終わりは雑で別れの言葉も淡白だった。 

 嵐のようなというかなんというか…竜王様との邂逅が終わったという実感がない。


 先程まで目の前にいたのは私を気分で殺せるような怪物だったというのに、頭がふわふわしているというかなんというか。


 だから、これをどうしたものかと思いながら外に出て、微笑った。


「忘れてた」


 目の前には大量のクラゲとサメ、そこに紛れるようにして宙を泳ぐカサゴがいた。


 刹那、サメが飛びかかってきた。それをハッキリと目視して弾く。


「龍眼、龍腕、解放」


 左眼が裂けるようにして龍の眼が現れる。

 左腕が鱗をまとい、龍のものへと変わる。

 そして。


「やっぱり右腕がある」


 失われた右腕が痛みとともにその存在を主張していた。


 迫る触手を払い捨てながら動作を確認。悪くない。むしろかつてないほどによく動く。


 部分変身は可能、強化度合いは過去最高。差し当たって惜しむらくはこの痛みか。


 しかしまぁそれも仕方のないことではあるか。なにせ人の身に龍のそれを無理やりつけてるようなものなのだし。多少の拒否反応は許容範囲だ。


人龍(ドラゴニック)


 今までの龍人(ドラゴニア)は人の手足に龍の尻尾をつけた、龍の力を持つ人みたいなイメージだった。

 けれど、この人龍は違う。


「龍の手足を持つ人型、人であろうとする龍のイメージ、ってところかな?」


 迫るサメと触手を払い捨て、加速。一呼吸に周囲の全てを殺し尽くす。生憎と足場はない、というか前に溶かしたので宙を走ることになったがそれも問題なし。

 ちなみに熱は既に冷めてしまったようでこの足の耐熱性は確認できなかった。


「うん、いい性能」


 あと気になって見たけど胴体は人だった。まぁそのくらいのほうがいいか。右眼も人だし。適度に人らしさが残ったほうが第二形態って感じでいい。やっぱり完全龍化は最終形態だよね!


「さて、それで…君は何なのかな?」


 私の周囲をぐるぐると泳ぐカサゴ。そう、この間のカサゴだ。


 周囲を周りこそすれ敵意は感じないので放置していたのだがどうしたものか。

 手のひらを上に向けて指先を伸ばすと鼻先でツンツン。硬い。

 しばらくすると慣れたのか体を擦り付けるようにして押し付けてきた。


「わっ」


 試しに撫でてみるとゴツゴツしている。とは言っても私の手も鱗でゴツゴツしているのだけど。

 しかしこうしているとなかなか可愛いヤツだ。敵意がないし適当なところで逃がそうかな。

 そう思って辺りを見渡して…死体。私が殺したのではない死体を見た。

 ………爆発で殺したとは言え予想よりも数が減ってると思ったら……通りで増援が来ないわけだ。クラゲもサメも、私以外にも殺されてたんだから。

 そしてそれを成した者がいるとすれば、このカサゴなのだろう。


(どうやって?)


 そう考えた時、思い出した。


(そう言えばカサゴって毒があったような気がする)


 撫でる手が止まったことを疑問に思ったのかカサゴの眼がこちらを向く。そしてそのまま私の胸に軽く触れてきて…


「あっ…」


 人のままの胸を棘が貫いた。

 途端に全身が痺れるようにして意識が遠のいていく。

 体が前に倒れようとして、それをカサゴが支えようとしてさらに穴が開く。


(やっば…)


 薄れる意識の中で言葉を紡ぐ。


「りゅ、ぃ」


 龍血。竜の血とは、浴びた者を不死にするとさえ言われる。ならばそれは龍の血にも効果はあるはずであり、その血を流す私は不死ともいえる。少なくとも、状態異常なんて効かないはずだ。 


 そうに、決まっている。


「ハァッ!ハッ、ハッハ…はぁ…」


 急速に意識が覚めていく。視界は良好、思考も正常。身体も動く。毒の無効は、おそらく完了だ。


「……さて、と。どうするか…」


 一歩引いて泳ぎ回るカサゴに敵意はない。トゲが刺さって死にかけたとは言え、それすらただの不注意でしか無く攻撃ではなかった。

 殺意を抱かずに殺してくる真性の暗殺者じゃなければ、あれはただのミス。不幸な事故と言える。


「殺処分すべきか…しないべきか。どっちがいいかねぇ?」


 普通なら殺処分が安定なのだけれど、私は普通じゃない。だからこそ空いた穴は埋まってるし、劇毒も無効化できた。悩ましい。


「敵意持ってないからなぁ…なんなら友好的とさえ言えるのが難しいところか」


 これが向こうも距離を測りかねてどっか行ってくれたならそれはそれでよかったのだけれど。どうも付かず離れずで心配さえしているように見えるから困る。 

 反省はしてる。敵意もない。殺す理由もあまりない。


「よし、とりあえず何もなかったということで。さよなら!」


 私は脱兎のごとく逃げさせてもらう。


 もしかしたらなんかテイムみたいな感じでペットにできたのかもしれないけど、そんな気がするけど。

 私にもやることがあるのだ。なんかあったら未来の私が上手くやるさ、きっとね。


「待ってろ【神獣王】!今行くぞぉー!」


 御山の山頂までレッツラゴー!




 ━━━━━━━━━━━━━━━━



 ──知ってた。


 なんかこう。


 そんな気はしてた。



『異界の者よ、なぜ、この地に来た』



 白い体毛、見上げるほどの巨体。

 蒼き双眸、鋭く長い牙と、髭。


 あぁ、なるほどなるほど。これは素晴らしい。そりゃあそうだ。


「竜虎相搏つ」というが、今ならひどく納得できる。この圧は竜王にも劣らない。どころか勝っているとも言える。


 恐ろしいほどの圧だ。

 これでも竜王様の時の反省を生かして随分と結界を張っているというのに。


 ・・・これは後輩口調でも破れない、か。


 いや、それで敗れても困るけど。この人、まぁ虎なんだけど。この人にそんな対応をしたら〝終〟な気がする。


 さぁて、どうする?

 思考を回せ、身体に力を込めろ。

 思い出せ、今までどうやって生きてきた?

 強大な敵にであった時、主人公はどう意識を保っていた?


 狂気か、自信か、渇望か、憧憬か、高揚か、それとも…


 保ち方は幾つもある。反抗の理由も多くある。


 今の私はどれがあたる?


「─── 〈勇者(ブレイバー)〉」


 勇気を出せ。


 強大な圧に屈せず、前に進む力を望め。


 そして、言ってやるんだ。


「質問するならそれなりの態度があるんだよ!威圧止めろ!!」


 そんな事を、私は貼り付けにされながら叫んだ。


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