63 決着
師匠からこの技を習って今まで某は相手の一瞬の隙を見抜き一刀のもとに仕留めてきた。
この技でイズルには勝つ。
だが、そう思ったときイズルの母上の言葉を思い出した。
(イズルを助けねばならぬ・・・この状況で?)
虎吉がためらっている間にイズルが動いた。
虎吉は振り下ろそうとするイズルの太刀を受け流した。
双方の一瞬の動きに双方の覇気が風圧となって周りに飛び散った。
ガツッ!
イズルが虎吉の腹に前蹴りを入れた。
虎吉は吹き飛ばされた。
うまく着地しようとしたがよろけてしまった。
かなりの衝撃を食らっているのは事実だった。
双方の甲冑は耐えられず既にボロボロになって地面に落ちている。
そして某の着物はかなり切り裂かれ上半身は浅いがいくつも斬られている。
イズルの着物は無傷だ。
やはり奴の方が一枚強いのか。
「はっ・・・」
思わず笑った。
よく生きているなと己に感心した。
と同時にこれほど打ち合って折れぬ双方の太刀にも感心した。
イズルの目の前で太刀を水平に構え間を詰めた。
イズルが某の太刀を跳ね上げようとした。
某は太刀ごと身体を横に捌きイズルの下段からの攻撃を躱した。
そしてイズルの首めがけて太刀を水平に振った。
ザッ!
イズルが目の前から消えた。
瞬間一歩退いた。
イズルが某の一撃を潜って躱し、左逆袈裟斬りで反撃してきた。
(やはり押されているな・・・)
向こうは『月の清水』の力か。
その力に対して【覚醒】は力も速さも若干劣る。
そのはずだが。
ガン!
お互い刃と刃がぶつかった状態でイズルが懐に入って組み討ちで某の首を狙おうとしたので跳ね返した。
「はぁ、はぁ、お前はその程度か!」
イズルの呼吸が荒い。
やはり、シンドどのが言っていたのは事実のようだ。
初代帝王が戒めたセレーネ国に眠る最強の力。
その大きすぎる力を手にしたイズルの身体と精神がそれを支えるのはかなりつらいはずだ。
それでもイズルは太刀を構えている。
ヒュン。
イズルが片手で太刀を振った。
それを躱した。
太刀にまとわりつくイズルの覇気がかまいたちのように地面に飛んだ。
だが、その覇気は荒くなっていた。最初の覇気は無数の刃が襲うかのごとく鋭い痛みを感じた。
だが、今のイズルの覇気は鋭さが消え、まるで金槌を食らったかのような感触だった。
イズルは間を詰めてきた。
「お主必死だな」
「曾祖父は多くの人間、多くの種族、そして多くの国々を従えた。・・・その帝国に俺は生まれ、育ったんだ・・・」
潤ったイズルの眼が真っ赤に染まり、『暁』が黒く染まった。イズルが血を吐き、息を大きく吸った。
イズルは帝国のために太刀を振った。先祖代々守り抜いたこの帝国を自分も守らねばならぬ。
数々の思い出を作り、その思い出の中にいる人間に裏切られても、自分は帝国を裏切ってはならぬ。
自分は絶対に負けてはならない。
最強の帝国を守るために自分は最強でなくてはならない。
「ここが・・・わたしの居場所なんだ・・・」
イズルが力を込めた。
バキィ!
館に大きな亀裂が入った。
下の部分では庭園が崩壊していた。
階段の石はバラバラになっている。
館の崩壊がはっきりと見て取れた。
「はっ!」
イズルが気合いを攻撃をした。
ザン!
イズルが一撃を入れた。
躱したつもりが直垂が斬れていた。
「はぁ・・・」
こちらも呼吸は荒くなっている。
致命傷はないとはいえイズルの覇気に何度も身体を痛めつけられている。
動きも荒くなってきたか。
「はぁ・・・」
だが、イズルも同じだ。
某の覇気がイズルを攻撃している。あの身体はそうとう食らっているはずだ。
「・・・すっ!」
凄まじい風圧とともにイズルが虎吉に斬りかかった。その斬撃を虎吉は防ごうとした。
イズルはその虎吉の太刀を弾き一突き入れようとした。
「む!」
虎吉はその突きをかわして反撃しようとした。だが距離をとったイズルに追撃の一手を自ら止めた。
「大した目だ。アルブティガーよりすげぇ・・・」
イズルの赤くなってしまった眼の奥に曾祖父より受け継いだ武士の誇りがある。
その目が虎吉の動きを止めた。
「わたしの故郷は・・・わたしが守る・・・」
「であろうな・・・」
イズルの本当の目的は某を倒すことでは無い。
イズルの目的は守り続けること。
先祖から受け継いだ、この帝国を。
ドオン!
イズルが覇気で威圧してきた。
黄金よりも黒色が目立っている。
表情が苦しみを隠せないでいる。
「武士の誉れだ・・・」
この世界で最高の武士に出会えた。あの世界にとどまっていればお主に出会うこと無く、某は小さな人間で終わっていた。
「今まで色んな武士に出会ったが、お主ほど綺麗な武士は見たこと無かった」
虎吉は呼吸を整えた。
ようやく腹がすわった。
「・・・この一撃にかけよう・・・」
太刀を鞘に収めた。
柄を腹の前に持ってきて構えた。
「帝国はここから新たなる歴史が始まる。わたしが作る!」
イズルが呼吸を整えた。
そして太刀を上段に構えた。
お互い分かっている。
館が崩れていることはとうに知っていた。覇気の轟音と共に土台が崩れる音が両者には聞こえていた。
ずっと崩れた館が眼に入っていた。
栄光が崩れ落ちることなどお構いなしに戦い続けた。
だが、それもさすがに限界だ。
「これで、どちらかが生きて、どちらかが死ぬ・・・」
イズルがまっすぐに虎吉を見た。
「来い!」
虎吉が叫んだ。
(母殿、すまぬ。今は貴方の願いは無視する)
ダッ!
イズルが一瞬にして間合いを詰めた。
黒い覇気があふれ出る中、黄金の覇気が最大限あふれ出た。
そして黒い太刀が真っ白くなり、閃光と共に虎吉に迫った。
この瞬間、虎吉は明鏡止水の境地が最高潮に達した。
静かな呼吸の中、イズルがよく見えた。
「はっ!」
イズルが太刀を振り下ろした。
それに合わせて虎吉が太刀を抜いた。
双方の刃の輝きがぶつかろうとした。
ガイイイン!
崩壊する館の上で、虎吉の黄金に輝く鞘から抜いた光を放つ神速の一撃がイズルの『暁』を弾き飛ばした。
そして二ノ太刀がイズルの首筋で止まった。
「すぅうううう!」
震えるような大きな呼吸でギリギリ止めた。
イズルは膝をついてしまった。
胸の奥から今まで耐えていた苦しみが湧き上がっていた。
「勝ったぞ!」
虎吉は叫んだ。
喜びを抑えきれず叫んだ。
「ウォオオオオ!」
イズルも叫んだ。
悔しさを抑えきれず叫んだ。
ガララララ!
そのまま2人は崩壊する館の瓦礫と共に落下した。
イズルが苦しんでいる。
虎吉はイズルを抱きしめた。
2人は館の頂上から真っ逆さまに落ちていった。
ドオオン!
上空に巨大な雲が現れ、雲一面黄金に光り出した。
「グォオオオ!」
雲の中から2人の元へ数匹の龍が一気に猛スピードで降りてきた。そして守るかのように2人を包み込んだ。
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