61 武士らしく
「一騎打ち?」
驚きだな。
元の世界で幼い頃に一騎打ちなどとは話には聞いたが、見たことなどもちろん無く、自分は蒙古相手に一騎打ちなどやらなかった。
それをこの世界で魔物相手に何度も行った。
そしてついに帝王とも一騎打ちを行うのか。
「あの子は初代帝王を誇りに思い自らを初代帝王のような武士になりたいと願っております」
「4代目は某が、武士の世界から来た本物の武士だと思っているのですか?」
皇后さまは頷いた。
「そんなあの子だからこそ、望んでいるでしょう。あなたとの一騎打ちを・・・そして、あの子を殺さないで負けを認めさせてこの戦争を止めて欲しいのです」
「え・・・っと、それは」
ちょと待ってくれ。
要求が難しすぎる。
確かに某は4代目に会いたい。
だが、あの4代目相手に一騎打ちを挑んで、殺さないで勝てというのはさすがに無理だ。
「これを娘に渡してください。どうか母として失格の女の願いを聞いてください」
皇后は某に一通の文を渡した。
「失格・・・なにゆえそのように思われるのです?」
「わたしは長男のカリンが10才の時に帝都から去りました。それは夫からの命令でそのときあの子はまだ5才でした」
「夫と申しますと、3代目ですか?」
ルナが尋ねた。
ウリンは頷いた。
「失礼な事を・・・おたずねしますが、帝国がこのようになってしまったのは3代目に原因があるという声もあります。そのことに関して太后様はどのように思ってられますか」
ルナはおそるおそる尋ねた。
「夫もそれを感じておりました。夫はそれは自分が子供の頃、特に母上のもとで甘えに甘えた自分が自分の父や祖父のように威厳を持てなかったのが原因だと思い、突然わたしを帝都から追い出したのです」
「それは・・・」
「それで一番、心に傷を負ってしまったのがヒノなのです。幼いときにわたしが消え、兄が消え、そして姉も消えたあの子は、孤独となってあの子にわたしの言葉は届かなくなりました」
「それで某に最後の望みを託したと」
「あなたは純粋な武士です。ヒノは純粋な武士であった曾祖父に憧れております。貴方はヒノを止めてくれる最後の希望のような気がするのです」
「我が父は、戦で亡くなりました。戦というのは必ず誰かが死にます。それが死んで欲しくないと願った者でも不思議はありません」
皇后にこれははっきりと言わねばならぬと思い、言った。
「もしかしたらあの子の運命はこれで終わりかもしれません。ですが、わたしはあなたに望みを託したい・・・」
「母として我が子があのようになってしまったのは確かに辛いことだと思います。・・・全力で皇后様の願いを叶えたいと思います」
「ありがとうございます!4代目に文を送りなさい!真の武士があなたと一騎打ちをすると!」
母上は立ち上がると深々と頭を下げ、侍女に命じた。
「ところで先ほど、4代目を娘と申しておりましたが?」
「あの子の本当の名は、ヒノわたしの大切な娘なのです」
「あぁ・・・」
あやつ、女だったのか。
そういえばじゃっかん胸が膨らんでいたような気がする。
某は文の返事を皇后様の館で待つことにした。
それはすぐにはやってこなかった。
何日も湖畔に落ちる太陽を見た。
「御夕食の支度が整いました」
侍女が、知らせに参ったので食事をする場所へと向かった。
山菜の入った小瓶。何かの魚と何かを一緒にした不思議な食感の食べ物が入った碗。刺身。焼き魚。肉。何かを蒸したという食べ物。海老。魚を昆布で巻いたもの。炊き込みご飯。お吸い物。
そしてここでも出てきた、チチカム。
「お食事中失礼いたします。4代目より返事が届きました!」
食事中にユリハどのが部屋に入ってきて、某に文を渡した。
竜胆の家紋が入った封を開けた。
「・・・受けて立つそうだ。・・・明日」
この文を信じれば、4代目は本気だ。
本気で一騎打ちして自分が負ければ、その時、軍に戦を止めるよう指示すると。
「風呂の準備は出来ております。ゆっくりと入って、明日に備えてください」
某は食事を終えると、風呂に入り、そして新しい直垂も用意されている寝床に入った。
不安を消せぬのは致し方ない。
ならばそのままで横になろう。
そして朝が来た。
メタルタートルの甲冑を着け、『光明』を腰に帯びた。
「おーい!」
「マカミどの!?」
マカミどのがイーミーに乗ってやって来た。
「俺は今からサハリのこの札で戦場にワープして暴れてきてやる。お前はイーミーに乗って4代目のところまで行け。4代目は本気だな。約束は守るだろう」
「・・・正直、とんでもないものに巻き込まれたと思っております」
こんな時に弱音を吐いてしまった。
マカミどのは笑った。
「だろうな。今、戦場で戦っている兵士達、皇后、4代目、お前の女、みんなこの時代に巻き込まれた。みんな逃げられない」
「グルルルル」
イーミーが某の顔をなめた。
「だからこそお前1人だけじゃない。俺もサハリも・・・お前の女も共に戦っている」
マカミどのと手を握った。
「運命ってのは人の都合なんざ聞かねぇ。どういう場所に生まれて何やらされるかなんて知るか。でもよ、あれも運命かもしれん」
マカミどのが見た方を見た。
ルナどのがいた。
「ルナどの【覚醒】をかけてくれ」
「はい!」
ルナどのが呪文を唱えた。
「身体の真の奥底で眠る真の力よ・・・今こそ目覚めよ・・・【覚醒】」
全身の力がみなぎってきた。
ルナが抱きついた。
「絶対帰ってきて下さい!」
「ああ・・・帰るよ」
某はイーミーに乗った。
イーミーは大空へと飛んだ。
「・・・見えた!」
大きな、大きな都があった。
先が見えぬほど遠くへ続く大きな一本道が真ん中にあった。
その道の真ん中に大きな館が見える。
イーミーはその館の頂上を旋回した。
その下でこちらを見ている。
4代目だ。
イーミーが地面に降りると某はイーミーから降りた。
大きな御殿だ。
今まで見た中で一番大きかった館がここが世界のてっぺんだと声高に主張している。
「やあやあ、我こそは・・・虎吉なり」
生まれて初めて名乗った。
「やあやあ、我こそはイズルなり!この世界の武士である!」
イズルが名乗った。
真剣な表情が言っている。
「曾祖父が作り上げたこの国を守る」と。
日本の甲冑を着けて曾祖父より受け継がれし太刀を握っている。
「お主の先祖は大したものだ。この世界という領地を手に入れ、そしてこの世界を見事治めた。間違いなく武家の棟梁の中の棟梁だ」
シュパン!
イズルが太刀を振ると剣先より放たれし、黄金の覇気が大きな風となり某を通り抜けはるか彼方まで飛んでいった。
聞くところによるとその帝王の太刀に1万の兵力が一瞬にして倒され、のこりの兵達は恐怖に震えたと。
強者だな。
だがその姿に貫禄はない、
見えるのは抗う者を全て叩き潰さんとする禍々しい強さ。
「この世界に何しに来た?『黄金の日輪』の時にお前はなぜやって来た!」
「イズルどの。某が『黄金の日輪』の時にここに来たのはただの偶然だ。そしてお主が帝王の一族に産まれたのも偶然だ・・・」
某は太刀を抜いて、初めてこの者の名を呼んだ。
「その偶然の中で我らは出会った。国を守ろうと強くなりたいお主の前に某が現れ、この世界で我が願いを叶えるために強くなりたい某の前に、お主が現れた・・・逃げられぬ。我らは武士だ」
「アカツキの栄光は俺が守る。これからも!」
我らの意思に呼応しているのか、双方の刃紋が光り出した。
虎吉が脇構えをとった。
イズルは霞の構えをとった。
お互い強力な力が混じり合った力を体内から剣先へと張り巡らせた。
双方手を緩め、お互い目をつけた。
そして静かに呼吸をした。
双方一気に間を詰め、ぶつかり合うお互いの刃から覇気が飛び出し周辺を揺らした。
お互いの太刀は相手の鎬にそって鍔元まで打ち込まれ、双方に衝撃を与えた。
2人とも吹っ飛ばされるように距離を取った。
某は構え直し、再び己の中にある力を太刀先まで行き渡らせ、間を詰めようと思った。
イズルが一呼吸早く間を詰め、某の太刀を払った。
瞬間、眉間に鋭い突きが入るのを感じた。
それを躱そうと退いたら、今度は首に同じものを感じた。
そしてその正体を一瞬で見破った。
大したもんだ。
覇気を、とがらせて刃のような錯覚を与えさせる。
ガィイイイン!
下半身を入れ替えて、覇気に隠された本物の突きを払って、イズルに太刀を入れた。
普通だったらそこで終わらせることが、できたがイズルはそれを躱した。
双方の太刀から覇気が放射状に、地面に傷をつけていた。
イズルは間髪入れず虎吉の眼を狙って太刀を振った。
ギリギリで躱した虎吉の左右に衝撃が走り、一部が館の壁を崩した。
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