55 ロベルトの戦い
「間違いないか?・・・よし!」
吉報を聞いた。
俺は早くアイネさまに報告しようと早足になった。
俺は今、ジン国の勇敢なる兵士達と共に帝国と戦っている。戦場であるプレリウ平原に無数のテントが設置されていた。その中の1つにアイネ様がいた。
「アイネさま、失礼いたします!」
「お入りください」
アイネさまが、「入れ」と言ったので中に入り膝をついた。
アイネはペンダントを見ていた。
そのペンダントは笹竜胆の形をしていた。
アイネさまが大切にしているアカツキ帝国の宝石商ヴァンクールがサンオーラを帝族のファミリー・クレストにカットしたペンダントだ。
ペンダントからその美しく気高い瞳を俺に向けた。
俺は背中がいっそう立った。
「吉報です!サー・マカミ率いる人狼部隊が宰相直属隊を倒しました」
マカミ率いる人狼部隊が宰相直属隊を倒した報告はジン国の兵士および援軍に仲間と共に駆けつけたロベルトの士気を大いに高めた。
「あのベルガ宰相の部隊を!?間違いないのですか?」
「間違いございません。人狼に付き従っていた兵が証言しております。我らがジン国と共に帝国を撃退すれば、多くの国が我らの味方をするでしょう。アイネさまの願いが叶うときがついに来るのです!」
これで我らが帝国軍を撃退すれば、この戦争は我らに有利となる。
今、アカツキ帝国は挟み撃ちに遭っていると言って良い。
ホリー国サイドからの連合軍と反対方向からホリー国の支援を得て活気づいたジン国の軍勢を相手にせねばならない。
そんな状況下、帝国は手っ取り早くジン国を倒せば片方が潰れ、自分たちの有利になると考えた。
そして残りの連合軍を潰せると予想して、主力部隊がホリー連合軍を抑えている間に宰相の提言で宰相直属隊率いる別働隊がジン軍を壊滅させようともくろんでいた。
しかし、その宰相直属隊がサー・マカミ率いる人狼部隊の奇襲によって壊滅した。
風は俺たちに吹いている。
守護聖人と決めたアイネさまの願いを自分が叶えることが出来るのだ。
ナイトとしてこれほどの栄誉があろうか。
「・・・・・・」
だが、アイネの心はロベルトとは対照的に湧き上がらなかった。その報告を聞いてペンダントを強く握りしめた。
「私には妹がおります・・・。このペンダントは母が、私たちのために特注で作ってくれ、私と妹に与えてくれました。私たち2人はそれをずっと大切に持っていました」
「はっ」
アイネ様の目が憂いていた。
俺は知っている。
アイネ様が俺をこの世界に連れてきてくれ俺の側にいてくれ俺はアイネ様のおかげでモンゴル軍によって打ち崩された騎士としての誇りを取り戻すことが出来た。
そんなアイネ様がある日、俺に打ち明けた。
俺を信じて、それを話した。
俺はアイネ様の願いを叶えなければならない。
「その妹は、同じペンダントを持っているのですか?」
「・・・サー・ロベルト!」
アイネ様が力強く俺の名を言った。
俺は姿勢を正した。
「私の願いは帝国を滅ぼすことではありません!」
「承知しております。この戦争に勝ち、我らが有利となればアカツキ帝国と和平交渉が出来ます。ジャックも申しておりました。そのときアイネさまは交渉の席につき、新しい世界で妹と共に生きていける世界をお作りになってください」
ロベルトは膝をつき、剣を立てて頭を垂れた。
「このロベルト、そのために全力で戦うことをお誓いします!」
「敵が来ます!」
ジン国の偵察兵が戻ってきて、ロベルトに報告した。
「数は?」
「1万ほど」
「1万だと?」
ジン国の軍勢は総数3万に対し、帝国は3分の1の兵力でやってきた。
アイネが杖を握り立ち上がった。
「・・・すぅ」
一呼吸。
アイネの周りに光が集まり、アイネを包み込んだ。
「行きましょう」
「は!」
アイネ様がテントから出た。
俺は後に続いた。
アイネ様が皆が待っている広場へと到着した。
皆の目がアイネ様に注がれる。
「勇敢なる諸君!」
アイネが仲間に号令した。
「私は貴方達に誇りを感じ、感謝をしております。私はこの世界に新たなる光をもたらしたい。そしてそのためには私は貴方達が必要なのです。どうか私に力を貸してください!」
「「「「「「おー!」」」」」」
1000名の騎士達が奮い立った。
アイネ様が先頭にたち蹄の音をならしながら1000名の騎士を導いていく。
そして我らは戦場へついた。
「来たな」
前方から帝国の軍が見えた。
様々な甲冑を着た、様々な種族で構成された軍隊だった。
無論ジン国も様々な種族がいるが、帝国ほどでは無い。
戦いは最初に弓兵達が弓を射かける。
そして自分たち騎士団が突撃する。
「アイネさま、支援魔術を!」
アイネが杖を顔の前に掲げた。
「正しき心に宿る正義よ、悪を吹き飛ばす力を与えたまえ・・・」
杖の宝石が光り出した。
「【剣撃】!」
ロベルトの周りに光が集まりロベルトの体の中へと入ってった。
それにより全身の筋力にさらなる力が増した。
それは、虎吉と共にリザードマンを倒した時以上の力だった。
「アイネさま、後方にお下がりください!」
他の仲間も別の魔術師達が支援魔術をかけた。
俺は剣を構え、突撃した。
「ご武運を」
アイネが後方に下がった。
「グォオオオ!」
ジャイアント・オークが大剣を振り回しながら大声を出していた。
「突撃!」
合図と共に、俺達は敵に向かって突進した。
前方にいる敵が矢を放った。
無数の矢が飛んできた。
その矢を今身に付けているメタルタートルの甲冑が全て弾いた。
俺達はそのまま突っ込み敵を弾き飛ばした。
「グゥオオオ!」
先ほどのジャイアント・オークが俺と勝負したいのか剣を振り回して叫んでいる。
俺は馬から降りその勝負を受けた。
ガアアアン!
俺の剣と奴の剣がぶつかった。
奴が屈強な腕力で俺を押しつぶそうとした。
「その程度か!」
バァアアン!
全力の【剣撃】でジャイアント・オークを押し返し、倒れた奴の心臓にロングソードを刺した。
ジャイアント・オークは深い赤紫色の素石へと変わった。
「アイネ様やりました!」
味方の大歓声と共に高らかに剣を天に掲げた。
「ん?」
仲間が1人つぶやいた。
帝国軍の後ろから、もう1部隊やってきた。
しかもそれは空から小竜にのってやってきた。
敵も味方も沈黙した。
それほど異様な何かを感じた。
「まさか・・・」
アイネが驚いた。
小竜に乗っていたのは、アイネがよく知っている人物だった。
だが、何かが違う。
「ヒノ・・・」
「やあやあ、我こそは!」
小竜に乗った部隊が帝国軍の最前列に降り立った。
小竜に乗っていたのは、4代目帝王だった。
「世界を統べる帝王なるぞ・・・」
「まさか・・・」
ジン軍は動揺した。
目の前に4代目がいる光景が信じられなかった。
無謀にも戦場の最前列に倒すべき大将が立っているのだ。
「今一度、お前達に最後の望みを与えよう。全員今すぐ我の前でひざまずけ!そして今一度忠誠を誓え、そうすれば命は助けてやろう」
その言葉にジン軍はますます混乱した。
「くっ!」
ロベルトが奥歯をかんだ。
4代目帝王を初めて見た。
そして異常を感じた。
4代目から不気味なオーラがあふれ出ている。
黄金のオーラに不吉な黒いオーラが混じっている。
「・・・俺はもう2度とあんな思いはしたくない・・・」
ロベルトは味方に振り返り、力一杯叫んだ。
「勇敢なる諸君、帝王の言葉に耳を貸すな!あの者は忠誠に値しない!」
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