43 古の王国
「ここか・・・龍の楽園は?」
真っ青な空の下に、どこまでも続く白い大地の上に我らは立っていた。
地面を触ってみた。
何ともいえない感触だ。
堅くはない。
これはまさに雲の大地だった。
その上で巨大な嵐が巻き起こっていた。
まるでその上を見せないかのようだった。
「龍はどこだ?」
「う~ん、どこでしょう?」
龍はおろか生き物も草木も全く見当たらない場所で、まるで某とルナどのしかいないかと思えた。
タッタッタ・・・。
「おい!」
「ん・・・え?」
突然後ろから直垂を引っ張られた。振り向くと、フードをかぶり、弓と4本の矢を持った童男が直垂を掴んでいた。
「男の子!?」
「お主、どうやってここに来た!?」
目が丸くなってしまった。
まさか某とルナどの以外の人間がいるとは思わなかった。
「そんなことはいい。僕に付いてきて」
童男が先を歩き出した。
フードで顔を隠しているあの童男はいったい何者でいつからここにいるのだ。
「ルナどの、どうしよう?」
「どうしましょう?」
正体のわからぬ童男に我らは戸惑った。
いったい我らをどこに連れて行く気だ。
「何やってんだよ、置いてくぞ!」
この竜の楽園であの童男を1人にするわけにはいかぬ。
我らはついて行くことにした。
「お前は何者だ?」
「武士だ」
童男が某に尋ねてくる。
「武士は何のために戦う?」
「手柄を立てるために」
「武士の手柄は何?」
「領地を手に入れることだ。なにゆえ、そのようなことを・・・」
「あれを倒せ!」
童男が指さす方から黒い塊が見えた。
その塊が段々大きくなり、形がわかるようになってきた。
「スカイスネーク!?・・・に人が・・・」
「スカイスネーク?」
蛇のように長い胴体に頭に角を生やし、翼で空を飛んでいた。
その魔物に乗った3騎の甲冑を来て武装した3名の者どもらががこちらに突進してきた。
「弓矢を渡すから倒してくれ!」
童男が某に弓矢を渡した。
「ルナどの、その童を守れ!」
「は、はい!」
ルナどのは童男と一緒に後ろへ避難した。
敵の一騎がこちらに鏃を向けた。
「面白い!」
心身を集中させ、鏃をこちらに向けて迫ってくる一騎に狙いをつけ弓を引いた。
シュパッ!
敵が矢を放つ前にこちらから放たれた矢は、敵の首を貫通し敵は倒れた。
こちらが矢を放ったすぐ後に敵の矛が襲ってきた。
躱すと矢をつがえ、円を描くように某の周りを飛ぶ敵に狙いを定めた。
シュパッ!
2騎目を倒した。
敵は残り1騎。
敵はいったん離れた。
「身体の奥底で眠る真の力よ・・・」
虎吉が敵と戦っている間ルナは何かを察知して呪文を唱え始めた。
敵が戻ってきた。
何かを高々と上げている。
よく見ればそれは数体の首だった。
「ふっ」
蒙古の戦を思い出す。
蒙古どもらの首をたくさん討ち取った。
持って帰れば願いが叶うと信じていた、幾多の首。
「某の首が欲しいか!?ならばここまで来い!」
某は弓を構えた。
敵は刀を抜いて迫ってきた。
心身を研ぎ澄まし狙いを定めた。
ダッ!
某の右後ろ斜めから突然、もう一騎現れた。
その敵はルナどのと童男に向かって突進した。
油断した。
某が集中している目の前の敵はおとりだった。
「今こそ目覚めよ・・・・・・」
ルナはひたすら呪文を唱え続けた。
「このやろう!」
振り返りルナどのを襲う敵に鏃を向けた。
背後から敵が迫ってくるがルナどのを助けねば。
「【覚醒】!」
突然某の身体に凄まじいまでの力が流れ込んできた。
「むん!」
4代目が出していたのと同じ黄金の覇気を敵に飛ばした。敵は覇気に吹き飛ばされ落馬した。
振り向きざま刀を振り回して突撃してきた敵に矢を放った。
敵の頭を兜ごと射貫いた。
「最後はお主だ!」
落馬した敵に刀を抜いて近づいた。
敵も起き上がり刀を振り上げてこちらに突進してきた。
敵を鎧ごとたたき切った。
「グォオオオオ!」
そのまま倒れるかと思ったら敵がうめき声を上げ身体を震わした。
眼が真っ黒になり、髪が異常に長くなった。
「ギャオアアアア!」
奇声を上げて、刀を振り回してきた。
もう一度斬り、距離を取った。
「カァアアアア」
敵は消えない。
どうやらこいつは怨霊のようだ。
「ギャオアアアア!」
さらに奇声をあげて攻撃してきた。
その光景にさすがに背筋が凍る。
「喝!」
己の魂に喝を入れた。
気合いと共に怨霊を斬った。
かつて師匠に聞いたことがある。
怨霊は消すことの出来ぬ残留思念を持っているためこの世に留まり続けている。
もし怨霊と戦うときは己の魂に渇を入れて斬れと。
「すごい!」
怨霊を倒すと童男が大喜びした。
「弓を返すよ」
某は弓を童男に返した。
「虎吉さま!」
「なんだあれは?」
いつのまにか嵐が消えていた。
無数の雲が浮かんでいた。
その雲の上に建物がたくさんあった。
「あれは、古の王国グローリ」
ルナどのがつぶやいた。
「小さい頃、聞かされた通りです。空白の千年の歴史が目の前にある・・・」
「で、あそこにはどうやって行けば良い?」
「たしか、竜の楽園の魔法によって・・・」
「えい!」
童男が膝をかがめて飛んだ。
童男はまるで中に浮いたかのごとく飛ぶと、雲の上に乗った。
「やってみて。出来るよ!」
ルナどのが飛び上がると、そのまま浮いて雲の上に飛び移った。
「虎吉さまも!」
「う、うむ!」
ルナどのと童男がやったとおり膝をかがめて飛んだ。
某も浮いて雲に飛び乗ることが出来た。
「この先の大きな雲まで行こう。そこにあるのはグローリ王国の神殿だ」
周りには木々が生えた雲の大地に無数の白い建物があり、雲の渡り道とも思えるような小さな雲が、遠くにある大きな雲まで続いてた。
我らは神殿へと向かうため雲の渡り道を飛びながら、手前の雲の大地に飛び乗った。
まるで宙に浮く白い建物の中を飛びながら、まるで大きな渡り廊下のような道を進んでいった。
「よし、あと一歩!」
渡り廊下の橋まで来たとき、雲の道が途切れていた。
神殿らしきものが途切れ途切れに続いている雲の先に見えた。
「「「せぇっの!」」」
我らは手前にある雲、目がけて飛んだ。
着地した瞬間、雲が崩れ落ち我らは下へと真っ逆さまに落ちた。
ギュオオオオ!
雲が黄金に輝いた。
そして雲の割れ目から巨大な魔物が現れた。
「龍神だ・・・」
鱗で覆われた大きな胴体。
全身から【覚醒】以上の黄金の覇気を放ち、大きな眼でゆっくりと落ちる我らを見下ろした。
龍の腕に竜胆の家紋が掘られた数珠が見えた。
龍神が眼を細めた。
そして大きく見開いた時、我らは光りに包まれた。
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