40 アルブティガーとの一騎打ち
「・・・・・・はぁ」
アルブの森を一人で歩いてアルブティガーを探した。アルブティガーは夜明けと日暮れに活発に動くそうだ。
「なんだこれは?」
地面に深々とえぐられた5つの溝があり、その溝は大岩のような大木に幹を深々と切り裂いていた。
マカミさまから聞いていたが、これがアルブティガーが「ここは自分の縄張り」だと主張している行為か。
「何だ?」
水辺の側に腹がごっそり無くなったギュスターの亡骸がある。
アルブティガーがここでギュスターを食べたのか。
某は今、この森の魔物達から見ればただの餌が歩いてるように見えるのだろうか。
ちかくに巨大な湖があった。
周辺には魔物たちが水を飲んでいた。
アルブティガーは毎日己の縄張りを歩き回っているという。
己の縄張りの荒らすものは容赦しないらしい。
ある時、縄張りを巡ってアルブティガー同士が喧嘩をしたという。森の中で一日中双方の咆哮が響き渡り、決着がついたときには周りの木々が切り刻まれ、その場所にしばらくの間、他の魔物は寄りつかなかったという。
アルブティガーに会いたければ方法は3つ。
1つ目。
縄張りを歩いているアルブティガーに会う。アルブティガーは獲物を求めて1日に10里(40キロ)は歩き回っているらしい。
2つ目。
どこかアルブティガーの獲物がよく現れる場所でアルブティガーが食べに来るのを待つ。
3つ目。
己自信がアルブティガーの標的となる。森の中で突っ立っていれば獲物としてアルブティガーが自分を襲うかもしれない。
「ここで待っているか」
2つ目の方法であそこで水を飲んでいる獣をアルブティガーが餌として現れるのを待つことにした。
無論、出てくる保証はないが、1つ目はずっと歩き回っていたが出てこなかった。
3つ目は自分が餌になるのは嫌だ。
従って、あそこの獣たちをアルブティガーが襲うのを待とう。
倒木の影から水を飲む魔物たちの様子を見た。
鼻先に巨大な角を生やした魔物達だ。
時々、辺りを見回した。
アルブティガーは獲物を襲うときは茂みに潜み、一撃で仕留めるという。
他の魔物に気をとられてアルブティガーの不意をつかれてはたまらん。己の存在を消して身を低くして、五感を研ぎ澄ました。
周りには自分の背丈を遙かに超える茂みが生い茂っている。目は頼りにならない。
アルブティガーは茂みに中に己の巨体を完璧に隠すそうだ。
これまで鍛えた五感でいつでも戦える状態にした。
ソギの木の白い花粉が振ってきた。
アルブの森が純白へと変わった。
「寝床を作ろう」
真上に登っていた太陽が傾いている。
まもなく夜が来る。
巨大な大木にそれ自体、幹とも思えるほどの大きな枝を立てかけた。その周りを若い木の枝を折って並べて立てた。
地面にはアルブゴケを敷き、ソギの葉で並べておいた枝を覆った。
某は床についた。
「・・・・・・出たな!」
気配を感じる。
背筋に冷たい風が流れた。
ドン!
まだ薄暗い中、某の上にある木の上に巨大な影が見える。
ドラゴンバードだ。
「くるか!」
もう一つの風を感じた。
遠くの茂みから白い巨体が飛び出した。ドラゴンバードも察したか、飛び立とうとしたが、遅かった。
ドラゴンバードはもう一匹の巨大な魔物に喉元を噛みつかれ地面にたたき落とされ、腹を食いちぎられた。
「でかいな」
1分(3メートル)。いや、もっとでかい。あと、1間(1,8メートル)ほど足した大きさだ。
アルブティガーだ。
「・・・・・・武士の本望だ」
記憶の種を飲んだ。
全身から【疾風迅雷】の力が湧き上がってきた。
某は太刀を抜いた。
「その首をよこせ!」
あらん限りの大声を出した。
食事中のアルブティガーがこちらを見た。
太刀の切っ先をアルブティガーに向けた。
アルブティガーが食事を止めた。
そう分かっている。
目の前に自分を狩ろうとしている奴がいることを。
アルブティガーが低い姿勢でゆっくりと動き出した。といってもあの巨体は姿勢を低くしても頭は某の上にある。
アルブティガーが歩くたびに地面が揺れ、木々が揺れた。
マカミさま曰くアルブティガーが竜と戦うとき、空が揺れたという。それによって竜はうまく飛べなかったと。
「っ!」
いきなり飛びかかってきたのをかろうじて右に躱した。そしてそのときに脇を斬ったつもりだった。
だが、アルブティガーに何の変化も見られない。
「仕留め損なったな・・・お互いに・・・」
アルブティガーが動く前に前にこちらが先に半歩せまり、慎重になっているアルブティガーの右へと回った。
「ぐっ!」
瞬間アルブティガーの強烈な一撃が飛んだ。
巨体と侮ってはならぬ速さだ。
太刀で防いだが、吹き飛ばされた。
すぐに立ち上がった。
ガィィィン!
突進してきたアルブティガーを刺そうとしたが、それをアルブティガーが右手で弾いた。
「ガァア!」
巨大な牙で某をかみ殺そうとした。
それを躱した。
躱した瞬間、アルブティガーの牙が某の後ろにあった大木に深く刺さった。
「いまだ!」
今のうちにアルブティガーの腹を切ろうとした。
バキャア!
アルブティガーが牙で大木を深くえぐり取り、そして左手の鋭い爪で某の額を切り裂き、額から血が流れ出た。
「ガァアアア!」
アルブティガーが咆哮と共に出した覇気は、凄まじい破壊力と闘争心で、鍛錬によって必死に作り上げた不動心を揺らす。
アルブティガーとの間合いを詰めようとした。
「ガァ!」
それよりも早くアルブティガーが攻撃を仕掛けた。
短刀ほどの長さはあろうかというアルブティガーの強烈な爪が某を襲った。
躱すと爪は地面に深くえぐり込んだ。
地面が揺れた。
衝撃が地面を揺らした。
マカミさま曰く、アルブティガーの一撃で背骨を粉々に砕かれた奴はいくらでもいるらしい。
太刀を構えた。
敵はうかつに攻撃してこない。
アルブティガーも見極めている。
さすが歴戦の強者。
「ぐぅ!」
脇腹に激痛が走った。
一瞬の、気後れが遅れをとった。
アルブティガーの隙をついた牙が某の脇腹を切り裂いた。
だが、お返しにアルブティガーの横っ面を斬った。
ガアアアン!
アルブティガーが振り向きざま巨大な5本の爪を振り下ろした。
某は吹き飛ばされるように退いた。
目の前に地面に巨大な爪で引き裂かれた溝が出来ていた。
アルブティガーが後ろにさがりだした。あの巨体もかなり血は出している。
だが、あの巨体は全く闘志が下がっていない。
そう奴は言っている。
「俺こそが最強」だと。
龍をも恐れさせる魔物がその小太刀のように長い牙で一気に仕留める気だ。
今一度、マカミさまとの鍛錬を思い出した。
不動心で敵を見た。
某は太刀を鞘に収めた。
「最後に言おう。某はお主より強い!」
某は背中を見せて走った。
「ガアアア!」
アルブティガーが追撃してきた。
アルブティガーの覇気が某を追い越した。
アルブティガーは某の背中めがけて跳んだ時、太刀を抜きながら振り向きアルブティガーの喉元めがけて思いっきり踏み込んだ。
ガリィ!
「・・・・・・・はぁ!」
しばらく息ができなかった。
某は仰向けに倒れ、某の身体にアルブティガーが乗っかっていた。握っていた太刀を見た。
メタルタートルで造られた太刀は根元から折れていた。
折れた刃はアルブティガーの喉元に深く刺さっていた。
「倒したか」
マカミさまがやってきた。
「倒した・・・」
手を伸ばすとマカミさまが引っ張ってくれた。
アルブティガーの亡骸を眺めた。
これを本当に倒したのか。
まだ五感が震えている。
アルブティガーの亡骸が光に包まれ黒い表面に白く輝く模様のついた素石が現れた。
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