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39 強者が住む森

「アルブティガーの強さについて教えてやる」


 夜、マカミさまの家に招待された。

 ドラゴンバードの肉を食べながらマカミさまがアルブティガーについて語ってくれた。


「この世界で一番古い存在とされているのは竜類とハサルトだと言われ、空と海は龍とハサルトが仲良く治めているらしい。だが大地は少し違っている」


「大地は誰が治めているのですか?」


「竜類だ。だが何千万年前にその大地で竜類に勝負を挑んだ奴らがいる。アルブティガーだ。竜類とハサルトが生まれた時代を学者は『第一紀世界』と呼び次に誕生した『第二紀世界』と呼びその時代に生まれ、竜類に挑んだ魔物の代表格がアルブティガーだ」


「勝負はどうなったのですか?」


「アルブティガーは負けた。そしてアルブティガーおよび『第二紀世界』の魔物は全て滅んだと言われた・・・のはずが!」


 マカミさまが、部屋の隅に置いてあったものを某に見せた。

 それは大きな穴が空いた龍の頭骨だった。


「500年前フェルディナンド・ガマが、この森でこれと同じ状態の頭骨を発見した。この森は滅んだはずの『第二紀世界』の魔物たちがいた。そしてこの森を調べた結果、この森を支配しているのは竜ではなくアルブティガーだと確信した」


「アルブティガーは勝っていたのですか?」


「いや、負けていない。竜はアルブティガーを警戒している。ドラゴンバード以外の竜はこの森に近づいてこない。ドラゴンバードは竜類の中で中級のくせに特に気性が荒くアルブティガーに腹立ってんだよ」


ゴクリ・・・。


 生唾を飲んだ。

 龍神が恐れる魔物。

 先ほど味わった恐怖など大したものではないのであろう。


「・・・どうせ逃げられないんだ。武士の本望!」


「初代帝王と同じ事を言ったな」


「え?」


「奴も必死だった。奴は、群雄割拠していた100ネン前のこの世界でも”あれ”から逃げられないと悟って必死になって強さを求めた」


「”あれ”とやらと張り合える強さを初代帝王は手に入れることができたのですか?」


「それは本人に聞くしかねぇ。だがおかげであいつの子孫は生まれつき勝者にして強者だ。その強者と張り合いたいか?」


 某はうなずいた。


「よし、ならば・・・今日は食って寝よう!」


 マカミさまは食い終わると、さっさと寝床へと入っていった。我らも食事を終えると、床についた。


 次の日。


「虎吉、付いてこい!」


 朝早く、外で太刀を振っていると突然マカミさまが某を誘い出した。


「ルナはここで帰りを待ってろ」


 またか。


 あの時のようにルナどのを1人にして、危険な目に遭わせてしまった。


「お前の女も強くなりたいのだろ?いっておくが、この森でそれを望むのなら、恐怖など言い訳にならん」


「虎吉さま、ここで帰りを待っています。・・・そしてちゃんと帰ってきてください」


 ルナどのは承諾した。


 某はルナどのを置いてマカミさまと森の中を歩き始めた。


 マカミさまと一緒に丘の上に立った。

 森は白くなっていた。

 ソギの木の白い花粉が風に乗って空から降り、アルブの森を純白へと変えた。


「ダガー?」


 眼下にダガーが十数名の人狼達を率いて狩りをしていた。

 獲物は巨大な角を持った足の長い巨大な牛のような魔物だった。


 人狼達は魔物の攻撃を躱しながら、手に着けている武器で魔物を斬りつけた。

 魔物は血だらけになりながらも、倒れること無く人狼達に攻撃した。


 人狼の1人が角に串刺しにされた。

 それでも人狼達は攻撃を止めない。


 そしてダガーが魔物の喉を切り裂くと、ようやく魔物は倒れた。


「ウォオオオオー!」


 ダガーが勝利の雄叫びを上げた。

 続いて仲間が一斉に雄叫びを上げた。

 

「人狼は、この森にいる魔物達に比べたら小さい。だがそんな小さな人狼たちはもしアルブティガーが村に来たら、アルブティガーと全力で戦い、追い払う」


 気高いな。


 人狼達はこの森で自分達の強さを証明している。


「よし、俺達も飯を取りに行こう。ついてこい」


 マカミさまが刀を持つと某を森に誘った。


「おい、しっかりついてこい」


「は、はい!」


 巨木が倒れ巨岩が塞ぐ巨大な道なき道を進んでいた。

 遠くで扇のような巨大な角を持った巨大な鹿の群れがこちらを見ていた。

 無表情だったが某を笑っているかのように思えた。


 神経を研ぎ澄ましながら震える心を抑えながら歩いた。


 ここでは弱さを言い訳に出来ない。


 大きな川があった。


「よく見ておけ」


 マカミが川の側でしゃがみ込みじっと川を見ていた。マカミの両腕から赤い覇気が現れた。


 バシャアアア!


 突然川の中から巨大な口が現れ、マカミを喰おうとした。マカミは飛び上がると、その魔物の頭頂部に刀を突き刺し深々と切り裂いた。


 現れたのは4丈(12メートル)はあろうかというトカゲのような魔物だった。


「ギュスターだ。川でのんびり水遊びでもしようものならこいつの餌だ。明日も行くぞ」


「はっ!」


 マカミさまに誘われ、何日も森を通った。


「来る!」


 近づいていくる気配がした。

 某が叫ぶと川の中からギュスターが現れ、マカミさまに倒された。


「こいつの気配が分かったか?」


「はい」


「知ってるか、川で餌が取れないヤマメが海に出たらどうなるか?」


「サクラマスになります」


「楽ではないが、この世界は向こうの世界とは比べものにならないくらい強くなれる。さすが、あの天狗が兵法を教えるだけのことはある。明日は俺がやったようにお前がこいつを仕留めてみろ」


「はい」


「よし、晩飯に戻ろう」


 話が終わると、マカミさまがギュスターの腹を切り裂き始めた。


「ルナ、帰ったぞ。何か一品作ってくれ」


 マカミさまが家に戻ると、留守番をさせていたルナどのにそう言ってギュスターの肉を串刺しにして何かを振りかけて火にあぶった。

 ルナどのはそれに、和え物を付け加えた。


「ほう、ルナは食の才もあるか!」


「マカミさま、ちなみにイーミーも聖獣と言われておりますが、他の聖獣との仲はどうなのですか?」


「あれは『次の希望』だ」


「次の希望?」


「もし、竜類がこの世から姿を消したとき、代わりにイーミーがこの世界を治めると言われてんだよ。最近海で、とある大地でイーミーの親類と言われる魔物が見つかったらしいぜ。イーミーはハサルトのように竜類と仲良くは無いが、竜類も一目置いてやがる」


「なるほど・・・」


「・・・・・・」


 マカミさまに修行を教えてもらっている間、ルナどのをずっとほったらかしにしているような気がした。

 そのせいかルナどのの口数も減っているような気がする。


「虎吉さま・・・」


「ん?」


 食事も終わり、皿洗いもおわり、一息ついてさぁ寝ようかというとき、ルナどのが某を呼び止めた。


「わたし・・・虎吉さまが、わたしと一緒に旅をして確実に強くなっているのが分かります。でもわたしの国にたどり着けずどこかで死なないかとずっと不安で、だからわたしも必死になって強くなって虎吉さまを守ります。だから・・・」


「死なぬ!」


 ルナどのも恐怖しておる。

 自分の国がどうなるか分からぬ不安がずっと苦しめているのであろう。


 そんなルナどのに今言える言葉はこれくらいしかなかった。


「・・・はい!」


 ルナどのは不安ながらも、一言そう言って寝た。


 次の日。

 早く起きて太刀を握って待機していたら、マカミさまに続いてルナどのが杖を持って現れた。


「ルナ、虎吉に魔法をかけろ」


 ルナどのが【疾風迅雷ラピッドサンダーストーム】をかけてくれた。


 昨日の川へと向かった。


「よしやれ」


 マカミさまに言われ、某は川の側でしゃがんだ。

 

「すぅ・・・・」

 

 決して消えぬ恐怖の中、神経を研ぎ澄ました。


 ダァアアアン!


 大きな口が自ら現れた。

 某は瞬時に飛んでギュスターの頭頂部に太刀を刺した。

 ギュスターは表面が凸凹した素石へと変わった。


「だいぶ鍛えやがったな。よし・・・明日からアルブティガーと一騎打ちして、お前の強さを証明しろ!」


「・・・は!」


 夜明け。


 まだ森が薄暗い中、ルナどのに見送られた。

 メタルタートルの甲冑は着けない。

 マカミさま曰く、そんなものは着けるだけ無駄だそうだ。


 ルナどのは来ない。

 己の強さを確かめるために1人で森に入るのだ。

 サハリさまから、いただきし『記憶の種』を飲めば某の身体の中に刻まれた【疾風迅雷ラピッドサンダーストーム】が発動できる。


「虎吉さま、ちょっと待ってください」


 ルナどのが止めた。

 そしてルナどのは自分の口元に自分の両手を添え、眼をつぶった。


「我らを守る龍よ。わたしの息吹にあなたの力をお貸しください。そして大切な人をお守りください・・・」


 そして某に向かって息を吹いた。


「今のは何の魔術ですか?」


「ただのおまじないです。無事に帰ってきてください!」


「行って参る」


 ルナどのに見送られ1人森の奥へと入っていった。

最後までお読みいただきありがとうございます。


下にある☆☆☆☆☆から、作品への評価お願いいたします。

星1つなど、正直な感想でも構いません。


よろしくお願いします!

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