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38 伝説の人狼

「おう、俺だ」


 白髪の男ははっきりと名乗った。

 見たところ某より少し年上の感じだが、サハリさまいわく自分よりも高齢で200歳は超えているらしい。

 サハリさまと同じで何かの魔術で若くなっているのか。


 このお方は先ほどあったダガーや他の人狼とは少し違う臭いを感じた。


 腰には見たところ古い刀を差していた。


 マカミさまが某をまじまじと見た。


 身体が硬直した。見た目は若いがこの瞳は、確かに長い人生戦い抜いてきた証を感じた。


 サハリさまが申していた。

 戦いに関して、一番強いのは初代帝王でじゃなく人狼のマカミだと。


「ダガーには会ったか?」


「はい」


「最近、馬鹿がこの森に来てモンスターどもらの餌になってんだよ。ダガー達はそういう馬鹿を見つけると、とっとと森から追い出して奴らを助けてんだがな。・・・おまえダガーに勝ったか?」


「武器を使わず勝ちました」


「ほんとか!?」


「嘘は申しませぬ!」


 某ははっきりと言った。

 マカミさまが笑い出した。


「日本からまた面白いやつが来たな。今度は俺と戦うか?」


「某にご教授をお願いしたく存じます」


 マカミさまに片膝をついて願い出た。

 マカミさまは笑いを止めた。


 ザッ!


 マカミさまがいきなりつかみかかってきた。

 それをとっさに振りほどいた。そしてマカミさまは某の後ろにいたルナどのを見た。


「この武士に魔術をかけろ」


「え!?」


 突然のことにルナが混乱した。


「この武士と一緒に旅してきたんだろ?魔術をかけろ!」


「は、はい!」


 ルナは呪文をとなえ虎吉に【疾風迅雷ラピッドサンダーストーム】をかけた。


「【覚醒アウェイクニング】がかかった初代帝王よりも強いあなたは、戦の時に初代帝王を大いに助けたと聞きます。是非、某にご教授をお願いします!」


「くぅ~懐かしいね。あいつこの世界に来てこの世界を統一するために優秀な人間や種族を求めた。その中でも俺とサハリ・・・あと1人があいつを大いに助けてやった」


 古い話をして懐かしがっている。


「お前、あいつみたいに強くなって世界制服でもするのか?」


「約束を守るために強くならねばなりませぬ。そのために最強の太刀を手に入れるため、アルブティガーを倒しに参りました」


 イーミーの素石、ハサルトの素石をマカミに見せた。


「・・・・・・」


 マカミさまが黙っている。

 しばしの沈黙が流れた。


「お前、何をそんなに恐れている?」


「!?」

 

 見抜かれたか。


「・・・某は向こうの世界で14万の敵を退けた強者です」


 幼い頃、地頭から馬の綱引きをやらされていた父上を見て自分はあんな風にはなりたくないと思っていた。


 武士が出世するには戦しかない。

 そのために磨いた武芸で強くなった。


「だが、その先がございませんでした。某の強さなど、その程度なのでしょうか?」


 某は地頭になるべく必死に戦ったのに何ももらえなかった。あの世界で某は一生、馬引ひをする身分で終わるのかと恐怖した。


 一体何が違ったというのだ。

 所領争いで菊池氏の一族から没落したあいつと郎党で馬引きの息子だった某は。


「ギケイもそうだった。あいつは向こうの世界から恐怖をずっと持っていた。今思えば奴が帝国を作ったのも、”それ”の影響かも?」


「”それ”?」


「ああ、奴はその恐怖を抱えてこの世界に来た。よし、これでお前の弱さを教えてやろう」


 マカミさまが古い刀の鞘に収め、狼のように某を睨み付け近づいた。

 某は太刀を握った。


 ダン!


 鳩尾に強烈な一撃を食らった。


「今、びびって抜こうとしただろ?」


「!?」


 その通り。

 恐怖を感じ、必死に太刀を抜こうとした。


「活!」


 気合いで恐怖を吹き飛ばし太刀を握った。


「よし、ではもう一度!」


 マカミさまはまったくぶれることなくまっすぐ向かってくる。

 マカミさまの呼吸をはかった。


 がっ!


 体当たりを食らった。

 後方に吹き飛ばされた。

 太刀は半分しか抜けなかった。


 サハリさま曰く伝説の人狼マカミは【覚醒アウェイクニング】がかかった初代帝王が数々の戦で勝利した中で、一騎打ちで何もさせずに勝った男だと。

 その話は嘘だ真実だと言われながら伝説として今日まで語り継がれている。


「もう一度お願いしたい」


「ああ、良いよ」


 某の願いにマカミさまが快く承知してくれた。

 某はもう一度太刀を握った。マカミさまが円を描きながら徐々に某との間合いを詰めていった。


 シュ!


 太刀を抜こうとした時だった。


「!?」


 マカミさまが消えた。

 そして腹に激痛が走った。

 膝をついて悶絶した。


「生きる恐怖がずっとお前を、苦しめているな。よし、今度はお前の太刀と俺の刀どちらが早く抜けるか見せてやろう」


 マカミさまが腰にさしていた太刀に比べて4分の3ほどの刃渡りの古い刀を握った。

 某はマカミさまの動きを見た。

 マカミさまが刀を抜いた。


 遅れた。

そう思って太刀を抜いたときにはもう手遅れだった。マカミさまの刀の切っ先は某の喉仏にあった。


 気配が全くなかった。

 戦であれば某は討ち取られていた。


「お前、死ぬぞ?」


 ザッ!


 マカミさまが再び、間を詰めて某の腹を刺そうとした瞬間、反射的に下がり、太刀を抜いた。


「今、必死になっただろ?」


「は、はい・・・」


「もう一度やるぞ」


 マカミさまが再び距離を詰める。

 某はそれに合わせて太刀を振る。

 それを何度も繰り返した。


「はぁはぁ・・・」


 どれくらい立ったであろうか。

 あたりは暗くなり、マカミさまの後ろにある大きな月がマカミさまを照らしていた。


 何度も殺された。

 殺された度に息をおもいっきり腹の底まで吸って吐いた。

 悔しさで震える身体を抑えてマカミさまをにらみつけた。


「お前の師匠はもしかして天狗か?」


「はい。ご存じですか?」


 某の武は幼いときに森の中で出会った天狗に教わった。

 太刀を鞘から抜いて敵を切りつける技も足で相手の首を締め付けて倒す技も天狗から教わった。


「やっぱり、あいつか!お前の戦い方は、あいつとよく似ていた。あの天狗は風変わりな奴で気に入った人間に天狗の兵法を教えるんだよ」


「師匠と知り合いなのですか?」


「めちゃくちゃ知ってるぜ。あの天狗だけじゃねぇ。魔物は時々お前らの世界にちょっかいかけるんだよ」


 そうか、某はルナどのと出会う前からこの世界の住人と関わっていたのか。

 それならば某がこの世界に来てしまったのもうなずける。


「よし、本日の稽古の最後に俺の一撃を見せてやろう」


 マカミが腰に下げていた肉の塊を振り回した。


「来た!」


 マカミの毛が逆立ち始めた。

 眼は大きく見開かれ、赤い覇気が全身からあふれ出た。


 空を覆うかのようなドラゴンバードが月の光のもとに現れた。マカミに向かって急降下した。


「来いよ竜!」


 マカミが大跳躍した。


 ザン!


 マカミがドラゴンバードの頭をたたき割った。ドラゴンバードが地面に落ちた。


「ボン!」


 ドラゴンバートが何かを吐いた。

 マカミはそれを躱した。

 塊は弾丸のごとく、木々を倒して飛んでいった。


「ルナどの何だあれは?」


 見ていた虎吉はルナに尋ねた。


「聞いた話によればドラゴンバードは『ドラゴンシェル』と呼ばれる自分の涎を固めたものを飛ばすそうです。言い伝えで昔、ある国に一匹のドラゴンバードが飛んできてそのドラゴンシェルで街を粉々に壊したと言われています」


 ドラゴンバードがもう一度その弾丸のようなものを吐こうとした。


「ボン!」


 吐いたと同時にドラゴンバードの長い首が飛んだ。

 マカミが首を飛ばした。

最後までお読みいただきありがとうございます。


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星1つなど、正直な感想でも構いません。


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