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36 人犬の町

「港についたか」


 ブラックキッドを倒して7日後。我らは、帝国の港町アロに到着した。

 港で甲冑を着けた帝国兵士がパーセの提示を要求してきたので見せると街中に入るのを許された。


「俺たちはこの後、さらに西へと進んだ港町クレへと向かう。マカミへ会いたければこの町の連中に聞け」


「かたじけない」


「ついでにこれもやろう」


 バートどのが金貨がたくさん入った袋を某に渡した。


「ブラックキッドを倒した報酬だ!」


「ありがたい!」


 我らはバートどのと別れ、町の中へと入っていった。町は頭に獣の耳が生えた連中がたくさん歩いていた。


「ちと訪ねる」


「あ、はい何でしょう」


 荷物を抱えていた一人の頭に獣の耳が生えた女に声をかけた。

 バートどのがもうすには、港町にいる連中は穏やかな性格で友好的らしい。

 

 彼らは『人犬』と呼ばれている。


「『人狼』のマカミなる者に会いたい」


 『人狼』のマカミという言葉を出したとき、女の表情が変わった。


「えっ・・・と、人狼はあまり人を好きではないので会うことは難しいかと」


「それでも会いたいのだ」


「少々お待ちください。人狼と話ができる者を呼んで参ります」


 女はそう言うと、早足でどこかへ言った。


「・・・もしかして逃げた?」


 女の反応が少し不安だった。

 戻ってこないのではないかと、ルナどのに聞いてみた。


「といっても、私たちだけでは探すのは無理なので・・・」


「確かに」


「文句あるのか!」


「いっいえ、すみません。わたしが悪かったです!」


 ルナどのと話をしていたら後ろで怒声が響いた。

 見たところ、どこぞの5人の冒険者らしき者がお店の主に怒っている。

 主はひたすら謝っていた。

 冒険者どもらは怒りながらこちらに歩いてきた。


「ぼっと突っ立ってんじゃないぞ!」


 某とルナどのは両端に下がり、道を空けた。柄の悪い冒険者どもらは道の真ん中を我が物顔で歩いて去って行った。


「お主、なぜ怒られた?」


 店の主に聞いてみた。


「はい、あの方達がわたしが売っている。パルをお金を払わずに食べておりましてお金を払ってくれるようお願いしたのです」


 この主の目の前に、饅頭のような良い匂いがする食べものが置かれていた。


「それならば奴らのほうが悪いでは無いか」


「はい、しかしあの人達は帝国が直々に雇っている冒険者の方々でして、このアロは帝国直属の港街。私たちがこうして平和に暮らせるのは帝国のおかげなので私たちは、逆らうわけにはまいりません」


 なんと。


 このアロに住む人犬たちは、やつらに理不尽なことをされても逆らえないのか。

 アートリアのエルフ達も帝国に従順だったようだが、人犬たちはもっと従順なってしまっている。


 なんだか店の主が可哀想に思えてきた。


「・・・それ2つくれ」


「え、あ、はい!」


 このままほっとけない気持ちになったのでせめてもの慰めに某とルナどのの分を買うことにした。


「ありがとうございます!」


 主は笑顔になった。


「ルナどのあそこらへんで食べよう」


 遠くの川で人犬の童どもらが川で何かをしていた。どうやら魚をつかみ取りしようとしているようだ。

 だが、童どもらはでたらめに追いかけ回して、一匹も捕まえていないようだった。


 我らはその土手に座って、この食べ物を食べることにした。


「おお、うめえ!」


 さくさくとした生地のなかから柔らかい肉が現れた。肉もさることながら、このさくさくした生地は一体何だ。


「虎吉さん、ぼっちがいます」


「ん?」


 川で魚を追い回している中で1人の男童だけ川の外でそれを眺めている者がいた。


「・・・・・・」


 某はその1人のところへ行った。


「お主、なぜ皆と一緒に魚をとらん?」


「・・・魚なんてとれないよ」


「なに、魚がとれない?」


「そいつは狩りなんてできないだめなやつだよ!」


「川にいた1人の男童が言った」


 その言葉に1人でいる男童はうつむいてしまった。


「・・・お主ら、しばし川から上がってくれぬか?今から某が1人で魚を10匹ほどとって見せよう。嘘では無いぞ」


「「「「「へ~、ほんとに!?」」」」」


 人犬の童どもは「面白そう」だと皆、川から上がった。


「ついて参れ」


「え?」


「ついて参れ!」


 某はひとりぼっちの童と共に川の中に入った。某は両手を水の中につけた。


「ようく見ておれ」


 某は岩に隠れている1匹の魚に的を絞った。

 魚が逃げる方向はわかっている。


 川上だ。

 奴らは流れに逆らい川上へと逃げてい行く。


「「「「「おお!」」」」」


 魚のえらの少し後ろと尾びれをつかみ水中から持ち上げた。童どもらの歓声の中、魚をどんどん捕まえた。

 そして残り1匹となった。


「お主、捕まえてみせい」


「え?」


 最後の1匹をひとりぼっちの童にたくした。


「取り方は某が何度もやったのでわかったか?」


 童はうなずいた。


「よし、やれ!」


 童は水中に両手をつけた。

 そして岩に隠れる1匹の魚に的を絞った。


「・・・・・・」


 ばしゃ!


「「「「「とったー!」」」」」


 童どもらの大歓声があがった。

 1人のわらべの遠吠えにみんなが呼応した。


「はぁはぁ、ここにいたんですか!?人狼と話ができる人を連れてきました」


 さきほどの女が男と一緒に戻ってきた。


「母さん僕、獲物をとれたよ!」


「ほんと、カールついにやったのね!」


 どうやらこの童はこの母親の息子だったようだ。親子で獲物がとれたことを喜び合っている。


「・・・あ、どうも」


 そばで一緒に見ていた男と目が合った。


「あっすみません!こちらが人狼と話ができる夫のキルトです」


 女が人狼と話ができる夫を紹介した。


「キルトです。この町のツカサです。マカミさんに会うのは・・・正直、諦めたほうがいいかと・・・」


「諦める!?・・・いや」


「おなかすいたよ。家に帰ろう!」


 話の途中で息子が家に帰りたいと言い出した。


「ねえ人間さんも家に来てよ。父さん、この人たちのおかげで僕、獲物が捕れたんだ!」


「ほんとか!?」


 童がとった獲物を父親にも見せた。

 父親はそれを聞くと大喜びした。


「家に来てください。お礼に家内が料理を振る舞ってくれます!」


 某はルナどのを見た。ルナどのは了承したので、我らは家に案内された。

 土壁で作られた質素な家に入ると女はかまどに火を入れ先ほど捕まえた魚で料理を作り始めた。


「私たちは人犬は、元人狼なんです。初代帝王によって新しい生き方を手に入れました」


「初代帝王によって?」


「はい。100年前、『我らの王』は人狼達を率いて初代帝王を助けました。そして初代帝王が世界を1つにしたとき、今まで見たことのない世界を見た一部の人狼達が、新しい生き方をしたいと願いました」


 この町の長であろうマカミはそう言って、壁に飾られていた小太刀を手に取り、我らに見せた。


「その願いを初代帝王は叶えてくれ、このコダチをこの町の初代町長に渡しました。そしてマカミさんの、要求で私たちは帝国に護られながらこの町で、人犬として生きています」


 鞘には笹竜胆の家紋と『真神』と漢字が掘られ引っ掻いたような傷跡があった。


「その人狼になぜ、会うのが難しいのだ?」


「それは、人狼は私たち人犬と違ってほかの種族、特に人間と友好的になろうとせず、会おうと思っても目の前に現れてはくれないんです」


 キルトどのは今度は、奥に置いていたものを某に見せた。

 それは巨大な牙と、巨大な角だった。


「あの森はアルブティガー以外にも危険なモンスターがいます。そんな危険なアルブの森にずっと住んでいて帝国ですら彼らを従えることが出来ないのです。ましてや、人狼達から『我らの王』と呼ばれるマカミさんに会うのはもっと難しいです」


「住んでいる場所くらいは教えてはくれぬか?」


「何故そこまで伝説の人狼に会いたいのですか?」


「どうしても強くならねばらなぬ。初代帝王が何としてでも願いを実現したかったように、某にも果たさねばならぬ約束がある」


 キルトどのは複雑な顔をした。


 それほど、マカミに会うのは大変なのか。

 不安が大きくなる。


 キルトどのは小太刀を見つめていた。


「・・・分かりました。私が案内いたしましょう」

最後までお読みいただきありがとうございます。


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