29 聖獣の素石
「え・・・っと何か手伝おうか?」
「え、良いんですか?」
「う、うむ・・・」
屋敷に戻るとルナどのは食事の準備に取りかかった。
某のために飯を作ってくれるルナどのを黙って見ている気になれなかった。
「それじゃ、お皿取ってくれます?」
「はい」
身体はまだ痛むが、ルナどのが治してくれたのでお礼に、ルナどのの命に従い飯作りを手伝った。
「さあ、ルナちゃんが作った料理を食べようかね」
「サハリさまから教えていただいた。サルモの包み焼きです。ちゃんとできていれば良いけど」
サルモなるこの森の川でとれる魚を野菜と一緒に包んで焼いたものが食卓にあがった。
包みを開いた。
何ともいえない良い匂いが鼻の奥へと入っていった。魚と言えば串刺しにして塩かけて食うことしか知らん某にとってこんな焼き方があるのかと驚いた。
「あっイーミー!」
障子を全開にして森を見ながら食べていると、上空に竜類の一種イーミーが飛んでいた。
白い身体に赤と橙色が混じった羽がまるでもう一つの太陽のように綺麗だった。
この世界に来てから一日が長く感じる。
事実サハリ殿が申すにはこの世界は某が来た世界より3倍、一日が長いという。
そして言っている意味は分からぬが身体は、その長くなる世界に対応しているという。
「美しいね。あの美しさが分からぬ馬鹿共らが、イーミーを殺そうとする」
「オークどもみたいな奴らですか?その素石をどうするのですか?」
「いろいろ、使おうと考えているよ。それを液体に混ぜて飲んで聖獣の力を手に入れようと考える奴。その素石を調べて偽物を作ってさらに大もうけしようと企む奴もいる。・・・そして武具だね」
「4代目が持っていた太刀でございますか?」
「4代目が持っていた太刀はね、ギケイが手に入れた最強の太刀だ。あの太刀と【覚醒(アウェイクニング】で敵陣に突撃して敵を倒していったのさ。人々はそんな姿を見て、みんなギケイについて行ったんだよ」
「4代目は四聖獣の素石で作ったと申しておりましたが?」
「あぁ、あんたが身につけている甲冑はメタルタートルの素石だろ?」
「はい」
「この世界で最も『偉大な存在』とされているのが竜類さ。だが、その竜類と張り合う偉大な存在が3種類いてね、1つは『次の希望』と言われるイーミー」
サハリどのが古びた地図を取り出した。
サハリどのが地図にふれ、呪文を唱えると地図の所々が光り出した。
「2つ目は『海の歴史』と言われる竜類よりも長生きするハサルト。最後は『獣の覇者』と言われるアルブティガー。その聖獣の素石から作られた武具はこの世界最強の武具なんだよ」
サハリどのが光っている場所を指さした。
「初代帝王はその聖獣達を倒したのですか?」
「あんたも戦ってみるかい?四聖獣と」
某は迷うことなく頷いた。
4代目と戦ってあることを強く感じた。
この世界はかなり強い力が存在する。
国を守ろうと思えば当然ながらこちらも強い力を身につけなければならない。
だからこの世界の強者達は冒険者として世界中を巡って武者修行をしているわけだ。
だからルナどのも国を守るために某を引き連れて冒険者として修行をして自分を強くしようとしている。
「ルナどの約束を守らねばなりませぬ」
「現実は理想通りには行かないよ。死んだら約束は守れないよ」
サハリどのの言葉に詰まった。
実にごもっとも。
「初代帝王の野心も保証は無かったのでございましょう。だが、証明できた。某が証明できないとお思いですか?」
引き下がるわけにはいかぬと、なんとか言い返してやった。
「ギケイはあたしに3回頭を下げて仲間を希望した。あたしは彼がなぜ、そこまでこの世界で必死になるのか分からなかったが、彼を守ってやりたくなってね・・・」
サハリどのが、遠い記憶にいる初代帝王を語り出した。
「ギケイはこと戦に関しては頭の回転が速い男でね。情報を誰よりもいち早く手に入れてうまく人を使ったものさ。このあたしさえも・・・そして」
サハリどのが真剣な表情になった。
「ギケイは、この世界を旅して学び、新たな世界の仕組みを作り上げたのさ。それがアカツキ帝国。あの帝国には彼の遺産があり、その遺産をあの4代目は守ろうとしているのさ」
「最強の太刀が手に入れば、【覚醒】を身につけ、それを守る4代目と戦って勝てますか?」
「じゃあ、あのフウカを殺すのかい?」
この一言に心が揺れた。
大空を飛んでいるフウカを見た。イーミーからすれば関係の無い争いで己の命を狙われるのだ。
だが初代帝王もあのイーミーを倒して最強の太刀を手に入れた。
「戦に理不尽は避けられない。聖獣とて戦に巻き込まれれば同じです」
サハリどのの顔が険しくなっていく。
「・・・だが、フウカは殺せない。」
何と言うことだ。
先ほど強く決意したものを破ってしまった。
「ルナどの」
「はい・・・」
「最強の太刀は無理そうだが、それでも某を信じてくれるか?」
「・・・1つ約束してください。わたしの国は帝国と友好関係を築いています。4代目は、虎吉さまに良い印象を持っていないようですが・・・決して、虎吉さまから戦を引き起こすような事はしないでください」
「う・・・うむ・・・」
ルナどのが不安そうに、お願いしてきた。
某が間違った戦いをすればルナどのを苦しめる事になるということか。
とすれば、間違った戦いでルナどのを苦しめないようにするためには、どのようにして強くなれば良いのだ。
「ちょっとお待ち・・・」
サハリどのが部屋の奥に入っていった。
そして小箱を持ってきた。
「これを持ってお行き」
「これは!?」
ルナどのが眼を丸くして驚いた。
中には赤と橙色に輝く素石が入っていた。
「この素石はね。かつて3代目が初代帝王と同じ強さを証明しようと、フウカの妹を殺して手に入れようとしたのさ。あたしはむやみに命を奪おうとする行為に腹が立ってね、3代目から奪い取ったのさ」
「3代目も、【覚醒】に耐えれたのか?」
「いや、あの馬鹿は無理だったね。だから、世界からアカツキの権威を失墜させないために、初代帝王と同じように聖獣を倒して最強の太刀をもう一つ作ろうとしたのさ。どんな手を使っても・・・」
「クュアアア」
サハリどのが素石を出したとき、飛んでいたフウカがこちらにやってきて、素石を見つめていた。
「フウカがあんたを助けたのは、4代目と必死に戦うあんたが妹の敵をとってくれてると思ったのかね。4代目から3代目と同じ匂いを嗅ぎ取ったんだよ」
「本当か?」
某は縁側から降りてフウカに近づくとフウカは某の顔をなめまくった。
「フウカ、あんたの妹の素石を虎吉のために使って良いかい?」
「キュアアア」
言葉を理解しているのかどうか分からないが、フウカは心地よい返事をした。
「ルナ。調和魔術、【世界の息吹】を発動してみな」
「えっは、はい!」
ルナはサハリからの突然の稽古に慌てたが、杖を持ってくると今まで教えてくれたとおり、姿勢を正しくして呪文を唱え始めた。
「世界を調和を守る、静かなる力よ。わたしの心に応えたまえ・・・」
深く息を吸って身体中に魔力を張り巡らせた。
「【世界の息吹】!」
ルナの周りに風がおき、小さな光の玉が現れだした。
ルナは精神をさらに研ぎ澄まして、その光をさらに増やそうとした。
「・・・・うう!」
だが光は一向に増えない。
「キュア!」
苦しんでいるルナにイーミーが近づいてきた。
それによって小さな光が大きくなり、数も増えた。
「フウカが力を貸してくれるよ。さあイーミーに乗って、この森中を【世界の息吹】の光で包むんだよ!」
ルナはイーミーの背中に乗った。
イーミーは飛び立つと森中を飛び立つと森から無数の光の玉が飛び出した。
その姿を見てサハリは頷いた。
「しかし、あたしはどうしてここまであんたらに力を貸すのだろうね。単なる偶然にして必然だね。・・・だからあんたに約束してもらうよ」
「何の?」
「ルナちゃんをしっかり守るんだよ。ルナちゃんはあんたをしっかりと守ってくれる存在だからね。この素石を持って、海を越えて、アシム大陸にある竜の楽園に行くんだね」
「竜の楽園?」
「港町オーシャンバートに行って、海を越えて『キバの大地』を目指すんだよ。海路の途中にハサルトの海がある。そこでハサルトの素石を手に入れるんだ。
そして牙の大地でアルブティガーを倒せば、アルブティガーの素石が手に入る。その先に竜の楽園へと続く河がある。その河を渡って最後に竜の素石を手に入れるんだよ」
「かたじけない。聖獣共と戦ってくるよ」
某はイーミーの素石を受け取った。
「もう1つこれも持って行くんだよ」
サハリどのから匂い袋をもらった。
中に丸薬が数粒入っていた。
「これは?」
「『記憶の種』その薬は、身体の中に刻まれた支援魔術を呼び戻す魔法の丸薬さ。もし、ルナちゃんがいないときはそれで【疾風迅雷】をかけるといい」
「かたじけない」
突然来てしまったこの世界で某はとんでもない責務を果たさねばならなくなった。
だが、もう後には引けない。
命をかけよう。
「怖い顔するんじゃないよ!」
真剣な気持ちでいると、サハリどのが笑いながら某の肩を叩いた。
「さて、話は終わった。お風呂に入って寝るとするかね」
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