18 転生した者
「お主は冒険者か?」
「そうです」
戦いを絶対したくないと言い過ぎている目が不安に感じる。
「ルナどの・・・今、この世界は強者を冒険者として集めているであろう」
「はい」
ルナどのにこっそり聞いてみた。
「しかし、この者は強そうには見えんぞ」
「それはですね、死んだ者をこの世界に呼ぶとき当たり外れがあるんです」
「当たり外れ?」
「はい、わたしは直接虎吉さんの世界へ行って、虎吉さんをこの世界に連れてくることが出来ましたが、あの方法は上級者の魔術師に力を分けて貰って直接行くことが出来るんですが、けっこう危ないです」
「なるほど。で死んだ者をこの世界に呼ぶのは?」
「直接行くことに比べたらある程度の魔力で呼びことができます。ただしどんな者が来るか分からないし、来ない場合もあるので当たり外れがあるんです」
そうか当たり外れか。
某は武蔵ともうす者を見た。
「武蔵どの」
「はい虎吉君」
”くん”とは初めて聞く呼び方だ。
このような呼び方をするとは、いったいこの者は我が国のどこから来たのだ。
「お主の生業は?」
「高校生・・・」
「こうこうせい?それは身分は低いのか高いのか?」
「有名な私立高校とかに入ればかなり高いけど、僕は親ガチャに外れてしまって」
「親ガチャ?」
同じ我が国の者だというのに全く言葉が分からぬ。
この世界は異国の言葉でも魔法の力で大体は分かるようになるが、同じ者の言葉が分からぬとは。
某は武蔵どのの格好を見た。
ロベルトと同じような甲冑と剣を身につけていた。
「その姿はナイトか?」
「そう。僕は騎士が好きで、だから憧れの騎士になってみようと」
「そうか・・・」
正直、ロベルトに比べればナイトには見えなかった。お主は例えるなら、ナイトを真似て装った仮装者のようだ。
「虎吉君は、もしかして本物の武士?」
「見ればわかるであろう」
武蔵どのが某の格好を凝視している。
「凄い、本物の武士に出会えた!」
何を喜んでいるのだ。
武士なんて向こうの世界でそこら辺に歩いているだろう。
「僕は虎吉君よりはるか先の未来から来たんだ!」
「未来から来た?」
「そう、未来の日本」
某が生きている時代の先の時代から来たと申すか。この者が生きてる我が国はどうなっているんだ。
「えっと服装からして・・・鎌倉時代?」
少しこの者と話をするのが疲れてきた。同じ我が国の者なのに生きる時代が違うと話すのにこうも苦労するのか。
武蔵どのはいったん無視して側にいた魔術師に尋ねた。
「お主の名は?」
「レイと申します。召喚士です」
か細い声で某に応えた。
「そうか・・・レイどの」
某はレイどのに耳打ちした。
「早いとこ別の相方を見つけた方が良い。あの者は外れだ」
「わたしは、そうは思えません。可能性を感じてまして支えて行こうと思います」
そうなのか。
某には全く見えない。
「で、助けて欲しいのは何だ?」
「道に迷ってしまって・・・」
「これをたどれば良いのでは無いのか?」
我らの足下にはグレートロードの一本道が来たところから行くところまで続いていた。
「はい、それで僕たちも歩いてたんだけど、気がついたら同じ場所に戻っていて」
「同じ場所?」
「木に目印を入れておいたんだよ。そして進んだら見事に戻ってしまって」
指さす木を見た、木に6の数字が刻まれていた。そうか、さきほど見た数字はお主が入れていたのか。
それで元に戻ったのであればこの先は進めないということか。
「でもおかしいです」
ルナどのが首をかしげた。
「いくら死の森と言ったって、この道を外れて歩いた者が行き倒れるのであって、この道を歩いて行けばホリー国に付けるはずなんです」
「それで何か打つ手はあるのか?」
「うーん」
ルナどのが困っている。
空を見た。
日が傾き、夜が来ようとしている。
あちらこちらに休むには十分なくらいの場所がある。
「いったんここで野宿しよう。朝になったら何か変わるかもしれん」
ここは某が決めることにする。
このまま誰も決めなければ、我らはこの森で暗い夜の中で途方にくれてしまう。
「そうですね・・・わたしも疲れましたし」
「よし武蔵どの、枝を集めるぞ」
「あっ、はい。ただ、困ったことが1つ・・・」
武蔵どのが、そう言うとレイどのが呪文を唱え、青い鳥を出現させた。
その鳥は翼をおもいっきり広げた。
「サファイノータっていうモンスターで、この鳥は、人が言ったことを記憶して、翼にその情報を表示してくれるんだけど・・・この森に入ってからは、全然表示してくれないんだよ。野宿って・・・どうやってするの?」
「ついて参れ!」
何とも、掴みがたい雰囲気を出す武蔵どのと一緒に小枝を拾いにいった。
小枝ともうしても木そのものが異様にでかいので小枝そのものがまるで一本の木のようだった。
脇差しで折れた巨大な枝を削り取った。
「・・・・・・」
枝を削りとっていた手を止めて周りを見た。
「どうかした?」
「何か見られている気がする」
先ほどからずっと何者かが我らを見ているような気がした。
「どうしよう・・・」
武蔵どのが怖いのか棒のように立っている。
戦で怖くて動けなくなれば死ぬだけだぞ。
「あとは葉っぱだ」
この風呂敷のようにでかいパイリウムなる葉を一枚拾い削りとった枝と武蔵と一緒にルナどののもとに持って帰った。
枝を持って帰ると、次に地面を掘った。
掘ったところに削りとった木の枝を入れて火床をつくる。
忘れてはならぬのが、掘った穴の横に空気を通すための溝である。
そして上から燃やすための枝を置く。
そばで武蔵どのがずっと見ている。
焚き火のやり方を習得する気なのか真剣に見ながら、あのときルナどのがしていたのと同じように書物に何かを書いている。
「さて、火をおこすか」
「虎吉さん、わたしに任せて!」
そばで座って見ていたルナどのが立ち上がると呪文を唱えた。
「【着火】!」
ルナどのの魔法で火がついた。
魔法とは便利なものだ。
「よし、食事にしよう」
ルナどのがシャドで買った袋に入った食べ物を鍋の中に入れ、水を入れた。
それをたき火の上に置いた。
すこし経つと湯気と共に良い匂いがしてきた。
それを器に入れて食べるとなかなかうまかった。
「すごいな、焚き火のやり方もそうだけど色々と発見があるな・・・」
武蔵どのが絶えず書物に何か書き続けていた。
「高校生という身分は、いったいどのような生業をしておるのだ?そしてお主は、この世界でどのようにして生きるのだ?」
この未来から来たと申す武蔵どのは実に不思議だ。
だが奇妙なつながりも感じる。
この者は某の時代からどれほどの時が流れた時代から来たのだ。
「いや・・・それは」
悩んでおるな。
まあ、某がこの者の人生など考える必要はないのだろうが。
「じゃあ聞くけど、虎吉くんはこの世界でどういう風に生きたいの?」
「え?」
お返しされた。
某は武士の子として武士としての人生を歩むことになった。故に心の内に向こうの世界が叶えてくれなかった『地頭』の志はあるのだが。
そういえばナイトであるロベルトはナイトの家で生まれたのであろう。
ナイトとはどういう人生を歩むのであろうか。
「・・・・・・寝る!」
「あっずるい。ちゃんと答えてよ!」
「うるさい。寝る!」
今日はこれで寝ることにする。
しかしもし、明日になっても道がわからねばどうしよう。
その不安を抱えながら眠りについた。
「皆さんお困りですかー!」
朝早くどこかで声がしたので某は飛び起きて鞘を握った。
ルナどのとレイどのも飛び起きて、杖を握った。
武蔵どのは某の腕を握った。
「お主、離れろ」
「あっごめん」
「上です上!」
上で声がしたので上を見上げた。
枝に羽の生えた小さな男童が座って陽気に手を振っていた。
「こんにちは~」
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