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17 ホリー国へと

「このオムニッシュおいしい!」


「確かに、うまいが・・・」


 朝、某とルナどのはギルドハウスのラウンジで鳥の卵に挽肉と野菜を混ぜて焼く『オムニッシュ』なる食べ物を食べていた。

 食べ物は問題ないのだが、両手に持って飯を食うナイフとフォークが実にやりづらい。


「あの、虎吉さん・・・」


「ん?」


「マネージャー!」


 ルナどのが何かを話そうとしたとき、その話を遮るように2名の男と一名の魔術師がギルドハウスにやってきた。


(胴丸鎧か?)


 少し変わっているが、男共らの着ている鎧は胴丸鎧だろう。

 飾り物はついていないが、上級の武士でもないくせに兜までかぶっている。


「ハイ!帝国兵士のみなさん。マイ、ギルドハウスに何のご用で?」


「ここ一ヶ月にここを訪れた冒険者のリストを見せろ!」


 兵がそう言うと主は名簿を兵に見せた。

 後ろにいた魔術師が一冊の本を取り出し名簿を見た。


「ルナどの、あの魔術師は何をしている?」


「ここを訪れた冒険者がちゃんと冒険者協会に登録された者かどうか調べてるんです。もし登録されていない者の名前が書かれているとあの魔術師が持っている『魔術ノート』に名前が浮かび上がるんです」


「問題ない。次はこの一ヶ月に出された依頼を見せろ」


 魔術師が冒険者の名簿を見終わると今度は依頼が記録されたファイルを要求した。

 主は依頼を保存したファイルを持ってくると魔術師は同じように本を片手にファイルを見た。


「あれも同じことをしているのか?」


「はい。依頼が冒険者協会にちゃんと申請されたものかどうか調べてるんです」


「・・・問題ない。引き上げよう」


 帝国の兵達は引き上げた。


「虎吉さん、次の国へ行きませんか?」


 帝国の兵が引き上げると、ルナどのが話を再開した。


「このノム国の隣にあるホリー国です。というもの、是非とも会いたい人がホリー国にいるのです!」


「それは誰だ?」


「大魔術師サハリさまです」


 あの書物に書いていた人物か。


 人か魔物か知らぬがやはりルナどのはその者に会いたいのか。


「すでにロベルトさんとアイネさんも出立したようです。最近、ホリー国で国直々の依頼が出るようになって、報酬にかなりの大金はもちろんのことそれ以外にも、商売や土地の権利書まであるそうです!」


「土地!?」


「はい・・・それでホリー国は世界中の冒険者に依頼して、サハリ様もその依頼を受けているかもしれません・・・」


 某はサハリなる者より土地に興味を持った。

 土地の権利書ということは我が領地が手に入る。

 天井の世界地図を見れば、ホリー国はノム国の隣にあった。


「よし、ホリー国へ行こう」


「ホリー国は歩いて20日ほど・・・食材屋さんに行って冒険者用の食べ物をたくさん買いましょう。まとめて買うと1割引です!」


 我らはギルドハウスを出発すると、食材屋で冒険者用の携帯食を大量に買い込んだ。


「馬はないのか?」


 馬があれば歩いて20日かかる道も、もう少し早く行ける。


「わたしも早くホリー国に行きたいんですよね・・・でも」


「馬が無い!」


「いえ、それ以前にわたしが馬に乗れません!」


 なんと、ルナどのが馬に乗れないのであれば馬に乗って旅をするというのは初めから無理だったのか。


「虎吉さん、ちょっと待って下さい!」


 ルナどのが何かを見て走った。

 ルナどのが走った先に1匹のクマの魔物が立っていた。

 その後ろに4頭の馬と鳥が合わさったような魔物につながれた大きな母衣で覆われた荷車があった。


「虎吉さん、途中まで乗せてくれるそうです!」


 ルナどのが大喜びで戻ってきた。


「僕は、マイロ村までベリーチをとりに行くので途中まで乗せてあげよう」


 顔に似合わず、大変優しい魔物で我らを乗せて出発した。


「偉大な道?」


 矢のような絵を描いて、道を教えている看板の上に《グレートロード(偉大な道)》と描かれていた。


「昔、国々が争っていた時は商人たちは自分の国でしか商売ができなかったんだ。でも、初代帝王が世界を一つにした時、商人たちはパーセを持って自分の国を超えて世界中で自由に商売ができるようになったんだ。その商人たちはロード商人と呼ばれているんだ」


 ちょうどそれらしい一行とすれ違った。

 何台も続く馬車の母衣に『テスタニア・ロード商会』と書かれていた。


「そして彼らは初代帝王をたたえてノム国から正反対の端にあるルナ国まで続く道をグレートロードと呼んでいるんだ」


 クマどのが教えてくれた。


「さて、ここらへんで一泊するかね」


 日が落ちて暗くなりかけたとき、クマどのがちょうど良い場所で馬車を止めた。


「火を起こすのか?それならば某が枝を集めてこよう」


 焚き火をするための木を拾いに行った。そして木を組み枯れ草に火をつけようとした。


「虎吉さま、わたしが火をつけます!」


 ルナどのがそう言うとルナどのは呪文を唱えた。するとルナどのの手のひらに火の玉が現れ、組んだ木に放った。


「【着火ファイア】です!」


 そして夜になると焚き火の明かりのもとクマどのと一緒に晩飯を食べた。

 食事が済むと母衣がついた荷車の中でクマどのが一番左端、ルナどのが一番右端、そして某が真ん中で寝ていた。


 ス・・・。


(ん?)


 寝始めたとき、すでに熟睡していたルナどのが某の腕を抱きしめた。

 ルナどのは熟睡して気づいていないが、今この暗い中某とルナどのはかなり近く、ルナどのの寝息が聞こえる。


(襲いたくなる・・・)


 ドン!


「っ!?」


 今度は反対の胸に一撃を食らった。反対で寝ていたクマどのの腕が某の胸を叩き、反対側の耳に寝息を聞かせた。

 さすがクマだけあってその寝息は迫力があった。


(襲われる・・・)


 興奮と恐怖の中、夜は更けていった。


「ここで分かれ道だ。気をつけてね」


 五日目。

 道が2つに分かれたところでクマの魔物は南へと続く道へと進んでいった。

 我らは西の森へと続く道を進んだ。


「あそこからホリー国の領土になります。イーミーの渓谷と言われ聖獣イーミーが住んでいる森です」


「せいじゅう?」


「はい、この世界には四聖獣といわれる聖なる存在がいましてイーミーはその1つなのです!」


 この森は、この世界で神聖視されている魔物が住んでおるのか。


「またの名を”死の渓谷”と言われ迷うと出られなくなりますので。ちゃんと道を歩いていれば大丈夫ですよ!」


 怖い言葉が出てきた。

 ルナどのと一緒にその死の渓谷へと向かっていった。


 崖下にイーミー河と呼ばれる大きな河が流れ、周りには太く天をつくようなパイリウムと呼ばれる巨大な木々が赤い葉を茂らせていた。


 そして上空には青い空が我らをのぞいている。

 だが気のせいか、その空と我らの間に何かがあり、もしかして我らはそれに捕まっているのではないかと感じてしまう。


(風か・・・だがそれにしては静かすぎる)


 吊り橋があった。

 大きな河を挟んだ崖と崖の間にかけられた長い吊り橋だった。


「・・・空を歩いているようだ・・・」


 そこを歩いているとまるで空中を歩いているかのような気分だった。

 遠目で見ると某は一本の綱の上を歩いている蟻に見えるかも知れぬ。


 この世界は、それほど某を小さくしたいのか。


 吊り橋を渡りきり、渓谷も緩やかに河へと下っていった。


「・・・・・・」


 死の渓谷と聞かされたせいか、誰かに見られている気がしてきた。そう思うと怖くなってきた。


 ピタ。


「いえ、ちょっと・・・」


 ルナどのが某の腕を握ってきた。

 どうやらルナどのも怖いようだ。


「なんだこの数字は?」


 いったい誰が何のためか知らぬが一本の木に数字が刻まれていた。


 パキッ。


 骨を踏んでしまった。

 人間の骨か。

 旅で死ぬのはよくあることだ。


(・・・ルナどのは守らねば)


「助けて下さい!」


 先の方から何者かが助けを求めて走ってきおった。

 ロベルトと似たような格好だが、顔つきが某と同じ我が国の者だ。


「お主、和人か?」


「はい、そうです!よかった同じ日本人で~」


 同じ我が国の者で同じ年頃で、一応側に魔術師であろう者がいるが、軟弱な様子にこの者は武士ではない。


 それ以前にこの者は戦うことができるのか。


「ところで名前は?」


「虎吉だ。お主は?」


「武蔵と言います。この世界に転生しました。虎吉くんも、転生?」


「某はこちらのルナどのからこの世界に連れてこられた。お主の申す”転生”とは何だ?」


 転生とはすなわち生まれ変わると言うことだが、どういうことだ。


「転生ってのは自分が居た世界で一度死んでからこの世界にやってくることです」


 ルナどのが説明してくれた。

 死んで、この世界に来る。


「つまりお主は死人というわけか?」


「生きてる!一度死んで復活したんだよ!」


 死の森と言われる場所で死から蘇った者と出会ってしまった。

最後までお読みいただきありがとうございます。


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