(37)
一週間ほどして、ウィルはこの町での仕事を終え、再び旅に出ることとなった。
レジスタンスの代表的存在であったセルヴィンの捕縛。そしてアルガスに潜んでいたレジスタンス諜報員による、最後の対抗策の失敗。これらの影響は、事態を大きく収束へと向かわせた。
レジスタンスと密約を交わしていたと思われる隣国は、早々にレジスタンスを切り捨てたらしい。セルヴィン捕縛の二日後には、『このような打診があったが毅然と拒否した』という宣言とともに、接触のあったレジスタンスメンバーの情報を提供してきた。
レジスタンスの資金源であったセルヴィンの私財は、軍がそのほとんどの押収に成功。
こうして金、武器、情報。活動に必要な資源の悉くを失ったレジスタンスの勢いは、瞬く間に失われていくこととなった。
この一週間のうちに、レジスタンス活動に協力したと各地の衛兵に自首を申し出る者や、隣国へと亡命を試み捕縛される者が急増したのだ。
こうなっては、もはや傭兵が関われる事案は無いに等しい。警備と内政の問題だ。
「……名残惜しさは尽きないが。まあ、これ以上居たら、それこそ骨を埋めちまいそうだ」
門を抜けた先の広場で、ウィルはそう独り言ちる。
オズワルドの計らいで馬車を出してくれるということなので、その準備待ちだ。
と。門のほうからオズワルドが歩いてくるのが見えた。
「もう間もなく、馬車の準備が終わる。行き先は御者に告げよ。テイルノート領土内であれば、どこであろうと届けるよう伝えてある」
「え、いいのか? もしここから真反対ってなったら四、五日はかかるぞ」
「構わん。仕事に対する報酬の内だ」
当然のことと言わんばかりに、オズワルドは告げる。
決して迷わぬオズワルドの判断は、別れ際であっても変わらない。
それからオズワルドは、懐から紙を一枚取り出した。
「それと、これも渡しておこう」
「ん、これは?」
「あの娘の紹介状だ。これがあれば、この町に来た時のような手間はかかるまい」
言われてようやく、ウィルも思い出す。この町に来た当初、まさにこの門の前で起こった小さな騒動のことを。
思えばこの紙きれ一枚が、全ての事の始まりだったと言えるのかもしれない。
「そういや、そんなこともあったな。……あれが無けりゃ、准将とこうして話すこともなかったかもしれないと思うと、そう悪い手間でもなかったが」
「ふっ、かもしれんな」
ウィルの軽口に、しかしオズワルドは意外にも同意を示してみせた。
口の端を小さく歪めながら、オズワルドは静かに手を差し出した。
「ウィル、そしてリラ。両名に感謝の意を送ろう。この町が大きな被害もなく、今日という日を迎えられているのは、貴君らの活躍があってこそだ」
オズワルドから、送られるとは思ってもいなかった敬意と、賛辞の言葉。
しかしそれも、真っ直ぐな言葉であるからこそ、オズワルドらしくもあって。
「はは。こちらこそ、いい経験になった。准将の下で働けて、光栄だったよ」
立場上、決して対等な関係となることはなかったが、そんな中で生まれた微かな友好も、良いものだったといえるだろう。
ウィルもまた晴れやかな心地で、オズワルドの手を取った。
「……さて。後は、リラがどうするかだな」
「残念だが、貴様の望み通りにはなるまい。あれは……、いや、あの二人は、そういう娘たちだ」
ため息交じりに呟くウィルに、オズワルドは全てを悟った様子で返した。




