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 ところ変わってアルガス軍の基地内。

 通常の業務も最低限に、兵士たちは昨夜同時に起こった二つの事件の対応に追われていた。


「セルヴィン・ロウリーは比較的素直に、尋問に応じているようです。レジスタンスの活動に使用していた私財の隠し場所についても口にしたとのことで、確認のための部隊を現在編成中です」

「レジスタンスの残党も、同じく回収に乗り出していることだろう。虚偽の可能性もあろうが、事実であった場合の取り逃しの方が痛い。速度はもちろん、戦闘の可能性も考慮に入れて編成を行え」

「了解しました。一両日中には派兵が行えるよう準備を進めます」


 様々な部署を見て回りながら、オズワルドは移動中にも指示をこなしていく。

 続いてやって来たのは、厩舎の裏手に急遽用意した、魔獣の死骸を集めて解析をしている部署。


「現在の進捗を報告してもらおう」

「ん、ああ、准将。どうも、お疲れさん」


 オズワルドの声にいの一番で反応して、軽薄な挨拶を返したのは、死骸を解剖する兵士たちへ楽しげに指示を出していたウィルだった。


「まあ、大方の予想通り、魔獣に関しちゃほぼ全戦力をつぎ込んでたとみてよさそうだ。調教跡のある魔獣の数もかなりのものだし、少なくとも二ヶ月程度は、魔獣を使っての作戦はやって来ないと思ってもらっていい。俺が保証するぜ」


 正門を中心に、町への入り口となる門全てに放たれた魔獣の数は軽く百を超える。

 野生の魔獣も用いていたとはいえ、レジスタンスが用意できる最大戦力であったことは疑いようもない。


「隣国から、武器の供給を受ける密約があったという話も出ている。隣国の信用を得られるかどうかの、分水嶺であったのだろう」

「この前の村に対する襲撃は、予行演習ってところか。まさか准将がいなくなったタイミングを狙ってくるとは思わなかったが」

「拠点の位置を掴まれた時点で、タイミングは決めていたのだろう。時間がなかったとはいえ、現場の独断のみで動ける状態にあったと気づけなかったことは、私の落ち度だ」

「俺からしたら、充分すぎるくらいに成果を出してると思うが。まあ、完璧を求めるのが、軍のトップとしての務めか」


 オズワルドが判断を誤れば、それがそのまま兵士や市民の被害に繋がる。そこにかかる重責がどれほどのものか、一介の傭兵にすぎないウィルには想像もつかない。

 そんな風にウィルが改めて感心していると、基地の入り口方面から兵士が、二人の方へと駆け寄ってきた。


「准将、少しお時間よろしいでしょうか?」

「問題ない。何があった?」

「いえ、それが、准将のお屋敷周辺を巡回していたところ、使用人から手紙を預かりまして。急ぎ准将に届けて欲しいとのことで、こちらを」

「屋敷の使用人から? そりゃ、珍しいこともあるもんだ」


 オズワルドへと封筒に入った手紙を差し出す兵士を横目に、ウィルが呟く。

 またリラが、レティシアと共に何か無茶でもやらかしたのかとも思ったが、流石のリラも昨日の今日でそうそう騒ぎは起こすまい。

 オズワルドは僅かに眉を顰めつつも、封筒から中身を取り出す。

 そうして折り畳まれた一枚だけの手紙を開き、一瞥すること数秒。


「……ご苦労。私はしばらくここを離れる。中央部署にその旨を伝えた後、持ち場へと戻れ」

「え、あ、はい。了解しました」


 手短にそう言って、兵士に背を向けて歩き出した。

 そんな端的な様は彼らしく、指示を受けた兵士も疑問を抱いた様子はない。


「……なら、俺も少し外させてもらう。それも伝えといてくれ!」

「え、ちょ、ちょっと!?」


 けれど去り際、ウィルの方からちらりと見えた仕草。

 受け取った手紙を無造作に握り潰し、懐にしまい込む姿は、どうにもウィルの抱くオズワルドの印象とは違っていて。

 直感が、放っておくべきではないと伝えてくるのを感じて、ウィルはその後を追うことにした。

あと二回、明後日の更新で完結予定です

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