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 明くる日の昼前。

 昨晩の警鐘や、疑似太陽弾によって周囲が真昼のように明るくなったこともあって、アルガス市内は普段とは違った賑わいをみせていた。

 もちろん困惑と不安の声も大きかったが、原因であった魔獣の襲撃は全て門前にて退けたこと。それと同時に、オズワルド准将率いる部隊が秘密裏にレジスタンスの拠点へと踏み込み、首謀者の一人である『暴風の主』セルヴィン・ロウリーを捕えたということなどが軍から報告されると、それらも徐々に安堵と称賛の声へと変わりつつあった。


 リラについても、あの後はレティシアとの約束通り無事に戻ってきて、朝起きた頃には何事もなかったかのような様子をみせていた。

 魔獣襲撃を未然に防げたのが、リラの活躍のお陰だということは、あの場にいた全員が認めるところであるが、オズワルドたちの捕えたレジスタンスたちの尋問や調査などで軍も忙しくなるようで、詳しい聞き取りは午後になってからになるらしい。リラよりもオズワルドが優先されているようなそんな状況が、レティシアの唯一の不満だ。

 そんなくだらないことが不満に思えるくらいには、多くのことが片付いた気分だった。

 レジスタンスは強力な資金源であったセルヴィンを失い、今までのような活動は行えなくなる。隣国から武器や兵器の供給を持ち掛けられていたという話も出ているようだが、それもご破算となるだろう。

 このアルガス市を中心としたレジスタンス騒動は、これにて一つの区切りとなるに違いない。


「……レティシア様、少々よろしいでしょうか?」


 昼食のメニューでも盗み見ようかと、調理場へ向かいかけていたレティシアを、メイドが呼び留めた。


「な、なによ? お説教なら充分したでしょ?」


 魔獣の襲撃が一段落した後、レティシアたちは兵士の護衛を付けて屋敷へと戻ることになった。

 当然と言うべきか、こっそりと屋敷を抜け出していたこともばれ、使用人たちは大騒ぎであった。

 が、その中でも特に大変だったのが、このメイドである。

 ほとんど泣き喚くような調子で怒る彼女には、事前に考えていた言い訳の数々を披露しようという気さえ起こせなかった。それが心底レティシアを心配してのものだと分かるから尚更だ。

 最終的に言葉すら出せなくなって泣き続ける彼女を、他の使用人たちが宥めながら去っていったのを見送って以来の邂逅となる。レティシアが恐る恐るという様子なのも無理はない。


「いえ、それは……もう、いいです。それよりも、レティシア様たちに軍の方からお呼び出しがあったので、報告に伺いました」


 泣き疲れが残っているのか、メイドはどことなく物憂げな調子でそう言ってきた。

 下手に突いても藪蛇になるだろうかと、それには触れずにレティシアも答える。


「あら、昨日の話じゃ、聞き取りは夕方くらいになるって言っていたのに」

「詳しいことは分かりませんが、空いている時間が今しかないとか」

「まったく、もうすぐお昼って時に、こっちの都合も考えないで。ま、さっさと行って来て、そうしてから昼食ね」


 軍に呼ばれたというのなら、昨日の件について出間違いないだろう。面倒くさいが、リラの名誉にも関わるのだから、きちんと対応しておくべきだ。

 そう思ってレティシアは渋々と了承した。


「……では、そのように。そうだ、表は少し、野次馬などで混乱しているかも知れないので、今日は裏手からお出かけになったほうがよろしいかと」

「あー、それもそうね。じゃあ、リラを探してから行ってくるわ」

「リラさんなら、先ほど調理場のほうでお見かけしました。戻りついでですし、私が呼んできますので、レティシア様は準備をして先にお待ちください」

「ん、別に大して用意するものもないけど……。まあ、そういうことなら、お言葉に甘えましょうか」


 リラを呼びに行くのを手間とも思わないが、メイドがそういうのなら従っておこう。何かしら動いていた方が、彼女も気が紛れるに違いない。

 やはり少しだけ弱弱しい気がする笑みを浮かべて頭を下げるメイドを見て、レティシアはそう思った。

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