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 部屋に戻ってからそう待つことなく、リラが戻ってきた。


「おかえりなさい、リラ。急に一人にして欲しいなんて言って、ごめんなさいね」

「問題ない。……レティシアが、元気になったなら良かった」


 雰囲気ですぐに察したのか、ベッドに腰掛けるレティシアの姿を認めるなり、リラは平坦な声で言った。

 出会い頭にそう言われてしまうと、自分のことながらなんと分かりやすいのだろうかと苦笑してしまいそうになる。それとも、単にリラがその機微に敏くなっただけだろうか。


「ええ。うじうじと悩むのは終わりにしたわ。なんだか、馬鹿らしくなっちゃったから」


 一度飲み込んでしまえば、気持ちとは驚くほど簡単に晴れていくものだ。まして今は、そんなことよりもずっと大事なことがあるのだから、尚更だろう。

 レティシアは、ぽんぽんとベッドを軽く叩いて自身の隣を示す。


「……リラ。私ね、今から貴女を傷つけることを言ってしまうかもしれない」


 いつも通りにレティシアの隣に座ったリラは、その言葉にこくりと首を傾げた。

 それも当然の事だろうと思いつつ、レティシアは静かに、はっきりとそれを口にした。


「リラは、どうして傭兵をしているの?」


 ぼんやりとしたリラの目が、少しだけ開かれたように感じられた。

 その質問は、奇しくもオズワルドが初対面のリラへと投げかけたものと同じもの。けれど、それの意図するところは全く違う。


「リラがどうして傭兵になったのか。リラが、傭兵になる前は何をしていたのか。私は知りたい」


 リラは黙ったまま、レティシアを見つめている。

 そこに浮かぶ感情は、レティシアには読み解けない。レティシアに今出来ることは、ただ自分の意思を伝えることだけだ。


「最初は、そんなことはどうでもいいと思ってた。貴女はただの楽しい話し相手で、それ以上を知る必要なんてないって」


 リラが一体何者で、どういう経緯を経てレティシアの下へとやってくることになったのか。

 ただ話し相手として傍にいるだけならば、それはわざわざ聞く必要のないものだった。


「でも今は違う。ただの話し相手なんかじゃなくて、リラは私にとって、大切な存在になってしまったから。だから、貴女のことをもっと理解したい。リラに何があったのかを知って、その上でリラと、きちんと向き合いたいの」


 リラの過去が、決して平常なものではないのであろうことは、レティシアにも分かっている。そうでなければ、リラがこうして傭兵としてレティシアの前に現れることなどなかったに違いないのだから。

 それに触れるということは、きっとリラの根底に触れるということでもあるのだろう。


「これは私の我儘。過去は、思い返したいものばかりじゃないって分かっているのにね。……それでも、お願い」


 そう言って、レティシアは頭を下げた。

 そのまましばらく、沈黙が辺りを流れる。

 果たしてその間に、どのような思考があったのだろうか。やがてリラが口を開いた。


「……分かった」


 その声で、レティシアは顔を上げる。

 目の前にあるのは、変わらず感情の窺えないリラの顔。


「レティシアになら、話しても問題ない。私のことも。……リラのことも」


 そうしてようやく、レティシアは知ることとなる。少女が傭兵となる前の話を。彼女が『リラ』と呼んだ、少女との話を。

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