牢の中で 5
甲冑が牢に入ってきた。私の前で立ち止まる。
私は立ち上がって、それからリラの方を見た。
リラは床に丸まったまま動かない。腹部の傷が痛むのか、苦しそうな呻き声が漏れ出ている。
リラの状態は、徐々に悪くなっているように思えた。やはり粗悪な治療と食事では、あの怪我の回復には至れないようだ。
甲冑に呼び出されずとも、このままでは、いずれ。
リラが怪我を負った後、私が甲冑に呼ばれるのはこれで二度目だ。怪我を負った分、リラには猶予が与えられているのだろう。
一体、どちらの方が早いだろうか。
それでも甲冑が私の前に立ち、私が呼ばれたのだと分かると、緊張がほどけるように身体が軽くなる。リラはまだ大丈夫だ。今は、まだ。
魔獣との戦闘は、取り立てて語るようなこともなく終了した。
勝利の報酬として与えられる食事を腹に収め、最後に残った干し肉を細かく千切りながら、考える。
私がこうして呼び出されるペースは、食事を七回運んで来る内に一回と変わりはない。今回も怪我は無かったので、この次も変わらないだろう。
であれば、次はまだギリギリ、私が呼ばれる番かも知れない。
けれど、その次は。あるいは、それを待たずとも。
何故だか不快な感覚が沸き上がって来たので、それ以上を考えるのはやめて、私は千切り終えた干し肉を口の中へ頬張った。
甲冑に連れられ、牢へと戻る。リラは私が出ていく時と変わらぬ体勢で横たわっていた。
甲冑が牢の扉を閉め歩き去っていくのを、私は待った。
足音が完全に聞こえなくなるまで待って、私はリラの傍にしゃがみ込む。
気配に気づいたのか、リラが苦しそうに顔を上げた。目が合う。
私は、口の中へと指を突っ込んて、そこに詰めていたものを吐き出した。
そうして吐き出した、千切った干し肉の塊を、手の平に乗せてリラへと差し出す。
「ぇ……」
リラは小さく声を漏らした。
それからゆっくりと、とても長い時間をかけて苦しそうに、それでも何とかリラは上半身を起こした。
微かに震える手を、恐る恐ると差し出してくる。
その手の上に、私は落とさぬよう慎重に干し肉を乗せた。
リラはもう片方の手で干し肉を一つ摘まみ、小さく空いた口の中へ入れる。
ゆっくり、ゆっくりと、これもまた苦しそうに咀嚼を繰り返す。
たっぷりと時間をかけた後、リラは痛みを堪えるような表情と共にこくり、と喉を鳴らした。
そうして再び、干し肉を一つ摘まんで口へと入れる。先ほどよりもほんの少しだけ早いペースで、咀嚼が繰り返される。
「ん……っ、ぅぁ……ぁぁ……ぐすっ……ぅぁ……っ」
咀嚼に混じって時折、くぐもった声と鼻を啜る音が漏れ聞こえる。
姿勢を維持するのが苦しいのか、リラは段々と、腹部を抱えて蹲るような体勢になっていた。それでも、咀嚼は続いている。
それを確認して私は立ち上がり、いつもの位置へと戻って、リラに背を向けるようにして横たわった。
「ぐすっ……ひぐ……っ、ぁぅ……ぅぅ……っ」
段々と、リラの鼻を啜る回数が多くなっていく。それと共に、堪えきれぬというように漏れ出る声も大きくなった。そんな調子で、きちんと食べられているだろうか。
口の中に残った干し肉の塩気が、決して満たされることのない腹を刺激する。
けれども不思議なことに、この時の私に、それはさほど不快な感覚に感じられることはなかった。
それから三度ほど、食事が運ばれてくるのを経験して。眠りから目が覚めると。
リラの姿は、牢の中から消えていた。




