前編
私の名はセリス。24歳。
冒険者で槍士をしている。
現在臨時に組んだパーティーでここギトの街の迷宮の6階層を探索中だ。
剣士や槍士・弓士は人気がない。
盾職・魔法職・回復職・盗賊が圧倒的に人気職だ。
なのでパーティーに入れなかった者同士で即席でパーティーを組み比較的浅い階層で日銭を稼ぐのである。
私以外は剣士2・弓士2の変則的な構成だ。
剣士2人が小柄なので私が前衛を務めていた。
この階層のメインモンスターである大ネズミと戦っていた時である。
背後から中階層レベルでは上位にランクされるリザードマン3体の攻撃を受けてしまった。
「槍はリザードマンを抑えてくれ! すぐ援護する!」
頷いた私は後ろに行きリザードマン達と対峙した。
私の実力はリザードマンと同じぐらいだ。
武器が槍な分、間合いがやや有利なぐらいか。
リザードマン3体相手は厳しいがなんとか時間を稼がないとここで全滅してしまう。
攻撃は牽制にとどめ、防御主体で必死に時間を稼いだ。
だけど……
背後で戦っていたはずの仲間は既にいなくなっていた。
私にモンスターを押し付けて逃げたんだ……
壁際に追い詰められ、リザードマンと大ネズミに包囲された。
こんなところで死ぬなんて……
『即席パーティーでは他の人を信用してはいけない』
先輩の冒険者に何度も言われてたことなのに。
こいつらに生きたまま喰われるぐらいならいっそ……
覚悟を決めようとした時だった。
急にモンスターの動きがおかしくなった。
すごく遅く動く感じだ。
「今だ! 攻撃しろ!」
リザードマンの背後の通路から声が聞こえた。
私は必死に槍を振るった。
モンスターは攻撃も防御もできないみたいだ。
先ほどまでの苦戦が嘘のように呆気なく倒すことができた。
「大丈夫か?」
少し小柄な黒髪の男性が近付いてきた。
その優し気な表情を見た瞬間私の胸はかつてないほど高鳴っていた。
その後私は彼とパーティーを組んで迷宮に入るようになった。
彼の名前はヨシユキ。初見では私より年下と思っていたが、2つ上の26歳という。
なんでも王様が違う世界から召喚した人達の1人だったのだが、変なスキルだった為に城から追い出されたのだそうだ。
スキル持ちというだけでも凄いことなのに。
もちろん私にはスキルなんてものはない。
彼のスキルは『おもり操作』というもので、モンスターにおもりを付けて動きを遅くすることができる。
10体まで同時に付けることができる凄い能力だ。
どうしてこんな凄いスキルで城を追い出されたのか尋ねたら、最初は少し重くなる程度で大したことなかったらしい。
レベル?というのが上がった時に効果が飛躍的に増したのだそうだ。
彼と迷宮に入るのは楽しかった。
彼と迷宮以外で過ごす時間も楽しかった。
最初は同じ宿でも別々の部屋だったけど、今では同じ部屋で寝起きしている。
私からやや強引に迫ってしまったのだ。
だけど後悔はしていない。
私は彼と過ごす時間の大切さを知っているから。
彼と過ごす日々がいかに貴重かを知っているから。
だって私達はもうすぐ……