表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/102

99.ダークエルフ


 褐色肌の女性は珍しいようで、兵士や避難民からの視線をラクスさんは浴びていた。

 そもそもエルフがあまり見かけない種族だ。注目は仕方のないこと。


 過去にダークエルフは悪魔を崇拝する一族や、神に仇成す者として迫害される対象として見られていた。その風習はいまだに続いているところもある。

 

 ドラッド王国は比較的そういった宗教的側面は感じられない。


 ただ、そうであっても嫌悪する人は存在する。


 設置されたキャンプ地のテント内。

 ラクスさんは重苦しい表情を浮かべながら、問いかけを聞き返す。


「精霊樹ファルブラヴのことを聞きたいと……?」


 ラクスさんを呼んだのは、レインの提案だった。

 精霊樹ファルブラヴはラクスさんの生まれた地であること。最後にその地に足を着けていたのは、レインの両親とラクスさんであったこと。


 そのことが理由で、話を聞くことになったのだ。


 俺も知りたかった。だから、問いかけは俺がした。


「はい。彼らが何者なのか、何か知りませんか」

「……彼らもエルフです」


 レインが自分の耳を触る。

 だけど、彼らにはエルフ特有の長い耳がなかった。

 

「お姉ちゃん。あいつら、耳ない」

「自ら切ったのでしょうね、レイン。エルフは高貴で気高い種族です。穢れを身に纏ったとしれば、耳を切り落とすことくらい簡単です」


 レインの耳がへこたれる。


「ちょっと怖い」


 カリンはその話を聞きつつ、悩んだ素振りを見せた。

 

 エルフか。

 レインとは何度か手合わせをしたことがあるが、感覚としては人と変わらなかった。

 でもフェノーラとの戦闘は、どちらかといえば獣と戦っているような気分だった。


 鋭利な爪に、刃を通さない強靭な肉体……あれがエルフなんだ。


「エルフは言うなれば適応の種族です。長い寿命があるからこそ、自然の過酷な環境に適応し、生き抜くための術を身に付ける。他種族から学び適応する能力を身に付けた」

「そういうことか……」

 

 俺以外の全員が、ラクスさんの話に首を傾げた。

 無理もないと思う。


 俺は戦って感じたことを、ようやく納得がいった。


「俺が戦ったフェノーラは獣みたいでした。レインたちが追ってた敵も、あの翼はワイバーンにとても近いものだったし……魔物から学び適応したエルフが、俺達の敵ってことですよね」

「はい……」


 徐々に話を理解しはじめ、ラズヴェリー侯爵やカリンさんも頷き始める。

 ただ一人、レインは首を傾げたままだったが……。


「よくわからない……」


 少し落ち込んだ様子のレインに、ラクスさんが頭を撫でた。


「レイン。あなたが分からないのも無理がありませんよ」


 見かねた俺が、なんとか分かりやすく説明できないかと試みるも、それを見ていたラクスさんが笑う。


「ありがとうございます、アルトさん。でも、私たちは無理に理解しなくてもいいんです」

「そ、そうなんですか?」

「ええ、私たちダークエルフは適応の能力がないんです。だから追放されたんですけど……」


 とても重い話のはずなのに、ラクスさんは平然と告げた。

 

 同じ種族なのに、能力が一つないだけで迫害され、追放される。

 ……一つ違うだけで、か。


 エルフについて、俺達は詳しくない。

 人間側に残っている文献でも、エルフに対する記述はそれほど多くはない。

 

 ダークエルフともなれば、言うまでもない。


「適応の能力がないから、一人じゃ生きられない。人と手を取り合って共に生きるしか方法がなかったんです」


 俺からすれば、それも一種の適応ではないのかな……と思ったが、口を閉じる。

 俺達の敵がエルフであること。これがはっきりしただけ、大きな収穫であった。


 だがどうして……と疑問を抱く。カリンがなにやら深く悩んでいたが、まだ迷っているような面持ちをしていた。

 

 暗い空気の中で、それを察したラクスさんが手を叩いた。


「ところで! レインのお友達がいらっしゃると聞いたのですが、どなたですか?」

「うおっ、なんじゃ!? なぜ儂に視線が集まる!?」

「まぁ、あなたでしたか!」


 ラクスさんが距離を縮め、カリンの手を握った。

 

「レインが昔からお世話になっております。姉のラクスです」

「お、おぉ……そ、そうか……ご丁寧にどうも……儂も昔から仲良くしてもらっておる」

「これからも、レインのお友達としてよろしくお願いしますね」

「儂が友達……? こ奴と? はっ、そんな馬鹿な……馬鹿な……」

 

 詰め寄られたカリンは、言いづらそうに「と、友達……じゃな……」と呟いた。

 流石ラクスさんだ。あの美貌で輝きオーラ全開で詰められたら、俺でも頷く。

 

「フフッ……アルトさん、よかったら私もお手伝いするので、何かあれば仰ってくださいね」

「孤児院の方は大丈夫なんですか?」

「はい、ウェンティとフラベリックさんにお任せしているので」


 あぁ、じゃあ安心かも。最近はウェンティも性格がさらに変わって来て、子どもの面倒をよく見るようになってきた。

 没落してから、すごく自由に生きている感じはする。


「では、これから皆さんに夕食を振舞うので、手伝って頂けますか」

「もちろんです。アルトさんと作るの久々ですね!」

「ですね」


 にこやかに返事をする。


 共に歩を進み、厨房へと向かう中で俺は思う。

 ふむ、最後に一緒にご飯を作ったのっていつだっけ……。

 

 残ったテントの中で、カリンの頬が引き攣る。


「おいレイン……お主の姉、なかなか凄いな……」

「でしょ。優しい、大好き。それに人間が好きになったの、お姉ちゃんのお陰」

「いやそっちではなく、これじゃ」


 カリンが自身の胸を強調する。

 レインが呟いた。


「……胸」

 

 そっちか、といった表情を浮かべていた。

 


 


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

となりのヤングジャンプ様より、コミカライズ連載開始!
【世界最強の執事】最強執事の英雄譚、始動!!
クリックすれば読むことができます!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ