92.一歩
本日、コミカライズ第一巻が発売しました!
長くより多くの読者様に読んで頂きたいと思っております。
是非とも応援のほどよろしくお願い致します‼︎
バァァァン────ッ!!
一対の矢によって、暴風が辺りを包み込む。
鉄をも溶かす熱量に、カリンの足元にあった土はドロドロと流動している。
圧倒的な破壊力を持つ【雷鳴龍焉矢】は、カリンが生み出した魔法の一つであった。
炎剣に魔力を乗せ、出力を倍増させる魔法。
純粋ゆえに強力な魔法だ。
「…………ふんっ」
【雷鳴龍焉矢】はアルトへ当たっている。
だが、十分すぎる威力を浴びながらも、アルトはその足で立っていた。
キィィン……とアルトの魔剣が鼓動する。
【雷鳴龍焉矢】を受け止めたせいか刀身は赤く焼け、次第に色を取り戻していく。
「儂の炎でも溶けぬか。魔力量で硬質度が左右される魔剣……お主だからこそ、扱い切れる代物とも呼べるな。魔剣に救われたな」
アルトは目尻でウルクを確認した。攻撃は当たっていないようだ。
この距離で【雷鳴龍焉矢】を弾く計算が狂えば、ウルクたちへ攻撃が当たってしまう。
コンマ数秒の一閃、タイミングを誤ればアルトも【雷鳴龍焉矢】を直撃していた。
弾かれた矢は水平線の先まで巨大な痕跡を残していた。
「なるほど……一瞬だけ身体強化をし、全開で剣を振るったのじゃな。面白い」
まるでそれくらいやってもらわねば困る、と言いだけにカリンが鼻を鳴らした。
いくら弾道を逸らしたとはいえ、間近で【雷鳴龍焉矢】を喰らったアルトは息が上がっていた。
神の矢と言われても、アルトは納得が行った。
「はぁ……はぁ……」
「じゃが、そのせいでもはや身体は動くまい。既にお主はボロボロ、傷も深い。さて、どうする?」
意地悪な声音で、カリンは歩を進める。
「剣術、筋力、魔法────すべてにおいて、お主は儂より弱い」
「まだ……立ってます」
余裕なんかありはしない。
これが────Sランク冒険者の実力。
名高き英雄と称されるに値する人々が持つ実力だ。
初めて知った実力差に、少し落ち込んでいた。
(レインもこれくらい強いんだ……なのに、なんで自分は『アルトと戦ったら負けるよ』なんて言えたんだか……ちょっと慢心したかも)
レインは本気で言っていた。だから、アルトは真に受けてしまった。
「アルト!」
ウルクが傍に近寄ってくる。
そうして、俺を支えてくれた。
「ウルク……」
「無茶をするな!」
情けない姿を見せちゃったな……と思う。
ウルクの前では、できる限り良い恰好をしたいのに……。
ウルクがカリンを睨みつけ、牽制した。
「貴様……これ以上、アルトに近寄るな」
「戦いは終わっておらぬ。小娘、下がれ」
「これは試験のはずだ! 私たちは不合格でも良い! もうやめろ!」
まずい……カリンは本気だ。
邪魔をする人は容赦なく切り捨てるはずだ。
ウルクを危険な目に逢わせたくない。
レーモンさんやテッドさん、フレイたちに申し開きができなくなる。
「ウルク、俺は大丈夫だから離れてて」
俺は努めて、笑顔で告げた。
俺を支えるウルクの手が、ギュッと握り締められた。
「ウルク?」
*
顔色を暗くする私に、アルトは首を傾げる。
いつもなら、ここで私は納得する。するしかない。アルトを困らせたくないから。
震えた手で、ゆっくりと私は口を開いた。
「……もうやめてくれ。アルトは怪我をして、ボロボロなのに平気そうな顔で笑って……ずっと私たちの前に立ち続けて戦ってくれた。なのに、どうして自分のことは犠牲にしようとする……!」
ずっと鬱憤が溜まっていた。
自分はただ、後ろから見ていることしかできない。
一緒に横へ立ち、支えてあげることができない。
守られるだけは嫌だと……あれだけ思いながらもアルトはどんどん先へ進む。
やめて欲しいと何度も願っても、アルトは自分を切り刻んでまで私たちを守ろうとする。
正直、滅尽の樹魔との戦い以降、私は少し幸せだった。
戦いがないからアルトは傷つかない、学園では楽しそうに笑って、一緒に歩を合わせて人生を歩んでいる気がしていた。
なのに……今はまた遠く感じる。
一歩で良い。
たった一歩の距離で良いから、私は傍に立っていたい。
「アルトが死ぬくらいなら、私は……死んでもいい」
*
ウルクが泣いた。
その衝撃で、俺は痛みを忘れた。
いつも凛として、たまに恥ずかしがったり、不器用なりに努力しているウルクが俺は好きだった。
助けてもらった恩もあれば、傍に居たいと自然に思う気持ちもできている。
それを分かっていながら、俺はウルクを戦いから遠ざけていた。
当然だ。とても、とても大事な宝物は……人に見られないように隠しておくから。
でも、それが本人の意思を踏み躙っていいことにはならない。
「私たちは、邪魔か? アルト」
「ううん……邪魔じゃない……」
俺は眼を開く。
ウルクの肩に手を置く。
「ウルク、死ぬなんて簡単に言っちゃダメだ。そんなことしたら、イスフィール家のみんなが悲しむからさ」
俺は剣を握り直す。
元々、こんな幸せな状況は有り得ない話なんだ。
執事をやって……追放されて、ウルクに拾われて……凄く幸せだった。
人並みの生活が送れて、学校にも通わせてもらった。
楽しかった。幸せだった。
それを守りたくて、俺は戦っている。
忘れちゃいけない。
俺は今、凄く贅沢な場所に立っている。
「ウルク、すぐ後ろに居て欲しい。傍に居てくれるだけで、勝てる気がするんだ」
「……あぁ」
満面の笑みで、ウルクが笑ってくれた。
俺はそれだけで十分な気持ちになる。
まだ俺は自分の足で立てる。
剣を握れる。振れる。
剣を振り下げ、風を斬る。
カリンが溜め息を漏らした。
「……『負けました』、その一言が、そんなに遠いかの?」
「すみません。負けたら、ウルクが悲しむので」
これ以上、ウルクを泣かせる訳にはいかないんだ。
フレイにも怒られそうだし……レーモンさんには拳骨を貰いそうだ。
「そろそろ、反撃させてもらいます」
物は使い様。自分の戦い方を思い出せ。
いつも戦いの中で、俺はどうやって成長してきた。
考えろ、観察しろ、模索しろ────。
自分なりの戦い方で、勝つ。
*
アルトが【疾駆】する。
一踏みでカリンとの距離を縮め、剣を振る。
「なんじゃとッ!?」
油断しきっていたカリンは、咄嗟に炎剣で防ぐ。
火花が散り、後方へ大きく飛ばされ、木々が薙ぎ倒される。
カリンは炎剣を地面に刺し、勢いを殺す。顔を上げるも前方にアルトの姿はない。
(どこに消えた!)
「居合────」
「上か!」
落下の勢いと合わせ、アルトは剣戟を放つ。
カリンは炎剣を振り上げ、相殺する。
(さっきよりも重いではないか……!!)
カリンは思考を巡らせる。
────何かがおかしい
【雷鳴龍焉矢】を間近で喰らい、直撃を免れたとはいえダメージは大きいはず。
(もしや、本当に殺してしまうとマズいと思って儂が無意識に手加減をした?)
何度も疑問が頭の中で過る。
答えは見つからない。
アルトはもう動けないと思っていた。
決して油断ではない。
長年の培ってきた戦いの経験が導き出した答えだ。
剣を交え、その実力を見定めた。
……間違える筈がない。
(間違える筈がない! それとも実力を見誤ったとでもいうのか。この儂が? この小童の?)
「【滅却円】ッ!!」
アルトと鍔迫り合いになり、至近距離からの【滅却円】で辺り一帯ごと焼き尽くそうとする。
この状態のアルトと剣を交えることを危険視したカリンは、魔剣を放とうとした。
魔力を練る一瞬の隙。
「なっ────!」
アルトが身体を捻り、カリンの手元を掴んで膝蹴りを加える。
顔面に喰らい、数歩下がる。
「ふんっ、少し前より動きが良くなったではないか……! 女に絆され本気になったか!」
「戦い方を変えただけです」
(戦い方を変えた……? スピードと威力が上がっているのに、どういうことじゃ……。まさか、身体強化を重複して掛けているのか……!? 化け物か!)
人間の可能性、それを魅せられているような気分になったカリンは微笑んだ。
自分たちよりも短命で、矮小な存在である人間に興味惹かれることは久しい。
どう強くなったか理由は分からんが、レインが肩入れするのも分かる────とカリンは感じる。
「素晴らしい……やるではないか、アルト!!」
カリンが声を張り上げると、答えるように炎剣が燃え盛る。
永遠なる炎をもってしても、アルトの炎を潰せない。
足を踏みしめ、カリンが切っ先を向ける。
「【雷鳴龍焉矢】」
「躱しても良いのだぞ?」と挑発するも、アルトは静かに剣を鞘に納める。
「なんのつもりじゃ」
「受けて立ちます」
「……っ! フッ、フハハハッ!」
カリンは思う。
今度こそ、無意識に手加減などしない。
全開全力で、目の前の敵を穿つ────ッ。
アルトは集中した。息を吐き、剣と一体になる。
俺は元より、カリンさんほど強力な魔法もなければ、自分ひとりの力でここに立っている訳じゃない。
みんなのために、己の全てを一刀に捧げる。
「燃やせ、【雷鳴龍焉矢】ッ!!」
「【居合返し────炎龍の太刀】」
一度受けた魔法を、アルトは二度も喰らわない。
それを知っているのは、アルトの傍にいる者たちのみ。
アルトは先ほど受けた【雷鳴龍焉矢】によって、この魔剣の隠れた特性を知った。
アルトの使う魔剣────攻撃を吸収し、一定の魔力を吸い込むと持ち主の身体能力を極限まで引き上げる能力を持っていた。
「儂の炎を跳ね返したじゃと!?」
一太刀は【雷鳴龍焉矢】を受け止め、二太刀で魔法を跳ね返す。
アルトが【洗濯】を応用し生み出した剣術。
【雷鳴龍焉矢】がカリンに飛んで来る。
「……見事じゃな」
バァァァン────ッ!!
……
…
【とても大事なお願い】
「面白い!」
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そう思って頂けるよう頑張っています!
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