85.ファンクラブ戦争
あれから、俺たちは魔法騎士学園に戻ってきていた。
今日は授業が終わり、レフィーエ先生のサロンに向かう所だった。
ダンジョン攻略戦という期末試験もあることだし、俺は学園生活をもう少し楽しみたいと思っていた。
ウルクと一緒に廊下を歩くたび、生徒たちから注目の視線を浴びる。
それが久々に戻ってきた気がして、俺はどこか安心した気分になる。
でも、どこか学園の雰囲気が違う気がする……。
ウルクも察したようで、首を傾げた。
「なぜだか、やけに女子生徒が多いな」
「なんでだろうね……?」
フレイやヴェインが居る訳じゃないのに、珍しいこともあるんだなぁ。
そう呑気に考える。
レフィーエ先生のサロンへ入ると、ソファーで横になっているウェンティが居た。
疲れているようで、目の下にクマがある。
レインに連れて来られてから、ウェンティは寮生活だけでは息が詰まるということで特別にサロンの出入りが許可されていた。
ウェンティはレインの付き添い人という扱いだが、その反面として錬金術の勉強という目的もあった。
「はぁ……」
ウェンティが溜め息を吐く。
すると、こちらに気付いた。
「あっ……あんた」
ウェンティとウルクの目が合う。
ふと、前に二人が出会った時のことを思い出した。
確か……二人が会ったのはお茶会の時に、裏方で料理を作っている時だ。
「……ふんっ」
ウルクが目を瞑り、横を通り抜けて行く。
あれ、前と比べて嫌な感じが薄い……?
ウェンティにもどことなく柔らかさがあるような気がした。
もしかして二人の間に何かあったのかな……気のせいかな?
「ウェンティ、大丈夫?」
「えぇ……寝不足なだけだから」
「頑張ってるのは良いけど、あんまり根詰めすぎちゃダメだからね?」
「わ、分かってるわよ……そんな近寄らないで……」
えっ……。
数歩前に進んだだけで、近寄らないでと言われたことに僅かにショックを受ける。
「そ、その……昨夜はお風呂に入ってないから」
「ウェンティ、ご飯ちゃんと食べてる? 俺が何か作ろうか?」
「……むっ。ねぇ、アルトはいつから私のお母さんになったのよ」
はっ……!
いけない、つい昔の癖で尽くそうとしてしまった。
ウェンティが我儘になった一因が俺にもあったことを、忘れちゃいけない……。
「でも、昔からお母さんみたいなことしてたから……」
掃除、料理、身支度……ほぼ全部やっていたからなぁ。
「否定できないわね……とにかく、大丈夫だから」
「そっか。ところで、凄い量の資料だね」
近くにあった山積みの紙を手に取る。
うん? 紙というよりは手紙の山っぽいな。
手紙の後ろに女性っぽい名前が書いてある。
「あぁっ! それは違うから! 読んじゃダメ!」
そこへレフィーエ先生がやってくる。
「ウェンティさん、いけません」
「うっ……レフィーエ……」
「レフィーエ先生です。なんですか、その恰好は? 淑女たるもの身支度の一つくらいできずに恥ずかしくないのですか?」
レフィーエは鬼のように詰め寄って言う。
ウェンティが頬を引き攣らせる。面倒臭そうな顔だ。
少し離れた場所に居たウルクが『身支度の一つもできない』という言葉に背筋を伸ばす。
頑張ってウェンティが反論する。
「わ、私はもう貴族じゃないもの! 身支度を気にする必要なんてないわ」
「没落したことを胸を張って言えるのはあなたくらいでしょうね……まったく」
レフィーエ先生が溜め息を漏らす。
ウェンティが孤児院で生活していた時は、そこまでうるさく言われなかったのだろう。
レフィーエ先生にはラクスさんとはまた別の厳しさがあるみたいだ……。
「お久しぶりです。レフィーエ先生」
「おかえりなさい、アルトくん。その手紙、全部あなた宛てですよ」
……ん?
俺宛て? この手紙の山が?
「あの……俺、こんなに文通してる相手いないんですけど」
「全部、魔法騎士学園の女子生徒からです……アルトくんが居なくなってから大変だったんですよ」
それを聞いたウェンティが何か思い出したようで疲れた様子を見せた。
どうやら、ウェンティの疲労の原因は勉強だけではなさそうだ。
「な、何があったんですか……?」
「それは……」
レフィーエ先生が言い淀む。
ウェンティと目を合わせて、「ははは……」と苦笑いを浮かべていた。
「本当、アルトは厄介な奴と絡むわよね……氷の令嬢といい、レインといい……私を振り回す奴しかいないわよ」
「ご、ごめん……」
「別にアルトは悪くないから。問題はアイツよ! ドラッド王国第四王女、レア王女よ」
ウェンティが俺に一枚の紙を手渡す。
そこには、こう書かれていた。
「【アルト様ファンクラブ会員募集】……え?」
「アルトが手伝ってた礼儀作法という名のアルト相談所が爆発的な人気でね」
アルト相談所のつもりはなかったんだけど……みんなが真剣に悩みを打ち明けてくれるから助けようと思っただけで……。
「アルトが居なくなってから、噂が独り歩きして大量のラブレターと私からアルトについて聞かれたのよ。元執事時代はどうだっただの、幼少期はどう過ごしただの」
「そ、それは……」
話を聞いている限り、ウェンティに何かしらの被害が及んでないか心配になる。
だが、そういった様子はなさそうだ。
「教える訳ないけどね。アルトとの思い出は私だけのものだもん。でも、そしたらこのラブレターの量よ……」
なるほど、とようやく納得する。
「それにレア王女殿下が怒っちゃってね……女子の数が多すぎるから、『私が管理します!』と言って、これよ。ファンクラブができたの」
「そ、そんな経緯が……」
だから学園に戻って来てから、やけに女子生徒たちに見られていたのか。
俺が剣を作りに行っている間にそんなことになっているとは……し、知りたくなかった……。
自分のファンクラブが出来たことも衝撃なんだけど、ウェンティへ迷惑をかけたことも申し訳なくなる。
「ファンクラブに入ってない女子はアルトに話しかけることは禁止、もちろん触るのも禁止。噂によれば見るのも禁止らしいわね」
「もはや宗教のような……ウェンティはいいの?」
「知らないわよ。勝手にルール作って、アルトを縛ろうとする奴らなんて。私は好きにやらせてもらうわ」
俺はその言葉を聞いてホッと胸をなでおろす。
心配していたのだが、その必要はなさそうだ。
「ただ……アルト、今日は忙しいわよ」
「なんか行事とかあったっけ?」
「知らないの? フレイ派とヴェイン派……それと新規に加わったアルト派の抗争よ」
俺は思う。
レア王女殿下……学園で戦争を始めるのはやめてください……。
【とても大事なお願い】
「面白い!」
「楽しみ!」
そう思って頂けるよう頑張っています!
ちょっとでも応援していだたけるのなら【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】から【★★★★★】にぜひお願いします!
それほど読者様一人の10ポイントはめちゃくちゃデカいです……!





