84.魔剣/人影
ライクに連れられ、この前来た鍛冶場の裏方へ回る。
初めてここに来た時、前の剣ではオリハルコンを両断することができなかった。
でも、ライクさんが手がけたこの剣なら、違う。
ライクが言う。
「どうだ、新しい剣は」
「握り心地は変わりませんね。でも、軽い……」
何度か試しに空振りする。
鋭く風を斬る音が響いた。
なんだか、安心感があるな。
「魔剣には意思がある。ないって言う奴もいるがな。俺はあると思う」
「意思、ですか?」
「あぁ、剣に魂が宿るんだ。それに認められるのなら、その魔剣も力を貸してくれるだろう」
そうだ。
魔剣に認められなければ、力を発揮してくれない。
しかし、俺の心に不思議と恐怖はなかった。
もう認められている。そんな気がしていた。
魔力を、流し込め。
「怖気づくな。誰でも最初は魔剣に怖がる。お前のは炎や氷の魔剣とは違う純粋な────」
「こう、ですか?」
俺が魔力を流し込むと、魔剣が呼応する。
刃にあった灰色のようなラインが光り、満たされる。
これが魔剣が発動した証か。
「……それでいい」
少し面白くないのか、ライクが半眼で俺を見る。
そうして、妙に納得した素振りを見せる。
「まぁ、当然か。柄は元々お前の剣だ」
「たぶん、そういうことだと思います」
「気に入ったか?」
「凄く良いです。ありがとうございます!」
軽く、しなやかで思い通りに剣が動く。
これなら、全力を出しても折れなさそうだ。
ウルクが「確かに良さそうな剣だな……」とつぶやく。
「貴族様、欲しいだろうが、あんたにはまだ無理だ」
ウルクがムッとする。
「なぁ、貴族様はやめてくれないか? 私はウルクだ」
「そうかい。大層良い剣持ってて、認められてないんじゃ呼び名は変わんねえな」
「……? どういうことだ?」
「知らねえなら良いさ。アルト、さっさとやって見せろ」
ライクの要望もあり、俺は剣を握り直す。
「お、おい……ライク。アルトの剣は魔剣なんだろう? 本気のアルトが魔力を注ぎ込んだら、どうなるか分からないぞ」
「安心しろ。そういう類の魔剣じゃない。アルトの要望通り、折れないだけの斬れる剣だ。魔力の多さに応じて強度が変わる」
ライクは平然と言う。
それに対し、ウルクは目を見開いていた。
「アルトに一番相性が良い剣だな……」
「それはどうだかな……俺の知ってる魔剣使いは、ここら辺一帯なんぞ一瞬で消し飛ばすぞ。相性が良すぎてな」
「例のSランク冒険者か……?」
ライクは返事をしなかったが、ウルクはそれを肯定と受け取った。
(……魔剣使いのSランク冒険者。あまり聞いたことはないな)
*
アルトは静かに考えていた。
この剣は、落ち着いているようで暴れ馬だ。
魔力の吸い上げ方が尋常じゃない。
俺が扱い方を間違えれば、斬らなくて良いものすら斬ってしまう。
ライクさんは魔力の調整次第で強度が変わると言っていた。
(……意識して調整してたら、実践じゃ使えない。考えよう)
「はぁ……」
魔法使いであれば、魔力操作も簡単なのだろう。
魔剣が扱いづらいと言われる理由も納得だ。魔法使いは剣士じゃないし、剣士は魔法使いじゃない。
両方使える物でなければ、扱うことは難しい。
完璧に研ぎ澄まされた刃に、意識を向ける。
結果、アルトの中で出た答えは簡単なものだった。
(いつも通り……剣を振る)
そう決める。
アルトが剣を鞘に戻し、両断することができなかったオリハルコンへ構える。
(ただし……本気だ)
アルトが抜刀した。
「居合・極────……」
*
それから、しばらく経った日。
魔剣を手にしたアルトたちはカジュイから学園に帰っていた。
すっかり静かになってしまった鍛冶場で、ライクは鉄を打つ。
そこへ、一人の人影が姿を現した。
「……お前か」
人影は外套を身に纏い、何も言わない。
ライクは寂しそうに言う。
「聞いてくれないか? 久々に満足の行く剣を作らせてもらったんだ……官能的だったぞ」
ライクの話に興味を示さず、人影はライクの傍に少量のオリハルコンを置く。
今月分の物らしく、買い取って欲しそうに手を伸ばした。
「へいへい……そういえば、お前のことを聞かれたぞ。何も答えなかったが」
人影が首を傾げる。
「Sランク冒険者で魔剣使いのお前のことだ」
そこでようやく、人影は口を開いた。
「【雨水の魔法使い】への伝言は伝えたか?」
「よろしく、ってだろ? 伝えたぞ」
「そうか。レインには嫌われているから、彼からではなければ伝わらない」
「なぁ、レインって伝説の冒険者だろ? 嫌われるって、何かしたのか?」
人影は不敵に笑う。
その人物は、背中に紅い剣を背負っていた。
「子どもは嫌いなんだ。特に甘えん坊は」
見せつけるように、魔法騎士学園の紋章が入った手紙をライクに見せた。
ライクが呆れた様子を見せる。
「……そういう意味のよろしくってことか」
人影が鍛冶場の裏方へ足を運ぶ。
ブツブツとつぶやく。
「レインは弟子を取らない。肩入れもしない。人に興味を示さない」
試し斬りの場となっているそこには、何もなかった。
アルトが両断することができなかったオリハルコンは……細かく、綺麗に斬り落とされていた。
「へぇ……オリハルコンをすべて斬ったのか」
人影はフードの中から、竜のような紅き瞳孔で夜空を見上げた。
「アルトか。いつ、会えるだろうか」
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