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83.魔剣


 ライクさんの報告を受け、俺は剣を受け取りに行った。

 今回はセシリアさんはおらず、ウルクと二人でライクさんの元へ向かっていた。


 鍛冶屋に入り、ライクに声を掛ける。


「……来たか」

「はい、剣が完成したと連絡を受けたので」

「少し待っていろ」


 そう言って、ライクが裏方へ入っていく。

 一緒に来ていたウルクが言う。


「しかし、アルトの新しい剣か。少しばかり簡単だな」

「簡単って?」

「伝説や英雄になった人々の話だと、強い武器は苦難や試練を乗り越えて手にするだろう? こう……作ってもらうというのは、現実的だと思ってな」


 確かに、この世界には物語になるような伝説の武器が存在する。

 でも、聖剣や魔剣……そういったものは、俺は要らないと思っていた。


「ウルク。俺は英雄じゃないし、魔剣なんて扱える自信ないよ」


 俺は英雄になりたい訳じゃない。なれないとも思っている。

 ただのアルト、それだけで十分だ。


「そうか……アルトらしいな」


 ウルクは納得したように微笑む。

 そこへ、ライクが戻ってくる。

 

「話し中のところ悪いが、コイツが頼まれていた品だ」

 

 黒い包みに入っている剣を、目の前に置いてくれる。


「ほれ」


 包みを取ると、純白の刃が輝く。

 剣にラインが入っており、空っぽのように灰色になっている。


 長さは前に使っていたものと同じだ。でも……うん?


 俺は思わず眉をひそめた。

 

 なんだろう、この感じ。魔力の流れ……?


 俺の表情で気付いたのか、ライクが不敵に笑う。


「気付いたか、変な感じがするだろう」

「はい……」


 ウルクは俺たちの会話が分からないようで、首を傾げていた。


「なんの話をしているんだ?」

「この剣、何か変なんだ」

「だろうさ、俺もコイツを作ったのは何十年ぶりだ。魂が震えたぜ……」


 ライクがいつにも増して、興奮した様子を見せる。

 剣のことになると、口が多くなるらしい。


「柄はお前が前に使っていた物をそのまま使用した。握った感覚は変わらないだろうさ」


 あぁ……だから、俺の使っていた剣を貸して欲しいと言われたのか……。

 さっそく持ってみたい欲を我慢して、ライクの話を聞く。


 説明をしっかり聞かなければ、この違和感は解決しないような気がしていた。


「約束通り、素材はオリハルコン。そこに魔道具で使う超高濃度魔鉱石を砕いて混ぜた」

「待て、超高濃度魔鉱石だと!? オリハルコンもレアだというのに、どこからそんな物を用意したんだ……!?」

「ツテがあるのさ。お前、武器商人のザッシュって奴と知り合いだろ?」


 その名前を聞いて、ピンと来る。

 ザッシュさんは、ゲリオット街の【地下迷宮】で出会った武器商人だ。


「俺も知り合いなんだ。たまに武器を卸しているしな」

「そうなんですね! 元気そうでしたか?」


 ザッシュさんとはゲリオット街で別れてしまった。

 やり取りする手段もないため、こうして繋がりがあって嬉しく感じる。


「手紙だけだが、元気だ。お前のことを話したら、『やるなら徹底的にやれ』と超高濃度魔鉱石を渡してきやがった」

「ザッシュさんが……」


 後で会えたら、ちゃんと感謝を言わなくちゃいけない。

 超高濃度魔鉱石って、相当高いものだ。使いようによっては、城が買えてもおかしくない。


 ウルクが言う。

 

「待て、ライク。アルトの剣に魔鉱石を使ったのは分かったが、なぜ砕いた? 本来は【調合】で使う物ではないか」

「その通りだ、お嬢さん。本来は【調合】で使う物だが、それは物に質を合わせるためだ」

「……っ? どういうことだ?」

 

 ライクは悩んだ素振りを見せる。

 どう説明すればいいか分からないらしい。


「ウルク、超高濃度魔鉱石は質が良すぎるんだ。だから、それを素材として使おうにも、物が耐えられない。だから【調合】で補強して混ぜるんだ。そのせいで魔鉱石の質はかなり落ちる」

「そう! それだそれ! お前、流石だな」

「あ、ありがとうございます」

「な、なるほど……」


 魔道具として使うにも、効果が高すぎては人の手に余る可能性がある。

 それも含めて、【調合】は質を調整する役割も持っている。


「つまりだな、オリハルコンであれば、耐えられるんだ。超高濃度魔鉱石の質に」 


 理論上であれば可能だ。

 実現できれば、この世界において最も強い剣と言っても過言ではない。


 でも、俺は実物を見るのが初めてだった。


 ウルクも何となく剣の正体を察したようで黙る。


「あの……これ、魔剣ですよね?」

「あぁ、そうだが……何か問題か?」

「俺、普通の剣をお願いしたつもりだったんですけど……」

「少し良い剣になっただけだ。俺も楽しかったからな、多少はサービスしてやる」


 少し……良い剣?

 というか、ライクさんって何者なんだ……!?


 セシリアさんは元宮廷にいて、腕が良い鍛冶師って言ってたけど……それだけじゃなさそうだ。

 ウルクが言う。


「魔剣が作れる鍛冶師など、この国でも私は知らないぞ……」

「そりゃそうだろう。バレたら、みんな作って欲しいと騒ぐ。俺はそれが嫌でこうして王都から離れて田舎で武器を作ってるんだ」

「王国がお前のような人材を手放すとは考えにくいが……」

「俺の後ろにはSランク冒険者がいるもんでな、我儘も通るんだ。オリハルコンもそいつから仕入れてる」


 レインと同じSランク冒険者……!

 他にも何人かいるとは聞いたけど、どんな人がいるんだろう……。

 

「お前たちの傍にいる【雨水の魔法使い】によろしく、って言ってたぞ」

「レインと知り合いなんですか?」

「さぁ……そう伝えろと言われただけだ。そのうち会えるだろうさ」


 ライクが息を吐く。

 真剣な眼差しで俺を見た。


「俺は魔剣を作るつもりはなかった。だが、ザッシュとセシリアの頼みだ。お前がもし死んだら、俺のせいになる。剣が弱かったってな」

「ライクさん……」

「剣の実力、試してみるか? お前が両断できなかったオリハルコンの的は残ってるぞ」


 ついつい、意地の悪い人だ、と思う。

 この剣を持つのなら、それくらいは出来るだろう?と言われてるようだ。


「ええ、ぜひ」


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