72.逃げられないセシリア
セシリアは食堂にいる大勢の視線を浴びながら、学園の大スターたちと席に着いていた。
ヴェインが言う。
「まさか、アルトがもうセシリアさんと友達なんて知らなかったな」
「昨日知り合ったんだ。勘違いされてるみたいだったから、謝罪も込めて誘ったんだけど……ダメだった?」
「ううん、意外だってだけだよ。セシリアさんは僕たちとは関わろうとしないからさ」
レアが「また新しい女性ですか……」と誰にも聞こえないように呟く。
「そ、その……隣国の皇太子様に無礼があっては失礼だと思いまして……国際的な問題になったら大変ですから」
アルトのことを皇太子だと思い込んでたセリシアは、平然と言う。
ウルクが聞く。
「皇太子……誰がなんだ?」
「アルトさんです」
その言葉を聞いたヴェインが大きく笑う。
「ハハハ! 確かに、そう感じるのもわかるけど皇太子か。いいアイデアだね」
「えっ、違いましたか!?」
「セシリアさん……俺はただの一般人ですよ」
フレイが「アルトくんのような一般人がいてたまるか」という顔をするも黙る。
俺が詳しく自分のことを話すと、若干頬を引き攣らせた。
「す、凄い経歴ですね……皇太子よりも凄いかも……」
「ありがとうございます」
やはり、褒められるのは素直に嬉しい。
前の俺であれば、そんなことはないと言うし思っていたけど、今は褒めて貰えることを喜んでしまう自分がいた。
セシリアの発言にまだククク、と笑っていたヴェインだが、フレイに睨まれて口を閉じた。
その場を仕切るレアが言う。
「ヴェイン。あなた、セシリアさんに失礼ですよ。ドラッド王国で唯一の聖女なのですから。それに、本当にアルト様が皇太子なら既に私と政略結婚させています」
さりげなくとんでもないことを言うレアに、ヴェインは慣れた様子で受け流す。
「すみません……ごめん、セシリアさん。僕、失礼だったよね」
「いえいえ! 私の方がもっと失礼なことしてますから! 大丈夫です!」
その言葉を聞いたレアが首を傾げる。
俺の横に座っていたウルクが耳打ちする。
「アルト。その……セシリアのことが気になるのか?」
「うーん、そうじゃないけど、心配なんだ」
俺はレーモンさんやフレイから、セシリアさんは友達がいないと聞いていた。
昔のウェンティは、友達がいなかった。
いつもひとりぼっちで俺が支えなきゃって思っていた。だけど、もしもウェンティに友達がいれば、ああはならなかったと思う。
セシリアさんはそうならないとは思うけど、友達がいないのは心配だ。
「心配……か」
少し恨めしそうにウルクがセシリアを見る。
視線に気づかず、セシリアは目の前にあるサラダを眺めていた。
フレイが言う。
「どうしたんだい? サラダ、嫌いなのかい?」
「いえ、私の故郷で育ててた野菜に似てるな〜って」
そういえば、セシリアさんの故郷って辺境の村だっけ。農民として育ってきたって聞いた気がする。
「ユフィ、元気かなぁ」
「ユフィ?」
俺が問いかける。
「妹です。私よりも気が強くて、真面目な良い子なんですよ」
へぇ、妹さんがいるんだ。
気が強くて真面目、と聞いて俺はウェンティのような子を想像していた。
「ところで、アルトくんはダンジョン攻略戦はどうするんだい?」
「ダンジョン攻略戦?」
「おや、知らなかったかい? 今年の期末試験は6人組でダンジョンを攻略することなんだ」
そっか、タイミング的にそんな時期だったんだ。
6人か。俺とウルク、ヴェイン、フレイ、レア王女殿下……あれ、1人足りない。
「そこで、セシリアさんもどうかと思うんだけど……」
「へ、へっ!? 私ですか!?」
セシリアは突如、焦り始める様子を見せた。
(いや、いやいや! 私が!? この黄金メンバーと!?)
普通の女子生徒であれば、大喜びで受け入れるが、セシリアはそうはいかなかった。
汗だくで言う。
「いやぁ……そのぉ……罪悪感がすごいっていうかぁ……」
「嫌だったかい? それなら無理強いはしないけど……」
ヴェインがフレイに言う。
「今年も野外か。フレイ、テントが狭いからって、寝癖で僕を蹴るのはいい加減やめてくれよな」
「アハハ……善処するよ」
その言葉を聞いたセシリアは、鼻を鳴らす。
「すみません! やっぱり入れてください! ぜひこの目で……ああいえ、聖女の私なら力になれますから!」
天井に向かってガッツポーズを作るセシリアに、レアが鋭い視線を向けていた。
そうしていると、近くを通りかかった学生たちの声が聞こえてくる。
「おい、聞いたか? ダンジョン攻略戦で今年の特別冒険者講義を担当するのは、伝説の冒険者らしいぞ」
「伝説の冒険者? 誰だよ、どうせ、どっかのおっさんだろ?」
「それがな、最近戻ってきたって噂の雨水の魔法使いレインらしいぞ!」





