70.【生活魔法部】
物音がした【生活魔法部】の教室へ足を踏み入れると、本に埋もれた少女が居た。
眼鏡をかけ、おさげをした地味目の少女だった。
俺と目が合うと、少女が声を上げる。
凄く怯えた様子で、少女は崩れた本の山に身を隠す。
本棚の整理をしていた時に、ノックで驚いて崩れてしまったのだろう。
「ひゃいっ! だ、誰ですか!」
「えっと……とりあえず大丈夫ですか?」
そう声を掛けると、そーっと少女は本を被って眼だけをこちらに向ける。
「……【生活魔法部】に、用ですか?」
「そんな所です。俺はアルトって言います」
「……私はセシリアです」
セシリアは俺に敵意がないと感じ取ると、本の山から抜け出そうとする。
その反動で崩れた本棚に残っていた本が頭上から落ちた。
ポン、ポンと三冊の本がセシリアの頭に当たる。
「あい、ひゃい、ふぎゃ! うう、痛い~……もう帰りたい~……」
涙目になりながら、セシリアは落ちて来た本を拾う。
俺も傍に寄って、落ちた本を一緒に拾った。
「俺も手伝います」
「えっ!? いや、大丈夫です!」
「申し訳ないんです。たぶん、俺がノックしたのに驚いたんですよね。それで本棚が倒れたんでしょ?」
「まぁ……でも! 私はドジなのが悪いんです。昔からそうで……アハハ」
本を手に取ると、どれも俺が読んだことのある本ばかりだった。
タイトルを見て、俺はつい呟く。
「東の国の生活記録本に、魔法調合薬品……」
「知ってるんですか!?」
「はい! セシリアさんこそ、こんなレアな本を持ってるなんて凄いですね!」
「えへへ……異国から買い取ったりして、頑張って集めたんです。こんな絶版されてる本を知ってるアルトさんの方が凄いですよ! あの、アルトさん、この本とか知ってたり────」
名前を呼ばれて顔を上げると、セシリアと目が合う。
「金色の瞳……」
俺は思わずそう呟いてしまう。
「あっ! いやその……気持ち悪い、ですよね。瞳が金色なんて」
「いや、綺麗だなと思いまして」
「綺麗……ですか?」
「はい。輝いてて、俺は好きですよ」
ウルクも瞳の色が青色で、凄く好きだ。
「目が綺麗な人に悪い人は居ませんから」
「はわ……はわ……!」
紅潮したセシリアが何度も口をパクパクとさせる。
「ナ、ナンパはお断りです!」
「へっ?」
そう言われ、俺はポイッと教室から放り出される。
な、ナンパ……?
俺が混乱していると、教室の外にちょうどフレイが居た。
「……アルトくん? ここで何してるの」
「今放り出されちゃって。フレイこそどうして?」
「俺はこれから剣術部に行くんだよね。アルトくんは……あぁ」
俺が放り出された教室の名前を見て、フレイは妙に納得した様子を見せた。
「【生活魔法部】か……」
「知ってるの?」
「うん、部員は一人でセシリアって子。彼女はドラッド王国で唯一の聖女だし、平民だ」
聖女って、レーモンさんが言っていた子だ。
学生だとは言っていたけど、まさかセシリアが聖女だったんだ。
俺の中では金色の瞳が強く印象深かった。
フレイが言う。
「俺たちと同じで問題児認定されてるよ。授業には出ない、友達もいない。ずっと【生活魔法部】に入り浸って、何か研究をしているんだ。同じクラスのよしみで何度か会話を試みようとしたんだけど、話が合わなくてね……」
そうだろうか。
さっき話してみた感じ、凄く楽しそうだった。
特に本を語っている時のセシリアは、普通の少女に見えるし。
「アルトくんでも放り出されるなら、この学園だと誰も彼女に近寄れないんじゃないかな」
「ううん、また明日来てみるよ」
せっかく見つけた【生活魔法部】に、数少ない本の話ができる人だ。
もう少し色んな会話がしてみたい、と思った。
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