69.噂話/フレイの不安
アルトやフレイたちが教えてくれる礼儀作法の授業は魔法騎士学園で広まり、生徒たちの間で盛り上がっていた。
「ねぇ聞いた? 転校生のアルトくんって先生並みの知識人で何でも相談乗ってくれるんだって」
「平民から貴族だけでも凄いのに……私も悩み事聞いてもらっちゃった……」
「白馬の王子様みたいだったよねー」
アルトの噂は全生徒へ瞬く間に広がり、既成事実の工作にレアが広めようとしていた「レア王女殿下の恋人説」は完全に消沈していった。
「フレイ様は飄々としててカッコいいけど、アルト様は純粋で優しくて……つい甘えたくなっちゃうのよね……」
「分かるかも。それとヴェイン様とかも頼りがいのある方だけど、アルト様は本当に何でもできちゃうってイメージがあって良いなって思った。執事だったら最高よね」
「それにいつもニコニコしてるものねぇ……」
アルトの話をするたび、女子たちの間から感嘆の声が漏れる。
フレイやヴェインは真っ当な貴族であり、平民では手の届かない存在であった。
「平民だったアルトくんなら話しかけやすいし……私たちでもチャンスあるかな……?」
その会話を横目に聞く男子たちの間からは別の意見が出ていた。
「アルト様って……剣が立つらしいぞ。フレイ様にも並ぶんだっけ?」
「馬鹿……Sランク級倒したんだからフレイ様より上だろ」
「お前、フレイ様に剣で負けたから妬んでるんだろ」
妬みではなく、学園内で最も強いと噂されるフレイと英雄と噂される転校生のアルト、どちらが一番強いか。その方に興味が移っていた。
男たちの結論はこうでた。
「期末試験のダンジョン攻略で分かるんじゃないか?」
*
その日もサロンに集まり、俺と会話をしていた女子生徒が服に紅茶を溢す。
「あっ……す、すみません……アルトくん」
俺は紅茶で染みにならないようにハンカチで拭き取った。
「大丈夫ですよ。【洗濯】」
全体ではなく、範囲を狭めて魔法を使う。
簡易的な物だが、染みになってしまうよりは良い。
「す、凄い……まるで生活魔法部みたいですね!」
その言葉に、俺の耳がピクピクと動いた。
そういえば、この学園には生活魔法部があるとテッドさんが言っていた。
人助けや相談ばかり乗っていたからすっかり忘れていた。
「あの、生活魔法部ってどこにあるんですか?」
「え? えーっと、たしか魔法研究科の隅っこに……もう廃部寸前ですよ」
魔法研究科か……。
ここにいるサロンからは少し遠いな。
今日の礼儀作法を終えると、フレイが話しかけてくる。
「アルトくん……君、気付いたら生徒の相談に乗ってないかい?」
「あっ……ごめん。薄々ダメだろうなって思ってたんだけど、会話してたらつい……」
「ついじゃないよ……ウルクに関してはずっと黙ったまま向かい合ってるだけだし」
「わ、私だって頑張ってるんだ。知らない人と話すのが少し苦手なだけで……会話しようにも、怯えられてしまう」
フレイが溜め息を漏らす。
「そりゃ、喋るたびに睨みつけてこられちゃ怖いよ」
「……そんなつもりはないのだが」
へぇ、ウルクって知らない人と話すとそうなるんだ。
でも、俺の時はそんなことなかった気がするけど。
「我が妹ながら、どうしてこうも不器用なんだ……」
「兄上が器用すぎるだけだ」
俺もそう思う。
フレイは人付き合いが上手だし、大抵のことはこなせてしまう。
俺が言う。
「俺もフレイは器用すぎると思うかな。大抵のことできて、凄いなって思うから」
「アルトくんに言われたくないよ……褒められるのは嬉しいけどさ」
「とにかく」とフレイが続ける。
「もう少し貴族らしい口調で喋ってくれ。アルトくんの練習にもなるんだから」
「うん。分かった」
素直にフレイの提案を受け入れる。
フレイに頼んだのは俺だ。
フレイも問題解決に尽力したいと言っていたけど、やっぱり迷惑かけちゃったのは申し訳ないな……。
何かお詫びを考えておこう。
それから解散になったため、俺は生活魔法部の前に足を運んでいた。
教室の扉に【生活魔法部】と書かれている。
コン、コン、コンと扉を叩く。
すると、
「うわっ! うわああああああっ!」
教室内から響き声が聞こえた。





