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66.講師


 その日の放課後、約束通りレフィーエ先生のサロンで俺は礼儀作法の授業を受けていた。

 

「ではまず、お辞儀の仕方から……」


 どうやら魔法騎士学園を卒業した人の中には、貴族の護衛をしたり、王国内の役職に就くことが多いのだとか。

 その時に礼儀を知らなければ恥をかくのは当人だけでなく、卒業させた魔法騎士学園の名まで傷ついてしまう。

 

 学園の名誉を守るために導入された制度らしい。


「まぁ、大抵の平民の生徒はきちんとしたお辞儀すらできないので、失敗を恥ずかしいと思わず……」

「こう、で大丈夫ですか?」


 執事の時に培ってきた会釈を見せる。

 一瞬、レフィーエが驚く。


「……っ! は、はい。問題はありませんね。角度も十分……つ、次です! ではテーブルマナーを……」


 レフィーエ先生の指導方法は、一回生徒に実践させ、それをダメ出しするやり方らしい。でも、俺がやっている限りだと一度もダメ出しはされなかった。

 次々と課題を提示されるが、それを難なくこなしていくと次第にレフィーエ先生の顔色が変わる。


「素晴らしい……紅茶の作法も問題ないし……私、要らないんじゃないんですか? 聞いていた話と違うのですが」

「え……」

「平民上がりの学生と言えば、大抵は魔法の才能があったり、剣術の才能、秀才などが主です。なので、テーブルマナーなどを学んでいる子たちはいないのですよ」

 

 あぁ、そっか。確かに、それだと礼儀作法を学ばないのが当然だ。

 そもそも、普通に生きていれば人に指導されることも、食べ方の一つ一つをとやかく言われることもない。


「アルトくんは平民から貴族になった方。剣術と魔法に優れていると聞いていましたので、野性味あふれる方なのかとばかり……ここまで完璧にされてしまっては、恥を掻いたのは私でしたか」

 

 レフィーエは落ち込んだ様子を見せる。

 咄嗟に俺は取り繕う。

 

「いえいえ! 少し忘れてた作法もありましたから、思い出すいい機会になりました! ありがとうございます、レフィーエ先生」


 そう言うと、レフィーエが少しほっとした顔をする。

 

 義務である礼儀作法の授業も終わりらしく、指定された物はすべて終わった。


「良かったら俺が紅茶を作りますけど、飲みますか?」

「……紅茶、ですか。頂きましょう」


 さっきの礼儀作法の授業で使った茶葉が残っているはずだ。


 ……頻繁に使われている形跡があるけど、レフィーエ先生は紅茶が好きなのかな。


「レフィーエ先生、紅茶お好きなんですか?」

「いいえ、最近練習しているんですよ。私は紅茶を淹れるのが苦手みたいで、美味しくないんです。生徒に紅茶の淹れ方を教えられるように……とやっているんですが、難しいんですよね」

 

 ふむ……確かに、紅茶は人によって淹れ方が違う。

 俺が湯を沸かしていると、声がかかる。


「……アルトくんは、随分と礼儀正しい方だったようですね」

「いえ、俺は必要だったから学んだだけです」

「……みなも、アルトくんのように必要だから、と学んで欲しいものですね」


 俺には、それがやけに重い意味が込められているような気がした。

 紅茶を作りながら言う。


「レフィーエ先生の教え方は丁寧ですから、きっと学んでくれてますよ」

「いいえ、私は平民の生徒たちから怖いだの、厳しいだのと嫌われていますから……昔、教え子が礼儀作法を知らずに大失敗をしましてね。それで大恥を掻いて泣いていたんですよ」


 「ふぅ……」と息を吐きながらレフィーエが言う。


「生徒に辛い思いはさせたくないんですよ」


 レフィーエ先生は生徒をイジメるのではなく、恥を搔かせたくない一心だったのだ。

 それが厳しさ、という形で捉えらてしまうのは仕方のないことだ。


 誰だって悪意を持って教師をしているはずがない。

 良い先生だ、と思ってしまう。


「もちろん生徒がやめたなんて噂も嘘ですよ。勝手に誰かが流してるんです、そのせいで今のところ、この授業を受けてくれる生徒はアルトくんと他数名のみ……後はみんな絶対に来ません」


 思わず苦笑いを浮かべた。

 噂には尾びれが付くというが、生徒がやめたは言い過ぎだろう。 


「私としたことが、変に話し過ぎました。まだ知り合って間もないというのに、アルトくんの前だと気が抜けてしまいます。凄い大人びているからでしょうかね」

「そう思ってもらえると嬉しいですね」


 俺は軽く微笑む。

 淹れた紅茶をレフィーエの前に置いた。


「確かに、生徒のためにって頑張っても伝わらないことはあると思いますよ」

「やっぱり、そうですよね……」

 

 レフィーエが紅茶を口にする。


「────っ! 美味しい……なんで、同じ茶葉のはずなのに……」

「淹れ方と、茶葉の量を少なくしました。レフィーエ先生が使っていた茶葉は普通の味より濃く、色が薄いです。そのせいで、どの家庭でも茶葉を多く使いがちになる紅茶なんです。ほら、色が薄いですから味も薄いだろう、って」

 

 レフィーエ先生が使っていた紅茶は安価で手に入りやすく、間違われやすい紅茶だ。

 

「茶葉に合わせた淹れ方をするのと同じように、それぞれ生徒にも特性があります。俺も人間関係が得意か聞かれると、なんとも言えないんですけど……」


 人の悪意があまり感じ取れないから、よくレーモンさんやウルクから危なっかしいって怒られるし。

 でも、レフィーエ先生が悪い人じゃないことは分かる。


「俺も礼儀作法なら多少は心得がありますから、協力しますよ」


 レフィーエ先生が顔を上げる。

 その瞳は僅かに潤んでいるように見えた。


「……アルトくん、あなたは私と同じくらい礼儀作法の知識があると見ました。いえ、もしかすればそれ以上かもしれない……初めてです。ふふっ……お願いするのは私の方です」

「一緒に頑張りましょうか」


 


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