63.責任
お茶会から数日たったある日、レーモンさんと朝食を取っていると突然、制服を渡された。
見たことのある制服に、俺は思い出す。
「これ、フレイの通ってる魔法騎士学園の制服ですよね?」
「うむ」
なぜその制服を俺に渡すのか、見当もつかない。
制服を広げるとサイズがピッタリだ。いつの間に採寸をしたんだろう……。
ウルクも女子生徒用の制服を渡され、スカートに若干顔を引き攣らせていた。
ウルクはたまにドレスや少し胸の開いた服を着ているのに、スカートには拒否反応を示すんだ……。
「おじい様……これは一体、なんですか」
「見ての通り、制服じゃ」
「そ、それは分かっていますが……」
ウルクが俺の方を向く。
何やら嫌な予感を感じ取っているらしい。
レーモンさんが言う。
「学校へ行け」
「学校、ですか?」
「貴族は数年間の学業、もしくは数週間の学業が義務付けられておる」
そういえば、ある一定の年齢に達するとそれが義務付けられているとは聞いたことがある。
ウェンティは幼少期に最低限の義務を済ませてしまい、それ以降は貴族学校へ行かなくなってしまった。
地位やマナーなどを叩きこまれる場所としても有名で、幼い頃に貴族社会をそこで学ぶと言っても過言ではない。
「フレイからの相談でな。来年にはフレイが魔法騎士学園を卒業してしまう。その前に一緒に学校で過ごしたいそうじゃ」
「フレイが……?」
確かに、最後に学校で一緒に学びたいと思うフレイの気持ちはわかる。
学校にはヴェイン……滅尽の樹魔との戦いで一緒に過ごした彼もいる。
フレイとも仲良くしていると言っていたし、元気にしているかなぁ。
「……私は嫌なのですが」
「そう言って昔から駄々をこねておったのぉ」
「学校は嫌いです……」
「ふむふむ。じゃが、今回ばかりはダメじゃ」
「なぜですか!」
レーモンはため息交じりに言う。
「ウルク……これは罰じゃよ。ラズヴェリー侯爵に失礼を働いたじゃろう」
「……っ! そ、そうですが……」
「自分の行動には責任が付き物じゃ。アルトと一緒に、さっさと義務を終わらせて来い」
ウルクがラズヴェリー侯爵に失礼を働いた……?
公の場での話かな……。
だが、それにしては真剣な面持ちをしたウルクに俺は違和感を覚える。
「ウルク、俺も傍にいるから大丈夫だよ」
安心させるようにそう言うと、ウルクの表情が柔らかくなる。
「アルト……ありがとう」
そこへテッドさんの咳払いが聞こえる。
「ごほんっ! アルト様、魔法騎士学園には生活魔法部という物があるそうですよ」
「へぇ! そんなものがあるんですね!」
「貴族の学校ですから、様々な分野の部がございます」
思わずテンションを上げてしまう。
でも、生活魔法専門の部があるなんて……!
流石は貴族の学校だ。
「他にも魔動物乗馬部や、聖植物部などと言った分野があるそうですが……アルト様は生活魔法部の方がよろしいかと思いまして、先に助言をさせていただきました」
「て、テッドさん詳しいですね……」
「はい、卒業生ですので」
「え……テッドさんは貴族じゃなかったような……」
レーモンがニヤッと笑う。
「魔法騎士学園は公式試験に合格すれば、平民であっても入学できるのじゃよ。そこで儂とテッドは出会った。懐かしいのぉ……なぁ、テッドよ」
「……いえ、私は別に」
やけに意味深に言うレーモンに、テッドが目を逸らした。
「ほっほっほ! テッドは昔、魔法騎士学園で生徒会風紀委員を務めておってな。最初の出会いは『あなたの心は乱れている。正しなさい』だったのぉ」
「あ、あれは若い頃の話です! 昔話はもう良いではありませんか!」
照れたテッドさんを初めて見た……。
やっぱり二人の仲はかなり良いようだ。
テッドさんは規律に厳しい人だ。確かに風紀委員も想像ができてしまう。
「来週には出発じゃ、準備をしておくのじゃぞ」
「はい。ありがとうございます」
俺は笑顔を向ける。
ウルクは不満げだったが、「まぁアルトが一緒なら」と納得してくれた。
だが、疑問が浮かんでいた。
(なんでこのタイミングで魔法騎士学園に行かせるんだろう)
精霊樹ファルブラヴ森林に対する問題は、すべて解決したわけじゃない。
食事を終えたレーモンが席を立つ。
「もうひと眠りするかの。アルトの作ってくれたベッドはいくら寝ても心地が良くてのぉ……」
「レーモンさん、寝すぎは体に毒ですからね」
「ほっほっほ! 分かっておる」
部屋を出る直前、レーモンが言う。
「あぁ、アルトよ。魔法騎士学園には聖女様もおられる。会ったら仲良く頼むぞ、肩身が狭いようでいつも一人のようなのでな、お主ならなんとかできるじゃろ」
「はい……え、聖女様……?」
聞き返してしまったが、レーモンは高笑いしたまま部屋を出て行った。
つまり、遠回しに俺へ聖女の友達になれと言ったのだ。
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