表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/102

100.対話を望む者


 精霊樹ファルブラヴ────フェノーラ達は帰還し、それぞれ戦闘の結果を報告する。

 樹木を住処としているエルフ達は、一本の大きな世界樹で全員が暮らしていた。

 

 その一角で、フェノーラは腕の傷を癒す。


「痛っ、ねえもう少し丁寧にやりなさいよ。リリアーネ」

「先輩が重いのが悪いんです」

「あんたが水魔法を完全に避けきれなかったのが悪いんでしょ!」


 レインの攻撃魔法、王水はフェノーラに当たっていた。


「あのクソチビダークエルフ……!」


 フェノーラ達にとって、今回の戦いは勝ち戦であった。

 ドラッド国内にいるであろう戦力図は把握している。


 龍族カリン、魔法使いのレイン。


 彼女らの力は強大ではあるものの、この二人を抑えることができれば戦況はこちらに大きく傾く。

 そのことは、素人でも分かることであった。


 自分たちの力は人間よりもはるかに優れている。単純な戦力差で負けはあり得ない。


「酷いやられぶりだな。フェノーラ」


 煽るような口ぶりで、全身鎧に包んだ人物が現れる。

 低い声音の男だ。


「ウストラ……それは私の台詞よ。カリンはあんたの所から飛んできたんだけど……?」

「前線が崩壊したのだぞ。誰かが軍を後退させなければ、あそこでカリンにやられ全滅だ。リリアーネを向かわせたのは私の命令だ。お前が今そこで傷を癒せているのも、私のお陰なのだぞ」

「よくも偉そうに……! あんな人間がいるなんて聞いてないんだけど!」


 あんな人間とは、アルトのことであった。

 フェノーラには勝てるはずの戦いだった。


 相手はただの人間、こちらはエルフ族の血を引き、魔物の力を取り込んでいる。

 上位互換の種族であるフェノーラが負けるはずがない。


「次会ったら、絶対に私がこの手で……」

「そんなことでは、次もやられるぞ」

「はぁ!?」

「甘く見過ぎていたのかもな。人間を」


 フェノーラが一瞬、虚を突かれたような面持ちをする。


「なに、人間の肩を持つの。お父様への裏切り……?」

「お前は相変わらず短絡的だな。相手を認めることも重要だと言っている」

「くだらない。人間のせいで、私たちがこんな小さな森で暮らしてきたことを忘れたの!?」


 ウストラが腕を組むと、鎧が掠れる音が響く。

 兜を被っているせいで、フェノーラから表情は分からない。


「忘れてはいない……だが、このやり方は……」


 ウストラが小さな声で呟く。

 それには僅かに、懐疑的な声音が混じっていた。

 

「フェノーラ……お前は、産まれてから初めて森の外へ出た。そして人間と初めて会った。どう思ったんだ」

「憎い。アイツらのせいで、私が苦しめられて来たんだから……!」

「……そうか」


 ウストラが思う。


(フェノーラの生い立ちを考えれば、当然か)


 救ってやることはできないのだろうか、とウストラが思う。

 されど、自分にその資格も手段も持ち合わせてはいない。


 ウストラが返す言葉を考えていると、轟音が響いた。


「……っ!」

「集合だわ……!」


 フェノーラが笑顔で駆け出していく。

 フェノーラが父と慕う親。


 エルフ族の王が、集まれと轟音を鳴らしている。


 忘れてはならない。

 これは国と国の戦争なのだ。


 駆け出したフェノーラを追うように、翼のあるリリアーネも後を追いかけた。


 その腕をウストラが掴む。


「待て、フェノーラが戦った相手はアルトと言ったな?」

「えっ、は、はい……ウストラ様」


(アルトか……あのフェノーラを生け捕りにしようとしたらしいが……フェノーラは『雑魚』と言っていた。殺し合いで格上の相手でも命を奪わないように戦うなど、信じられぬが……)

 

 それでも、フェノーラを戦闘不能にさせた実績がある。

 殺すのではなく対話を選ぼうとする人間。そうウストラの中では印象強く残っていた。


「皆がその道を選べれば良いのだがな……」


 アルト。

 その名前を確かにウストラは覚えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

となりのヤングジャンプ様より、コミカライズ連載開始!
【世界最強の執事】最強執事の英雄譚、始動!!
クリックすれば読むことができます!
― 新着の感想 ―
[一言] 新章はエルフ族との戦いなのですか! 敵がバッタ→樹木→エルフとなっていく流れは、かなり新鮮ですね。 あと個人的にはセシリアの妄想シーンが好きです。 セシリア嬢による、アルトとウルクの性別逆転…
[一言] 更新…
2023/09/28 18:29 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ