第九話 旅に出ても一緒!
やるぞぉって気合が入ったところで……。
仁堂くん、私に話しかけてきた。
「あおり、そろそろ出発するぞ」
出発ってどこに行くのだろう?
「一か所に留まっていると危険だからね。
海流に沿って、深海を回遊するんだよ」
ああ、回遊って言葉は知ってる。
自分がそれをすることになるとは、ぜんぜん想像もしていなかったけど。
「泳ぎながら生活するの?」
「そうだよ」
「小さくてもいいから、おうちが欲しかったなー。
大きな窓と、小さなドアと古い暖炉があるようなのが……」
「どこかで聞いたような家だね」
「うん」
やっぱり、仁堂くんが帰ってくるのを持つ生活って、ちょっと憧れるじゃない。
「あおり。
旅を続ける理由として、危険を避けることは重要だけどね。
でも、それ以上に楽しいものなんだぞ」
仁堂くんの言葉には、笑みが含まれている。
そうか……。
本当にそうかも知れないね。
仁堂くんの大きな目を見ていたら、そう思ったんだ。
仁堂くんが泳ぎだすので、私も横に並ぶ。
スピードは十分だけど、足を失っているせいか、細かな方向の制御は難しいみたい。
その何割かは私のせいかもって思ったら、申し訳なくて泣けてきた。
「あおり、どうしたの?
旅を続けると考えたらつらいの?」
仁堂くんが、私の目を覗き込む。
「うんん、違う。
仁堂くん、また襲われないために、私はなにをしたらいい?」
「怖かったのかな、あおり。
大丈夫だよ。
なんだかんだ言って、僕たちは海の中では最強に近いからね。
ただ、あおりがいると、あおりの向こう側は見えないんだよね。
だから、あおりも辺りを注意して見ていて、なにかが近づいてきたら教えて。
お互いに死角をカバーしあって、確認はダブルチェックできるから、あおりがいてくれるととても助かるんだ。
面倒くさい相手なら早く逃げられるし、美味しそうな相手だったら、一緒に食べちゃおう」
一緒に食べちゃおう、だって。
嬉しい。
そうか、旅をしながらも、ずっと一緒にいられるんだ。
「私、見張り頑張るからね。
二度と、仁堂くんが怪我しなくて済むように」
したら、仁堂くん笑った。
人間だったときの、笑い声が聞こえたような気がしたよ。
「そのうち、あおり、美味しいものを探してきょろきょろするようになるよ。
美味しいもの、大好きみたいだしね。
大丈夫、慣れるよ」
そうか、見張りって、そういう意味もあるんだね。
でも、仁堂くん、私のこと、大食いだって思っているのかな。
恥ずかしくて聞き返せないけど。
私、耳まで赤くなってしまった気がしたよ。
赤くは、なれないんだけどね。
次話、初めて、手を……
もー、手を繋ぐんですよー、彼と。