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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

その陽 在るものか? 

掲載日:2021/01/05

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 つぶらやは、どうして太陽が東から昇って、西へ沈んでいくのか、その理由を知っているか?


 ――そう、地球の自転によるものだな。


 天の星々が動いて見えるのは、地球そのものが動いているからだといわれる。西から東へ絶えず地球が回転しているからこそ、天の星々は必ず東から現れて、西から現れるわけだな。


 この回転、地球ができたときからずっと続いているらしい。俺が聞いた話だと、地球は宇宙に漂っているチリたちが、回転して寄り集まったのが地球なのだとか。そのときの回転はいまなお続いているが、勢いはじょじょに弱まっているらしい。

 もっとも、地球は完全に止まるのは億単位で時間が過ぎたあと。すでに膨らんだ太陽に呑み込まれているかもしれないがな。俺たちが生きている間は、心配することはないぜ。


 しっかしよう、これだけ同じことが積み重ねられると、やがて疑問を抱かなくなるのが人間。当たり前とみなしたら考える機会も減り、ややもすれば油断を生みかねない。ある意味で壮大な伏線を張られているのかもしれん。


 ――どんな伏線かって?


 伏線が伏線だと分かったら、意味がないような気もするが……。

 そうだな。俺が聞いた奇妙な話なんだが、耳に入れておかないか?



 むかしむかし。異変に気が付いたのは、冬に入ってからだったという。

 その日。とある村で早めに起きた者たちは、一段と増した空気の冷え込みに、震えあがった。いつもより厚着をして外に出ると、ちょうど太陽が昇ってくるところだったという。

 山の端から、じょじょにその姿を見せていく太陽。それにともない、夜陰を切り裂きながら版図を広げていく日なたの中へ、ぽつぽつと入り出す人がいる。

 たとえ空気が冷たくとも、陽の光に当たれば少しはぬるくなるだろう。

 そう考えたがゆえの行動だった。

 

 ところが、この陽光が暖かくない。

 朝だからまだ日差しが弱いのかもと、快晴の中、昼間を迎えるまで待つも、気温は上がる気配を見せなかった。

 それだけなら冬の寒い日のこと。寒気が勝っただけの話、ともとれるだろう。しかし、しばらくして人々は、更なる太陽の不審な点に気が付く。

 ぱっと目に入れてしまったとき、普通ならば瞳がすぐさま、まぶしさを訴えてくるのに、それがないことだ。

 特に寝起きで、まだ暗さに目がなじんでしまっているとき、飛び込んでくる陽の光は、思わず顔をそむけたくなるほどきつい。なのに、同じようにしても、このたびの太陽からは刺激の強さが感じられないんだ。

 それどころか、意識して見ようとすれば、いくらでも見つめ続けることができるようなありさま。その太陽ばかりが差し、雨どころか一片の雲すら湧いて来ない日が幾日も続いて、いぶかしがる人も少しずつ増えてきたんだ。

 

 

 事態を重く見た長老は、とある占いを使って太陽を見極めんとしたと伝わる。

 その方法というのが、当時、南蛮から伝わってきたばかりだった、レンズを用いたものだったという。

 長老は半紙の一部をちぎり、文机の上に固定させて、外へ運び出す。そして太陽と紙の間にレンズを挟み、その光が紙面に集まるようにしたんだ。

 火占い。これまでも何度か行ってきた占いで、レンズを通して集めた光によって紙を燃やし、その焦げ付きや煙の立ち方から、様々な兆しを読み取るというものだった。

 それが今回はできない。レンズから通る光は、確かに紙の上へ集まっているというのに、か細い煙すら姿を見せないまま、時間が過ぎていくばかり。これまで、このようなことは一度もなかったそうなのさ。

 

 見守る村人たちが、かすかにざわつく中、小半刻(約30分)ほどで、ようやく紙片に変化が表れる。けれども、それは皆が期待していたものじゃない。

 まず、光を当てている箇所を中心に、紙が湿り出したんだ。その身体の端から、ぼたぼたと水滴が垂れ始めたのも束の間。

 その垂れる端から固まり、つららのようになって、ほどなく紙全体にも霜がおり、完全に凍り付いてしまう。試しに棒の先でつついてみたところ、枯れ葉のように手ごたえなく、紙片はボロボロと崩れ去っていったんだ。

 

 ――この陽の光、寒気を招く。いや、そもそも陽ではない。太陽をいつわるものを探せ。

 

 寒さがますます強まる中、長老は火占い以外の易に頼り、先ほどの凍り付いた紙片も道具のひとつとして、どうにか犯人を割り出そうとした。

 寒さがじわじわと強まる中、村長の占いが指し示したのは、村から一里ほど離れた山の中。その頂だったんだ。このときは、すでに陽も暮れかけており、出発は明日と相成る。

 夜を明かすのも、また一苦労だった。蓑や外套を被っただけでは足りず、人々は絶えず火の番をしながら、沸かした湯で身体を暖め続けなくてはいけなかったらしい。閉め切った家の中にいながら、寒さによる疼痛を訴える者も少なくなかったとか。

 できる限りの厚着をした翌朝、件の山へと村長たちは足を向ける。山に近づくにつれて、近辺に立つ木々は、すでに昨日の紙片が見せたような、真っ白い霜のおりる姿をさらしてきた。山へ近づくにつれ、その身体を白く染める範囲が広がり、くわえて割れた幹、折れた枝の姿も目立つようになってくる。

 長老たちもまた、別に用意していた外套を重ね掛けし、足元の濡れに対しても気を配った。雪こそ降っていないが、すでに指の先さえじんじんと痛み出していた。

 

 やがて、件の山のふもとまでくる。頂までさほど時間はかからない低い山だが、登っていくたびに指にも耳にも、雪を叩きつけられたような心地がして、思わず外套や拳の内側へかばってしまった。

 その頭からかぶる外套そのものも、たっぷりと水を含んで重くなり、しずくが垂れそうになるはしから凍り付いていく。彼らが垂らしそうになる鼻水も同様で、なんどひりつく鼻の下をこすったか分からない。

 まつ毛にも、ところどころに白いものを混じらせながら、ようやくたどり着いた山頂を見て、思わず彼らの歩みが止まる。

 

 半月ほど前、ここの山頂は凹凸こそあれ、それ以外には何もない荒れた地面が広がるばかりだった。

 それがいまは一面に、目がくらまんばかりの光を放っている。手をかざして防ごうとすると、その手の外套の袖がたちまち凍り付き始めてしまったんだ。

 あえて目を凝らし、正体を見極めようとした者は、ほどなく悲鳴をあげてその場に倒れ込んでしまった。他の者が彼をかばうように光へ背を向け、その瞳を見やったところ、その表面からタラタラと血を流していたらしい。

 

 しかし、彼が光を凝視したことで、分かったことがある。

 この山頂の光は、淡い帯状となって天へと伸び、中空へ真っすぐ注がれていたんだ。あの空にぽっかり浮かぶ太陽に向かって。

 話を聞いて、長老は指を守るため、外套に手をくるみつつ、懐から木槌と太い鉄の杭を取り出した。すでに鏡のようになった地面へ近づいていくたび、ますます強まる寒気に耐えながら、その鏡の端へ杭を打ち付けだしたんだ。

 

 ひとうち、ふたうち。

 

 地面が杭を受け入れるたび、そこを中心とした微細なひびが広がっていく。ほどなく、これまで凪いでいた風が急に出てくるや、長老へ向かって強く吹き付けだしたんだ。

 長老はひるまない。図星を刺されて人が起こるように、こここそが怪奇の急所だと悟ることができたのだから。

 

 みっつうち、よっつうち。

 

 ひびはもはやいただきの半分以上も覆ったが、風ももはや立つことを許さないほど強まっている。身をかがめ、更なる木槌を打とうにも、ひとりの力では風に負けてしまう。

 そこで連れ添った村人が、次々に長老へ手を添え、壁となり、ともに更なる杭を打ち込んでいく。身体のどこも凍てつかずにいる者はすでになく、ほぼ固定された杭を頼りに、木槌を渾身の力で振り下ろした。

 

 いつつうち、むっつうち。

 

 びゅっと強まった風に、壁となっていた者のうち二名が足を取られ、そのまま頂から飛ばされた。狭い山肌にもとどまれず、縁から転げ落ちる。

 下は千尋の谷。二度と這い上がることはかなうまい。けれども残った者たちは、構わず杭を打ち続けた。

 

 いくら打ち込んだだろうか。

 地面全体へひびが完全にいきわたるや、風はピタリと気配を殺す。

 放たれる光もまた収まり、宙へ伸びていたものも消えていた。どんよりと、一気に暗さを増した空を見上げると、そこには一面の雲海が広がっているばかり。太陽の姿は一片たりとものぞいてはいなかったらしい。


 あの太陽は、自ら光を放つものじゃなかった。あの鏡のごとき地面が発する光が、空に浮かんだに過ぎないものだった。

 暖まることをよしとしない者が、寒気に包まれた世界を作るために、陽の光をごまかそうとしたのだろうな。


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