婚約破棄を申し上げます!!!申したのは悪役令嬢!?
初投稿です。(。-∀-)
一度書いてみたかった悪役令嬢モノ。
おかしな点や誤字脱字は甘く見てやってください。
誤字の関係で微妙にタイトル変更しました。
*
今日は、華麗なる王都コートワザー学園卒業パーティー。
可憐な乙女に壮麗な殿方、輝かしいホールには庶民には到底手が出せないような食事や飲み物が用意されている。
これら全部が同じ卒業生となる第一王子の自腹で、制限もなく飲み食いして良いのだから殿下は太っ腹である。こういう所に関してだけは。
本来こういった場では奥ゆかしさを演出しないといけないらしく、あまり飲食することは好まれない。
「少しだけしか食してはならないのですよ。だからってジュースを5杯も飲まない!!飲み物も一緒です!!」と、僕のマナー教師のノネズッミ先生が言っていた。
だが、最後である今回のパーティーだけはノネズッミ先生もたくさん飲食することを許してくれた。
ノネズッミ先生の優しさに感謝して、今日はお高い食事に舌鼓をうつ。あ、これ美味しい、もう一個食べよ。
可憐な乙女に壮麗な殿方、あ、これさっき言ったわ。
まぁいいや、皆こぞって学園最後の思い出を残そうとしており、この後のダンスパーティーにワクワクするも、それを表に出さないように気をつけているのだから感嘆する。
僕には到底出来ない所業だ。
…………そもそもダンスも踊れないのだけれど。
僕だって愛しい人とダンスの1回や2回踊りたかったよ!
でも平民出身だから学ぶ機会が無かったんだよ!!仕方ないだろう!!
それどころか、タキシードも持っていないから制服着用で本当に安心したよ!!!
というかこの学園、庶民も少なくはないはずなのに皆いつダンスレッスンしたんだよ!!!
その中心で一際目立つ身なりの男性が一人。
その男性は大きい声を上げて、僕の近くに立っていたとある令嬢を指差した。
「クローノ公爵令嬢!ここで貴様の罪を暴露し、断罪する!!」
彼はコートワザー王国、第一王子のイオカル・トラーノ殿下。
白銀の雪のような髪色にサファイアを思わせる瞳、顔立ちはこの場の誰よりも整っている
逆に、指を差されているのはクローノ公爵令嬢。
水晶のような綺麗な水色のストレートヘアーはキラキラと輝いていて眩しい。紫水晶を嵌め込んだような瞳はあらゆる人を惚れさせてしまう美しさを持ち、つり上がった目元が涼しさを醸し出している。
イオカル殿下の婚約者、未来の王妃様であるお方。
なんだ、なんだと騒ぎ声が大きくなる。
一体何をはじめるというのか、こんなことは知らされていないとばかりに、どよめいた。
周りの貴族達から庶民までもがこぞって期待感や嘲笑、憐れみといった様々な視線を殿下と公爵令嬢に向ける。
なんだか居心地が悪い。
注目が十分集まったのを見計らってか、イオカル殿下は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
すると懐から上質な紙を取り出してクローノ嬢の罪を述べ始める。どうやらクローノ嬢の罪状リストカンニングペーパーのようだ。
罪状の内容のその大半が、嫉妬に狂うクローノ嬢がラマーレッタ男爵令嬢にしたとされる悪逆非道ないじめであり、聞くも耐えない陰湿さに吐き気すら感じる。
被害者のラマーレッタ男爵令嬢はパーティーが始まってからずっとイオカル殿下にピッタリと寄り添っていた。世の男性の庇護欲を誘う見た目をしており、ぷるぷると震えてふわふわとした赤毛を揺らし、桃色の目には涙を浮かべている。
その間も凛とした佇まいで無表情を突き通すクローノ嬢。
あまりにも表情が動かなさすぎて能面でもつけているかのような錯覚を受ける。断罪を受けている側とは到底思えない様に感服しかない。
殿下が全ての罪を告白しきったら罪状が書かれた紙を床に投げ捨てた。それを力強く踏みつけるとグシャリと音がして使い物にならなくなってしまった。その行為に対して、少々勿体無く思ってしまうのは貧乏性なのかも知れない。
「どうだ、クローノ。ここで貴様が罪を認めたのならば情状酌量の余地ありとみなし、王妃ではなく側室として受け入れ、身分剥奪まではせずに赦してやろう。これでも王族だからな、民の一人として情けをかけてやっても良いぞ。」
それを聞いたクローノ嬢は微かに眉をひそめた。
彼の言ったことに、何か思うところがあったのだろう。
だが、彼女の微かな表情の変化に気づく人はいなかった。
そんな彼女を無視してかどうなのか、意地汚い笑みを浮かべたまま、殿下が口を開いた。
「しかし、それでも罪を認めないと言うならば、こちらとしてもそれ相応の報いを受けてもらいたい。まず、貴様の公爵家身分の剥奪、国外追放、そして謝罪、この3つだ。」
それが、受けなければいけない罪の重さなのか。
貴族がいきなり平民にまで落とされたら普通は生きていくことさえもままならないというのに、国外追放まで。
賊に襲われたり、奴隷商人に捕まったり、他国に敵と思われれば拷問を受けたり、運が悪ければ死刑よりも惨い刑罰に値するような。
そう考えていると、クローノ嬢がスッと手を上げた。
異議でも申し立てるのかと思ったが違った。
「イオカル殿下、無礼を承知して質問がありますの。」
この卒業パーティーで彼女がはじめて喋った言葉だった。
「ほう、プライドの高い貴様がご無礼と言う日が来るだなんてな。なんだ言ってみろ。……場合によっては不敬罪となるからな。」
最後の一言はかなりドスが聞いていて流石の僕もビビる。
というか、殿下もかなりプライドのお高い人なのではと言いたくてしょうがないのだけれど、ここでは控えたほうが宜しいようだ。
横目でチラリとクローノ嬢を見ると完璧な淑女スマイルを顔に貼り付けて恭しく、たしか、カーテシーなるものをしていた。
庶民で男の僕にはよくわからないが、魔導師が魔法を打つような、騎士が剣を抜くときのような、そんな洗練された動きに感じる。
「ありがとうございます、殿下。罪を認めなければ、先程の3点は確実なのですね?」
「ああ、そうだと言っている。」
オウム返しのようなことをされたからか、少し機嫌が悪くなった。空気が山椒のようにピリついて痒い。
ここが彼女の人生の分岐点となるのだから、質問の1つや2つ赦してあげればいいのに。誰だって自分の未来が決まると言われた選択肢に未練なんて残したくはないのだから、そりゃあ慎重にでもなるでしょうが。
「ふむ、…………。」
クローノ嬢が顎に手を当てて考え込む。
世界の美しいを閉じ込めてできたとさえ感じる少女が考え込む様子は、かなりそそるものなのだな、と今のこの状況に反して頓珍漢な事を考えてしまった。
「わかりましたわ、殿下。」
どうやら判断がついたらしく、何かを決心したような顔つきが勇ましい。
「そうか、では貴様の主張を申してみよ。」
「はい。わたくしの主張は、認めません、ですわ。」
彼女はニコリと笑った。
どうやら、彼女は最後まで悪役を突き通すようだ。
「やってもいない罪なんて認めようもございませんことよ。だってやっていないんですもの。」
と、困ったように言う。
殿下は口をあんぐり開けて驚いてる、せっかくのカッコイイ顔がこれでは台無しだ。
殿下の驚きが怒りに変わると、顔を真っ赤にして怒声を浴びせる。
「もう、我慢ならん!!罪を認めれば赦したものを、お前というやつは………!!!皆のもの聞け!!!俺は今からこの馬鹿な女に裁きを下す!!無論、有罪だ!」
すると、待ってましたと言わんばかりに、ニヤリと妖しく嗤った。
「婚約破棄を申し上げます!!」
────そう言ったのは、クローノ公爵令嬢だった。
殿下が断罪宣言をした時程の、いやそれ以上のざわめきが起こった。
そりゃそうだ。断罪される側の、婚約破棄を突きつけられる側だったはずの公爵令嬢が婚約破棄を申し出たのだから。
「貴様ッ……!!この期に及んで俺を愚弄する気か!!!卑しい女の分際でッ!!」
恐らく、想定していた通りに話が進まなくて苛立っているのだろう。
いくら彼の方が身分が上とはいえ、仮にも公爵令嬢にかける言葉ではないし、第一王子が口に出す言葉でもないでしょう、と呆れる。
殿下は一体どこでそんな言葉を覚えたのですか…、平民代表として殿下にお聞きしてみたい。
国王陛下、一度だけお会いしたことあるけど、育児に困っていたなぁ、どこで間違えたんだろうって。
その代わり第二王子は優男の親孝行者に育ったからというフォローはフォローになっていただろうか。
僕達の商会も発展してきたし、良い胃薬仕入れたら陛下に売って差し上げようかな。
「落ち着いてください殿下。愚弄などしておりませんわ。」
怒りに振り回されている殿下に対してあくまで冷静に話を進めようとするクローノ嬢。
「婚約破棄を申し上げた。たったそれだけの事ではないですか。何を怒っているんですの?………もしかして、私が平民となっても婚約を続けたいとか言いませんよね?」
こんなに振り乱す理由がわからなさすぎると言う顔をして言い放つ。最後の方なんて、「そんなことはないと思うけど仮にそうだったらのことを考えてしまって気持ち悪いわ」って顔をしながら言っていて面白かった。
次はどんな反論を殿下はするのかと待ちわびると、殿下ではなくラマーレッタ嬢が反論した。
「さっきから黙って聞いていれば、貴方という人は!」
ビシィッ!とクローノ嬢に指を指して言う。
この国の人は一々指を差さないと会話ができないのか?親に習わなかったのかなぁ、人に指差してはいけませんって。
「こんなことして何が楽しいのよ!人として最低よ!殿下のお心を惹くにしたってもっとマシな方法があったはずじゃない!!」
こんなことした原因を作ったのは貴方の想い人ですよー!
というか、断罪されながらどうやって恋の駆け引きをするんですか!駆け引きするのは命ですよ!
と言えれば良かったのにっ!この空気感では流石に言えないっ!!…クソッ、僕に流れるツッコミ芸人の血が騒ぐというのに。
ラマーレッタ嬢の反撃に便乗した殿下が口を挟む。
「そうだ!ラマーレッタの言うとおりだ!そもそも罪を認めなかったのはお前だろう!!罪を認めれば側室にしてやると言っているではないか!!」
ちょっと待てぃ。
婚約破棄を申したのは公爵令嬢の方ですよね!!??
婚約破棄を申された側の殿下が側室にしてやるって言うのはおかしくないですか!?
矛と盾ですよ!お気づきになって!?
有り難いことに、そんな僕の気持ちをクローノ嬢が代弁してくれた。
「罪を認めれば、側室にしてやる、とおっしゃいましたが、何故、婚約破棄を申した側が申された側に嫁ぎに行かなくてはならないんですの?それでは婚約破棄の意味なんてないではありませんか。」
「ぐっ!!う…………。」
第一王子、ぐうの音しかでない。
きっと、ちやほやされて育ったからみんな自分のこと無条件で好きなんだと思ってるんだろうな。
「それに、何を勘違いされているのはわかりませんが、生憎、わたくしは殿下のことが大嫌いですの。側室どころか正妃にすらなりたくない、いいえ、殿下の近くに立つのも厭ですわ。」
めっちゃ言うね!?
クローノ嬢ってそんなに殿下のこと嫌いだったんだ!?初めて知ったよ!?
もし、これを僕が言われたらギャン泣きして大騒ぎするかもしれない。
あー、考えるのはよそう、涙でてくる。
それにしても殿下は、どうしてあんなに嫌悪していたクローノ嬢のことを側室にしたがるのだろうか。
クローノ嬢が殿下を好いていると思い込んでいたのだから、婚約破棄して絶望させてやろうと考える筈なのに。
どうも側室にこだわっているというか、なんとしても側室に迎えたい感があって違和感が拭えない。
僕もあまり頭はよろしくないから、わからないなぁ。後でノネズッミ先生に聞いてみよう。
「なによ、なによ、なによ!!!不敬罪だわ!!!今すぐ殿下に謝りなさいよ!!!」
キャンキャンとラマーレッタ嬢が鳴く。
頭に積んでいた猫ちゃんはどうやら逃げてしまったようで、こんな鬼形相のラマーレッタ嬢は初めて見ました。
女ってコワイ。
「ええそうね、不敬罪だわ。でも安心してくださいまし、わたくしは今から栄誉ある公爵身分を剥奪されて平民に成り下がり、愛した国をも捨てざるをえない国外追放ですもの!」
と、涙ながらに語るクローノ公爵令嬢。
この茶番劇を楽しんでいるのか、はたまた処罰が嬉しいのか、そのどちらもなのか。心の底から喜ばしいと感じている笑みが溢れていて可愛らしい。
年相応と言えるその姿を皆の前に晒したのはどれ程久方ぶりのことなのだろうか。
あ、と思いだしたように続けて言う。
「婚約破棄の理由を言っておりませんでしたわね。うふふ、わたくし運命の人を見つけましたの!」
そうキッパリと言い切った彼女の顔はまさに恋する乙女そのもの。
殿下を振った公爵令嬢の想い人は一体誰なんだと周囲がざわめき立つ。
わかる、確かにこんなにも完璧な女の子をお嫁さんに貰える幸せ者の顔を一度は拝んでみたいよね、うんうん。
「そ、そいつは、一体誰なのだ。クローノよ…。」
酷く落胆した顔の殿下がそう聞いた。
まさか、お前もその幸せ者の顔を拝んでみたいうちの一人だったとは。
まぁ、あのクローノ嬢の鋼鉄能面を壊して恋する乙女の顔にするやつが誰なのか気になるよなぁ、わかるよぉ。
「わかりましたわ!彼の魅力をわたくしが説明しろとおっしゃるのですね、殿下!有り難き幸せですわ!」
うん?なんか殿下のお言葉がねじ曲がって伝わっているのは気のせいかな。
そう思う僕をよそにクローノ嬢は運命の人について語りだした。
「あれは、紅葉が綺麗な季節でしたわ。あの日、殿下の我儘っぷりに心が折れて校舎裏でこっそりハンカチを濡らしていた私の前に彼が姿を表したんですの。その時のわたくしは人様にお見せ出来ないような無様な顔を晒していたにも関わらず、彼は、笑顔の君も可愛いけれど泣いた姿も可愛いね、とおっしゃってくれましたの!」
ポッと頬を赤らめてさらに話を続ける。
「貴族として泣き顔を見せるのは恥と聞かされ育ってきた私に彼は魔法の言葉をかけてくださいましたわ!まさしく一目惚れでしたの!!その後も優しく接してくれる器の広さに感動しまして、この方が私の運命の人なのだわ、そう思えてならなかったです!」
惚気話を聞かされるのはこうも恥ずかしいことなのかと、気付かされた。聞いてるこちらも顔が赤くなってしまう。
「でも恋に障害は付き物。私には馬鹿…いいえ他の女に現を抜かす第一王子という婚約者がいれば、愛しい彼の身分は平民。もう無理だと諦めきっていた中、卒業パーティーで殿下が私に断罪を行うと聞きましたの!これは好機と思いましたわ!だってここで公爵身分が剥奪されれば私は彼と結ばれる!初めて殿下に心の底からの感謝をしましたわ!」
あまりにも迫真のプレゼンに殿下もラマーレッタ嬢も若干引き気味である。
「ああ、もったいぶってしまいましたわね。本当ならあまり公の場に出したくはないのだけれど、殿下のご命令では仕方がありませんわ!ご紹介させていただきます、ニコバン様です!」
そう言って彼女が手を差し伸べた相手は、彼女の瞳とは比べるのもおこがましい、くすんだ紫の髪色で、この国ではありがちなライトグリーンの瞳。それでなくても、目つきの悪い印象を持たせてしまいがちな一重に、糸目かと疑いたくなる細い目元の男性。
この国の美の基準で言うと冴えないというレッテルが貼られること間違い無しの男だ。
…………えと、つまりは僕なんですけども。
差し伸べられた手を無視するわけにもいかず手を取る。
嬉しそうにこちらを振り向いたクローノ嬢の笑顔が可愛い。好き。
ちなみに殿下はこんな男に俺は負けたのかっていう顔をしている。
多分、見た目よりも性格で負けてると思いますよ殿下。
まぁ彼女の美の基準がこの国の普通と違えば、見た目でも負けてるのかもしれないですけれど。
そんな殿下の顔を勘違いしてか大慌てでクローノ嬢がいった。
「で、殿下!!!確かに、可愛らしい糸目から時々覗くペリドット色の瞳も、私とお揃いの色をした艶々の御髪も美しいですけれど!!例え殿下でも惚れたらゆるしませんことよ!!」
別に、殿下は僕に惚れたわけじゃないと思いますよ。
「クローノちゃん好き…。」
はっ、言うべきことと思ったことが逆になってしまった。
「ニコバンくん!わ、わたくしも好きですわ…!」
照れ顔ありがとうございます!
うわー、今まで散々嫌ってた自分の容姿が彼女のおかげで好きになりそう…クローノちゃん大好き…。
クローノ嬢のあまりの尊さに口元を手で覆う。
「ちなみに一番お気に入りなのは、緩いω見たいな口ですの。猫ちゃんみたいで可愛らしいんですのよ!今は隠されてますけど…。」
んん!?そうだったの!?それは気づかなかった、恥ずかしい。
って惚気ける為にこんな話をしているわけじゃないんだから。早く話を本筋に戻さなくては。
「お初にお目にかかります、イオカル殿下、ラマーレッタ様。ニコバンと申します。」
今更感が半端ではないが急いで下手くそな作り笑顔を貼り付けてお辞儀をする。
僕も紳士スマイルを習得できる日が来るのだろうか。
「そういう訳ですのでイオカル殿下、私達はこれにて失礼させて頂きますわ。」
そう言って、繋いでいた手をさらにギュッと握ってくる。
カチリと目がうとニコって笑いかけてくるので、こちらも笑顔で返す。
今の僕の笑顔の方はすこし気持ち悪かったかもしれない、これは反省会行きだな。
そうしてそのままパーティー会場を出ようとする。
「ま、待て、クローノ!!」
この期に及んでイオカル殿下は何を言うつもりなのか。
もう黙ったほうが彼の保身のためにも良いと思うのだが。
「お、俺と婚約すれば豪華な暮らしだってできるんだぞ?そいつよりも良い待遇を用意してやろう、何が欲しい?言ってみろ。」
ここまで来ると気持ち悪い。
愛するクローノ嬢に手を出されては溜まったもんじゃないと思い、彼女を庇うようにして前に出た。
「いい加減にしてください。僕達はこれから出国手続きするのに忙しいのです。それに、彼女が嫌がっているのがわからないのですか?」
「ニコバンくん…カッコイイわ!」
うん、クローノちゃんも可愛いよ!じゃなかった。
「彼女が望んでいるのは、国外追放、平民という身分、そして貴方との婚約破棄なんですよ。もういいですよね、帰らせていただきます。」
そう言って、クローノちゃんの手を引いて、今度こそ会場を出た。
後ろから殿下の嘆きが聞こえる。
「なぜ!!なぜ俺が平民ごときに負けたのだ!!!顔だって俺の方が格好いいではないか!!なぜ、なぜだ!!許さん、許さんぞクローノ・ノネズッミ!!」
「あ〜あ!全くお馬鹿王子は五月蠅くてかないませんわ!」
そう言って僕に抱きついてくるクローノちゃん。
いつになくテンションが上がりきっていて、彼女の幸せオーラで僕も幸せになれる。
「学園最後のイベントなのに、あまり良い思い出にならなくて、ごめんね。ダンスも出来なかったし。」
「しょうがありませんわ!ニコバンくんは踊れませんもの!」
彼女の悪意の無い言葉が意外と刺さる。
「う〜〜、クローノちゃんと踊りたかったのに〜!」
「まぁ!そうでしたの!?ニコバンくんを誰とも踊らせたくなくてお教えしなかったのが間違いでしたわ…。」
「ええ!?そうだったの!?今日は初めて知ったことが多くてびっくりだよ。でも今日のクローノちゃんは凛々しくも可憐で本当に可愛らしかったなぁ!」
僕の自慢の彼女の勇姿をあんなに近くで見れたことが嬉しくて仕方がない。
ふと、違和感を思い出した。自分では解決できそうにないので彼女に聞いてみる。
「にしても、どうして毛嫌いしていたクローノちゃんのこと側室にしたがったのかな?考えたけどわからなかったんだよね。」
明らかに嫌そうな顔をするクローノちゃん。
なんだか胸が痛い、ほんとにごめん。
「恐らく、ですけれど、ラマーレッタ様は、あまり頭が宜しくありませんから。その、妃公務を全て私に押し付けようとしたんだと思いますの。」
ぽつりぽつりと苦々しく答えてくれた。
「え、なにそれ許せない。くそ、一回殴れば良かった。」
「気にしないでくださいまし!それよりも明後日の交渉の方が心配ですわ!お得意様も増えて、軌道に乗って初めての大きいお客様ですもの!これを逃してはなりませんわ!」
グッ、と拳を握って高く突き上げるクローノちゃん。似合わぬ逞しさが可愛らしい。
「隣国での僕達の商会の評判はかなり良いもんね〜。あ!先生、マナー教えて〜!」
「ニコバンくんといえども、容赦は致しませんことよ!」
「はーい。」
やっと、やっと彼女を幸せにできる。
公爵家という名の檻から逃して、殿下という枷を外すことができた。本当に、これからは自由なんだと思うと胸が熱くなる。
絶対に、彼女の笑顔を壊させないし、壊したりしない。
彼女を傷つけるやつは一人たりとも許さない、どんな障害からも彼女を守るんだ。
「ニコバンくん、どうしたんですの?いきなり立ち止まって。」
心配そうに見つめてくる彼女を見て固く決心する。
「ううん、なんでもない。ね、クローノちゃん!ちょっと耳貸して?」
「?、なんですの。」
彼女の耳に口を近づける。
「……………。」
言い終わったあと、彼女を見ると茹でダコのように顔を真っ赤にしていた。
落ち着かせるようにサラサラとした彼女の髪を撫ぜる。
未だに口をぱくぱくさせる様子が初心でこれまた可愛らしい。
まぁ、初心だなんてあまり人の事は言えないけれども。
──────僕と、結婚してください。
お付き合いありがとうございました!
ちなみにですが、登場人物の名前は動物のことわざからもじっていたりします。
誤字報告ありがとうございます!
敬語に弱いことがよくわかりました、精進します。




