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武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
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至急戻る、可馨を救う手立てを!早く!

「過分な御言葉です、毋旦那様。

 王家宰は、もしこの暴動が遨家を対象としたものならば、毋旦那様の一行も襲撃される可能性が有るとのお考えでした。御屋敷に御帰還を願っておいでです」


「むっ」


 昨日の庖の含みのある言葉と、劉の組合小火騒ぎが思い浮かぶ。


 小火騒ぎと言うが、あからさまな放火工作で有ると伝え聞いた、失火は重罪だ、だから火の元は厳重に管理される。


 放火犯は勿論死罪だ、徹底的に捜査される。


 だからで有ろう、分かりやすい様に、見つけやすい様に、大火に成らない様に放火工作されていたと云う。つまり悪質な嫌がらせだ。


 庖の嫌がらせだとしたら、自分に危害を加える事も考えられる。


 元より、ここまであからさまな暴力行使をされた事など無い。理由は述べる迄も無い。


 なので、こんな無謀で自殺行為とも呼べる行動を起こした庖の人間性と、彼の主公とやらに嫌悪感と気味悪さを感じた。


 小馨、いや可馨が心配だ。可馨は夭逝した幸薄い()()だ。


 三人目は産まれてこれない事は分かっていた。最初から京馨からそう聞いている。


 だから、()()となる可馨は可愛かった。利発な子でませた物言いをする子だった。

 この手に抱き上げたのは、赤子の時だけだ。

 体が弱く、寝込んでばかりだからだ。


 ………利発な子で、本当にませた子供だった。


 自分の死後の事を案じていた。


 当たり前だ。大往生とも呼べる老後を経ても、その最期は生き意地汚ない言動をするのが人だ。


 まるで闘病するために産まれてきた子が、死後を意識しない訳が無い。


 懇意にしている御上人様の説話、行を修めた大学僧の佛陀の法語解釈、数々の経文から知り得た知識から、人は死して六道何れかに転生すると教えた、輪廻転生と。


 一つの生を終え六道何れかに転生し、そこでの生も終え、再び六道何れかに転生する。


 人はそれを繰り返す、輪廻の輪だ。


 罪咎無い可馨は、六道転生でも最上である天界に転生すると慰めたものだ。


 ………ませた子供だった。何れかに転生するのなら、()()()()ではなく、人界の、私の子供に再び転生したいと、そう言ってこの世を去った。


 後の事は良く覚えては居ない。遨家と付き合いが古い道法の導師が、何やらしていた様だが、放心した私には関心は無かった。


 それ以降、京馨は離れに籠り本邸には寄り付かなくなった。

 奉可もだ、いや、斯く言う私自身、仕事や宗教に没頭した。


 反魂法を聞いたのが、一年程前だ。


 私は懇意にしている御山の上人様の勧めもあり、可馨名義で無縁諸仏の法要を行ったり、貧民救済の食料支援などを行い、可馨の陰徳を積み上げ、それをもって自己救済としていた。


 だが、京馨は私とは全く違う方法で救済を求めていたのだ。


 ………反魂法。


 そんな物が有る訳が無い。京馨らしくも無く騙されている。

 それに伴い養子を迎えるとも聞いた。


 だが反対はしなかった。京馨の救済に成るのなら、それでも良いと思ったからだ。


 小馨に初めて会った時の事は忘れない。

 いや、それは小馨で有り可馨で有った。


 狂言かと思った。可馨の情報を集めた導師が、京馨の心の安寧の為に、小馨なる女孩に可馨の物まねをさせているのだと。


 違った、可馨は本物だった。疑った私の質問に全て答えたのだ、何より雰囲気が可馨の物だ。


 ませた物言いで、小難しい言葉を紡ぐ可愛い娘の物だ。忘れる筈など無い。


 反魂法。本物だった。


 だからこそ、心は乱れた。死んだ者は生き返らない。当たり前だ。人為で魂を現世に繋ぎ止めるなど有ってはならない事だ。


 だが、甦りを嬉しくも思うのだ。健康な体で今度こそ生き長らえて欲しいとも。


 小馨は恐らくそんな私の心の内を読んでいる。


 だから私の事は距離を置き“毋さま”と呼ぶのだろう。


 京馨や黄侍女程に、私に心を開いては居ない様子だが、だからこそ可馨に替わって私に甘えて来る時が嬉しく思えた。


 生前、私に甘えたくても甘えられなかった娘だ。


 せがまれて聞かせてやったのは、聞き齧りの佛道説話、法話の類いだ。


 大人しく聞き入っていたのでは無く、私との対話を喜んでいたとは、つい最近本人から聞いた話だ。


 一度は手放してしまった私の宝だ。


 ……もう二度と手放したくない。


「至急屋敷に戻る、可馨を救う手立てを早く!」


 私は席を立つ、行動有るのみだ。


 そうとなれば時は惜しい、屋敷まで最短距離を進みたい、士族大通り(士族屋敷が多いのでいつの間にか士族大通りと通称された、正式に南第二大路という、遨大通りは南第八大路だ)

 まで中央大通りを戻り、南三坊柳小通りを抜けた道順が早い。


 その旨を用人に告げると、呂逹が注進してきた。


「お待ちを旦那様、若様方は商屋小通りを通行中に襲撃を受けました。もし遨家を標的とした襲撃ならば、旦那様にも同様に、暴徒を伏せやすい小通り通過中を狙う筈です」


「むっ、道理である」

 庖とその主公とやらに、何をやらかすか分からない不気味さを感じたばかりだ。呂逹が発言を続ける。


「少し遠回りと成りますが、中央大通りを遨大通り迄もどり、そのまま御屋敷に戻られた方が安全です。途中警邏局南本局と警邏中央本局中央大通り支部が有りますので、流石に暴徒は伏せられません。

 また、襲撃を受けました場合いずれかの警邏局まで逃げられます」


 熟考するまでも無く道理である、毋も気が急いてい過ぎた事に反省する。同時に下人らしからぬ呂逹の機転を心に留める。


 後日、毋は王から正式に呂逹の身柄を買い取る。


 呂逹は幼少時に身売りされていて、配下拡充中だった王に買われ、東洛外の遨家所有地で細作教育が成されていた。


 改めて王の身分を知らされ、かつ、呂逹の下人らしからぬ機転に納得する。


 毋の教育を経て、呂逹は毋の商事用人となり、重用される事になるのだが、この話は今はこれまでとする。

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