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武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
96/156

郭殿、取引だ

「お前達もそれでは収まるまい、どれ、俺がひとつ奥義を披露しよう、盗め。それで収めよ」


 そう簡単に言い残すと、京馨はすたすたと門に歩み寄る、

 全く淀みなく、通常歩様の連経歩から初練歩へ、次練歩へ、そして三練歩へと練経する。


 歩様の変化は分からない、変わらない、ただ練経事に凄まじい発経音が轟く、

 そして門直前へと至り、()()経を相掌に載せる。丹位置を下げるに腰を落とす。相脚が三練打に応じる。


「遨家絶()掌相打」

 京馨の相掌が、左右の門に打ち出される。


 “ズシン!”と云う落雷にも似た轟音と共に、へし折れた閂、心張りと、両の大門が吹き飛んだ、大門の蝶番は金製だが、土台が持たなかった。


 それぞれの部材は、本来の役目を果たす事無く、十丈(約23m)程飛ばされ、不幸な土工を巻き込んで止まる。


 これには庖土工員のみでなく、高弟一同も唖然とした。


 はしゃいでいるのは墨家の総帥だけだ。音もなく京馨の側へ歩み寄り拱手一礼を施す。


「お見事!お見事ですぞ遨家御当主様!絶()打など、以前に見せて頂いた限りにて、これで漸く二度目に御座います、流石に御座います、いつ()()()が成されたか、分かった者など居りますまい、絶()の意味も分かる者も居りますまい、残念ながら、この婆ぁにも出来ない神技に御座います。

 有り難や、有り難や、この婆ぁの系譜を継がれた御方が、婆ぁを越えて武の高みに登られた、嬉しや嬉しや、この婆ぁ、生まれて生きた甲斐が御座いましたとも」


「ヒントは皆に与えたが、流石は婆様だ、歩様で知れたか。だが皆には内密にな、俺の相掌打、他にも盗める所は有る」


「はい、はい、勿論で御座いますとも、男衆では無理な(わざ)、女衆ですら蓮明様、当代様以外に至った事の無い修羅の業にて。

 ああ残念無念、この婆ぁ、せめて五十も若ければ、武の高みに至れたやも知れず」


「初練連歩。婆様は充分に武の頂に有るのだが、婆様こそが(ごう)の人だな」


「左様に御座いますなぁ、では遨家御当主様、賊を討伐して参りますヒヒッヒヒヒヒ……」


 王を始め、高弟一同が京馨の元に寄る頃には、墨沙蘭は黒幇者、土工職工見境なく狩り始めた。


 初練連歩。この老女怪が産み出した武の頂の一つ。


 歩様は、ただひたすらに初練歩を繋いでゆく、次練歩以降には繋がない。


 だから、三拍動作に嵌まらず自在だ。

 初練歩の攻勢活流だから、通常上級極拳士の三練経の半分以下、四分の一の経の太さだ。


 なので、本来ならば上級極拳士を相手にするには攻に守に経が足りない。


 だが、この老女怪曰く、“人を殺めるに余計な経は要らず、発経だけでも事足りる。初練に繋ぐのは守の化経に転じた時、発経だけでは凌げない”からだそうだ。


 老女怪の攻勢打は全て外攻散打だ。浸透打は使わない、外部に経を散じるか、内部に経を浸透させるかの違いだけで、経打は変わらない。


 だから外攻散打は浸透もするのだが、この老女怪の散打は一滴たりとも浸透しない、純粋に散じる経打だ。


 長い功練の業だ、ここまで純粋な散打は京馨にも打て無い。


 研ぎ澄まされた経打は、心を打ては心を穿ち、肝を打てば肝を裂く。

 目を突くならば脳に至り、頸骨を打つならば確実に砕く。

 “人を殺めるに余分な経は必要ない”とは実体験から至った解答だ。


 だから、この老女怪は人を打つ事に拘る。より正確に、より巧に、より効果的に、より効率的に、そして、より美しく。


 初練連歩とは、巧速攻勢活流の超々高等武技なのだ。


 しかし、この老女怪は未だ得心のゆく打を打てて居ない。老女怪の至高の一打に至らない。


 なので、喜んで賊を打ち殺してゆく、功練有るのみだ。


「おい、何をしている。墨の婆様に全て喰われるぞ」


 拳士達は我に返り門内に突入した。


 見とれるのも無理も無い、墨沙蘭の変幻自在の初練連歩の歩様は、言わば生きる伝説だ。

 盗める所は盗む事は拳士の性だ。


「遨様、取り調べと調書を取りますので、賊の首魁、その直接配下は殺さずに警邏局に()()下さい」


 王家老と共に郭价が京馨の元に寄る。


 王門下と郭价配下の直近警邏官に囲まれて、一団が敷地に入る。


 冤罪ならば大事となるが、李配下の細作より詳細な報告を王慶は受けている。


 その情報を郭价に伝えてあるので、郭价としても異論は無い。


 内乱の超早期解決なのだ、手柄も大きい。

 事実、この内乱解決の手柄により、副総監から副の字が取れる事になる。


「郭价殿、手下は兎も角、賊首魁はこの場で殺すから無理だ、一刻生かせば一刻俺は苛まされる事になる、一日生かせば一日だ。ならば即殺が一番だ、娘に申し訳が立たぬ」


 少し郭价は意外な顔をするが、すぐに真顔となる。


「御待ちを、何も賊を客としてもてなす訳では有りません、内乱の首魁として扱います。

 遨様、賊は単独で遨家を標的としたとは考えられません、背後に遨家と対立するを由とする勢力が有ると考えねばなりません。

 御子様方を襲撃された御怒りは御最も。

 なれど、天下安寧、天下静謐の為、災いの根を未然に刈るに、堪忍しては下さるまいか」


「ムゥ、此度は天下安寧に努める、貴人責務の原則により私兵、門弟を動かした。ならば貴殿の言われる事に反する訳にはいかぬか。道理が通らなくなる」


「ですが、表向きは遨様にその場で討伐された事に致したく。

 油断を誘いたいのですよ、三品官を相手とする勢力ならば、相手も同等かそれ以上の貴人で有ると考えねばなりません。

 尻尾は掴まねばなりません」


 これは全くの偶然だ。襲撃を実行した庖にしてみれば、自分の後ろ楯の命令が有るとは云え、高位貴家が相手と知っていたならこんな馬鹿はしない。


 あくまで、毋財団の洛都~天湊間新街道造成工事入札辞退強要の為だ、あわよくば毋財団の支配を目論み、()の娘を誘拐しようとしたに過ぎない。


 だが、結果的に遨家嫡男、養女を襲撃した事になり内乱罪が適応されてしまう。


 庖の背後が小物ならば、“毛を吹いて傷を求めた稀代の愚者。狗の威勢で虎に吠える”と世の嘲笑を買うだけの話なのだが、意外な大物が出てくる事となり、事件は表向き遨家の早期内乱鎮圧で決着した事とされた。


「郭殿、前半については了承したが後半については同意しかねる。つまり遨家が恨まれ、手柄は治安維持警邏局の物になるだけではないか。

 治安維持庁長官で有る郭淮殿の要請で有るなら兎も角、洛都治安維持警邏局副総監殿の要請だけでは重みが足りぬ」


「………それでは御協力頂けまいか」


 こう云う時に、京馨は例の悪戯小僧の目をする。が、付き合いの短い郭价にはまだ読めない。


「いや、いや、それでは、我が一門、我が外弟子に対してあまりにも配慮が足りない。

 一門の総帥として、心苦しい。そこで郭殿、取引だ」


 この辺りは年の功だ、ぬけぬけとはこの事だろう。


「何で御座ろう、私の職務権能に収まる取引ならば応じましょう」


「郭殿ならば。さて此度の件、正直寝耳に水の話であり、俺には誰が敵対したのか見当もつかぬ。俺の出方を試されたとしたら、俺は弱点を晒した事となる」


「弱点で御座るか。はて、遨様は貴人としての責務も果たされ、速やかに内乱を収められた。勇猛にして果敢な振る舞いにて、遨家の威名を高めこそすれ、弱みを晒したとは思えませぬが」


「いや、晒した。娘の危機に我を忘れた、これを悟られたは不味い、もし小馨が誘拐でもされていたら、俺に手立ては無い」


 郭价は、これまた意外な顔をするが、これも一瞬の事だ。


「小馨嬢、大層聡明な御子に御座ったな、神童とは小馨嬢の為に有る言葉でしょう」


 郭价と対面したのは可馨であるが、そんな事は郭价に分かる訳が無い。


「ウム、首席進士殿にそう言って貰えるとは、俺としても鼻が高い。

 俺は家督を、総帥の座を小馨に譲りたい。

 墨の婆様には話を通した」


 眼光鋭く京馨は郭价を見据えた。悪戯小僧は引っ込み、猛禽類を思わせる眼力だ。


「もうお分かりで有ろう、副総監殿。貴殿はこれから更に立身出世されるで有ろう。

 取引とは貴殿の出来る範囲で構わないから、娘の後見を願いたいのだ」


 想定以上の内容に、郭价は沈黙した。

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